皇統を繋ぐ者 ~ 手白香皇女伝~

波月玲音

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ヲホド王来襲

回顧Ⅰ立ち位置を変える為に(杖刀人磐井)

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湯で顔に付いた血をきれいにし、清潔な布で拭う。そのままつい頬を撫でていたら、手白香は戸惑い潤んだ瞳で見上げて来た。それでもじっと見つめて手を離さないでいると、恥ずかしがって目を閉じて、、、そのまま眠ってしまった。
無理もない。今日は彼女にとって思わぬ選択を迫る長い一日だったのだから。
枕元の灯りが、白い顔に長い睫毛の影を落とす。
意志を持つ黒目勝ちの目が隠されると、彼女の顔は思った以上に幼く見えた。
まるで初めて目通りを許された頃のように。
皇女ひめみこ様はお休みになられましたか。ではもう灯りを落とします・・・磐井は簾内から出られませ。」
湯や血で汚れた布の始末をしていた山門が戻って来た。磐井の後ろからそっと手白香の様子を見て、それから態度を改める。
「今少し眺めていたい。寝顔を見るなど、次があるか分からないのだから。」
「その『次』を作るために我々が動いております。その話も致したく。」
山背との国境から手の者が戻っております。そう耳打ちされて、仕方なく腰を上げた。
「・・・分かった。行く。」
最後にもう一度頬を撫でる。柔らかくすべらかな感触は離しがたい、が。
「よく休んで、明日、話をさせてれ、手白香。そして俺を・・・」


国境へ送った手の者の報告を山門と共に聞いた後、簡単な指示を出した磐井は、すぐに支度を調えて手白香の寝室の前に戻った。
今日はここで不寝番をするつもりだ。
山門にはこれからが大事だから部屋で休むよう言われたが、この様な情勢下、とても手白香を一人にしては置けない。
磐井は冷え冷えとした廊下に簡易の夜具を敷くと、膝を立てて座り剣を横においた。
明け方にはまだ少し間のある時刻。見上げた月は中天にあって、昨日からの自分の熱を冷ますような冷たい光を投げかけている。
「やっと許しを頂いたと言うのに・・・」
辺りに気を配るも、潜む気配は感じられない。磐井は月を見ながらつい、過去に思いを馳せた。
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