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第壱話
〜菜花咲く春の七草粥〜
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桜雅国。
それは、とても大きい国であり、たくさんの交易品を取り揃えている朝廷の家、後宮がある。
皇帝である怍 雷庵(ざく らいあ)は外を眺め、ため息をついた。
自室で自分だけができる書類を片付けている雷庵は疲れ果てていた。
何が悲しくて皇帝などという面倒くさくて疲れる仕事をやりたいと思うのか。
心無しか、頭も痛くてボーっとするような……気の所為かと気にしなかった。
朝から夜までぶっ通しで作業をしていたため腹も減った。
もう書類仕事なんか放っておいて、身分を隠してフラフラどこかへ散策したいものだ、と徹夜続きでろくに回っていない頭で考えていたその矢先。
いい事を思いついたのだ。
「あぁ、そうだ。都に行けば気分転換になるだろ。見張りの奴に見つからないように、窓から出よう」
そう言って雷庵は、窓から外に出ておぼつかないような足取りで都へ向かったのだった。
その間、門番は居眠りをしていたと後から合流した雷庵の部下、央 凛瑛(よう りんえい)と伊織は自身の部下から聞き、「あの馬鹿皇帝!」と、もしも雷庵直属の部下ではなく一般の宦官であれば、周りに人がいたら侮辱罪で後宮から追放されることも忘れ、愚痴を言いながら探し回っていた。
* * * * *
「ふわぁ……眠いなぁ~」
春。
桜雅国、都の華街という街の離れにある村に住んでいる瞑 夜鷹は、欠伸をしながら薬膳師として名高い師匠の為に自分の畑にある野菜を収穫していた。
「さて、そろそろ師匠の元に戻ってご飯を作って、近所の姚(やお)さんの家に行かなくちゃ」
野菜を収穫し終わり、家に戻ると師匠である晄 羚苑が、決して大きくは無い家の中で薬草をすり潰していた。
「やあ、夜鷹。いい野菜が取れたようで良かったねぇ。それじゃ、ご飯にしよう」
「うん。あ、師匠! 『治癒』をやらないと……」
「あぁ、ご飯を食べたらね」
「そう言って、またサボろうとしてない?」
「してないよ」
2人は軽口を叩きながら、朝ご飯の準備をした。
今は春の季節なので、春の七草粥と鶏肉の羹、更に朝採った野菜ゴロゴロ汁を作る。
夜鷹が畑で採った七草と菜の花、鶏から取れた卵に醤油と塩にお酒をかけて混ぜ、 鍋で煮込む。
鶏肉の羹も一緒に煮込めば味が染み込んで美味しくなる。
(そういえば、師匠と初めて会った時もこの粥を作ってくれたな。懐かしいな)
夜鷹は昔の師匠が作ってくれた粥を思い出しながら、昨日田んぼで採れた貴重な米を炊いて粥を完成させた。
次に野菜汁だ。
野菜を次々に手早く切り、もう1つの鍋に醤油と出汁の粉末も大さじ二を入れて完成。
ちゃぶ台に並べ、食べる時の挨拶をする。
「「いただきます!!」」
* * *
鵜人異類婚姻譚。
それは、人と人外が結ばれて出来たとある昔話のこと。
むかしむかしの大昔に鳥・牛・豚と人間は、桜雅国を二つに分けて対立していた。
その2つの国のうちの片側である、北側の国を"北楼国”、南側の国を"南音国”といった。
だが飢饉や餓死がまだ多かった戦争の時代、牛肉や豚肉、鶏肉を食べなければ飢え死にしてしまうと感じた人々は、鳥に許しを請い、とある名家の1人娘を贄にして契約を結んだ。
娘は人々の間では一番の美貌であり、心優しい綺麗な人だった。
やがて鳥と娘は結ばれ、その間に2人の鳥獣人を産んだという。
これがこの婚姻譚の御話。
そしてその血を受け継いだ者が、夜鷹という名家の娘なのだ。
この夜鷹には、とある2つの秘密がある。
それは、夜鷹が鳥獣人ということと、獣人には代々"異能”が受け継がれている。
特に、瞑家の獣人は人々を癒す効果がある異能を受け継いでいて、夜鷹の場合は『治癒』と『薬膳』で2つの異能があり、かなりの変異種なのである。しかし、鳥獣人は昔に人攫いや誘拐などがあり、身分を隠して生きていかなければならなくなった。
その為、瞑家の出身である夜鷹の両親はまだ幼子だった夜鷹を仕方なく、"深淵の森”という子供を守ってくれる森に置いていき、そのまま何処か遠くへ行ってしまったのだ。
だから、夜鷹の正体を知っているのは羚苑と村の人達だけなのである。
村の人たちや羚苑は夜鷹の能力がバレぬよう、夜鷹を外へあまり出さぬようにしている。
ご飯を食べ終わった夜鷹は、お皿を流しに置いて水につけ、納屋の近くにある井戸の水をお湯に沸かして硝子の入れ物に入れ、お茶の葉と一緒に混ぜた後に小さな手帳、題して『夜鷹の桜料理帳』を取り出し、七草粥のレシピを書いたあとにこう言った。
「これでよし、師匠! 『治癒』やるよ~」
「あぁ、そうだったね。じゃあそれをやったら幺さんのところに行こうか」
「そうだね。なるべく早く終わらせるよ」
「焦らないで、慎重に。なるべく外で『治癒』をやってはいけないよ」
夜鷹は半ば苦笑いをし、呆れながらも「分かってるよ」と返し、そのまま『治癒』を施した。
お師匠である羚苑は、生まれつき両足の骨が悪く、腕の筋肉も弱いので齢45にしてお爺ちゃんのような歩き方をしている。
どんな医者がこの薬膳師である羚苑を治療しようとしても、治ることは困難だった。
だが、"異能”はそんな不可能な事でさえも覆す力を持つ。
そこで夜鷹の出番となるのだ。
夜鷹の持つ2つの異能の1つである『治癒』は、消費力が多く日をかけて何度もやらなければならないが、あらゆる傷や病気でも治す事が出来る。
その為、ほとんどの深い傷は1日で治るが、羚苑の足や腕は傷ついてからかなりの日々が経っている為、時間がかかる。
もう1つの『薬膳』はその名の通り薬膳料理をしっかりと作れるというものだが、他のものとは一味違う。
元々の薬膳料理よりも、もっと身体を回復させる効果を持つ薬膳料理を作れるのだ。その代わり台盤所でしか発揮せず、元々の料理の腕前が高い者にしかつかない後天性の"異能”なのだ。
どちらも貴重な癒しの異能である。
羚苑を優しい光が包み込み、消えたので夜鷹は満足そうにうなずきこう言った。
「よしっ! 今日も事故はなかったね。師匠」
「そうだねえ。もうそろそろ一人前にしてもいいかも、ね」
「ホント!? やったあ!」
「ただし! この後薬膳料理を姚さんに届けてから! いいね?」
羚苑の厳しい声に怯むことなく、夜鷹は自信満々に言い放った。
「任せて! 師匠に負けないくらい美味しくて体を癒やす薬膳料理を目指すわ!」
その後、夜鷹は姚さんの家に向かう準備をし、いざ行こうと家を出た。街に出ると、見知らぬ裕福そうな人が苦しそうにしゃがんでいた。
病人かもしれないので、夜鷹は駆け寄って声をかけた。
すると、その人は「み......水をくれ......」と言い、倒れてしまった。
「!?」
声にならないほどの衝撃を受け、夜鷹は急いで家に戻った。
続く!
それは、とても大きい国であり、たくさんの交易品を取り揃えている朝廷の家、後宮がある。
皇帝である怍 雷庵(ざく らいあ)は外を眺め、ため息をついた。
自室で自分だけができる書類を片付けている雷庵は疲れ果てていた。
何が悲しくて皇帝などという面倒くさくて疲れる仕事をやりたいと思うのか。
心無しか、頭も痛くてボーっとするような……気の所為かと気にしなかった。
朝から夜までぶっ通しで作業をしていたため腹も減った。
もう書類仕事なんか放っておいて、身分を隠してフラフラどこかへ散策したいものだ、と徹夜続きでろくに回っていない頭で考えていたその矢先。
いい事を思いついたのだ。
「あぁ、そうだ。都に行けば気分転換になるだろ。見張りの奴に見つからないように、窓から出よう」
そう言って雷庵は、窓から外に出ておぼつかないような足取りで都へ向かったのだった。
その間、門番は居眠りをしていたと後から合流した雷庵の部下、央 凛瑛(よう りんえい)と伊織は自身の部下から聞き、「あの馬鹿皇帝!」と、もしも雷庵直属の部下ではなく一般の宦官であれば、周りに人がいたら侮辱罪で後宮から追放されることも忘れ、愚痴を言いながら探し回っていた。
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「ふわぁ……眠いなぁ~」
春。
桜雅国、都の華街という街の離れにある村に住んでいる瞑 夜鷹は、欠伸をしながら薬膳師として名高い師匠の為に自分の畑にある野菜を収穫していた。
「さて、そろそろ師匠の元に戻ってご飯を作って、近所の姚(やお)さんの家に行かなくちゃ」
野菜を収穫し終わり、家に戻ると師匠である晄 羚苑が、決して大きくは無い家の中で薬草をすり潰していた。
「やあ、夜鷹。いい野菜が取れたようで良かったねぇ。それじゃ、ご飯にしよう」
「うん。あ、師匠! 『治癒』をやらないと……」
「あぁ、ご飯を食べたらね」
「そう言って、またサボろうとしてない?」
「してないよ」
2人は軽口を叩きながら、朝ご飯の準備をした。
今は春の季節なので、春の七草粥と鶏肉の羹、更に朝採った野菜ゴロゴロ汁を作る。
夜鷹が畑で採った七草と菜の花、鶏から取れた卵に醤油と塩にお酒をかけて混ぜ、 鍋で煮込む。
鶏肉の羹も一緒に煮込めば味が染み込んで美味しくなる。
(そういえば、師匠と初めて会った時もこの粥を作ってくれたな。懐かしいな)
夜鷹は昔の師匠が作ってくれた粥を思い出しながら、昨日田んぼで採れた貴重な米を炊いて粥を完成させた。
次に野菜汁だ。
野菜を次々に手早く切り、もう1つの鍋に醤油と出汁の粉末も大さじ二を入れて完成。
ちゃぶ台に並べ、食べる時の挨拶をする。
「「いただきます!!」」
* * *
鵜人異類婚姻譚。
それは、人と人外が結ばれて出来たとある昔話のこと。
むかしむかしの大昔に鳥・牛・豚と人間は、桜雅国を二つに分けて対立していた。
その2つの国のうちの片側である、北側の国を"北楼国”、南側の国を"南音国”といった。
だが飢饉や餓死がまだ多かった戦争の時代、牛肉や豚肉、鶏肉を食べなければ飢え死にしてしまうと感じた人々は、鳥に許しを請い、とある名家の1人娘を贄にして契約を結んだ。
娘は人々の間では一番の美貌であり、心優しい綺麗な人だった。
やがて鳥と娘は結ばれ、その間に2人の鳥獣人を産んだという。
これがこの婚姻譚の御話。
そしてその血を受け継いだ者が、夜鷹という名家の娘なのだ。
この夜鷹には、とある2つの秘密がある。
それは、夜鷹が鳥獣人ということと、獣人には代々"異能”が受け継がれている。
特に、瞑家の獣人は人々を癒す効果がある異能を受け継いでいて、夜鷹の場合は『治癒』と『薬膳』で2つの異能があり、かなりの変異種なのである。しかし、鳥獣人は昔に人攫いや誘拐などがあり、身分を隠して生きていかなければならなくなった。
その為、瞑家の出身である夜鷹の両親はまだ幼子だった夜鷹を仕方なく、"深淵の森”という子供を守ってくれる森に置いていき、そのまま何処か遠くへ行ってしまったのだ。
だから、夜鷹の正体を知っているのは羚苑と村の人達だけなのである。
村の人たちや羚苑は夜鷹の能力がバレぬよう、夜鷹を外へあまり出さぬようにしている。
ご飯を食べ終わった夜鷹は、お皿を流しに置いて水につけ、納屋の近くにある井戸の水をお湯に沸かして硝子の入れ物に入れ、お茶の葉と一緒に混ぜた後に小さな手帳、題して『夜鷹の桜料理帳』を取り出し、七草粥のレシピを書いたあとにこう言った。
「これでよし、師匠! 『治癒』やるよ~」
「あぁ、そうだったね。じゃあそれをやったら幺さんのところに行こうか」
「そうだね。なるべく早く終わらせるよ」
「焦らないで、慎重に。なるべく外で『治癒』をやってはいけないよ」
夜鷹は半ば苦笑いをし、呆れながらも「分かってるよ」と返し、そのまま『治癒』を施した。
お師匠である羚苑は、生まれつき両足の骨が悪く、腕の筋肉も弱いので齢45にしてお爺ちゃんのような歩き方をしている。
どんな医者がこの薬膳師である羚苑を治療しようとしても、治ることは困難だった。
だが、"異能”はそんな不可能な事でさえも覆す力を持つ。
そこで夜鷹の出番となるのだ。
夜鷹の持つ2つの異能の1つである『治癒』は、消費力が多く日をかけて何度もやらなければならないが、あらゆる傷や病気でも治す事が出来る。
その為、ほとんどの深い傷は1日で治るが、羚苑の足や腕は傷ついてからかなりの日々が経っている為、時間がかかる。
もう1つの『薬膳』はその名の通り薬膳料理をしっかりと作れるというものだが、他のものとは一味違う。
元々の薬膳料理よりも、もっと身体を回復させる効果を持つ薬膳料理を作れるのだ。その代わり台盤所でしか発揮せず、元々の料理の腕前が高い者にしかつかない後天性の"異能”なのだ。
どちらも貴重な癒しの異能である。
羚苑を優しい光が包み込み、消えたので夜鷹は満足そうにうなずきこう言った。
「よしっ! 今日も事故はなかったね。師匠」
「そうだねえ。もうそろそろ一人前にしてもいいかも、ね」
「ホント!? やったあ!」
「ただし! この後薬膳料理を姚さんに届けてから! いいね?」
羚苑の厳しい声に怯むことなく、夜鷹は自信満々に言い放った。
「任せて! 師匠に負けないくらい美味しくて体を癒やす薬膳料理を目指すわ!」
その後、夜鷹は姚さんの家に向かう準備をし、いざ行こうと家を出た。街に出ると、見知らぬ裕福そうな人が苦しそうにしゃがんでいた。
病人かもしれないので、夜鷹は駆け寄って声をかけた。
すると、その人は「み......水をくれ......」と言い、倒れてしまった。
「!?」
声にならないほどの衝撃を受け、夜鷹は急いで家に戻った。
続く!
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