上 下
2 / 11

始まりの声

しおりを挟む
毎朝7時に起き、歯磨きをし、ご飯を食べ、制服に着替えて仮想世界にインしてログインプレゼントを貰ってから学校に行く。
これがいつもの俺の朝の生活だ。
家を出るとドアの前で友達の優が立っていた。口の中の食パンを急いで飲み込み、挨拶をする。
「おはよう!どのぐらい待ってたんだ?」
「そんな待ってないよ。せいぜい5分ぐらい。今日はほんの少しだけ遅かったね?」
「それが!聞けよ!JSI(仮想世界の通称)の前から告知してた超大型イベが今日からだからか、ログプレがすっげえ豪華だったんだよ!!」
「へえ!それは俺も帰ったら即インしなきゃな。」
「ああっ早く学校終われっ!」
「今まだ朝だぞー。」







                                                                〈帰宅〉

家に着くなり、鞄をベットの上に放り投げ、急いで部屋着に着替えてベットと同じくらいの大きさがあるVRを開く。電源を入れ、ランプが緑になるのを見届け、中へ横たわる。蓋を閉めてちょうど右手のひら辺りにある仮想世界にインするスイッチを指先で押す。「リンクスタートッ」
察しただろうか?有名なあれの真似である。特に意味はない。
意識が遠ざかった。


「っと!」
パチパチと瞬きして目を開けるとそこはもう仮想世界。剣と魔法の世界だ。
最終ログイン直前に宿に入ってたから、宿の中の部屋のベッドの上でお目覚めである。
金髪赤目。顔と体格はリアルのまんまのアバターは結構かっこいい。ちなみにここでの名前はリレア。
「どんなイベだろ…っ」
CPUの宿の店主にスピナー(金)を払い、宿を出る。
たちまちいつもの倍以上はうるさい喧騒に包まれた。
「運営がよほど呼びかけてたからみんなインしてるんだなぁ」
俺は今、1番賑わっている街、幻大樹の街に立っている。幻大樹の街は宿屋や、露店、武器屋、合成屋、様々な店が集まっており、時間を問わず賑わっている。
「とりあえずイベに備えて色々買おうかな」
興奮している人々の間を縫って、プレイヤーがやっている雑貨屋に入る。
   カランカラン
「よお、カズヤ!繁盛してる?」
「いらっしゃいま…ってお前かよ!客じゃないなら帰れ帰れ!」
「なっ失礼な!!色々仕入れに来たんだよ!!」
カズヤ。赤色の髪の毛に若干つり目のイケメン。年齢は19ぐらいと言っていた。一応仲が良いフレンドだ。街に雑貨屋を構えてから1年経つらしい。っていうか、ぐらいってなんだよ。とりあえずイケメンは死ね。
「ふん。薬草、中級回復薬瓶、転移クリスタルだろ?何ダース?(1ダース99個)」
「おっ分かってるなぁ!2ダースずつで!」
「あいよ。」会計机で肘をつきながらカズヤはメニューを出し、品物を操作する。すぐに机の上に大量の小袋が具現した。それを見届け、俺もメニューを操作し、カズヤへ金を払う。ついでに大量の品物をメニューに入れる。
「へいへい毎度ありぃ~。」
「また頼むぞ!」「うい」
                 ポーン
「お?」メッセージが飛んできた。優からだ。JSIではユウという名だ。そのまんまだな。
メッセージを開くと、街の広場時計台の前で10分後に落ち合おう。と書いてあった。
10分後ということはユウもイベに備えて色々買っているのだ。よし、先に行こう。
どんどん増えてきたプレイヤーに気を付け、時計台の前に移動する。雑貨屋からここに移動するまでにもう4分たった。
あと6分か…。
武器のストック、強化、はもう昨日のうちに済ませたし、する事ないな。
なんとなく周りを見渡す。
それにしても人多すぎやしないか?これ回線切れないか怖いな…。フレンド全員インしてるのかな。
「あ、もう来てる。」突如、耳元で声がした。
「うおわああ!?」
後ろにユウが立っていた。
「驚かすなよ!?!」
「ごめんごめん。」    …チリーン…。
                                           ゴーーーン…ゴーーーン…
チリーンチリーンチリーンチリーン  チリーンチリーンチリーンチリーンチリーン
      チリーンチリーンチリーンチリーンチリーンチリーンチリーンチリーンチリーン
「えっちょ…うるさ」色んな音が一斉に重なった。
運営が緊急お知らせを流す時に鳴らす重厚な鐘の音に、プレイヤーが転移先になる高い鈴のような音。この二つが絶えず鳴り響く。
「…プレイヤーが強制的に街に転移させられてるのか?」冷静にじっとしていたユウが目を見開く。
「ず、随分強引だなぁ!?問題じゃないの!?」チリーンチリーンチリーンチリーン
「問題だよ。
全プレイヤーを一度街に集めなければならないほどのイベントなのか…?」
チリーンチリーンチリーンチリーンチリーン…チリーン…。

やっと転移音が止まった。人口密度がとてつもなく高い。一歩も動けない…。人々の顔には困惑の色が浮かんでいた。
と、その時。
                                     『ご機嫌よう。プレイヤー達よ。』
何もないただの青空から低い声が響き渡った。
ざわざわと騒いでいた人々が一斉に黙り、シーン…と静かになる。

             『いきなりだが、これからあるクエストをクリアしない限り、ログアウトできないようにさせてもらった。』

再び一拍の沈黙。

                            ……………………?………、……………、…………

「「「…!?!?!?!?!?!?」」」ザワッ!!!!!!


しおりを挟む

処理中です...