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皇宮での邂逅
エピソードⅣ オリヴィエ兄さまは葛藤中Ⅷ
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今回の話はバーベンベルク辺境伯も深く関わると言うので、父と連れ立ってエレオノーレ様の寝室へ向かう。
その間に、僕は思い切って聞いてみた。
「エレオノーレ様ですが、倒れたのは、広間での出来事もショックだったのでしょうが・・・それだけではないですよね。」
「ああ、彼女は現役の辺境伯で騎士団長だ。今日もぎりぎりまで執務をしていたのかもしれんな。それに、半年前に第四子を出産して、可能な限り自ら世話をしていると聞いてるからな・・・」
「出産?」
「知らないのも無理はない。所領は帝国の北の果て、しかも夫のアルフがあの過保護っぷりでは・・・帝都で知ってるのもごくわずかだよ。」
なんてことだ。子を産んだばかりの女性だったのか。あの叔父め、、、!
「それだけでも充分お疲れの理由にはなりますが、それだけではないでしょう?」
僕は叔父の下衆っぷりに怒りが抑えられず低い声で言った。
「と言うと?」
歩きながら気軽に問い返す父に、僕は苛立っている気分のまま続けた。
「とぼけないで下さい。父上もご覧になっているでしょう?あの、うなじの・・・」
「見たのか?」
父の思わぬ苦々しげな言葉に頷く。
「転移する時に。」
そう。エレオノーレ様は何も貞淑さを表すために肌を隠したドレスを着ていたわけでも、あの艶やかな紅髪を見せつけるためにアップが基本の舞踏会で髪を下ろしていた訳でも無いのだ。
「あの生々しい口づけの跡。消しきれない男の香り。あれはどう考えても舞踏会の直前に叔父上が抱いたとしか・・・」
そんなことをしたら、女性は体力を奪われるし、着られるドレスが制限されてしまう。
女性はきれいに着飾って舞踏会を楽しむべきだし、楽しませ、楽しんでる姿を愛でるのが男の楽しみ方だと思う。それなのに、、、。
苦言を呈する僕に、
「それ以上は言うな。」
父は足を止め、まじめな顔で僕に向き直った。
「君の評判は聞いてる。少々羽目を外しすぎと思うが、君のその、女性への接し方は父として満足しているんだ。」
だがね。
父は続けた。
「男女の形は色々だし、アルフに関して言えば、あの子も、エレオノーレも、、、私も、あの子の愛情が少し、、、かなりおかしいことは、分かってるんだ。」
「分かっていてなぜ諫めないんです?あの叔父は、父上の言う事なら聞くでしょう?」
見てて分かる。叔父は父を尊敬すべきものとして認識している。
それなのに。
「やってるさ。私はこれでも二十歳過ぎからあの子の保護者だからね。代替わりしてからもう十数年、ずーっとあの子の守りをしてきたんだ。君は信じないかもしれないけどね、あれで大分まともになったんだよ。」
「まともに?社交の場でもロクに会話も交わさず、突然女性を隣国に飛ばしてしまうのに?」
僕の揶揄に、父はまじめな顔で答えた。
「そう。充分まともになったんだ。広間で突然転移したり、彼女を石や氷に変えたりしなかっただろう?」
そんなレベルなのか、、、。溜め息を付く僕に、父は続けた。
「いいか。今からあの二人に会うが、この話はするな。アルフは分かっていて、あれでも自制に自制を重ねているんだ。以前のアルフなら、そもそもエレオノーレを社交界には出さない。私にだって触れさせない。もちろん君にもね。周りの男が驚いていたのを君も見ただろう?あの子は以前、エレオノーレにダンスを申し込んだ相手を氷像に変えたことがあるんだ。」
「氷像・・・」
なんてことだ。そりゃあ、エレオノーレ様に近付く男が居なくなる訳だ。
「昔も今も、あの子にとって世界の中心はエレオノーレだ。それ以外は基本的に興味が無いんだよ。それを彼女も分かってて、厄介なことも十分認識して、受け入れているんだ。そういう夫婦なんだよ。彼女のおかげでアルフは本当に人間味を増した。私たち帝国の臣民は彼女に感謝しなくてはいけない。もちろん、私や君も、アルフを変えているんだけど。」
「父上はともかく、僕はありませんよ。」
「そんなことは無いさ。」
自嘲気味に呟く僕の肩を叩いて、父は、笑った。
「アルフは気に入ってなきゃ、絶対に男にエレオノーレを触れさせない。君はあの子のお気に入りさ。あの子は認めないだろうけどね。」
それにしても。
父はふうっと溜め息を付いた。
「あのアルフが、何で未だに社交界でご婦人方に人気があるのか、本当に謎だよ。」
奥さん(てことは母上のことか)によると、あの完璧な美貌と無口な佇まいが何とも神秘的でしびれるんだそうだ。
「知らないってのは、怖いねえ。」
私や君の方が、よっぽどいい男だと思うんだけどな。
父のボヤキには全くもって同感だ。
「まあ、君とこんな大人の話が出来るようになって、父はうれしいよ。本題も楽しみだねえ。」
この胡散臭い笑みが無ければ、貴方の言葉をもう少しうれしく聞けるんですけどね。今度は何を含んでいるんだか。
僕は気を取り直すと、父とともに問題の夫婦の部屋に向かった。
その間に、僕は思い切って聞いてみた。
「エレオノーレ様ですが、倒れたのは、広間での出来事もショックだったのでしょうが・・・それだけではないですよね。」
「ああ、彼女は現役の辺境伯で騎士団長だ。今日もぎりぎりまで執務をしていたのかもしれんな。それに、半年前に第四子を出産して、可能な限り自ら世話をしていると聞いてるからな・・・」
「出産?」
「知らないのも無理はない。所領は帝国の北の果て、しかも夫のアルフがあの過保護っぷりでは・・・帝都で知ってるのもごくわずかだよ。」
なんてことだ。子を産んだばかりの女性だったのか。あの叔父め、、、!
「それだけでも充分お疲れの理由にはなりますが、それだけではないでしょう?」
僕は叔父の下衆っぷりに怒りが抑えられず低い声で言った。
「と言うと?」
歩きながら気軽に問い返す父に、僕は苛立っている気分のまま続けた。
「とぼけないで下さい。父上もご覧になっているでしょう?あの、うなじの・・・」
「見たのか?」
父の思わぬ苦々しげな言葉に頷く。
「転移する時に。」
そう。エレオノーレ様は何も貞淑さを表すために肌を隠したドレスを着ていたわけでも、あの艶やかな紅髪を見せつけるためにアップが基本の舞踏会で髪を下ろしていた訳でも無いのだ。
「あの生々しい口づけの跡。消しきれない男の香り。あれはどう考えても舞踏会の直前に叔父上が抱いたとしか・・・」
そんなことをしたら、女性は体力を奪われるし、着られるドレスが制限されてしまう。
女性はきれいに着飾って舞踏会を楽しむべきだし、楽しませ、楽しんでる姿を愛でるのが男の楽しみ方だと思う。それなのに、、、。
苦言を呈する僕に、
「それ以上は言うな。」
父は足を止め、まじめな顔で僕に向き直った。
「君の評判は聞いてる。少々羽目を外しすぎと思うが、君のその、女性への接し方は父として満足しているんだ。」
だがね。
父は続けた。
「男女の形は色々だし、アルフに関して言えば、あの子も、エレオノーレも、、、私も、あの子の愛情が少し、、、かなりおかしいことは、分かってるんだ。」
「分かっていてなぜ諫めないんです?あの叔父は、父上の言う事なら聞くでしょう?」
見てて分かる。叔父は父を尊敬すべきものとして認識している。
それなのに。
「やってるさ。私はこれでも二十歳過ぎからあの子の保護者だからね。代替わりしてからもう十数年、ずーっとあの子の守りをしてきたんだ。君は信じないかもしれないけどね、あれで大分まともになったんだよ。」
「まともに?社交の場でもロクに会話も交わさず、突然女性を隣国に飛ばしてしまうのに?」
僕の揶揄に、父はまじめな顔で答えた。
「そう。充分まともになったんだ。広間で突然転移したり、彼女を石や氷に変えたりしなかっただろう?」
そんなレベルなのか、、、。溜め息を付く僕に、父は続けた。
「いいか。今からあの二人に会うが、この話はするな。アルフは分かっていて、あれでも自制に自制を重ねているんだ。以前のアルフなら、そもそもエレオノーレを社交界には出さない。私にだって触れさせない。もちろん君にもね。周りの男が驚いていたのを君も見ただろう?あの子は以前、エレオノーレにダンスを申し込んだ相手を氷像に変えたことがあるんだ。」
「氷像・・・」
なんてことだ。そりゃあ、エレオノーレ様に近付く男が居なくなる訳だ。
「昔も今も、あの子にとって世界の中心はエレオノーレだ。それ以外は基本的に興味が無いんだよ。それを彼女も分かってて、厄介なことも十分認識して、受け入れているんだ。そういう夫婦なんだよ。彼女のおかげでアルフは本当に人間味を増した。私たち帝国の臣民は彼女に感謝しなくてはいけない。もちろん、私や君も、アルフを変えているんだけど。」
「父上はともかく、僕はありませんよ。」
「そんなことは無いさ。」
自嘲気味に呟く僕の肩を叩いて、父は、笑った。
「アルフは気に入ってなきゃ、絶対に男にエレオノーレを触れさせない。君はあの子のお気に入りさ。あの子は認めないだろうけどね。」
それにしても。
父はふうっと溜め息を付いた。
「あのアルフが、何で未だに社交界でご婦人方に人気があるのか、本当に謎だよ。」
奥さん(てことは母上のことか)によると、あの完璧な美貌と無口な佇まいが何とも神秘的でしびれるんだそうだ。
「知らないってのは、怖いねえ。」
私や君の方が、よっぽどいい男だと思うんだけどな。
父のボヤキには全くもって同感だ。
「まあ、君とこんな大人の話が出来るようになって、父はうれしいよ。本題も楽しみだねえ。」
この胡散臭い笑みが無ければ、貴方の言葉をもう少しうれしく聞けるんですけどね。今度は何を含んでいるんだか。
僕は気を取り直すと、父とともに問題の夫婦の部屋に向かった。
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