乙女ゲーのガヤポジションに転生したからには、慎ましく平穏に暮らしたい

茶坊ピエロ

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五章

反省すべき点を理解した精神弱者

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 リアスやグランベルが戦闘を開始していた時、別の場所でもまたひとつの戦いが始まっていた。
 それはセコンが侵入した場所にも、アルバート同様に待ち伏せしていた人物がいた。

「待ち伏せされてる可能性は考えては居たが」

「すごいな、お前の兄と婚約者は」

「兄貴もミライちゃんはそれはもうすごいですわ。わたしが妹で居られる事には神に感謝しても仕切れませんわね」

「貴女は神を信じているので?」

「いえ、これっぽっちも」

 アルナとパルバディの二人だった。
 本当ならパルバディ単体でこの場に配置したかったミライだったが、保護者がいないとキツイとロウに言われて渋々アルナを共に配置した。

「まさかここから侵入することを突き止められるとは思いもしなかった」

 ここはアルゴノート領の下水道に位置する場所で、この世界においての生活水準で下水道は最も危険な民間施設と呼ばれている。
 衛生環境が余り良くない為、肥溜めと化しているからだ。
 しかしそれはリアスの前世の知識により一番最初に改善されている。
 肥溜めは洗浄魔法を大規模に作成して、更に臭いもしない様に処置が施されている。
 この下水道の悪いところといえば、ドブネズミやカマドウマが湧いたり、飲み水として飲めば洗浄されているとはいえ肥溜めの水の為激しい吐き気と腹痛に襲われる事くらいだろう。

「ここは臭くないからな。まさにリアス様々と言ったところだ」

「本音は?」

「憎たらしいがこの施設は評価に値する。是非とも帝都にもこの施設の付与を施してほしい」

 この両名、仲が良いように見えてかなり悪い。
 リアスのことを慕うか嫌うかの違いではあるが、たったそれだけの理由でも十分相手を嫌う理由となっている。

「素直に兄貴を認めれば良いですのに」

「貴様の兄は不敬なのは事実だからな」

「そうですか。はい、話は終わりです。そこの殿方は貴方一人で相手しなさい。危険と感じれば介入しますから」

 アルナがパンッと手を叩くと、パルバディは剣を構える。
 そして肩には彼の契約精霊、小さな鳥の精霊パルバディJr.ジュニアがいた。

「一応聞いておく。アルゴノート領に何故ここから侵入してきた?この領地へと足を踏み入れることに許可は要らないのだぞ?」

「待ち伏せしていたならわかるだろう?侵入者だ!」

 刃物を投擲してきたセコンに対して、持っていた剣を抜刀し対処するパルバディ。
 
「危ないぞ」

「流石に対処するか。貴様がリアスとか言うガキだと言うことか」

「・・・」

 パルバディはかつての自身よりも愚かな敵を見て天を仰ぎたくなる。
 どこの世界に敵地についての調査をおざなりする侵入者がいるのだろうか。
 敵地の調査を行わない理由は大きく分けて二つ。
 馬鹿が圧倒するほどの実力を持っているかだ。

「ジュニア、頼むぞ」

『あいあいさー!』

 この数日間で、アルバートとパルバディは契約精霊と契約を破棄した。
 アルバートは契約していた精霊を物のように扱っていた為慕われてはいなく、そのまま幻獣の森へ行ってしまった。
 対してパルバディは動物が大好きのためジュニアを可愛がっていた。
 なのでジュニアはパルバディと再び精霊契約を行ったのだ。

「ほぅ、精霊に正気があるとは。それでその小さい奴の補助がなければ俺に勝てないと?」

「俺はまだまだ未熟者だ。ジュニアの援護なしでお前のような隙のない軍人には勝てる気がしないのでね」

『任せとき!』

 ジュニアは空高く舞い上がる。
 そして空中で炎上し、そのまま墜落してしまった。
 自身を媒介にして、パルバディに魔力と剣に炎の付与を行なったのだ。

精霊共鳴レゾナントか。それはヒャルハッハの者しか行わないと思っていたのだが・・」

「何を言っている?精霊共鳴レゾナントとこれは全く別物だろう?」

 墜落して灰になったジュニアは、再び灰から顔を出す。
 ジュニアの精霊は不死鳥フェニクス
 その為、浅知恵の蜘蛛の総長が使った精霊を殺して体内の魔力が精霊の魔力並みに増加する方法を、精霊を失わずに使用することができるのだ。

「なんだと?死んだ精霊が蘇る?」

「俺も驚いた。これは精霊契約の儀で自由意志を奪っていたらできなかったことだ。俺はジュニア出会えて恵まれてる」

『オイラの方こそご主人と契約できて救われたよ!ふへへ』

 再び肩に乗りくちばしを擦り寄るジュニア。

「そのダサい名前はどうにかならなかったのかしら?」

「貴様!ジュニアを愚弄するか!」

『そうだそうだ!』

『うるさい・・・眠いの、次、起こす、コロス』

『ヒィッ!』

 アルナの契約精霊ヒューイは、モモンガの見た目をした中級の闇精霊。
 上級精霊であるジュニアが中級精霊に怯えるのは、闇精霊は精神攻撃を得意とし、不死鳥は精神を破壊されてはいくらなんでも復活できないからだ。

「無駄話とは余裕だな!」

 自分を他所に話をしてるのが気に食わなかったセコンは、踏み込んでパルバディの懐に向かう。

「ほら、前から来ますわよ!早く処理を」

「わかっている!ブレイズファイア!」

『あいよぉ!』

 魔法を展開して撃ち放つジュニア。
 パルバディも精霊が魔法を行使していることを、ロウから聞いていた。
 リアスがアルバートやパルバディに自身のことを話すほど信用もしていない為、そのことを言わないでいたから魔法を覚える時間がかなりかかり、いまだに下級魔法すら行使できていないのが実情だった。

「炎の・・剣ッ!」
 
「リーチが違うのだ!」

 剣に付与された魔法は、ジュニアが命をかけて灯した炎。
 命の代償はそれなりに高いのだ。
 もっとも、失われていないのだが。

「伸びる剣とは厄介な」

「そうだろう。我が剣はジュニアと共にある!」

「ならばこちらも容赦はしない!」

「容赦しようがしまいがこちらには関係ない!勝つための道を進むだけだ」

 セコンは袖から無数の鎖やムチを取り出す。
 四方から鎖やムチがパルバディに襲いくる。
 対してパルバディは冷静にそれを剣で捌いた。
 とても一本の剣を扱ってるとは思えないほど的確だ。
 それはロウとの修行で養った目の成長から来るものだ。
 剣と違って動きが歪に変化する武器に対してもそれは活きる。

「どう言う反射神経をしているんだ」

「こちとら毎日化け物と渡り合ってる。しかも精神が壊れないギリギリを調整しやがるもんだからたまったもんじゃない」

 パルバディが鎖を弾く時金属が金属を削る不協和音が響き渡り、地下の下水道である為反響する。
 その音にアルナは嫌な顔をしながら耳を塞ぐ。

「おかしいな。鎖を溶かすほどの熱はないにしても、ムチくらいは切れてもおかしくないのによ」

「耐熱仕様だ、喜べ。お前とは相性が悪い」

「相性が悪いのはそっちも同じだろう?鎖を引っ込めればいいのに、未練がましく待ち続けてる。手が鎖の熱で赤くなっているぞ」

 ムチが炎に対して強い反面、鎖自体は硬度こそ高いが耐熱仕様ではなかった。
 その為、素手で握っているセコンの手は真っ赤に腫れ上がるほどの火傷を負っている。

「この程度問題ない。ほらな」

 セコンはパルバディに対して手のひらを向ける。
 するとセコンの真っ赤に腫れた手はぼこぼこと沸騰した後、元に戻ってしまった。
 彼が実験によって得た能力は超速再生。
 大抵の傷は簡単に治癒してしまうのだ。

「腫れが引いている?治癒魔法か?」

「驚いたか?だが、驚くのはまだ早い」

 セコンは一歩前に踏み出した。
 それだけだった。
 その一歩はとても強力な一歩で、一瞬で二人の間がなくなる。
 身体の限界を超えた動きをしたのだ。
 本来であれば足が壊れる動きでも、先ほどの様に壊れた身体は一瞬で治癒してしまうので、こうした動きも可能としていた。
 
「さらばだリアス」

「俺はリアスではない!不快だ!」

 一瞬で近づき、鎖とムチをゼロ距離で振り回すセコンだった。
 先は何一つない。
 そんな怒涛の攻めだ。
 パルバディはその全てを受け流していた。
 
「この距離で攻撃についてくるとはどんな反射神経をしている」

「見ての通りだ。この距離でもお前の攻撃は止まって見えた。それだけの話だ」

「聞いていた通りの実力か。貴様ほどの人間がどうして帝国にいる」

「勘違いされるのも不愉快だから言っておこう。俺はリアス・フォン・アルゴノートではない!」

 今まで表情を表に見せなかったセコンが初めて信じられない目でパルバディを見つめる。
 本気でリアスだと思って居たからだ。
 逆にこれほどの実力者がリアスでないことに、驚きと焦りが生じてきた。
 
「顔色を変えてどうした?」

(馬鹿な!?取るに足らない任務だと思って居たが、もしこいつの言うことが本当なら・・・)

 パルバディのことをリアスだと思って闘っていたセコンは、足止めしていれば誰かが介入しに来てくれることを期待していた。
 しかしリアスが別にいることと、パルバディの実力者が他にもいるとしたらそんな期待は無に帰すことだろう。

「はったりか?」

「はったりのように見えないだろう?事実、俺はあいつが嫌いだ。だから不愉快だ」

「兄貴のが貴方と間違われて不愉快ですわよ」

「寧ろ光栄に思ってほしいくらいだ」

 闘いの最中だと言うのにいがみ合う二人。
 それだけ余裕なのだ。
 それはミライの判断を信じているからだった。
 アルナはミライの判断が間違っていないと信じているため、パルバディが彼に負けることはないとしている。
 もし何かあれば連絡してくるだろうに、それが無いと言うことは確実に勝てる相手と判断したのだろう。
 そしてパルバディはアルナを配置したミライが、自身が負けてアルナの負担になるようなことはしないだろうと思って居る。

「はぁ・・・それにしても、これなら一人でも大丈夫だったのじゃないですの?」

「それは困る」

 ロウはパルバディの反射神経だけならアルバートを上回る為一人でも勝てると思って居たが、それなのに誰かを着かせた方が良いと進言したのは、パルバディは修行の最中に精神が荒んでしまった為、警戒心が少しだけ高くなってしまったからだ。
 それ自体は悪い傾向ではなかった。

 宰相の息子であったおかげか所為なのか、凝り固まったアルバートに対する忠誠心が彼にはあった。
 それは根本では自身の考えは間違っていないという自信による物からで、リアス達との決闘の最中に起きた側近騎士ニコラの暴走による命の危機に瀕したことで自信を失い、Sランクの魔物に遭遇することで自信の非力さを痛感した。
 それだけでも彼は自分がしたことが間違っているのではないかと感付いていた。
 そこに極めつけのアルゴノート領での領民の待遇が帝都と違うのに発展の仕方が帝都の水準と大差なかったこと。
 それにより自分の行いを見直して思うことがあった。
 もし平民に対してもっと気を遣っていれば、もっと相手に寄りそう形を取っていればと。
 領地発展にはリアスの力が大きかったことを聞き、大して自分はそれほどの功績を残していたのかと。
 パルバディは最低限の知識である宰相の息子として貴族として親に与えられた知識しか身につけて来なかったことや、自分の思考は間違っていたということに初めて気づいたのだ。

 そう、そこまではよかったのだ。

 考えを改めるきっかけとなるはずだったところで、ロウがパルバディの精神力を鍛えるために彼のこれまでの行いを責め立てることで鍛えようと思っていた。
 しかしそれは悪い方へと転がってしまった。
 一人で居るときのパルバディは不安定で、自分の実力を1%も出すことが出来なくなったのだ。

「困るって貴方・・・」

「闘いの最中に隙を見せるとは!貴様が誰であろうと、ここで倒して置かなければならない!」

 意識が完全にアルナに向いたと判断したところで、パルバディへと斬りかかるセコン。
 暗器は鎖や鞭だけでなく、剣までも仕込んでいた。
 しかしどこから取り出したかはパルバディは全く見ていなかった。

「やっと正気に戻ったか。しかしだからといって現実は創作の世界ほど上手くは出来ていないのだ」

 だからといって現実、実力差という物は、早々に覆るものじゃない。
 それこそ、<狂戦士の襟巻き>や魔剣と言った切り札があれば話は変わっていただろう。
 しかしそうじゃなければ、攻撃を見切られている以上、セコンに勝ち目などなかった。
 勢いよく飛び出した彼の胸にはパルバディの剣が突き刺さる。
 
「ガハッ!」

「馬鹿正直につっこんできて、斬ってくれと言っているようなものだ。いや、貴様は治癒魔法か何かを使えるんだったな。聖獣どころか精霊も連れていないのに」

「うがぁああああ!」

 突き刺さっていようとお構いなしに、無理矢理身体を前へと動かす。
 しかし人間の肉体は肋骨で胸部を守っている為、刺さった状態で無理矢理剣を押し込むという行為は、それなりの力が要るため時間がかかる。
 それを許すほどパルバディは甘くはない。
 剣をすぐに離して、そのまま剣の柄を蹴り相手を後ろに押し倒す。
 セコンは倒れる勢いで剣を離してしまった。
 そして地面に転がる剣を拾い上げて重さを確かめるパルバディ。

「俺は別に剣のこだわりはないからな」

 そのまま剣を横になぎ払い、セコンの首と胴を切断した。
 そして胸に突き刺さるセコンの剣を引き抜き、付いてしまった血を振り払い鞘に収める。

「いくら治癒魔法が使えても、死んでしまっては意味がないだろう」

 首を刎ねてしまえば、治癒魔法が使えない。
 いくら治癒魔法が万能でも死者は蘇らせることが出来ないし、そもそも術者自身が死んでしまえばどうしようもない。
 パルバディの考え正しい。

「余裕の勝利ね」

「今更俺がこんな雑魚に負けるはずもない」

「負けていたら面白かったのだけれど?」

「この性悪女」

「貴方ほどではないわよ。国民を飢餓で苦しめる様な非道な事はわたくしには出来ませんわよ?」

「それは・・・若気の至りだ。これから謝罪の形は行動で示していくつもりだ」

「そう。まぁ頑張っておくんなまし」

「あぁ任せとけ」

「・・・ォれハ負けナィ」

 首だけになったセコンが声を発したことに驚きながらも距離を取る二人。
 それは正しい戦闘における基礎だ。
 魔法があるこの世界において、何が起きるかはわかったものじゃない。
 しかし距離を取ったことが事この時だけは間違っていた。
 首だけなくしたセコンの肉体は、首だけになったセコンの頭は魔力で繋がれていて動けたのだ。
 その肉体は必至に頭に近づいて、注射器のようなもので自身の首に何かを打ち込んだ。

「ふへ、ふはははは!」

 次の瞬間肉がちぎれるような音と共に、肉体が瞬時につながりセコンが再び息を吹き返す。
 繋がった首の感触を確かめ、ニヤリと不適な笑みを浮かべるセコン。

「危なかった・・・あぁ、実に危なかった」

「そこまでして生にしがみつくとは、浅ましいな。死んでおけよ」

「浅ましい?大いに結構!俺は主様の為に任務を全うしなければならない!だから一人でも多く殺してやる。この身が尽きるまでなぁああああああ!」

 叫んだ瞬間アルナとパルバディにも感じ取れる魔力量と共に、肉体から噴射される血液。
 身体の限界を超えるほどの力を振り絞り、全力でアルナとパルバディに挑もうとしていた。

「こいつは・・・」

「貴方一人では些か不安がありますわね。わたくしも加勢致します」

 対してアルナとパルバディも、限界を超えるセコンへと挑もうとしていた。
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