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 私は目の前の光景が信じられなかった。
 帝国騎士団は陛下を慕っていて、中でも騎士団長は陛下のことを心から崇拝していた。
 なのに・・・どうして

「騎士・・・団長?」

「バカ!離れろルル!」

 騎士団長が次に刃を向けてきた相手。
 それは私だった。
 陛下を無造作に蹴り剣を引き抜き、その剣で今度は私の喉元を貫こうとしてくる。
 グレンに腕を引っ張られなければ、私もその刃の餌食になっていたことだろう。
 そのまま私は体を捻り次の攻撃、その次の攻撃も避けた。
 体術はあまり得意じゃないのだけれど、習っていたのが功を奏したわね。

「さすがは魔女か」

「え、その声・・・」

 騎士団長は私のことを魔女と呼んだことはない。
 そして彼の口から聞こえてきた声が彼のものではなかった。
 何より、本来なら騎士団長の動きに私やグレンが反応できるはずもなかった。
 そのことからわかることは、彼がこの国で最強の騎士と呼ばれているから。
 
「あなたは・・・騎士団長じゃないわね」

「それは貴様の決めることではない。申し訳ありませんシュナイダー殿下!魔女を仕留め損ねました!」

「っ!?」

 今度シュナイダーへと彼から放たれた声は紛れもなく騎士団長の声だった。
 どうなってるの?
 
「まずいぞルル。こちらに応援を寄こすように連絡を取ってみたが、影は全員交戦中らしい」

「嘘!?」

「戦闘を離脱してこちらに駆け付けるのは厳しいそうだ」

 イガラシ財閥の影の実力は折り紙付き。
 それこそグレンよりも強い人もいるらしい。
 なのにその影が全員交戦中で、それと拮抗してる?
 帝国にそんな戦力があるなんて・・・

「母上・・・ふふっ!ふはははは!」

「シュナイ・・・ダー・・・」

「母上、いやリリノアール!貴様は父上を殺害した魔女だと判明した!そして我々兄弟を息子と偽り、これまでだまし続けていた!」

 何を・・・言っているの?
 自分の母親が刺されたってのに・・・
 陛下はシュナイダーのその言葉に悲しそうな目で彼を見ていた。

「ここにいる皆に宣言する!母上は国民すべてを謀り、そして我が皇族を騙していた重罪人だ!そして処刑は成功した!帝国騎士団、騎士団長フォッカーが実行してくださった」

 騎士団長はシュナイダーに言われて深く礼をする彼。
 本当に瓜二つ。
 でも一体どうやって・・・
 まさか魔法?

「そして次に処刑するのは、我が婚約者!いや元婚約者のルルシア・フォン・ランダール!彼女は魔女リリノアールの弟子にして、現聖女ゴールドマリーを虐め殺害しようとした魔女である!」

 言葉が出てこなかった。
 帝国には聖女という伝承がある。
 聖女は癒しの力によって、人々に恩恵をもたらした存在と言われている。
 剣聖と同様に不思議な力を持つという。
 だから存在する可能性はある。
 しかしそれがゴールドマリーだとはありえない。

「・・・ご乱心しましたか?私がゴールドマリーさんを虐めていた?ばかげています。それに彼女は聖女などありえない・・・」

「それは彼女が処女ではないからか?」

 カイン・フォン・テリー・・・
 その下卑た笑みはむかつくわ。
 彼の言う通り、聖女は処女でなければその能力を使うことはできないと伝承されている。
 しかし彼女は男遊びが激しく堕胎を繰り返しており、先日に子供を作ることができないと医者に判断された。
 それはつまり彼女が処女ではないということの証明。
 でもこのタイミングで出てきたということはーーー

「先日ゴールドマリー様は子供を孕むことのできない身体となったと診断した医者は、聖女をたばかった罪で処刑済みだ」

 やっぱり。
 そうなるとこれは、裏で手を回されてる可能性があるわね。
 おそらく彼女と関係を持った人間もこの世にはいないんでしょう。
 さっき絶好の機会があったのに私を責め立てなかったのは、これほどの切り札が残っているからだったのね。

「ルルシア様、私を虐めるのはいいです。でもお医者様を使ってまで私を貶めようとするなんて酷すぎます」

「私は何もしていません。貴女こそ私をこの場で冤罪の罪を擦り付けようというのですか?」

「ふざけるな!貴様は魅了魔法を使って一部の貴族を洗脳したとカインから聞いた!今ここにいるのは魅了に耐性のあるものだけ!」

 何よ魅了魔法って。
 洗脳魔法は確かに存在する。
 けれど精々相手にちょっとした幻覚を見せる程度。
 

「すまない今日出席の諸君。卒業パーティだというのに、このような惨劇の場所を作ってしまったことを心から詫びよう。しかし魅了魔法を使う魔女達だ。このタイミングでしか魔女を殺すことは不可能だったのだ」

「カイン様・・・」

「信じていました剣聖様!」

「魔女を討ち取ってください!」

 思わず舌打ちしたくなる状況ね。
 あと少しで私はこの国を出るだけだったってのに。

「くそっ、ごたごたに付き合わされるなんて。こんなことなら卒業パーティになんて出るんじゃなかったわ」
 
「ルル、俺が言うのもなんだが、陛下が刺されたっていうのに動揺してないのか?」

「あら?グレン。さっきあなたが私の腕を引っ張ってくれなかったら、私は死んでいたわ。ちゃんと動揺してるわよ」

「いやそうじゃない。陛下を殺されたって言うのーーー」

「陛下がこの程度で死ぬわけないじゃない」

 グレンが言葉を言い切る前に言う。
 そう、陛下が胸を貫かれた程度で死ぬわけない。

「シュナイダー・・・貴方調子に乗りすぎよ」

 胸元が真っ赤に染まってはいるものの、無造作に転がされていた陛下は再び立ち上がった。
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