神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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32.事態の深刻性

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 俺は夢の神モルペウス、モルフェ様が管理する夢の世界ドリームワールドから帰還して目を覚ました。
 目の前にはミナが俺の看病をしてくれいたのか、リンゴの皮を剥いてる。


「ミナ・・・」


「カズくん!?イヴさん、アンデルさん、ルナトくん、カズくんが起き・・・カ、カズくん!?」


 気づいたら俺はミナを抱きしめていた。目の前で死ぬ光景をみたんだ。記憶にはないが何度もみたらしいんだ。身体が反応してもおかしくないだろう。


「カズくん・・・そっか・・わたしが出てくる怖い夢でもみたのかな?」


 ミナは抱きしめている俺の頭をそっと撫でた。騒ぎを聞きつけてイヴさんと師匠とルナトが部屋に入ってくる。


「和澄・・・ごめんなさいね。よかったわ無事に戻って来てくれて」


「そうじゃぞ。儂の弟子ともあろうものが先に逝く何て許されんからの」


「よかった。一時はどうなるかと思ったぞ。心配させるなよ」


 三人とも俺が目を覚ましたことで安堵の息を吐く。やはり三日も寝ていたんだ。こうなるよな。


「しかし和澄よ。泣くほどの悪夢だったのか?」


 ルナトにそう言われて目を触るとかなり濡れていた。俺は無意識に泣いていたのか。


「あぁ。とんでもない悪夢だ。心が壊れていたらしいからな」


 そういうと廊下から人が入ってくる。


「ホントだよイヴ。これからは<幻想ナイトメア悪夢イリュージョン>を不用意に使うなよ?僕が夢の世界に引きずり込まなかったら大惨事さ」


 出てきたのはモルフェ様だ。夢の世界から先に戻ったのに見当たらないと思ったら、この部屋を探していたのか?


「その節はわたしの安易な行動で迷惑をかけた。助かったよモルフェ」


 イヴさんはモルフェ様に対して御礼を言う。改めてモルフェ様はここにいる全員に自己紹介した。俺は夢での出来事をみんなに話した。


「何を焦っているんだイヴ。いくらなんでも神達の魔眼を人間相手に使うなんて。そこの赤髪の子ならまだしも、この子らはまだ若いんだ。鍛えるにしたって過剰すぎる」


 モルフェ様は夢の世界で思ったことをイヴさんに聞いていた。イヴさんは少し考えてから答える。


「・・・そうね。少し焦ってたのかも知れないわ。事情を話すわね。まず私は先日ブレード制作者が誰かアンデルちゃんとの話でわかって会いに行った時の話をするわ」


「ふむ。ブレードを帝国、旧ロシアに最初に持ち込んだのは筋肉がすごい髭の生えた爺さんだったって話しかの?」


「そうよアンデルちゃん。そんな容姿で特殊な武器を作るような人物に心当たりがあったのよ。モルフェ、あなたならわかるでしょう?」


 モルフェ様は心底嫌そうな顔をする。その人物のことが相当嫌いなのだろう。


「ヘパか・・・僕は彼が余り好きではないな。あの狂信者がそのブレードを作成者ということかい?」


「えぇ。彼の口から聞いたわ。作成者は自分だと言っていたのよ」


 どうやらそのヘパという人がブレードの制作者らしい。色々な属性を操れる特殊武器を作成しているなんて何者なのだろうか?


「あ、悪いわね。ヘパってのはヘパイストスのことよ。炎と鍛冶を司る神ね」


 やはり神族か。ヘパイストス・・・。俺でも知ってる神だ。


「そのヘパが作ったブレード。アダムの暴走を元に作成したらしいのよ」


「――――――!?なるほどそれはまずいな。イヴが焦る気持ちもわかるよ」


 どういうことだ?アダムさんの暴走にはなにかあるのか?


「かずすみくん、アダムの暴走はね人知を超えているんだ」


 人知を超えている?たしかイヴさんが死んだと思って我を忘れたって聞いた。あの夢を観たからかアダムさんの気持ちは共感できる。


「えぇ。アダムはね、わたしと違って最初の神を上回る力を解放させたのよ。素因封印を完全に解除するだけじゃないの。封印に使われていたエネルギーを変換させて自分の力にしてしまったのよ。理由はわからないけどね」


 つまり、ブレードは創造神の施した封印解除より更に強化するために作られたのか。なんだ力を付けるにはいいことじゃないか。しかしルナトは難しい表情をしていた。


「和澄よ。その顔は力をつけれるのに何が悪いかって顔してるな。残念ながら悪い。私でもわかるぞ。聞けば素因封印は創造神でも恐れたらしいではないか。ブレードは今や帝国だけでも把握してるだけで100個以上あるのだぞ」

 
 ルナトは俺に怒鳴りつけるように言った。それだけ事態は深刻なのだろう。


「ブレード持ち全員とは言わないが、もしそれを悪用して世界の覇権を得ようとしてみろ。それこそ世界の終わりだ・・・」


 言われてみたらそうだ。それに俺以外にもブレードを暴走させている人間達はいるんだ。そして俺の場合他のブレード持ち達の暴走よりも強力に暴走していたと聞く。つまりそのヘパイストス様の目的に一番近い暴走をしたのではないか?それをなぜ俺だけしかなってないと言えるのか。他にもいる可能性はある。


「すまなかった。たしかにルナトの言うとおり・・・待てよ。アメリカ軍はブレードを所持してる。少なくともブレード持ちをスパイに送れるくらいだ。かなりのブレード持ちがアメリカにもいるんじゃないか?」


 仮にそうだとして、ブレードがどのような意図で作られたかを知っている可能性があるな。いや下手をすれば暴走せずに制御できている可能性があるのではないか?


「・・・あぁ!そう考えるのが自然だ!すまないイヴさん、至急このことを父上に伝えたい。地上へ送ってもらえないだろうか?」


 俺はこの修行が終わったらまた元の生活に戻れると思っていた。けど下手をしたら帝都が戦場になる。その場合ミナは全力で守る事に変わりはないけどね。


「安心して頂戴。このことはレイクには伝えてあるわよ。下手をしたらアメリカには私よりも強い人間がいるかもしれないってこともね。それも踏まえてあなた達は学生生活を続けさせるつもりらしいわ。これは予想だけれど、ミナがいればブレードについて解析して対抗策ができるかもしれないという意図だと思うわよ」


 やはりイヴさんもそこまで考えていたのか。陛下は俺たちを戦場に出すよりミナの護衛をしてもらいたいようだ。


「わたしはこれからも解析を続けます。カズくんが寝込んでる間は全く解析してませんが、ブレードのそういった機能が作られている部分は今のところ見つけられていません」


 ミナは俺が寝てる間はおそらくずっと看病してくれていたのだろう。ミナの気持ちが温かい。守らないとこんな優しい子は!


「えぇわかったわ。ミナはそのまま続けて頂戴。モルフェ、悪いんだけどわたしが訓練してるときの片方の精神修行をしてくれないかしら?」


「僕は構わないよ、かずすみくんのことは気に入ったしね。ヘパがどういった意図でブレードを作ったかは知らないけど、作られてしまったんだ。せめて君たちだけでもブレードを使いこなしてよ」


 笑顔でモルフェ様はそう言った。後ろからアンデル師匠もエールをくれる。


「最悪ブレードを使いこなせなくてもブレード使いより強くなればよいのじゃ。忌纏いはルナトはもうある程度使いこなしておるかの。和澄よ追いつくために厳しく指導するからの」


 そうこうして神族二人と帝国最強という、豪華メンバーに俺とルナトは師事することになった。
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