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シーズン3
第五十一話後
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「蓮水は、浅香さんとランチに行く時、僕も一緒で構わないってことであってる?」
凡子は、泉堂がなぜそんな確認をするのかわからなかった。
「構わないも何も連絡の取りようもないわけだから、俺が浅香さんと二人で行くことはないと思うが?」
実際には、蓮水は凡子の連絡先を知っている。
「連絡先を交換すれば、二人で行けるようになるよ」
「俺と浅香さんが、二人で行った方が良いのか?」
「違う。本心が知りたいんだ」
蓮水は首を傾げながら「本心……」と呟いた。それから、凡子の方をまっすぐ見た。
「気を悪くせずに聞いて欲しい」
「はい、承知いたしました」
「私は今のところ、浅香さんと連絡先を交換する必要性を感じていない。泉堂と浅香さんのやりとりを楽しんではいるが、正直、浅香さんと二人で来ても、話が盛り上がりそうにない」
凡子は感動しながら、蓮水を見つめ返していた。
――樹さんは、演技まで上手いのですね……。恋様原作、樹さん主演で映画が作れそう……。
「蓮水が伝えた内容と、浅香さんの表情が合ってない」
泉堂から、指摘された。
「蓮水副部長が、私との関わり方を真剣に考えてくださった。それだけで感動してしまいました」
蓮水が微笑んでいる。
「どうもしっくりこないけれど、この辺りでやめておく」
泉堂が少し口を尖らせている。それから、何かを思い出したようで、凡子の方に身を乗り出した。
「さっきの写真と動画、後で送ってきて!」
「申し訳ないですが、誰にも渡さないという条件があったので……」
泉堂は「僕は構わないよな?」と蓮水に訊いた。
「ダメだ」
――泉堂さんは私に写真を渡してくれたことがあるからだ……。
凡子は申し訳なく感じた。蓮水を推している凡子のためにくれたのだ。
「僕も肖像権のある本人なのに?」
「そういう主張なら、俺にも同等の権利があるだろう」
また、不穏な空気になってきた。
「あの!」
凡子は二人の会話に割り込んだ。
「蓮水副部長のお顔にはモザイク処理をして、泉堂さんにお渡しするのではどうでしょうか」
泉堂が、嫌そうな顔をして「僕たちの関係でそこまでしてもらう必要ある?」と、蓮水に詰め寄った。
「わかったから」
蓮水は面倒そうな顔で、追い払うように手を動かした。
「お前が、絶対に他人に渡さないと約束するなら構わない」
泉堂は凡子の方に向き直ると「後でいいから、全部送っておいてよ」と、笑いながら言った。
雰囲気が幾分和らいだところで、料理が運ばれてきた。
配膳係が「鯖煮定食の方」と声をかけると、蓮水が手をあげた。
次は、ホッケの開き定食だった。泉堂が皿の上のホッケを見て「うわー、大きい」と喜んでいる。凡子は肉厚でジューシーなホッケの味を思い出した。
最後に、凡子の前に生姜焼き定食が置かれた。生姜の香りが鼻腔をくすぐる。途端に食欲がわいてきた。
凡子は両手を合わせて「いただきます」と言って、箸を取った。
赤だしの味噌汁からいただく。具は、大きめに切った豆腐と小口切りの青ネギだ。一口だけ汁をすすった。出しの旨みがかき消されない絶妙な味噌の濃さで、美味しい。
次に、生姜焼きに箸をのばす。少し厚めの豚肉に、タレが絡んでいて美味しい。熱い豚肉の下で、しんなりとなったキャベツの千切りにもたっぷりタレがかかっている。
――ご飯にのせて食べたい……。
ご飯を見ると、ひとつひとつ粒が立って艶やかだ。
――この美しいご飯を、タレで汚してしまうのは……。
そう思いながらも凡子は誘惑に勝てず、タレに浸かっているキャベツの千切りを箸で取って、ご飯にのせた。ご飯と一緒に口に運ぶ。
「んっ、美味しい」
凡子の顔がほころんだ。
「浅香さんて、ほんと美味しそうに食べるよね」
顔を上げると、泉堂がこちらを見て目を細めた。
「だから、浅香さんと一緒に食事を取るのが楽しいんだ」
凡子は泉堂の言葉に、ときめきを感じた。
「ありがとうございます」
凡子も泉堂とのランチをなんだかんだで楽しんでいる。
和やかな雰囲気のまま食事が終わった。
結局、会計は蓮水が済ませた。
凡子は蓮水に礼を言い、「お二人と一緒に戻ると目立ちますので」と、先に店を出た。
凡子は急いで事務所に戻った。まだ少し休憩時間が残っているので、更衣室で蓮水にメッセージを送る。
『今夜は急遽、同僚と夕食を取ることになりました。申し訳ありませんが、夕飯は外で済ませてください。』
多少一方的になってしまったが、蓮水に関する噂がどんなものか知りたいので、どうしても瑠璃と話したかった。
凡子は、泉堂がなぜそんな確認をするのかわからなかった。
「構わないも何も連絡の取りようもないわけだから、俺が浅香さんと二人で行くことはないと思うが?」
実際には、蓮水は凡子の連絡先を知っている。
「連絡先を交換すれば、二人で行けるようになるよ」
「俺と浅香さんが、二人で行った方が良いのか?」
「違う。本心が知りたいんだ」
蓮水は首を傾げながら「本心……」と呟いた。それから、凡子の方をまっすぐ見た。
「気を悪くせずに聞いて欲しい」
「はい、承知いたしました」
「私は今のところ、浅香さんと連絡先を交換する必要性を感じていない。泉堂と浅香さんのやりとりを楽しんではいるが、正直、浅香さんと二人で来ても、話が盛り上がりそうにない」
凡子は感動しながら、蓮水を見つめ返していた。
――樹さんは、演技まで上手いのですね……。恋様原作、樹さん主演で映画が作れそう……。
「蓮水が伝えた内容と、浅香さんの表情が合ってない」
泉堂から、指摘された。
「蓮水副部長が、私との関わり方を真剣に考えてくださった。それだけで感動してしまいました」
蓮水が微笑んでいる。
「どうもしっくりこないけれど、この辺りでやめておく」
泉堂が少し口を尖らせている。それから、何かを思い出したようで、凡子の方に身を乗り出した。
「さっきの写真と動画、後で送ってきて!」
「申し訳ないですが、誰にも渡さないという条件があったので……」
泉堂は「僕は構わないよな?」と蓮水に訊いた。
「ダメだ」
――泉堂さんは私に写真を渡してくれたことがあるからだ……。
凡子は申し訳なく感じた。蓮水を推している凡子のためにくれたのだ。
「僕も肖像権のある本人なのに?」
「そういう主張なら、俺にも同等の権利があるだろう」
また、不穏な空気になってきた。
「あの!」
凡子は二人の会話に割り込んだ。
「蓮水副部長のお顔にはモザイク処理をして、泉堂さんにお渡しするのではどうでしょうか」
泉堂が、嫌そうな顔をして「僕たちの関係でそこまでしてもらう必要ある?」と、蓮水に詰め寄った。
「わかったから」
蓮水は面倒そうな顔で、追い払うように手を動かした。
「お前が、絶対に他人に渡さないと約束するなら構わない」
泉堂は凡子の方に向き直ると「後でいいから、全部送っておいてよ」と、笑いながら言った。
雰囲気が幾分和らいだところで、料理が運ばれてきた。
配膳係が「鯖煮定食の方」と声をかけると、蓮水が手をあげた。
次は、ホッケの開き定食だった。泉堂が皿の上のホッケを見て「うわー、大きい」と喜んでいる。凡子は肉厚でジューシーなホッケの味を思い出した。
最後に、凡子の前に生姜焼き定食が置かれた。生姜の香りが鼻腔をくすぐる。途端に食欲がわいてきた。
凡子は両手を合わせて「いただきます」と言って、箸を取った。
赤だしの味噌汁からいただく。具は、大きめに切った豆腐と小口切りの青ネギだ。一口だけ汁をすすった。出しの旨みがかき消されない絶妙な味噌の濃さで、美味しい。
次に、生姜焼きに箸をのばす。少し厚めの豚肉に、タレが絡んでいて美味しい。熱い豚肉の下で、しんなりとなったキャベツの千切りにもたっぷりタレがかかっている。
――ご飯にのせて食べたい……。
ご飯を見ると、ひとつひとつ粒が立って艶やかだ。
――この美しいご飯を、タレで汚してしまうのは……。
そう思いながらも凡子は誘惑に勝てず、タレに浸かっているキャベツの千切りを箸で取って、ご飯にのせた。ご飯と一緒に口に運ぶ。
「んっ、美味しい」
凡子の顔がほころんだ。
「浅香さんて、ほんと美味しそうに食べるよね」
顔を上げると、泉堂がこちらを見て目を細めた。
「だから、浅香さんと一緒に食事を取るのが楽しいんだ」
凡子は泉堂の言葉に、ときめきを感じた。
「ありがとうございます」
凡子も泉堂とのランチをなんだかんだで楽しんでいる。
和やかな雰囲気のまま食事が終わった。
結局、会計は蓮水が済ませた。
凡子は蓮水に礼を言い、「お二人と一緒に戻ると目立ちますので」と、先に店を出た。
凡子は急いで事務所に戻った。まだ少し休憩時間が残っているので、更衣室で蓮水にメッセージを送る。
『今夜は急遽、同僚と夕食を取ることになりました。申し訳ありませんが、夕飯は外で済ませてください。』
多少一方的になってしまったが、蓮水に関する噂がどんなものか知りたいので、どうしても瑠璃と話したかった。
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いつもありがとうございます。
これからも、凡子ちゃんの暴走をお楽しみいただけるよう、頑張ります!
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ありがとうございます♪