帝国最強(最凶)の(ヤンデレ)魔導師は私の父さまです

波月玲音

文字の大きさ
152 / 241
帝都のひと夏

男子部屋にてⅣ(ルー視点)

しおりを挟む
どのくらいの間、動けなかったのか?

気付くと身支度を整えた殿下が姿見の向こうから俺を見ていた。
いつから気付いてたのか?
俺が入った時からなのか?
分からない。
分からないが、俺と目が合うと、悪びれもせずディアナの顔でニヤリと笑った。
イヤだ、やめろ!
叫びたいのに衝撃で声が出ない。
そんな俺を揶揄うように。
あいつは。
涼しくて子供らしいディアナの声で。
「いやね、ルー兄さま。こんな姿、見ないで。」
可愛く言いやがった。


瞬間、カッとして。
「――――――ッ!!」
自分が叫んでると自覚した瞬間、体が動くのを感じた。
そこから先はあまり覚えていない。
聞いた話によると、叫びながらあいつにつかみかかろうとする俺を、何事かと飛び込んできた兵士が抑えようとし。

俺の叫び声だと気付いた母上達が駆け込んできて引き離そうとし。

それでも止まらない俺を、最後は父上が気絶させて拘束したらしい。



気付くと俺は手足を見えないひもで拘束された状態で、暗い自分の天幕の、寝台の上に転がって居た。

「う・・・」
起き上がろうとして動けないことにいら立ち声を上げると、離れたところでしていた話し声が途絶え、人が近寄ってきた。
「気分はどうだ?」
「・・・父上」
そこに居たのは、父上とフィン兄様。
「お二人だけですか?」
叫びすぎて枯れた声で問うと、兄様が空中から水の入ったコップを出しながら頷いた。
「僕と父上だけだ。夜も遅いから母上にも席を外してもらったよ。」
「・・・拘束して悪かった。いま解く。」
枕元に来た父上が人差し指を軽く動かすと体が自由になる。
「さ、座って水でも飲んで。」
兄様に言われてベッドに座り、コップを受け取った。
二人も近くに椅子を出して座る。
魔導師ってホントに便利だな。

そう思いながら、冷たい水を一息に飲む。枯れた喉にしみる美味しさだ。
フッと気が逸れて、、、だんだん冷静になってきた。

カッとしてあいつにつかみかかったのは下策だった。
あいつは今、あくまでディーだ。見張りの兵は何と思っただろう。最近煩い尾行者に、騒ぎは知れただろうか?
考えれば考えるほど失態に気が滅入る。
だが。
あれは許しては置けない。何とかしなければ。
そう考えると。
不世出の魔導師である父上と、天才の名を欲しいままにする兄様、ディーを溺愛する二人に相談できるのは、むしろ二人だけに相談できるのはラッキーかもしれない。

ただ。
俺はこっそり溜め息を付く。
この二人は、ほんとにそっくりなのに、ほんとに仲が悪い。この二人を相手に上手く話をまとめられるのは、母上だけなんだけど。
でも。
今回は母上は関わってほしくない。女性にあの情景を説明するなんて無理だ。
どうしたらいいんだ。あ、また溜め息が出てしまう。
すると。
「どうしたルー。溜め息ばっかりついて。お兄ちゃんが付いてるぞ。」
兄様が俺の顔を覗き込み。
「そうだ、私もいる。心配はいらない。」
父上が頭にそっと手を置いた。

ん?
何か変だ。
いつもなら、この辺でもう、どちらが役に立つかなどと言って争い始めるのに。
チラッと二人を見ると。
二人とも、やけに穏やかな顔でこちらを見ている。
おかしい。
静かで穏やかなのに、ものすごく緊張してくる。

「え、と・・・」
そうは言っても相談はしないと。
俺が恐る恐る話し始めようとすると。

「言わなくていい。」
「分かってるから大丈夫だよ。」
二人は異口同音に遮ってきた。そのまま二人で視線を交わすと、父上が頷き、兄様が俺の方を向く。
何だこの無言の意思疎通。この二人にそんなことが出来るのか?

驚いて一瞬呆けた俺に、兄様はにこりとして言った。

「あいつがしたことは、言わなくていいよ。僕も父上も、君の頭の中をちょっと覗かせてもらったから。」
君の見たものをそのまま見てるからね、大丈夫、伝わってるよ。
にこにこしている兄様が怖い。

あの情景を見て。ディアナを溺愛する二人が、何でこんなに落ち着いているのか?

「生半可な仕置きでは済まないという意見で、フィンと一致した。」
父上が淡々と続ける。
「一致した・・・」
この二人の意見が合ったのか?本当に?
驚いていると。
「や~、驚くよね、ルー君。僕もびっくりしてる。けど、人生で初めて父上とは完全に意見が一致してね。」
にこにこ。笑顔の兄様が怖い。

「あいつ、タネの段階で消しちまおうってことになったよ。」

は?

「つまりさ、ちょっと時間をさかのぼって、胎に宿る前に消してしまおうってこと。そうすればあいつは存在ごとこの世からいなくなる。もちろん人々の記憶に残ることもない。痕跡も残らない。僕らも知らないから、不快な思いもしない。」

は?

「僕が提案したんだけど、実行は難しいかなって思ったんだ。そしたら、なんと!父上はやり方がイメージできると言うんだ。」
流石父上。僕も今回は大人しく学習させてもらおうと思ってる。

兄様が上機嫌で言えば、父上までが、「着眼点が素晴らしいな、フィンは。」などと兄様をほめる。

まずい。

何というか、とにかくまずい。
止めなくては、でもどうやって?

「父上、兄様、何もそこまで・・・」
一転して俺がやむを得ずあいつの擁護に回ると。

二人は不思議そうに俺を見た。
「あれ、ルー君が一番怒ってたのに。なんでそんな言い方するのさ。だって、あいつは・・・」「そう、あいつは」
「私の、「僕の、ディーを、汚したんだから・・・」」

天幕内の気温が一気に下がる。
手に持ったコップの中で、飲み残しの水がキーンと凍って。

俺は理解した。

二人は落ち着いているんでも、歩み寄ったんでも無い。
でかい魔術で解決しようと思ってるから無駄に魔力を放出していないだけで。
気持ち的にはとっくにキレ過ぎて、一見普通に見えるだけなんだ。

夜更けの天幕、薄暗い中話していたので気付かなかったが、よく見ると二人の瞳はそれぞれ濃淡の違いはあるものの、綺麗な紫色に染まっていて。

「もう、駄目だ。」
俺が思わずうなだれた時。


「なんだなんだ、ずいぶん物騒な話をしてるじゃないか。」
言葉に似合わぬ穏やかな声と共に。

母上が入り口から顔をのぞかせた。



しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

処理中です...