神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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36.ソルティアの料理

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 俺たち4人は俺の家に向けて歩いていた。俺の家は学校からそこまで遠くないのでもうすぐ着く。


「なぁ、俺の見間違いでなければカナンさんブレード持ってなかったよな?」


「まぁカナンちゃんもそこは考えてるでしょ。教師がブレード持ってたらおかしいでしょう?」


 それ言ったら生徒がブレード持ってるのもおかしいけどな。まぁ俺は基本的にミナに預けてるけど。けれど俺が言いたいことはそうじゃない。


「いや、どうやって光の速度で移動してきて彼らを殴ったのかなと思ってさ」


「ん?和澄は知らないのか?ブレードは起動したらアクセサリーか武器のどちらかを持っていれば停止しないぞ」


 なるほど。確かに言われてみたらそうだ。武器を手離したらブレードが停止するなら、ブーメラン型といった投擲とうてき武器なんか属性を操る以外武器として機能しない。


「なるほどな。俺はグローブ型だしその考えに至らなかった」


「それを言ったら私も思い至らないはずだがな」


 呆れた物言いだ。仕方ないだろ思いつかなかったんだから。
 俺反論しようとするが、何故かソルティアが何かそわそわしている。


「どうしたソルティア?」


「あのー・・・カズさんってブレード持ちですの?」


「なんだティア。父上から聞いてなかったのか?」


 俺もそう思っていた。陛下と話をしたのならそれくらいは聞かされてるものかと。


「えぇ。カズさんはマーフィー元帥の甥っ子だから強いということしか聞いてないですわ。元帥はブレード持ちじゃないですしブレード持ちだとは思い至りませんでしたの」


 それだけ言われたらたしかにそう思うのも無理ないか。
 俺はブレードは公の場では二回、うち一回は初起動の時だしブレード持ちと知れ渡ってなくても不思議ではない。
 兄さん達との戦闘の時も結果的にあの場には身内のみの出来事で治ったしな。


「まぁ今はカズくんのブレードは使用する時以外基本的にわたしが預かってるから、そう言った知識は把握できてないよね」


「あぁ。ミナもブレードの解析ができるしな。もうほとんどミナの近くにいるわけだし、渡していても何も問題ないしな」


 ミナは少し顔を赤くする。そういう反応はやめてくれ。俺まで照れる。


「あらあら。なんか新婚夫婦みたいで羨ましいですわね」


「わかるぞティア!けどな、このふたりは未だ交際をしていないんだぞ」


「嘘でしょ!?カズさん、ここは男の甲斐性を見せる時ですわよ」


 あぁぁ、この彼氏にして彼女ありか!やはり2人して俺たちをからかってくる。
 たしかにここまでの好意を向けられてるのにヘタレか。反論できない!
 2人の俺たちへの矛先は家に着くまで続いた。


◇◆◇◆◇


 家に入るとアンデル師匠と叔母さんが酒盛りをして騒いでいた。このふたりは仲がいい。しかし酒臭い。


「ただいま叔母さん」


「あー和澄おかえりぃ~。あら?1人見ない顔ねぇ」


「おばさま。初めまして。ワタクシ、ルナト殿下の婚約者で、ソルティア・フォン・アクターと申します。今日、この家に泊めていただき・・・」


「あーオーケーオーケー。殿下の嫁候補ね。寂しくなっちゃったのかしら?ヨシュアは一緒じゃないの?」


「今日はカナンさんとデートだって」


「ふふっ。孫を見る日も近いかねぇ」


 さすが酔っ払い。ソルティアの丁寧な挨拶を遮り話を変えた。叔母さんいつもはこんなお酒飲まないのにな。アンデル師匠がいるから羽目を外したのか。


「主らに稽古をつけるために来てたのに酒盛りしてもーた。酔いが覚めたら修行開始するぞぉ」


 そう言いながらジョッキにビールを注ぐアンデル師匠。言動と行動が合ってませんよ。


「はぁーこの調子じゃ今日は、わたし一人で晩御飯作らないとダメかなぁ」


「ミナ一人じゃこの人数は大変です。ワタクシもお手伝いしますわ」
 

「ありがとうティア。2人はトレーニングでしょ。はいカズくんブレード」


 そう言ってミナは俺にブレードを渡しソルティアとともに台所に向かってく。師匠の酔いは醒めても遅いから先にルナトと模擬戦をしよう。


「サンキューミナ。じゃあルナト早速今日のデザートをかけて勝負だ」


 ルナトがなんか不安そうな顔をしてたが、すぐに顔を引き締め好戦的な笑みを向ける。


「望むところだ!今日のデザートは貴重なものになりそうだからな」


 もしかしてソルティアはお菓子作りが上手いのか!なるほど俄然やる気が湧いてきた。ミナとの共同作なら確実に美味しくなるはずだ。俺とルナトは庭に出て準備運動する。


◇◆◇◆◇


 ルナトは最初からブレードを操って音速並みのスピードで俺を翻弄した。
 俺は庭の至る所に氷を生成し、電流を空気中に流し、速度を生かせないフィールドメイクを行なったが、流石は忌纏。俺の氷など邪魔にもならず砕かれていき、電流で痺れる気配もない。
 しかしそれは地下でもわかっていたことだ。あくまで忌纏を解けないようにして少しでもエネルギーの消費量を増やす作戦だ。
 そしてここは地下と違って鉄筋だらけの住宅街。俺もリニアモーターカーのような速度で対抗した。しばらく殴り合いが続いたが哀しきかな。速度に慣れてない俺は徐々に調子を崩し、その隙をルナトが突いて足を祓われ、倒れてから首を掴まれる。
 俺たちの模擬戦は首を掴まれた時点で敗北ということにしている。
 俺はルナトに敗北し晩御飯のデザートを失った。


「くそぉ。これからの課題は速度の慣れかな」


「正直俺の速度に対抗してきたときは肝が冷えたな。お互い<未来視フューチャーアイ>があるとはいえ、こっちも同じ速度での闘いは初体験だ。下手したら負けていた」


 ルナトは首から手を離して、俺に手を差し出す。俺はその手を掴み立ち上がる。


「まぁ俺の速度は場所を選ぶ。鉄筋の建物で電磁浮遊できなきゃそこまで速度は出せないさ。まぁ今時地上で鉄筋じゃない作りの建物は少ないけどな」

 事実、帝国では平気だが砂漠や海上、木製の作りの建物ばかりのところでなんかでの戦闘では俺は地球の磁場で浮遊するので精一杯だしな。


「まぁ今日のデザートは取られたのが残念だが、晩御飯いくか。ソルティア玉なの共同料理楽しみだな」


「そ、そうだな。とりあえずデザートは頂くぞ。今日は貴重品だ」


 そんなに美味しいのか。お菓子以外でも期待したいところだな。そう思っていたが貴重という意味が良い意味でないことを知る。
 家に入ると料理ができていた。カレーだ。カレーなのだ。カレーの中にほたるいかのようなイカやほうれん草やらゆで卵やらが浮かんでる。それに黄色いものも。これはりんごか?


「おい、ルナト」


「なんだ?」


「お前知ってたな?」


「知らん」


「テメェ・・・」


 まだ何も言ってないのに否定。こいつは知っていた。ミナの方を見ると青い顔をしてる。わかってる。この惨状を作ったのはそこの金髪縦ロールだと言うことは。


「あ、あのぉ。口に合わないようでしたら食べなくてもよろしくってよ・・・」


 やめてくれ。そんな涙目されたら怒るに怒れないじゃないか。これは覚悟を決めて食べる。


「ルナト問題ないよな?いただきます」


「あ、あぁ!いただくとしよう」


 意外だ。見た目はあれだが食べれないレベルじゃない。ルナトのやつ脅かしやがって。


「流石にミナが同伴していただけある。今回は洗剤入りじゃなかったな」


 洗剤!?いやお前そんな危険なことするやつを台所に向かわせたのか!?前言撤回。修行中にしばいてやる!


「今日も入れそうになってたけどね。ティアも下手なら下手って言ってよ。下ごしらえだけでも助かるんだから、明日からはそっちをお願いね」


「わかりましたわ。迷惑をかけましたわ」


 問題はこれを大人たちに食べさせるということか。まぁ食べるのだし我慢してもらうかあるまい。
 その後リビングに現れた大人たちはカレーの見た目にギョッとするも食べてみたらわりと普通だったので酒を盛りながら食べていた。叔父さんは酒弱いのですぐダウンしていたが。結局アンデル師匠は夕飯でも酒を飲んでしまったので、今日は修行を見てくれなかった。
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