16 / 147
一章 ――王家の使命――
ロキ7 『母親』
しおりを挟む
【ロキ⑩】
国王との外交はどうやら失敗に終わりそうだ。
まさか本国側も本気でエスタールを得ようとしているとは思っていなかった。
てっきりただの厄介払いだと思っていたのだが、俺の役割をキチンと考えた上で送り込んだということも意外だ。自然な流れで俺にファティマを娶《めと》らせ、できるだけ民の反感を買わないようにルスラン王族の血を引く後継者を作り上げ、実質のエスタール支配者にするつもりだったということだ。
こうしてみるとルスランの思惑とファティマの思惑が得てせずして一致していたことになる。
ルスランの国益だけを見るならば、確かにそれはアリだろう。
だが、エスタールの立場で考えるならばナシだ。
大国の庇護を受けていただけの国が丸々一つ、取り潰しになるようなものだぞ。
反乱が起こるのは目に見えている。父上は小事だと言っていたが、領主を崇拝するエスタール国民が簡単に気持ちを切り替えるとは思えない。
俺の結婚一つで、国全体が波乱に巻き込まれるということだ。そんなリスクを冒してまで結婚する必要が何処にある。
「……色々と見通しが甘かったな。どうするか」
城内通路を歩きながら考える。結局のところ、俺が色々な状況をなめてかかっていたことが問題の拍車をかけている。
エスタールは田舎国家だから、本国は禄に注視しないだろう。
僻地に飛ばした“碌でなし王子”が婿に行こうが気にしないだろう。
国王であっても言いくるめられるだろう。
結果として、そういった俺の思惑は全てズレていたということだ。
「……なんにせよ、策を練らないとな」
ウダウダと考えを纏めながら大聖堂へ向かうため城内通路を歩いていると、バルコニーまで辿り着いた。
長々と設置されたバルコニーからはルスランの城下町が一望できる。
そよ風に当たりながら火照った頭を冷やしていると、遠目にガラハドの姿が目に入ってきた。
「ガラ――」
呼びかける声を途中で押しとどめ、慌てて柱の物陰に隠れる。
ガラハドの後ろを歩く人影を見つけたからだ。
青みがかった長い髪。一目で分かる高いドレスを着ながらも、整った容姿によりそれが調和している。
あれは、間違いない。俺の母親であるシャルルだ。
俺の従者ガラハドが、シャルルを連れバルコニーまでやってきていた。
【ロキ⑪】
「街も、貴女様もお変わりありませんね。安心しました」
ガラハドが俺の母親に笑いかける。その顔は慈愛に満ちていて、幸せが溢れ出ている。
……エスタールにいるときは決して見せなかった顔だ。
「もう只のおばさんです。……ガラハド様も、お変わりありませんね。ロキと一緒ですので色々と心配しておりました」
シャルルも、息子の前では絶対に見せない表情になっている。
俺の意識はゼロ歳からあった訳だから、ある程度二人の関係は知っている。
一度は近くまで詰めた距離を、色々な事情により広げてしまった二人だった。
お互い距離を置いていたはずなんだが、六年ぶりの再開で再び燃え上がってしまったのか?
……ガラハドも隅に置けないじゃないか。
「色々と楽しく過ごせております。陛下との謁見が終わり次第、シャルル様へもご挨拶を」
「私は後回しで大丈夫。ロキの姿は、遠目ですが既に見ました。見違えるほど大きくなって……」
「日に日に成長されております。国王陛下譲りの白銀の髪と赤い瞳もございますので、王族として強い気迫を持った子に育っていくことでしょう」
「“英雄”様も身近におりますものね。心配はしておりませんが、私が関われないのはやはり少し寂しいですわね」
「……お顔とその心はシャルル様に似て、優しく、柔和に育っております。……悪戯好きなところが似てしまったのは困りものですがね」
「まあ、ガラハド様の意地悪。昔の話ですわ」
二人笑い合う。……というか、優しく柔和だ? 俺が? ヘソで茶を沸かすとはこの事だな。
というか、シャルルは生みの親ではあるが、俺は別世界からの転生者だぞ。
心や考え方が似るはずがないだろうに。
「……でも、そうですか。ロキも遂に身を固める覚悟を決めたのですね。早いものです」
いや、今現在、その件で絶賛揉めている最中なのだが……まあその辺りの事情はまだシャルルやガラハドには伝わっていないのだろう。
「ええ、上手く行けば良いのですが」
「……婿養子の件ですが、ガラハド様からも説得いただけませんか?」
シャルルが風になびいた自分の髪を撫で、ガラハドを見つめる。
「……私は、ロキ様に従うだけの存在です。ですが、やはり、ご納得いただけませんか」
「親としては良いのです。誰であれ、あの子が好きになり身を固める覚悟があるのであれば形式など問いません」
……親としては?
「であれば、何を危惧されているのです?」
ガラハドも同じ疑問を抱いたのか、シャルルに向き合い顔を引き締める。
「危惧ではありません。私は……私は……」
暫し俯き何かを考えていたシャルルが顔を上げ、ガラハドへと近づく。
そして――
「な、シ、シャルル様!?」
ガラハドが驚愕の声を上げる。俺も物陰に隠れながら、似たような声を上げていた。
何故なら、ガラハドに近づいたシャルルは――目の前に立つ男を抱きしめたからだ。
「い、いけません。誰かに見られでもしたら――」
「構いません。誰が今の私を気にするのです。もう何年も陛下は私の近くには来ておりません。私はただのお飾りです。陛下の気まぐれでここに呼ばれ、只の趨向でここに止まっているに過ぎません。たまには好きなことをさせて下さい」
どんなことにも動じないガラハドが慌てている。それ事態は楽しい反面、俺もハラハラする。幸い近くに人影は見当たらないが、こんな光景見られようものならば、流石の英雄でもタダでは済まないだろう。
流石にシャルルもそれは分かったのか、両手を離し、ガラハドの身体を解放する。
「私は、ロキがこの王国で活躍するために、その地盤として、エスタールは良き巡り合わせだと感じています。エスタールを地盤にし、英雄を得ているあの子ならば……幼き頃より聡明なあの子ならば……もっと違う道があるかと思います」
「それは……つまり」
軍団長として活躍していたガラハドだからこそ、シャルルが言いたいことを察したのだろう。顔色が一気に変わる。
俺だって察した。……シャルルが言いたいことはつまり――
「私は、あの子に王になってもらいたいのです」
いやいやいや、やめてくれ。母上。俺はそんな人生を望んでいない。
何を野心に燃えているんだ。そんなキャラじゃなかったはずなのに。
「……ロキ様は第五王子です。その道は無いとはいいませんが、辛く険しい道のりでしょう。そして、私はそれが正しき道とは思いません。何よりもロキ様が望んでおられないでしょう」
おお……流石はガラハド。俺が言いたいことを言ってくれた。
「正しい、正しくないの話ならば正しくないのでしょう。ですが、少しでも……その道があるのならば、希望があるのならば、縋りたくもなります」
ガラハドが眉を潜める。
「希望……ですか? どうされたのです。私の知るシャルル様は、そんな野心など抱く方ではありませんでした」
「野心ではありません。私はもっと別の考えを持っています」
「……ご事情をお聞かせいただけませんか?」
ガラハドの問いかけに暫し考えていたシャルルだったが、覚悟を決めたのか顔を引き締め、ガラハドを見上げる。
「ロキが携わる戦いの場を……地方ではなくここで、本国に移してもらいたいのです。貴方にあの子が王になるための旗振り役となってもらいたいのです。私の関われるこの街に住まい、もっと近くで……共に居たいのです」
「……子と共に居たいというのは親として当たり前ですが……しかし――」
「違います!」
ガラハドの言葉を遮るシャルルの言葉は鬼気迫るものがあった。
道筋の無い話だからガラハドの頭はハテナマークで一杯だろう。だが、外側から聞いていた俺にはシャルルの言いたいことが理解できていた。
シャルルの思惑は、実はとてもシンプルだ。
……だからこそ、タチが悪い。
「ガラハド様……私は、貴方と共に居たいのです。私は――貴方を……貴方様と――」
飛び出しかけた最後の言葉はシャルルの胸に引き戻された。
危なかった。その一言は、取り返しのつかない一言だ。
シャルルの考えはとても単純だ。
現在、俺とガラハドは地方に飛ばされている。自分は国王の妾であるから動けない。
でも、ガラハドと一緒に居たいと考えている。
じゃあそのためには、どうすればいいのか?
俺が王になるため凱旋帰国するという流れを作れば良い。
それがベストだと考えたということだ。
地方を平定し、手中に収めた俺が“英雄”ガラハドとともに帰国し、兄上達に宣戦布告をする。
そうなれば確かに、母親であるシャルルは俺の……もとい、ガラハドの近くで保護されることになるだろう。
……自分勝手というか、子供っぽいというか。
自分が好きな男と一緒にいたいから戦争したいですだと?
そんな事、許されるわけがない。
「……聞かなかったことにします」
ガラハドも同じ思いを感じたのか、険しい顔で首を振る。
「ですが――」
「それ以上はいけません。確かに、ロキ殿下は才覚もあり、人心を掴む天恵を持っておられます。しかしながらその優しさ故に野心を持っておりません。その高い知性故に……世界を達観して見ておられます。そんな殿下に、その道は相応しくありません。殿下も望んでおられない外道を、母が導いてどうするのですか」
ガラハドは諭すように一言一言、しっかりとシャルルへ届ける。
「貴女はロキ殿下の母です。そして私は、貴女の子を生涯かけて護ると決めた一騎士に過ぎません。それ以上の存在には……これからもなり得ません。私は、ロキ殿下の未来だけを考え生きます。ですから、貴女も、どうか――」
ガラハドのハッキリとした決意に、シャルルは涙を流す。それを見て言葉を止めた忠誠の騎士は、一体何を思ったのだろう。
「そう……ですね。私は、母親でした。子の幸せを考えることが……私の幸せでした」
シャルルは無理矢理、笑顔を見せる。
ガラハドからハンカチを受け取ったシャルルは涙を拭き取った瞬間、雰囲気が変わる。
涙とともに、自分の想いを拭き取ったのだろう。
「どうか、この話はご内密に。忘れて下さい。……ロキをよろしくお願いします」
母の顔に戻ったシャルルが、ガラハドへ深々と頭を下げた。
国王との外交はどうやら失敗に終わりそうだ。
まさか本国側も本気でエスタールを得ようとしているとは思っていなかった。
てっきりただの厄介払いだと思っていたのだが、俺の役割をキチンと考えた上で送り込んだということも意外だ。自然な流れで俺にファティマを娶《めと》らせ、できるだけ民の反感を買わないようにルスラン王族の血を引く後継者を作り上げ、実質のエスタール支配者にするつもりだったということだ。
こうしてみるとルスランの思惑とファティマの思惑が得てせずして一致していたことになる。
ルスランの国益だけを見るならば、確かにそれはアリだろう。
だが、エスタールの立場で考えるならばナシだ。
大国の庇護を受けていただけの国が丸々一つ、取り潰しになるようなものだぞ。
反乱が起こるのは目に見えている。父上は小事だと言っていたが、領主を崇拝するエスタール国民が簡単に気持ちを切り替えるとは思えない。
俺の結婚一つで、国全体が波乱に巻き込まれるということだ。そんなリスクを冒してまで結婚する必要が何処にある。
「……色々と見通しが甘かったな。どうするか」
城内通路を歩きながら考える。結局のところ、俺が色々な状況をなめてかかっていたことが問題の拍車をかけている。
エスタールは田舎国家だから、本国は禄に注視しないだろう。
僻地に飛ばした“碌でなし王子”が婿に行こうが気にしないだろう。
国王であっても言いくるめられるだろう。
結果として、そういった俺の思惑は全てズレていたということだ。
「……なんにせよ、策を練らないとな」
ウダウダと考えを纏めながら大聖堂へ向かうため城内通路を歩いていると、バルコニーまで辿り着いた。
長々と設置されたバルコニーからはルスランの城下町が一望できる。
そよ風に当たりながら火照った頭を冷やしていると、遠目にガラハドの姿が目に入ってきた。
「ガラ――」
呼びかける声を途中で押しとどめ、慌てて柱の物陰に隠れる。
ガラハドの後ろを歩く人影を見つけたからだ。
青みがかった長い髪。一目で分かる高いドレスを着ながらも、整った容姿によりそれが調和している。
あれは、間違いない。俺の母親であるシャルルだ。
俺の従者ガラハドが、シャルルを連れバルコニーまでやってきていた。
【ロキ⑪】
「街も、貴女様もお変わりありませんね。安心しました」
ガラハドが俺の母親に笑いかける。その顔は慈愛に満ちていて、幸せが溢れ出ている。
……エスタールにいるときは決して見せなかった顔だ。
「もう只のおばさんです。……ガラハド様も、お変わりありませんね。ロキと一緒ですので色々と心配しておりました」
シャルルも、息子の前では絶対に見せない表情になっている。
俺の意識はゼロ歳からあった訳だから、ある程度二人の関係は知っている。
一度は近くまで詰めた距離を、色々な事情により広げてしまった二人だった。
お互い距離を置いていたはずなんだが、六年ぶりの再開で再び燃え上がってしまったのか?
……ガラハドも隅に置けないじゃないか。
「色々と楽しく過ごせております。陛下との謁見が終わり次第、シャルル様へもご挨拶を」
「私は後回しで大丈夫。ロキの姿は、遠目ですが既に見ました。見違えるほど大きくなって……」
「日に日に成長されております。国王陛下譲りの白銀の髪と赤い瞳もございますので、王族として強い気迫を持った子に育っていくことでしょう」
「“英雄”様も身近におりますものね。心配はしておりませんが、私が関われないのはやはり少し寂しいですわね」
「……お顔とその心はシャルル様に似て、優しく、柔和に育っております。……悪戯好きなところが似てしまったのは困りものですがね」
「まあ、ガラハド様の意地悪。昔の話ですわ」
二人笑い合う。……というか、優しく柔和だ? 俺が? ヘソで茶を沸かすとはこの事だな。
というか、シャルルは生みの親ではあるが、俺は別世界からの転生者だぞ。
心や考え方が似るはずがないだろうに。
「……でも、そうですか。ロキも遂に身を固める覚悟を決めたのですね。早いものです」
いや、今現在、その件で絶賛揉めている最中なのだが……まあその辺りの事情はまだシャルルやガラハドには伝わっていないのだろう。
「ええ、上手く行けば良いのですが」
「……婿養子の件ですが、ガラハド様からも説得いただけませんか?」
シャルルが風になびいた自分の髪を撫で、ガラハドを見つめる。
「……私は、ロキ様に従うだけの存在です。ですが、やはり、ご納得いただけませんか」
「親としては良いのです。誰であれ、あの子が好きになり身を固める覚悟があるのであれば形式など問いません」
……親としては?
「であれば、何を危惧されているのです?」
ガラハドも同じ疑問を抱いたのか、シャルルに向き合い顔を引き締める。
「危惧ではありません。私は……私は……」
暫し俯き何かを考えていたシャルルが顔を上げ、ガラハドへと近づく。
そして――
「な、シ、シャルル様!?」
ガラハドが驚愕の声を上げる。俺も物陰に隠れながら、似たような声を上げていた。
何故なら、ガラハドに近づいたシャルルは――目の前に立つ男を抱きしめたからだ。
「い、いけません。誰かに見られでもしたら――」
「構いません。誰が今の私を気にするのです。もう何年も陛下は私の近くには来ておりません。私はただのお飾りです。陛下の気まぐれでここに呼ばれ、只の趨向でここに止まっているに過ぎません。たまには好きなことをさせて下さい」
どんなことにも動じないガラハドが慌てている。それ事態は楽しい反面、俺もハラハラする。幸い近くに人影は見当たらないが、こんな光景見られようものならば、流石の英雄でもタダでは済まないだろう。
流石にシャルルもそれは分かったのか、両手を離し、ガラハドの身体を解放する。
「私は、ロキがこの王国で活躍するために、その地盤として、エスタールは良き巡り合わせだと感じています。エスタールを地盤にし、英雄を得ているあの子ならば……幼き頃より聡明なあの子ならば……もっと違う道があるかと思います」
「それは……つまり」
軍団長として活躍していたガラハドだからこそ、シャルルが言いたいことを察したのだろう。顔色が一気に変わる。
俺だって察した。……シャルルが言いたいことはつまり――
「私は、あの子に王になってもらいたいのです」
いやいやいや、やめてくれ。母上。俺はそんな人生を望んでいない。
何を野心に燃えているんだ。そんなキャラじゃなかったはずなのに。
「……ロキ様は第五王子です。その道は無いとはいいませんが、辛く険しい道のりでしょう。そして、私はそれが正しき道とは思いません。何よりもロキ様が望んでおられないでしょう」
おお……流石はガラハド。俺が言いたいことを言ってくれた。
「正しい、正しくないの話ならば正しくないのでしょう。ですが、少しでも……その道があるのならば、希望があるのならば、縋りたくもなります」
ガラハドが眉を潜める。
「希望……ですか? どうされたのです。私の知るシャルル様は、そんな野心など抱く方ではありませんでした」
「野心ではありません。私はもっと別の考えを持っています」
「……ご事情をお聞かせいただけませんか?」
ガラハドの問いかけに暫し考えていたシャルルだったが、覚悟を決めたのか顔を引き締め、ガラハドを見上げる。
「ロキが携わる戦いの場を……地方ではなくここで、本国に移してもらいたいのです。貴方にあの子が王になるための旗振り役となってもらいたいのです。私の関われるこの街に住まい、もっと近くで……共に居たいのです」
「……子と共に居たいというのは親として当たり前ですが……しかし――」
「違います!」
ガラハドの言葉を遮るシャルルの言葉は鬼気迫るものがあった。
道筋の無い話だからガラハドの頭はハテナマークで一杯だろう。だが、外側から聞いていた俺にはシャルルの言いたいことが理解できていた。
シャルルの思惑は、実はとてもシンプルだ。
……だからこそ、タチが悪い。
「ガラハド様……私は、貴方と共に居たいのです。私は――貴方を……貴方様と――」
飛び出しかけた最後の言葉はシャルルの胸に引き戻された。
危なかった。その一言は、取り返しのつかない一言だ。
シャルルの考えはとても単純だ。
現在、俺とガラハドは地方に飛ばされている。自分は国王の妾であるから動けない。
でも、ガラハドと一緒に居たいと考えている。
じゃあそのためには、どうすればいいのか?
俺が王になるため凱旋帰国するという流れを作れば良い。
それがベストだと考えたということだ。
地方を平定し、手中に収めた俺が“英雄”ガラハドとともに帰国し、兄上達に宣戦布告をする。
そうなれば確かに、母親であるシャルルは俺の……もとい、ガラハドの近くで保護されることになるだろう。
……自分勝手というか、子供っぽいというか。
自分が好きな男と一緒にいたいから戦争したいですだと?
そんな事、許されるわけがない。
「……聞かなかったことにします」
ガラハドも同じ思いを感じたのか、険しい顔で首を振る。
「ですが――」
「それ以上はいけません。確かに、ロキ殿下は才覚もあり、人心を掴む天恵を持っておられます。しかしながらその優しさ故に野心を持っておりません。その高い知性故に……世界を達観して見ておられます。そんな殿下に、その道は相応しくありません。殿下も望んでおられない外道を、母が導いてどうするのですか」
ガラハドは諭すように一言一言、しっかりとシャルルへ届ける。
「貴女はロキ殿下の母です。そして私は、貴女の子を生涯かけて護ると決めた一騎士に過ぎません。それ以上の存在には……これからもなり得ません。私は、ロキ殿下の未来だけを考え生きます。ですから、貴女も、どうか――」
ガラハドのハッキリとした決意に、シャルルは涙を流す。それを見て言葉を止めた忠誠の騎士は、一体何を思ったのだろう。
「そう……ですね。私は、母親でした。子の幸せを考えることが……私の幸せでした」
シャルルは無理矢理、笑顔を見せる。
ガラハドからハンカチを受け取ったシャルルは涙を拭き取った瞬間、雰囲気が変わる。
涙とともに、自分の想いを拭き取ったのだろう。
「どうか、この話はご内密に。忘れて下さい。……ロキをよろしくお願いします」
母の顔に戻ったシャルルが、ガラハドへ深々と頭を下げた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜
沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」
中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。
それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。
だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。
• 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。
• 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。
• 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。
• オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。
恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。
教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。
「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」
鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。
恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる