エクリプス 〜瑪瑙の章〜

亜夏羽

文字の大きさ
上 下
17 / 38
第十一節

〜調べ〜 前編

しおりを挟む
「諷、幹部を此処に集めてきて。緊急会議だよ」
「分かった」

紅華に言われた通り、お手製のインカムで全員に言った。

『幹部全員に告ぐ!至急、図書室に向かってくれ!繰り返す、幹部全員に告ぐ!………………』

その間、紗尾憐と紅華は2人で雑談をしていた。

「シャオレン、この本今日だけ借りても良い?」
「まぁ、2週間程度ならその間いつ返してもらっても構わないよ。それに取り寄せた記憶すら無いもん。あげても構わないよ」
「え……良いの?」
「えぇ。何か重要そうな本みたいだしね、その代わり大事にとっておいてほしいの。自分の物だろうがなんだろうが、本を大事に扱わない奴は全員悪だからね」
「それに関しては大丈夫。しっかり私専用の金庫とかに入れておくからね。盗まれないようにしなきゃ」
「さーすが、アタシの親友ね」
「私の親友は、シャオレンと鈴菜達だけよ」
「鈴菜って子……お友達?」
「うん。鈴菜、蓬、煌、美埜音……は友達ね。鈴菜だけはほんの少しだけ違うけど」
「どういうこと?」
「鈴菜はね、私の相棒なの。唯一無二の大親友であり……相棒ね」
「特別なんだ。良いなぁ、そういう信頼できる人たちが居て……アタシには居ないや」
「なーに言ってんのよ、私とレモン、それに他の幹部達がいるじゃないのよ。それとも何?……私達の事まだ信じてないの?」
「あ……そうだったね、今はもう違うもんね。仲間がいるもんね」
「そうそう、忘れてもらっちゃ困るわ」
「紅華、素がまた出てる。しっかしまぁ……大統領もめんどくさいものだね」
「まぁ、色々と大変だけど楽しいわよ」
「……そっか。なら良いや」

コンコン、ガチャ……ギィィ……

「来たで~?紅華ちゃん、話ってなんや?」
「よっ、お邪魔してるぜ」
「ここは相変わらずだな~」
「うわぁ……沢山の本……読みたい」
「駄目です。そんな事より紅華様、何かありましたか?」
「やぁほ~!レンレン久しぶりだね~!」



「皆、来てくれたのね」
雑談中に来てくれたのは、さっき諷が呼んだ幹部全員だった。
皆、それぞれ図書室を見回したりしている。

「レモン、久しぶり。皆元気そうだね。ミルキィはお話終わったら本を読んで大丈夫だよ」
「え?レモンちゃんと紗尾憐ちゃんって知り合いだったの?」
「あ、あぁそうだよ。戦争で孤児院にいて、自分の部屋に引きこもり気味だったアタシを、外の世界に引っ張り出した恩人なんだ。オニキスの家に引き取られたあと、ここに来て図書室を作ったんだ。元々建築作業が出来る奴だったからねアタシ」
「ほへ~」

諷はレモンと紗尾憐が友達だったという事を初めて知った。

レモンは紗尾憐に耳打ちした。

「そういえば、貴女が出した小説は?(小声)」
「今それ言う?……まだだよ。最近思いつかないというか……。(小声)」
「早く書かないと人気過ぎていっちゃうよ~!そういうのはね、普段の生活でビビっと来るもんだから、急がず慌てずに頑張って書くのがいいんだよ(小声)」
「あ~、確かに……思いついたかもしれない。ちょっとまた籠るかも(小声)」
「紅華にはなんて言う?」
「ちょっとだけ部屋に籠る、すぐ戻るからって言っといて(小声)」
「りょー(小声)」

話が終わると、レモンは紅華にすすーっと寄っていって耳打ちした。

「ごめん、レンレンまた部屋籠るらしい」
「また?30分以内に絶対戻ってきて、って言っといてね。中で何をしているか知らないけども」
「Yes、age-to~」


「30分以内に戻れだってさ、行ってこい~」
「ありがと、行ってくる」

レモンは素早く自室に戻った紗尾憐を眺めながら思った。

(ほーんと、不器用なや~つ)




実は、紗尾憐はあの『向日葵色の青春』の作者であり人気小説家、『向日葵 イチジク』だった。
この事は、レモンしか知らない"特別な秘密”である。



























紅華はその間、緊急会議を開いていた。

「ごめんね急に呼び出して。実は黒金翡翠に関する本が見つかったの、ほらこれ」

そう言って話を切り出した紅華は、1冊の古ぼけた本を取り出した。
表紙には『黒金翠蓮録』と書かれていて、本の表紙の色はと黒っぽいような緑色のような色になっている。おまけに、真ん中には勾玉の印が書かれている。


















































「……皆、今からこの本を開くわよ。準備はいい?」
そう問いかける紅華は、幹部全員を見た。

……皆、覚悟は決まっていた。

「(幹部全員)当たり前だ!!」

そう言われた紅華は、本を開いた。

すると本が光りだし、妖朴が2、3体出てきた。

「?!……総員、戦闘態勢!!」

いきなり出てきた妖朴に驚きを隠せなかった紅華だが、すぐ冷静になり指示を出した。

幹部達は後方、中衛、前衛にそれぞれ周りながら紅華の前に立つようにして、容赦なく斬り倒していった。

だが中々一筋縄では行かない妖朴に、幹部の一人であるレモンはイラつき、とうとう妖術を出した。

「ああ~もう!しつっこい!"奇跡『7色クローバー』”!!」

ドォーン!!バーン!!



無事に妖朴は倒せたものの…………















床に大きい穴が空いた。


「あっ…………」

「…………レーモーンー???どうしてくれるのかなああああああぁぁぁ???!」

案の定、紅華はレモンに計5時間も説教。
それプラス、書類仕事を少し増やして、穴の修理(レモンの自腹)を言い渡した。

レモンはまぁ、例の如くこの世の終わりのような顔をしていた。
…………当たり前だよなぁ!


























次の日。

図書室の自室にいた紗尾憐に事の事情を説明し、なんとか直して貰ったが、レモンはこっぴどく叱られた後、図書室の隅で縮こまっていた。

「レモン、もう怒ってないから早く座って」
「……うう~っ、ごめんなざいぃ」
「はぁ。ほら、レモンおいで」
「ゴメンなさい…………」
「……っ、紅華。やりすぎだよ。謝らないと」
「……はぁ~。ごめんねレモン、私も怒りすぎた。仲直り、してくれる?」
「………………うん」
「良かった、レモン大好き!」
「紅華ちゃん、ごめんなさい……」
「もういいの!早く話し合いしよう!えーと、今回皆に集まってもらったのは……『黒金翠蓮録』っていう本について。あの妖朴は、読んでみたらなんか悪いやつがあの本を盗まないように作られたドッキリみたいなもんらしいよ。本自体は害が無いみたいだし、読むね」
「あぁ、頼む」
「お願いしますぅ」

「うん。えーと、『汝、ここに記されているものを読め。黒金家は、代々闇の暗躍者である。そのため、危険な魔術でさえも命を顧みずに使う事が出来る。だがその先にあるものは、破滅のみ。だから初代黒金家である"黒金麟翠”はより強いチカラを欲し、"禁断の呪術”を編み出した。今の黒金家の末裔は……現黒金家当主である黒金翠蓮(すいれん)の息子である、"黒金 翡翠”(くろがね ひすい)』……!?この名前じゃない?!」

「そいつが諷を誑かした"師匠"、とやらの本名なんやな。そいつをはよ見つけて拷問した後、洗いざらい情報吐いてもらわなイライラが収まらんわ」
と、ラズリが言う。

諷も、
「……"黒金翡翠”、もうお前を師匠などと呼ぶ義理はないね。どんな手を使ってでも見つけ出してやる」
と言った。

そしてオニキスも。
「……シバキ回して、とっ捕まえる。戦争は好きだが、あのような悲劇は二度と起こして欲しくないな」
「まぁまだソイツが5年前の戦争を起こしたのかが分かってねぇが、もし起こしてても起こしてなくても関係ねぇ、必ず消してやるよ」
と、ソーダ。
「僕も……諷の仇……打ってやる。幹部をなめるなよ」
そしてミルキオ。
「全く、どうしてこんなやつがずっと野放しにされていたのか……理解できませんね。僕の手で壊しておかなければ」
と、今度はサファイアが言った。

「アタシの家族や家を奪ったかもしれないんだ。タダじゃおかないよ」
と、最後に紗尾憐が決意を新たにした。

するとレモンが、
「そういえば、ソイツの能力は?」
と、紅華に聞いた。

「うーん、その後の字は読めないわね。何か特殊な魔術でもかけてるのか……本人に聞くしか無さそうね。……とりあえず」

紅華はそう言うと、幹部達の前に立ってこう言った。
「……ここの兵士たちに、真っ黒いローブのフードを被った怪しい人物を見かけたら即刻捕まえるようにして!諷、手伝ってくれるよね?」
「当たり前!」
紅華の指名に答えた諷は、紅華が言っていたように、下っ端兵士達にインカムで指示していた。
街の中や、森や病院、紅華達が通っている学校の中や通学路にも。

最低限必要な所に何人か兵士達を向かわせ、残った後の兵士は国家の守りとして待機させている。


「これだけやれば、あとは大丈夫でしょう。国境とか、港のところとかにもいるしね」
「一般の人に迷惑では?」
「大丈夫よサファ、私服で歩き回ったりして良いって言ってあるし。よっぽどの事がない限り、怪しまれるようなやつは居ないわよ。その代わり、さっき諷が言ってた特徴の怪しい奴を見つけたら教えてって、兵士達が呼びかけているわ。簡単には逃さないつもりよ」
「……流石としか言えませんね」
「当たり前でしょ?仮にも家族なんだもの」
「そうですよね。唯一生き残った家族なんですもんね……」
「……後は、紅音お姉ちゃんが生きているかどうか、よね」
「紅華様なら、見つけられると思います」
「サファ……ありがとう。でも」
「?」
「…………ここの皆も、私の家族よ。誰にも奪われる事は無い。私が保証するわ。もちろん、サファも家族よ」
「……それで、良いんですか?」
「えぇ。当たり前よ」
「……そうですか」
「あまり嬉しくない?」
「いいえ。とても……言葉にならないほどです」
「何かあればなんでも言ってね」
「はい」


サファイアと紅華は、その後他愛のない話を沢山した。






























???「…………もう少しだな」













����は、何故かうっすらと笑っていた。














次回、第十一節

~調べ~  後編



しおりを挟む

処理中です...