エクリプス 〜瑪瑙の章〜

亜夏羽

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第十節

〜番人〜

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「…………話さないといけない人物がいるのよ。その、"図書室の番人”について」
「番人?国会の図書室に?」
「うん」

紅華は諷に、まだ紹介していない"特別幹部”、図書室の番人について諷に話した。








































この国会堂には、"図書室の番人がいる”などという噂が絶えず存在している。

紅華がその噂を聞いたのは、4年前。
小6の春の日だった。

その日は祖父の紅一郎が、大統領をちょうどその年限りで辞める日だった。
まだ2人の姉が見つかっておらず、1人だった紅華を、紅一郎は次の大統領に指名した。
祖父のように振る舞わなければならない事は、幼い紅華でもよく分かっていた。

少しでもこんなドンヨリとした気分を上げたいと考えた紅華は国会堂にいたので、そこの図書室に行ってお気に入りの小説を借りようと歩いた。

図書室に着いた紅華は、向かい側を歩いていた兵士達の世間話を聞いていた。


「いや~聞いたか?図書室の噂」
「聞いた聞いた!なんか"番人”がいるんだって?」
「"特別な幹部"らしいぜ」
「なんで特別なんだろう」
「さぁな。なんか怖そうだよな」
「なー!」

(図書室の、番人?そんな人招き入れたのおじいちゃん……。面白い予感がするから、行ってみよう)

好奇心には逆らえなかったので、紅華は図書室に行く足を早めた。













図書室に着いた紅華は、その番人を探した。
だがいつまで経っても見つからず、気づいて図書室の時計を見ると、もう夕方の16時だった。

(本当はいなかったのかな?番人さん……)

諦めようと思い、戻ろうとすると不思議な少女がいた。

明るい茶色でふわふわした肩までの髪、オレンジと黄色の真ん中みたいな色の目。
それに加え、ダボッとしたセーラー服の上にカーディガンのようなものを着ている。
……見た目は年上そうなのに、背は同じくらい。

なのに、妙に目が惹かれるのはどうしてなのだろうか。
本を読んでいる少女は、こちらに見向きもせず。

紅華は思いきって声をかける事にした。


「あ、あの!」
「……ん?」
「え、えっと……『向日葵色の青春』って知ってますか?!」
「え……。あの本、読んだことあるの?」
「は、はい!図書室で読んだ事あります!えと、本屋さんに行って買いました!あの小説の続きが無いか知りたくて来たんですけど……どこにあるか知ってますか?」

声をかけたは良いものの、話す話題が思いつかなかった紅華は、自分の知っている小説の名前を出した。

その名は、『向日葵色の青春』。
著者は、『向日葵 イチジク』。

誰もが知っているような、『イチジク』の代表作であり人気小説。

その小説の名前を出すと、少女は目を大きく見開いた後、

「アタシ、その小説を知っているけど、続きはまだ売られてないから此処にはないわよ」
と言った。
紅華は噂されていた"図書館の番人”なのでは、と思ったので聞いてみた。
「……もしかして、この"図書室の番人”さん?」
「……あー、そうだよ。あの噂、アタシが普段外に出ないことをいい事に誰が広げたんか知らないけど言いたい放題してるだけだから、気にしなくて良いよ。あ、でも特別幹部なのは本当の事だよ」
「そうだったんですか……お名前は?あっ、私の名前は瑪瑙紅華です。以後お見知り置きを」
「!!……あんた、次期大統領の子か。なるほどね、此処に入れているのはそういう事ね」
「どういう事?」
「ふっ、あんたは知らなくてもいい事よ。私の名前は、丸野紗尾憐(シャオレン)」
「シャオレン……シャオレンですね!よろしく!」
「敬語外れてる……別に良いんだけど。(小声)よろしくね、紅華」
「うん!」

これが、紅華と紗尾憐の出会いだった。 

噂に関しては、「余計なことは言わなくていい」と紗尾憐に言われたので放置している。
























「……ってな感じで、"図書室の番人"のシャオレンに出会ったの」
「へぇ~、ちなみにその子って好戦的?」
「本を傷つけなければね。詳しく知りたければレモンが教えてくれるわ。あの子が1番シャオレンと親しいからね、確か昔からの親友って言っていたような気がするわ」
「えぇ~……怒らせたら怖いやつじゃんか」
「その番人がいる部屋にこれから向かうのよ。大丈夫、本は大事にするでしょ?」
「そうだけど、『向日葵色の青春』の3巻があるのか不安……ごほん、ボクの師匠についての本があるか無いかが不安だよ」
「今おもっくそ小説読みたがったよね?」
「……とにかく、緊張しても仕方ない。行こう、紅華」
「うん。探し物が終わったら小説探そうよ、私も読みたいし」
「お前も読みたいんかい」














~in 図書室~

「着いた~、涼しい~」
「だよね~」
「さて、探さなきゃよね!黒金翡翠に関する本!」
「うん、頑張ろう。とりあえず紅華は右側の本棚を、ボクは左側の本棚を、それでいいよね?」
「えぇ」

???「その必要は無いよ」

「?!」
「……ったく、いきなり出てくるとビビっちゃうでしょ。お客人が、ねぇ……














紗尾憐(シャオレン)」

そう呼ばれた"番人”は、申し訳なさそうに顔の前に手を合わせて謝った。

「ごめんて、許してよ。声はかけたよ?紅華」
「かけてもビビることもあるの。ほら、とりあえず2人とも自己紹介」
「あ、えと、紅華の姉の諷(ソラ)です。昨日から新しく幹部になりましたので、よろしくお願いします。お話は妹から聞きました」
「妹……てことは紅華のお姉さん?」
「うん。三姉妹なの」
と、紅華から言われた紗尾憐は宇宙猫のような顔をして2人を見比べた。

「……よく似てる。美人だね、アタシは丸野紗尾憐(まるの シャオレン)。シャオレンで良いよ、あと敬語は外してね。慣れてないから」
「あ、うん。よろしくねシャオレン」
「こちらこそ。……あんた小説は好き?」
「うん!特に紅華と一緒に読んでるのは~、『向日葵色の青春』!今は2巻まで持ってるんだけど3巻は人気すぎて、なかなか手に入れられないんだよね!ここにあるかな……ぐぇっ、何すんのさ」
「何すんの、じゃないわよ!一気に話さないでよシャオレンが困ってるじゃない!それに、そうじゃないでしょ?!本題は!……ごめんシャオレン、"黒金翡翠”っていう奴を知ってる?その人物に関する本を、私はここの図書室で見つけた覚えがほんの少しあるの!……一緒に探して欲しいんだけど、ダメ?」

話が諷のせいで若干逸れてしまったので、諷を締め上げながら、紗尾憐に本命の話をした。




「んー……聞いた事は無いけど見た事ある。確か、倉庫にあったかも。それよりその手離してあげて。諷が死にそうな顔してるから」
「あっ、ごめん」

諷に"突然のチョーク”をやっていた紅華はようやく離した。

(ちなみにその突然のチョークは、人の首に腕を巻き付けて身動きが出来ないようにする技である。作者はこの技を使って家族と遊んでいた事がある。てか今もたまにやる)

「あぁ~酸素だ、生き返る……」
「え、大丈夫?それ」
「うん、苦しくない!ありがとうねシャオレン!」
「あ、うん」
「……で?倉庫にあるの?それ」
「うん、そう。いつここの図書室に置いたかも分からないほど古びた本だったから、倉庫の中にある金庫の中に入れてある。倉庫までは入れるから、2人とも着いてきてね~」

「はぁい」
「分かったわ」
















なんやかんやあって図書室の中の三階に来た3人は、倉庫を探して歩いていた。

「ねぇ~どこ~?」
「文句言うな諷お姉ちゃん。情けないわよ」
「私語はあんまり言わない方がいいかも。それに紅華、素が出てるから」
「あっ、ごめんありがとう。もしかしてだけど隠し部屋って移動してたりする?」
「そのもしかして、だよ。じゃないと運動不足で死ぬし」
「運動しなよ。体力とか気力は人一倍あるんだから」
「それは本たちのおかげ。小説は私の生きる糧。小説がなきゃ生きられないもん。それにいつでも魔力で部屋を移動させれるから大丈夫。エレベーターのようにね、ほら」

紗尾憐が指を指したところを2人が見ると、壁一面にあった簡単には動かせそうにない感じの本棚が端にズレて、重たそうな二つのドアが見えた。

普段はめんどくさがり屋なのにこういう時だけチカラを出すのはできる限りやめて欲しいものだ、と思いながら紅華はそのドアを見ていた。

「開けるよ」


ガチャ……ギィィ……

紗尾憐がドアを開け、3人が中に入るとそこには……





















……たっっっくさんの小説やら本やらが入っていた。
そしてとてもその倉庫が広く、その広さはおよそ8畳ほど。

あまりの広さに、諷はポカンとマヌケな顔をしていた。

「その顔どうにかならん?」
「いや、無理だよ!広すぎるでしょ!屋根裏部屋くらいかと思ってた!本、多っ!」
「当たり前でしょ、こんぐらい小説がないと生きていけないもの。あ、そこの青いソファーに座ってて。探してくる」
「ありがとうシャオレ~ン、本当に助かるわ」
「伊達に"図書室の番人”の肩書きは着いちゃいないよ。紅華が昔信じてたやつ」
「それは忘れてほしかった」
「はっはっは、簡単に忘れられないわよアレは。しかも今も噂があるみたいだしね」
「誰だよあの噂流したやつ」
「今は良い印象があるけどね、もう自分でも名乗れるくらいは慣れたわ」
「そうなんだ……ちなみにお年を聞いても?」
「あー、15歳だよ」
「……はい?!?!紅華の1個下の年じゃん!」
「そうだけど?……あ、もしかして服で決めてたな?」
「だだ、だってセーラー服……着てるし。大人びてるからてっきり同い年かと……」
「ちなみに、あんたは何歳なの?」
「いや、17の高二ですけど。紅華は高一」
「あー、そういう事?1番上のお姉さんは?さっき三姉妹って言ってたし」
「……紅音姉さんは、今現在行方不明中の23歳だよ。戦争当時は高校3年生だったけど、18歳から成人だからもう成人してたけど」
「へぇ~、なかなか闇が深そうな感じだ」
「君も覚えてるでしょ?あの悲劇」
「うん、もちろん。だってアレでアタシがいた家とか親は……吹っ飛ばされたし」
「……ごめん」
「…………別に大丈夫。言わせたとかでは無いから安心して、アタシこそ傷をえぐるような事してごめんね」
「……ううん、大丈夫だよ」
「あーもうその話は終わり!紅音お姉ちゃんは絶対見つけるから!今は黒幕についての情報が必要だからね!」
「うん……」
「そういやそうだったね、ええと……確かここら辺に…………あ、見つけたかも!」

「「ほんとに?!」」

紗尾憐が1冊の本を取り出すと、その表紙には、『黒金翠蓮録』と書かれていた。

「なんこれ?こんな本、いつの間に?」
「きっと黒金翡翠に関する本……というか書物だよ!早速幹部達を集めなきゃ!諷、アンタのご自慢のインカムで皆に呼びかけて。あ、シャオレンにも上げないと。………はいこれ、連絡用インカム。諷が自分で作ったらしいよ。手先器用なんだよねあの姉」
「そうなんだ、凄いね?……ありがとう、ネコさんの形だ」
「前々から予備用で作って、幹部には渡したけどまだこれから来るかもしれないって、予備で作ったものらしいよ」
「可愛いね、本人に言っといてほしい。気に入ったって」
「きっと喜ぶわね。それより小説!『向日葵色の青春』の3巻を探さないと!毎回予想出来ないような展開!これは見ないと!……紗尾憐、どこに小説あるか知ってる?」
「いい加減場所覚えなよ……2階の1番奥の本棚の所に小説ってジャンルの紙が書かれてるから、そこね」
「OK!ありがとうシャオレン!」

紅華は、紗尾憐にニッコリと笑いかけた。対して紗尾憐もそれにつられてニッコリと微笑んだ。









































次回、第十一節

~調べ~  前編


















やああああっと!!十節目まで行きましたー!ありがとうございます!(´▽`)
見てくださった皆様、同じく合作をしている6人の皆様、などなど……

ありがとうございます!亜夏葉はこれからも頑張ります!

これから展開がもっと熱くなるのでお楽しみに。(新キャラの衝撃事実が明らかになるかも……?)

それでは~またどこかでお会いしましょう!バイバイ(^_^)/~
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