群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

文字の大きさ
33 / 147
一章    ――王家の使命――

 ロキ15  『敵地』

しおりを挟む

「これが……全てだ。満足したか?」
 モルドットの語る物語に一区切りが付く。
 
 なるほどな……。
 モルドットの言葉により、不足していた情報が継ぎ足され全ての真相が理解できた。

 つまるところ、奴は好きな女を追いかけるためエスタールの宝玉《オーブ》と転移石に目を付けたということか。

 最初は穏便に済ませる気があったのだろう。
 ファティを得た後に、ゆっくりと転移石の場所を聞き出し、宝玉《オーブ》を手にする腹積もりだったに違いない。

 だが、俺がそれを突っぱねてしまった。
 そのため、奴は軍を率いてエスタール占領を強行してしまったのだ。
 恐らくだが、高齢のため死期が怖かったのだろう。次に生き返ることができるのか不安だった。だから焦ってしまった。
 
「……下らないな」
 俺は腹の底から、笑いが込み上げる。
 感情を自重しようにも、どうにも抑えきれない。

「何が可笑しい……」
 俺の返す言葉を聞き、目を見張るモルドットに続ける。

「下らない。何かと思えば、結局は、惚れた女のケツを追いかけるためだと? そんなことのために、沢山の人間が死んだと思うと、どうにも笑える」

「……所詮は、エルデナ様を知らぬ人間。私の心情を理解できなくても仕方のないことなのだろう。まあ、私は“どちらでも良い”。お前が理解しようと、せずともな」

「いやいや、心情は理解できている。……何故なら、俺でも同じことをするだろう。例えば、仮にだが、“つばさが『魔界』にいる”と分かったなら、俺は何もかもを捨て、どんな手段を使ってでも、俺は『魔界』へと向かう」
 そうだ。つばさがこの世界のどこかで、俺と同じように生まれ変わっているのなら、俺はどんな状況であったとしても彼女の側へと飛んでいく。

 同じように、モルドットは心の底から愛した女と、共に過ごす時間のため全力を尽くしたのだろう。その心情は、とても良く分かる……決して誉められる手段ではなかったが。

「俺が下らない、と言ったのはな。“奪う必要など、何処にもない”と思ったからだ」

「……何を言っている」
 俺の否定的な意見に、薄れていた殺意を蘇らせていくモルドット。
 もしかしたら、自分の悲劇的な人生に、賛同を求めていたのかもな。
 そんなことは絶対に有り得ないが。

「そうだろう? エスタールに『魔界』へと繋がる扉があると分かった。そこまでは良い。その後、何故お前はこんな手段を取った?」
 俺が何を言いたいのか理解ができないのだろう。モルドットは何も返さない。

「いいか……エスタールに全ての事情を話し、頭を下げて『魔界』への扉を開いてもらう。お前はそれをするだけで、『魔界』へと向かえたんだよ。こんなまどろっこしい事をしなくてもな」
 考えもしなかったのだろう。モルドットは息を呑み、目を見開かせる。

「誓って言うが、ファティもオッサンもキチンと事情を聞かされたのならば、それにしっかりと応えるだろう。無慈悲には扱わない。……それをしなかった、考えもしなかったことが、お前の罪だ」

「……お前に、お前に私の何が分かる!」

「結局お前は、誰も信じられなかったんだよ。人間に備わった、当たり前の情を忘れ、自分のプライドを優先し、他人を巻き込んだはた迷惑な存在だ。だからお前は――」

「黙れ! もう良い、議論などするつもりはない! お前はここで――」

「だからお前は――ここで死ぬんだ」
 俺の断定に、振りかざした鋭い指先を止める。
 今度こそ、本当に俺が何を言っているのか理解できないのだろう。

 当たり前だ。俺はとうに詰んでいる。
 後は、俺をさっくりと殺し、宝玉《オーブ》を使って『魔界』に向かえば良いだけだ。
 もう誰も、モルドットを止める者はいない。

 だが、俺は気がついていた。夜空から響き渡るこの音に。

 正直、モルドットの昔話など、悲劇だろうが喜劇だろうがどちらでも良かった・・・・・・・・・
 俺は待っていただけだ。
 なんでもいい、時間を稼げれば、それで良かったんだ。

「……遅いんだよ。正直、ハラハラしていた」
 俺の呟きに、モルドットも異変に気がついたようだ。
 夜空に広がる、風を切り裂く音に気がつき、空を見上げる。

「まさか……まさか――」
 モルドットが“それ”に気がつき、目を見開く。

「知ってるか? モルドット。戦争はな、どれだけ敵を自分の有利な場所に引き込めるかが大事なんだ」
 驚愕するモルドットに、俺の声は届いていないだろう。

 お前は敵地を知ることを怠った。だから負けるんだ。


―― 噂じゃないよ。ラーフィア山脈は凶暴な白竜の縄張り。山脈のどこから登っても、たちまち見つかって食べられちゃう ――

―― 白竜ねぇ……一度は拝んでみたいが――

―― 冗談。一度見つかったらもう誰も逃げられない。登らなくて良かったね ――


 ルスランに一時帰国したあの日、エメットはそう言っていた。
 あのチャラ導師も、たまには良い情報をくれるじゃないか。

 その会話を思いだし、モルドットを誘導しながら走っていた。
 俺はモルドットを導いていた。闇へと、本物の災厄へと。
 そして同時にもう一つ、導いていた。
 それが現れるのを待っていた。

 それは、すなわち――

「――ここは、既にラーフィア山脈だ・・・・・・・・・・
 驚愕するモルドットに、王子らしく、とっておきの不敵な笑みを浮かべる。

「は、図ったな!! 王子ィイイッ!!」
 当たり前だ。俺を誰だと思っている。

「……王族をなめるなよ。モルドット」
 巨大な白竜が、俺とモルドットの前に降り立った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜

沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」 中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。 それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。  だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。  • 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。  • 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。  • 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。  • オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。  恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。 教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。  「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」  鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。 恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!

処理中です...