エクリプス 〜瑪瑙の章〜

亜夏羽

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第二節

出来事

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………次の日。

紅華は鈴菜と話していた。
「昨日はごめんね。興奮すると手加減が出来なくなるのよね」
「全然大丈夫!むしろ手加減されたら怒るからね」
「えぇ。分かってる。でも軍隊になったら能力のコントロールもしなければならない。敵の情報をはかせたりするのに役に立ったりするしね。でも今はそれが足りない。圧倒的な能力を持ってたって、暴走したら意味が無いの」
「紅華ちゃんは大丈夫!昔から努力してきたじゃん!それに、暴走したら止めてあげる。絶対!私を信じてよ」
「……!頼もしいわ。後で一緒に午後の式神試験の2次試験の練習をしましょう」
「うん!次は負けない!」
「えぇ」













午後の授業は、式神試験の2次試験だ。
式神を2体以上持っている生徒は、その中で最もチカラを出しやすい式神でもう一度闘うという試験だ。2体なら2日間ある試験を1体ずつ出して闘い、3体持ってるものは試験に出す式神を2体選んで闘うというルールになっている。ちなみに3体以上式神を持ってる生徒はここ数年見られない。

「チェニー、行くわよ」
「行くよ、鮫里(さめり)!」
紅華の式神のチェニーと、鈴菜の式神のサメである鮫里が対面する。

「紅華ちゃん、手加減無しでやらないとキツくなるよ!」
「それはこっちのセリフ!チェニー、先手必勝!龍星の葷(りゅうせいのぐん)!」
『紅華、任せて!』
チェニーが星の弾を降り注ぎ、鮫里に当たる。
『主、指示を!』
「分かってる!鮫里、【鮫理】
(きょうり)!」
「チェニー、躱して【星の弾】」

チェニーは鮫里の攻撃を躱し、星の弾(ほしのだん)を打つ。鮫里は躱しきれずに地面に倒れる。
「勝者、紅華!」
「ああー!負けた~!!」
「まぁ、次も練習しましょう。ね、相棒」
「……うん。相棒だもんね!」
「その意気よ」

その後の試験では、紅華達は美埜音(みのん)と蓬(よもぎ)の試合(試験)を傍観していた。
「天狐、【クロックリミット】」
「モモ、《透明の恐怖》です!」
『透明になっt』『貰った!』
モモが透明になっても、天狐は見透かしているのですぐに攻撃した。
「なっ!」「よし!」


「……鬱島美埜音、並びにモモ、戦闘不能
!勝者、舞夜野蓬!」

「勝ったな、天狐(そらこ)」
『はい。主のおかげです!やりましたね!』
「モモ、よく頑張りました!闘い方は凄かったので!」
『えへへ。アタイ、頑張ったよ主!』

「すごいわね。ちゃんと式神を労わっているし、それに闘い方が凄いわ。どっちも一旦引くとかはないのね」
「まぁ、お互いに攻めが強かったね、紅華ちゃん」
「えぇ」
「おーい!紅華!!次対戦だってさ!やろうぜー!!」
後ろでうるさい声がする。
「分かってるわよ。そんなに大きな声出さなくても良いわ。耳壊れる。」
「ごめんって!早く行こうぜ~」
「えぇ。鈴菜、また後で、試合観てね」
「うん!見る!美埜音ちゃんも見よー!」
「良いですよ。モモ、一緒に見ます?」
「ミャン」
「俺も見るかな」
「蓬!あんたも見ててね。コイツに吠え面かかせてやるから」
「お前どっからそんな言葉覚えてくるんだよ……」
「知らんがな」
「……なんか、揺れてません?」
「「「「「「え?」」」」」」

(何か、来る予感がする。ヤバい!)
「……鈴菜、援護して」
「え?う、うん」

…………何かが来る気配が、紅華にだけ伝わる。

その近くで、何者かがうっすらと笑みを浮かべていた。













……ドゴーン!!














「な、何?!」
「落ち着いて。
あれは………………………ドラゴン!?」













そこには、巨大化した水色のドラゴンがいた。




「……は?!何よあれ!」
「紅華ちゃん、落ち着いて!水ドラゴンだよ!」

水ドラゴン。それは本来、水中や海辺などに生息するドラゴンの1種。本来は1~2mくらいの温厚な性格のドラゴンであるが、性格は様々である。
だが今のドラゴンは明らかにデカい、しかも魔法か何かでデカくされている。
「なんかアレヤバいって!」
「早く逃げましょう!……紅華?」
「行くわよ鈴菜!学校も皆守らないと!」
「わかった。行くよ、《発動》!」
「ちょっと嘘でしょう?!」

鈴菜の目が青くなり、ものすごい殺気を纏いながらたくさんのサメを呼ぶ。
「鮫里、《鮫雷巡きょうらいじゅん》」
「『桜花ニ月夜ト袖シグレ』!」

その後、一気に桜の木のツタといくつものサメがドラゴンに襲いかかった。サメはドラゴンに噛み付いて離れず、ツタはドラゴンに絡みついているが、ドラゴンは怯まずに反撃しようとする。
「後は私がやる!藍夏葉、『夢幻』!チェニーは《星の神》!」

(……ーーーーーーーー)


ドカーン!シュゴーーン!!ズドーン!



とてつもなく凄まじい音を立て、鈴菜だけは吹っ飛ばされそうになる。
「ちょ、待って紅華ちゃん!これ以上はヤバいって!」
「分かってる!でも、やらなくちゃ。全部を護らなきゃ!」
(全ては、"あの人”、もとい、ーーさんのため)

紅華はチェニーに指示を出し、ドラゴンの心を読み取ろうとする。
「チェニー、心核魈渥しんがいしょうあく
『わかった』
ドラゴンの心が見えてくる。
(お願い、助けて。元に戻して)
「……!見えた!元に戻してあげるから心配しないで。藍夏葉、"浄化”」
『はいはーい』

ドラゴンの身体が光り、元に戻っていく。それとは反対に紅華が勢いよく倒れる。
「紅華ちゃん!」
遠くで鈴菜の泣きそうな声を後に、紅華は意識を落としていった。













* *  *











数日後、紅華は保健室で目を覚まし、鈴菜に思いっきり泣きつかれた。傍には美埜音、蓬、煌(キラ)、チェニーと藍夏葉、そして水色ドラゴンがいる。

「紅華ちゃーん!全くもう!心配したんだからね!いきなり独り言言うし、その後には倒れるし!無茶し過ぎ!」
「ごめんって。美埜音、蓬、煌も大丈夫だった?」
「大丈夫なわけあるか!こっちも心配してたんだぞ!」
「そうですよ!今日は反省してください!」 
「でも、紅華のチカラってヤバかったよな?今日は見せられなかったけど、明日には見せるからな!」
「だから何を見せるのよ」
「それはお楽しみ~」
「早く教えなさいよ。明日、絶対にね」
「分かってるって~」
「ほんとに見せるんだか」
「何をー?!」
「アッハッハッハッハッwwww煌くん面白~い!」
「だろ!?」「まーた調子乗ってるよコイツ」「ですね」
「辛辣過ぎん?」
3人がくだらない話をしてる間に、ドラゴンが紅華に話しかけた。
(この前はごめん、後はありがと。元に戻ったよ)
「あなたの名前は?誰に何をされたかは覚えてない?」
「名前は、水葵(みずき)。名のある水ドラゴンの末裔。……この学校の魔法科の先生らがやった」
「…………はぁ?!なんで?!」
「住処から連れてこられた!ここの教師って心が無いの?!網で捕まえられて超!痛かったんだから!それに、生徒の実力を確かめるためとか言ってた!攻撃していい?!」
「マジか……。いや、ダメよ。いくらやっても捕獲されて良いように使われるだけね。大人って卑怯だから」
「流石におかしいとは思ってたけど、そんなことするなんて許せないよ。」
「ちなみに誰がやったんだ?先生全員か?」
蓬がドスの効いた低~い声で水葵に聞くと、首を横に振った。
「いや、大条澪とか聞こえたけど」
「「「「「「……………………あっんっの、クソ教師め~~~!!!!!」」」」」」
「えっ?何?もしや担任の先生だったり……?あ、ダメだこれ聞こえてないや」

そう、犯人は紅華たちの担任、大条先生だった。紅華達はその後先生に苦情や文句をそれはもう盛大に入れ、水葵の前で土下座させて泣きながら謝らせた。ちなみにドラゴンを違法に捕まえるのは違反であるという事が法律で決められている。

……ほんとうに反省してくれ。犯罪者に授業は教えられたくない。













その近くの細い道で、???がうっすらと笑みを浮かべていた。













第三節に続く。



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