エクリプス 〜瑪瑙の章〜

亜夏羽

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第十三節

〜新たな刺客〜

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体育館に貼られた結界の中から出てきた紅華と棗会長は、生徒会室の扉を開けた。
そこは煌びやかだと言っても良いぐらい、豪華な部屋だった。
棗会長は、右側にある透明のテーブルと黒いソファがあるところに行き、座った。

「さぁ紅華くん、ここが生徒会室だ。いわば学園の心臓だな。ようこそ、生徒会へ」
「は、はい……」
(どうしてこうなった……?)

「今は生徒会の役員達がさっきの騒ぎで出払っていてね、大したおもてなしを出来ず申し訳ないんだが……なにか飲むか?」
「え、あ、じゃあココアを」
「OK、少し待っていてくれ。今日は暑いから、牛乳で温めずにそのまま出すね」
「ありがとうございます。あの、何故私をここに……?」
「それはココアを飲んでから。ホイできた」
「あ、ありがとうございます。頂戴します。……美味しい!甘くて美味しいです」
「そりゃよかった。甘党なのかい?」
「はい」
「おお~、同じだね。さて、本題に入ろう。実はね、紅華くん。君を生徒会に入れようという話が出てきたんだ。もちろん君の立場は教師陣は知らないし、普通の生徒と同じように扱っているつもりだ。そこでこの前にあった海の旅館事件が校長の耳に入り、見事解決したという事を知ったので、生徒会委員の人手不足を解決すべく、君が選ばれたということだ」
「なるほど。あの時は姉がご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」
「え?どういうことだい?」
「実は、あの海の旅館の件は諷お姉ちゃんがさっき言った黒金翡翠に洗脳され、師匠として接していたんです。それで姉は罪を犯した」
「罪?」
「えぇ。詳しくは姉の口から聞いた方がいいです。まだその事は言っていいという許可を貰ってないし」
「なるほどね。で、入って欲しいと言う件なんだが、良いかい?」

その要件を聞いた紅華は、内心パニックになっていた。
(え?マジで言ってるの?……私が?う、そでしょ……? でも、それをやって何かいいことってあるのかな?聞いてみよう)


「……それをやって、私にメリットはありますか?」
「……あぁ、ある。色んな事件が耳に入るし、報酬というか、妖華石(あやかいし)という妖力を増幅させる石が渡される。それを使って黒幕を倒すことも出来るかもしれない。まぁ、黒幕の能力にも寄るがね」
「それって、会長が持ってます?」
「あぁ。父様が持ってるよ。造り手だもの」
「だったら、黒幕を倒すのにあなたの存在は不可欠ですね。……ふぅ、良いでしょう。生徒会に入ります。ただ、秘密を喋ったりしなければ三年生になるまで続けられますし、必ずその契約とは関係なく生徒会の仕事を全うしたいと思っています」
「なるほど、いい心意気だし、こちらとしても心強いよ。よろしく、紅華くん」
「………はい、よろしくお願いします」
「私は見回りしてくるから、紅華くんはクラスの出し物の所へ戻っても大丈夫だ。何かあればスメホで電話する。ということで番号教えて」
「えぇ……良いですけども」

なんやかんや無事に生徒会の一員になった紅華は、会長と電話番号、そしてLIN○を交換してその日は別々に行動した。



















紅華が2階にある1ーAの教室に向かっている途中、怪しい人を廊下の窓から見かけた。

(あ、濃い紫色の子がいる。あんな子……この学園にいた?それにしては子供っぽいけど……?周りにクラゲが浮いてる……?後で話しかけてみよう)
「って……うわっ?!クラゲ?……気のせいか。早く行かなくちゃ!」

文化祭当日ということもあってか、来客側の人だろうかと思い、特に気にしなかった。その時急いでいた事もあったから、考える暇もなく教室に向かって早足で歩き出した。


それが後に後悔することになろうとは思いもせず。

















現在時刻、12:45。
そろそろ模擬店が混む時間帯であるので、クラスメイトたちやほかの一年生のクラスは、一旦シフト交代をする。
紅華も同じクラスメイトにエプロンを貸し出し、鈴菜達と一緒に回ることにした。蓬は目が覚めたあと、保健室の先生に言ってクラスまで来た。

「それじゃ、回るわよ!……っと、LIN○?」
「出てて良いよ~、待ってるから。美埜音ちゃんどこ回りたい?煌くん達も!」
「えと、チョコバナナ屋さんとか、チュロスのチョコ味食べたいです!あと、クレープ屋さんとか、焼きそば屋さんとか、ピザトースト屋さんとか!」
「うわ、全部回りたい!」
「茶道部行きてぇな、お茶とお菓子が出るらしいし」
「うわ、それいいぞ!ナイス蓬!」
「確かに、行ってみたいです!」
「先に行こうか、茶道部のところ!えーと、確か…………3・4号棟の、1回にある茶室だっけ?」
「そうだな、おーい!行くぞ紅華!」
「………」
「紅華?……ほら、回るぞ文化祭の店」
「あ、じゃあ行こうか。ごめん考え事してて」
「何かあれば言えよ、友達なんだから」
「頼って貰えないの、悲しいな~?紅華ちゃん?」
「鈴菜……実はね、さっき気になる人がいて……紫色の髪の女の子?がいて……」
「見かけただけですか?」
「うん。なんか見られてる気がした」
「その他に異常なこととか、気になったこととかは?」
「いや、あ~……私の周りにも、あの子の周りにも……クラゲが浮いていたの。半透明の」
「クラゲ、ですか……引っかかりますね」
「うん。見たらすぐに消えちゃったけど、一瞬変なチカラを感じたような……?」
「っ、見せてください。腕」
さっき窓から見た謎の女の子について、紅華が話すと美埜音は途端に険しい表情になった。
それと同時に、切り傷のようなものが紫色に光り、痛みが紅華を襲う。うっ、と言いながらも紅華は美埜音に傷を見せた。すると美埜音が怒っているような表情になる。
美埜音が鋭い目つきで傷についてを話した。

「……だってこれ、クラゲの毒ですよ。普通の人ならかなりの確率で死ぬ程の量です」
「……どういうこと?まさかそいつの能力って……!」
「えぇ。でもまだ断定は出来ませんので。鈴菜さんたちは、どうします?そいつと最悪闘うか、今だけ文化祭を見て回るか。後者の方がオススメですけど、どうします?」
「そんなの…………闘うよ。後でちゃんと教えてね」
「えぇ、必ず教える。今すぐにその紫髪を追うわよ!確か野外ステージの方に行ったはず!急がないと!」
「うん!」「はい!」「「おう!」」
紅華は文化祭のことよりも自分を優先してくれる鈴菜達の顔を見て、嬉しいやら申し訳ないやらで、心の中があったかくなるのを感じながら走った。

この際、廊下を走るな等というお小言はスルーしておく。

この先に待つ、新たな敵に立ち向かうために。
紅華は、1歩を踏み出した。






























野外ステージのところにたどり着いた紅華たちは、さっき紅華が見たと言っていた濃い紫髪の、紅華たちと丁度同い年位の女の子がいた。

「あ、来てくれたー!やあほー!……翡翠たまから聞いてるよ~?強いんだってね!」
「翡翠……黒金の事ね。あなたは敵かしら?」
「んー、まぁそうだね。でも敵対するの嫌なんだよな~、こっちには"手札”があるし」
「……手札ってなに?どういうことなのよ」
「んー、ひーみつ!次に会う時は、仲間増やしておくから、覚悟しててね!」
「……は?そうやすやすと逃がすわけねぇだろ。"燿"!あの敵を倒せ!」
「へいへーい、わーったよご主人。要はあのガキを、ぶっ倒せばいいんだよな!ふぅ……"結界”!これで逃げられないはずだ!」
"燿”(よう)、と言われた人のような形をした式神は、煌の前に姿を現した。
濃く、長い黒髪が後ろに一つ結びになっており、きながしのような青い和服を着ている。
紅華はに一瞬違和感を感じたが、それよりももっと強く大きいナニカが自分たちの後ろに来ているのを感じ、第六感に従って前に走り出した。

「………逃げて!皆!」
「はぁ?どういう意味だ…………っ?!」
紅華が叫んだのもつかの間、おびただしい数のクラゲが煌を狙っていた。
結界に入れられているはずなのに壊れている。ということは、だ。
この敵はかなり強いことが伺える。よって、かなりマズイことになるのは明白。
紅華は焦って撤退することにした。

「皆!早く逃げて!クラゲが迫ってきてる!!」
「えぇ?!」
「え、逃げるの?えー?ニーゲールーノーかー。つまらないなぁ?まぁいっか。クラゲ達にせいぜい…………













殺されない事ね☆」

可愛い顔して禄でもないことを言うやつだな。
紅華は今絶対そんなこと言ってる場合ではないような事を考えながら、鈴菜達と一緒に逃げ回った。


最終的には撒いたのだが、敵も見えなくなった。





















「はぁ~……上手く逃げ切ったけど……キッツ……皆、大丈夫?」
「これを見て大丈夫だと言える方がどうかしてると思うぞ……」
「疲れました……」
「もう走りたくなーい……」
「誰かおんぶして」
「断る(煌以外全員)」
「ひっっど」
「で、今日はどうするんですか。このままアレを逃がすんですか?」
「そんなわけないでしょ。幸い、向こうは私たちのことについては気づいてないみたいだしね。チェニー、姿を消して探って」
『了解、なにか問題があったら戻るからよろしく』
「……頼んだわよ、チェニー」
紅華はチェニーに捜査を頼みながらも、暗い顔をしていた。
それを見る鈴菜の顔すらも気づかないまま。













次回、第十四節

~再戦~
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