17 / 147
一章 ――王家の使命――
ロキ8 『魔石』
しおりを挟む
【ロキ⑫】
「エメット~! これ! みてみて!」
「うん? あれれ~、凄いねぇ。エマちゃんが作ったの?」
「うん! スカルと一緒に作ったの」
「スカル君も頑張ったね。僕にくれるのかい?」
「エメット様この前、誕生日だったんでしょ? エマに聞いたの」
「ありがとね~。二人とも大好きだよ」
昼下がりの庭園。大聖堂敷地内に設置されたその空間は、誰もが息を呑むほど美しく、まるで天使の遊び場のようだ。
その場所で煌びやかなローブを羽織った金髪の優男が座り込み、小さな子供二人から花で作られた首飾りを受け取っている。
その横には色とりどりに羽を染められた鶏馬《ルロ》が止められており、大きく口を開けて欠伸をしている。
その一角だけ、キラキラとした謎の光が飛び交い、嫌でも映画や漫画のワンシーンを彷彿させる。
それを俺はげんなりしながら見つめていた。
「意外だな。年頃の女しか興味ないのかと思っていたが」
「そんなことないよ~。それにエマちゃんだって、後十年もすれば……って、ロキ? ロキじゃない」
お前は光源氏か。と突っ込む前にエメットが俺の肩に腕を回してくる。
やめろ、近い近い。
「久しぶりだねぇ~。なんだ、戻ってくるなら言ってよ。迎えに行ったのに」
「会う予定がなかったんだ。直ぐにエスタールに戻るつもりだったしな」
「またまた照れちゃって。でも嬉しいよ。わざわざ会いに来てくれたんだね」
ふぁさあ、と髪を掻き上げ、謎の光を俺にぶつけてくるエメット。
……そう、この一見イケメンだが残念な男の名はエメットという。
『教会』の祭司という位置に属し、代々王宮関連の教育係を受け持っている。
父上の言葉通り、魔石を携え大聖堂へ向かったところ、飛んできたお偉いさんにこの男のところまで案内されてしまった。
王族と関わりが深い魔石のこととなると把握しているのは『教会』内部でもほんの僅か。その中でもこのチャラ導師が適任だったらしい。
……くそう、嫌いな訳ではないが、色々面倒くさいヤツだ。できるならば会わずに帰りたかったんだがな。
「ちょっと待っててね。この子を馬屋に戻したら直ぐに戻るから」
「急がなくてもいいさ。……随分、立派な鶏馬《ルロ》だな」
俺は目の前のダチョウのような馬鹿でかい鳥の鬣を撫でる。
赤や青など悪趣味な原色に染められているものの、太股は太く、凛とした佇まいを見せている。
鶏馬《ルロ》はこの世界の移動手段として、馬の次に使われている動物だ。
馬ほどの持久力はないが、スピードは馬の倍ほどは出る。
利便性の問題で、ルスランでは、民の生活も、軍も、馬がメインの生活だが帝国側は鶏馬《ルロ》を好んで使っているようだ。
「ターンブルからの寄贈品。大陸の端から端を一晩で走るって言われている凄い子なんだよ」
「嘘を付け、嘘を」
「まあね。当然、盛ってるけどそれだけ早いってこと。……そうだ、折角だしご飯でも食べに行く? イイ鶏馬《ルロ》料理を出すお店があるんだ」
「食べてきたから大丈夫だ。……この話の流れで良くその提案ができるな」
「だってこの子、美味しそうな太股だし……あっ折角だから今の迷える子羊ちゃんたちも一緒に連れてくるよ? みんな美味しそうな太股だから――」
「いいから早く行け!」
本当に聖職者かコイツは。
ケツを蹴り飛ばしそうになる衝動を抑えながら、俺はエメットをげんなりしながら見送った。
*****
「なるほどねぇ……でもそれって、妙な話だね」
エメットの自室に連れ込まれた俺は大体の事情を説明した。
ソファーに向かい合って座る俺達の中間には硝子のテーブルが置かれており、その上には父上から渡された魔石が置かれていた。
エメットが長い指で転がして遊んでいる。
「妙とは?」
「だって、『教会』が把握している魔石の話なんてごく僅かだよ。ルスラン王族の方がよっぽど深い関わりがあるくらい。わざわざ『教会』に寄越す必要があるのかな? ……エスタールとの関連も良く分からないしね」
「『王族のことは大抵知ってるよ~』と豪語していたチャラ導師でもそうなのか」
「だから、チャラって何さ。絶対イイ意味じゃないでしょ?」
エメットの膨れ面を無視し、思考を這わせる。
魔石は王国軍の軍団長以上しか持つことが許されない代物だ。王族が管理し、使用を許すという名目で渡している。
そんなレアな存在の情報など、出回っているものはごく僅かだろう。
そもそも『教会』はルスラン王国とは別の組織だ。
ルスラン本国の城下街に馬鹿でかい大聖堂をこしらえているが、大陸の反対側、ルスランの敵国であるターンブル帝国の帝都にも同じ物をこしらえている。
中立国が領土の一部を間借りしているようなものだ。
王国の武器になる代物の情報を簡単に渡すとも思えない。
「僕からは、『教会』が把握している魔石についての情報しか話せないけれど……そもそもロキは、魔石についてどの程度知っているの?」
「どの程度と言われてもな……」
魔石はルスラン将軍の武器であり、王族が与える物だとは教えられているが……。
「なるほどねぇ。じゃあ、何故魔石を使って戦うのが、ルスラン王国“だけ”なのかは分かるかい?」
「それは……」
言葉に詰まる。確かにそうだ。微妙な能力も多い魔石だが、『魔法』が使えない人間からしてみれば、使えないものが使えるというだけでも、強力な兵器であることは間違いない。
敵国である帝国は脅威に感じているはずだ。であれば自分らも使おうと考えて当たり前だが……。
「答えは簡単だよ。ルスランの“王族”のみが魔石を使う人間を選ぶことができるからさ」
「どういうことだ?」
「そのままだよ。“血の盟約”って言うんだけどね。王族がこの人にこの魔石を使わせたい、と思い、魔石を与える。そして特殊な儀式を経て使えるようになる。こういった流れさ」
「なるほどな――魔石を使える人間は限られている。それはそういう事情か」
「逆を言うと“血の盟約”を経てない魔石はただの石ころと同じさ。仮に帝国の軍団長が、王国の将軍を倒して魔石を得たとしても魔法を使うことができない。だから、ルスラン王国だけが『魔石』という強力な武器を使えるというわけさ」
「例えば……仮に魔石を使える人間が寝返ったとしたら?」
「魔石と人を繋げられるんなら外すこともできるでしょ。そもそも、一等親以内の親族程度しか扱えないんだし、王国を裏切ったとしても先はないよ」
寝返った人間が魔石を使えたとしても、使えるのはその人間だけ。親族全てが扱えるわけでもない。それに今は魔石を使えても、いつ使えなくなるか分からない……か。確かに帝国からしてもメリットは少ないな。
「さて、そんな使用するのに制約がある魔石なわけだけど……唯一、その制約が当てはまらない例があるんだ」
人と魔石を繋げられるのはルスランの王族のみ。その制約パターンに当てはまらないことだと? ……何か裏技的な抜け道でもあるのか? ……いや、違う、そうじゃないな。
「……王族自身だな」
「当り~。誰であっても魔石を使うには王族の力が必要だけど、王族だけは例外。いつでも、どんな魔石でも、王族本人は魔石さえあれば魔法をなんだって使えちゃう」
なるほどな。考えてみれば当たり前の話だ。他人に与えられる力ならば、当然、自分でも使うことができるだろう。
「だったら、この魔石も今、俺が使えるのか?」
テーブルに転がっている、父上から受け取った魔石を手に取る。
「自分自身と魔石を繋げる“血の盟約”のやり方を知らないでしょ? それにね、そこにあるそれは魔石であって魔石じゃないよ」
なんだその禅問答みたいなものは。
「魔石はもう少し小ぶりで宝石みたく綺麗に削られているよ。これは“魔原石”。魔石に加工される前の鉱石だね」
魔原石……? どういうことだ? 父上は加工前の魔石を俺に渡して、一体何をさせたいんだ?
「因みに魔石加工の技術も王族が秘匿してるよ~。欠片にも特殊な力が備わってるから、うちも引き取って武器に加工したりしてるけど……魔石本体を加工できるのは王族だけ」
いつか見た、『魔導具』のことか。カロリーヌが使っていた家宝の弓だ。
確かにアレも、何もないところから光る矢を生み出していたな。魔法のようだとは思っていたが、アレも魔石の一部だったのか。
「ううん~でも分からないなぁ……僕が知っている魔石の情報はこんなものだし、『教会』の誰に聞いても、これ以上の情報はないはずだよ。なんで国王陛下はロキにコレを持たせて、ここに寄越したんだろうね」
そこだ。父上はこう言っていた。
“魔石”と“王族”の関わりについて、詳しく知れば、自ずと何故ルスランがエスタールを手元に置きたいか分かると。
魔石と王族が深く関わっていることは分かった。だが、エスタール公国は別だ。俺自身、エスタール内では魔石など見たことないし、耳にもしない。
……秘密裏に何か、エスタールが魔石に関与しているのか?
「……王国側は俺が思っている以上に、エスタールを支配しようと考えている。俺はそのための布石だ。布石が布石らしく動くよう、俺に情報を掴ませるため国王はここに寄越した。何かは分からないが、エスタールと『魔石』には繋がりがあると考えるのが自然だろう」
「エスタールは特殊だもんねぇ。領地だけど領地じゃない。正直裏で何をやってても不思議じゃないけどね」
「だが俺自身、六年間暮らしてきたが魔石の影も形もなかった。旧王朝王族も裏でコソコソと何かをやっていた素振りはない。いたって普通の家庭だ」
ホルマのオッサンやファティは良くも悪くも正直過ぎる。何かをやっていたならば、すぐに感じ取れるはずだ。
「旧エスタール王族の末裔な時点で、普通じゃないけどね。それだけ上手く隠していたか、もしかしたら旧王朝の人達も知らないのかも」
「そんなこと有り得るのか? そもそも、王族相手に隠す魔石の情報なんざあるのか?」
「知らないよ。僕もさっぱりなんだから、考えられる可能性を話しているだけさ……なんにしても、今回の一件を片づけるにはちょっと骨が要りそうだね」
エメットは椅子に、深く腰掛け、微笑みながら俺の目を見つめる。
「なんだ? 急に黙り込んで。気色悪い……」
「ちょっと小休止。一旦つまらない話はやめにしよう。……もっと気になることもあるしね」
「気になること?」
「結婚の話。どうするつもりなの?」
どうするもこうするも、現状、どうすることもできない。
「っていってもな……婿養子案を却下されたのだから、公国を守るためにも別の手を考えないといけない。戻ってオッサンに相談を――」
「いやいや、僕が言いたいことは違うよ。そうじゃなくて、……ロキはどうしたいの?」
エメットが普段の顔を捨て、真っ直ぐ俺を見つめ微笑んでいる。
「……俺がどうしたいのか?」
「国と国の話は一旦置いといて、ファティちゃんだっけ? エスタールの姫と結婚したいの? したくないの?」
「エメット~! これ! みてみて!」
「うん? あれれ~、凄いねぇ。エマちゃんが作ったの?」
「うん! スカルと一緒に作ったの」
「スカル君も頑張ったね。僕にくれるのかい?」
「エメット様この前、誕生日だったんでしょ? エマに聞いたの」
「ありがとね~。二人とも大好きだよ」
昼下がりの庭園。大聖堂敷地内に設置されたその空間は、誰もが息を呑むほど美しく、まるで天使の遊び場のようだ。
その場所で煌びやかなローブを羽織った金髪の優男が座り込み、小さな子供二人から花で作られた首飾りを受け取っている。
その横には色とりどりに羽を染められた鶏馬《ルロ》が止められており、大きく口を開けて欠伸をしている。
その一角だけ、キラキラとした謎の光が飛び交い、嫌でも映画や漫画のワンシーンを彷彿させる。
それを俺はげんなりしながら見つめていた。
「意外だな。年頃の女しか興味ないのかと思っていたが」
「そんなことないよ~。それにエマちゃんだって、後十年もすれば……って、ロキ? ロキじゃない」
お前は光源氏か。と突っ込む前にエメットが俺の肩に腕を回してくる。
やめろ、近い近い。
「久しぶりだねぇ~。なんだ、戻ってくるなら言ってよ。迎えに行ったのに」
「会う予定がなかったんだ。直ぐにエスタールに戻るつもりだったしな」
「またまた照れちゃって。でも嬉しいよ。わざわざ会いに来てくれたんだね」
ふぁさあ、と髪を掻き上げ、謎の光を俺にぶつけてくるエメット。
……そう、この一見イケメンだが残念な男の名はエメットという。
『教会』の祭司という位置に属し、代々王宮関連の教育係を受け持っている。
父上の言葉通り、魔石を携え大聖堂へ向かったところ、飛んできたお偉いさんにこの男のところまで案内されてしまった。
王族と関わりが深い魔石のこととなると把握しているのは『教会』内部でもほんの僅か。その中でもこのチャラ導師が適任だったらしい。
……くそう、嫌いな訳ではないが、色々面倒くさいヤツだ。できるならば会わずに帰りたかったんだがな。
「ちょっと待っててね。この子を馬屋に戻したら直ぐに戻るから」
「急がなくてもいいさ。……随分、立派な鶏馬《ルロ》だな」
俺は目の前のダチョウのような馬鹿でかい鳥の鬣を撫でる。
赤や青など悪趣味な原色に染められているものの、太股は太く、凛とした佇まいを見せている。
鶏馬《ルロ》はこの世界の移動手段として、馬の次に使われている動物だ。
馬ほどの持久力はないが、スピードは馬の倍ほどは出る。
利便性の問題で、ルスランでは、民の生活も、軍も、馬がメインの生活だが帝国側は鶏馬《ルロ》を好んで使っているようだ。
「ターンブルからの寄贈品。大陸の端から端を一晩で走るって言われている凄い子なんだよ」
「嘘を付け、嘘を」
「まあね。当然、盛ってるけどそれだけ早いってこと。……そうだ、折角だしご飯でも食べに行く? イイ鶏馬《ルロ》料理を出すお店があるんだ」
「食べてきたから大丈夫だ。……この話の流れで良くその提案ができるな」
「だってこの子、美味しそうな太股だし……あっ折角だから今の迷える子羊ちゃんたちも一緒に連れてくるよ? みんな美味しそうな太股だから――」
「いいから早く行け!」
本当に聖職者かコイツは。
ケツを蹴り飛ばしそうになる衝動を抑えながら、俺はエメットをげんなりしながら見送った。
*****
「なるほどねぇ……でもそれって、妙な話だね」
エメットの自室に連れ込まれた俺は大体の事情を説明した。
ソファーに向かい合って座る俺達の中間には硝子のテーブルが置かれており、その上には父上から渡された魔石が置かれていた。
エメットが長い指で転がして遊んでいる。
「妙とは?」
「だって、『教会』が把握している魔石の話なんてごく僅かだよ。ルスラン王族の方がよっぽど深い関わりがあるくらい。わざわざ『教会』に寄越す必要があるのかな? ……エスタールとの関連も良く分からないしね」
「『王族のことは大抵知ってるよ~』と豪語していたチャラ導師でもそうなのか」
「だから、チャラって何さ。絶対イイ意味じゃないでしょ?」
エメットの膨れ面を無視し、思考を這わせる。
魔石は王国軍の軍団長以上しか持つことが許されない代物だ。王族が管理し、使用を許すという名目で渡している。
そんなレアな存在の情報など、出回っているものはごく僅かだろう。
そもそも『教会』はルスラン王国とは別の組織だ。
ルスラン本国の城下街に馬鹿でかい大聖堂をこしらえているが、大陸の反対側、ルスランの敵国であるターンブル帝国の帝都にも同じ物をこしらえている。
中立国が領土の一部を間借りしているようなものだ。
王国の武器になる代物の情報を簡単に渡すとも思えない。
「僕からは、『教会』が把握している魔石についての情報しか話せないけれど……そもそもロキは、魔石についてどの程度知っているの?」
「どの程度と言われてもな……」
魔石はルスラン将軍の武器であり、王族が与える物だとは教えられているが……。
「なるほどねぇ。じゃあ、何故魔石を使って戦うのが、ルスラン王国“だけ”なのかは分かるかい?」
「それは……」
言葉に詰まる。確かにそうだ。微妙な能力も多い魔石だが、『魔法』が使えない人間からしてみれば、使えないものが使えるというだけでも、強力な兵器であることは間違いない。
敵国である帝国は脅威に感じているはずだ。であれば自分らも使おうと考えて当たり前だが……。
「答えは簡単だよ。ルスランの“王族”のみが魔石を使う人間を選ぶことができるからさ」
「どういうことだ?」
「そのままだよ。“血の盟約”って言うんだけどね。王族がこの人にこの魔石を使わせたい、と思い、魔石を与える。そして特殊な儀式を経て使えるようになる。こういった流れさ」
「なるほどな――魔石を使える人間は限られている。それはそういう事情か」
「逆を言うと“血の盟約”を経てない魔石はただの石ころと同じさ。仮に帝国の軍団長が、王国の将軍を倒して魔石を得たとしても魔法を使うことができない。だから、ルスラン王国だけが『魔石』という強力な武器を使えるというわけさ」
「例えば……仮に魔石を使える人間が寝返ったとしたら?」
「魔石と人を繋げられるんなら外すこともできるでしょ。そもそも、一等親以内の親族程度しか扱えないんだし、王国を裏切ったとしても先はないよ」
寝返った人間が魔石を使えたとしても、使えるのはその人間だけ。親族全てが扱えるわけでもない。それに今は魔石を使えても、いつ使えなくなるか分からない……か。確かに帝国からしてもメリットは少ないな。
「さて、そんな使用するのに制約がある魔石なわけだけど……唯一、その制約が当てはまらない例があるんだ」
人と魔石を繋げられるのはルスランの王族のみ。その制約パターンに当てはまらないことだと? ……何か裏技的な抜け道でもあるのか? ……いや、違う、そうじゃないな。
「……王族自身だな」
「当り~。誰であっても魔石を使うには王族の力が必要だけど、王族だけは例外。いつでも、どんな魔石でも、王族本人は魔石さえあれば魔法をなんだって使えちゃう」
なるほどな。考えてみれば当たり前の話だ。他人に与えられる力ならば、当然、自分でも使うことができるだろう。
「だったら、この魔石も今、俺が使えるのか?」
テーブルに転がっている、父上から受け取った魔石を手に取る。
「自分自身と魔石を繋げる“血の盟約”のやり方を知らないでしょ? それにね、そこにあるそれは魔石であって魔石じゃないよ」
なんだその禅問答みたいなものは。
「魔石はもう少し小ぶりで宝石みたく綺麗に削られているよ。これは“魔原石”。魔石に加工される前の鉱石だね」
魔原石……? どういうことだ? 父上は加工前の魔石を俺に渡して、一体何をさせたいんだ?
「因みに魔石加工の技術も王族が秘匿してるよ~。欠片にも特殊な力が備わってるから、うちも引き取って武器に加工したりしてるけど……魔石本体を加工できるのは王族だけ」
いつか見た、『魔導具』のことか。カロリーヌが使っていた家宝の弓だ。
確かにアレも、何もないところから光る矢を生み出していたな。魔法のようだとは思っていたが、アレも魔石の一部だったのか。
「ううん~でも分からないなぁ……僕が知っている魔石の情報はこんなものだし、『教会』の誰に聞いても、これ以上の情報はないはずだよ。なんで国王陛下はロキにコレを持たせて、ここに寄越したんだろうね」
そこだ。父上はこう言っていた。
“魔石”と“王族”の関わりについて、詳しく知れば、自ずと何故ルスランがエスタールを手元に置きたいか分かると。
魔石と王族が深く関わっていることは分かった。だが、エスタール公国は別だ。俺自身、エスタール内では魔石など見たことないし、耳にもしない。
……秘密裏に何か、エスタールが魔石に関与しているのか?
「……王国側は俺が思っている以上に、エスタールを支配しようと考えている。俺はそのための布石だ。布石が布石らしく動くよう、俺に情報を掴ませるため国王はここに寄越した。何かは分からないが、エスタールと『魔石』には繋がりがあると考えるのが自然だろう」
「エスタールは特殊だもんねぇ。領地だけど領地じゃない。正直裏で何をやってても不思議じゃないけどね」
「だが俺自身、六年間暮らしてきたが魔石の影も形もなかった。旧王朝王族も裏でコソコソと何かをやっていた素振りはない。いたって普通の家庭だ」
ホルマのオッサンやファティは良くも悪くも正直過ぎる。何かをやっていたならば、すぐに感じ取れるはずだ。
「旧エスタール王族の末裔な時点で、普通じゃないけどね。それだけ上手く隠していたか、もしかしたら旧王朝の人達も知らないのかも」
「そんなこと有り得るのか? そもそも、王族相手に隠す魔石の情報なんざあるのか?」
「知らないよ。僕もさっぱりなんだから、考えられる可能性を話しているだけさ……なんにしても、今回の一件を片づけるにはちょっと骨が要りそうだね」
エメットは椅子に、深く腰掛け、微笑みながら俺の目を見つめる。
「なんだ? 急に黙り込んで。気色悪い……」
「ちょっと小休止。一旦つまらない話はやめにしよう。……もっと気になることもあるしね」
「気になること?」
「結婚の話。どうするつもりなの?」
どうするもこうするも、現状、どうすることもできない。
「っていってもな……婿養子案を却下されたのだから、公国を守るためにも別の手を考えないといけない。戻ってオッサンに相談を――」
「いやいや、僕が言いたいことは違うよ。そうじゃなくて、……ロキはどうしたいの?」
エメットが普段の顔を捨て、真っ直ぐ俺を見つめ微笑んでいる。
「……俺がどうしたいのか?」
「国と国の話は一旦置いといて、ファティちゃんだっけ? エスタールの姫と結婚したいの? したくないの?」
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜
沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」
中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。
それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。
だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。
• 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。
• 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。
• 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。
• オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。
恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。
教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。
「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」
鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。
恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる