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三章 ――白色の王子と透明な少女――
③<少女2> 『森の町ノカ』
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⑤【ソフィア】
私達がノカの町に住むようになり、何度目かの夜が過ぎ去っていった。
最初の頃は町とお家を行き来するだけでへとへとになっていたけれど、藁を運ぶおばちゃんから近道を聞いてからは、ぐんと移動が楽になった。
定期便の馬車を使い、行きと帰りで丸一日かかっていた移動が数時間で済むと分かった時は喜びよりも、馬車への苛立ちの方が大きかった。
定期便って色々な場所に行かなきゃいけないから、変に時間がかかってしまう。この『森のノカ』は巨大な古木の大きな枝と枝をつなぎ合わせてできた町で、枝の数だけ歩ける道があるんじゃないかって思うほどだ。
それだけ色んな枝の道があるものだから、定期便も町外れにある私達のお家近くに訪れるのに時間がかかってしまい、そこからさらに町から離れた農園などを回って町中に戻ってくる。
なんにせよ最初の頃よりかは移動が楽になり、気軽に町に行けるようになった私達は、町外れの古ぼけた聖堂を改装したお家から毎日の様に町へと足を運んでいた。
*****
「一個五カイザルだ」
カウンターの向こうに座っているオジサンが木彫りの人形を転がす。
私とマシューが造った木彫りの人形だ。
「五!? 五十じゃなくて!?」
「五だ。それ以上は無理だな」
「ちょっと待ってよオジサン。コレ造るのにどれだけ時間かかったと思ってんのよ」
私の手に握られた袋の中には、カウンターに転がっている人形と全く同じ物が二十体入っている。
「むしろ、材木の方が金になったかもな。嫌なら他あたりな」
オジサンが手をひらひらさせて私とマシューをお店から追い出そうとする。
手作りの木彫り人形を沢山作った私達は高級品が多く売られている雑貨屋さんまで足を運んでいた。目的は……お金を稼ぐためだ。
「私らが子供だからって足元見てるんじゃないでしょうね!?」
「子供だからおまけしての、この値段だ。お前らが大人なら買い取ってないね。……嬢ちゃん、そんなに金が欲しいなら、その腰にぶら下げてる細剣はどうだ?」
オジサンが私の腰に挿してあるミスリル製の細剣《レイピア》を興味津々に見つめている。
握りと刀身の間に鍔の役目を担った六つの翼を摸した金属飾りが付いているちょっと派手な剣だ。鍔の中心には、はめ込まれた蒼い水晶がきらめいていて、その周辺に細かな装飾が施されている。これだけ綺麗な装飾が施された剣なんて、滅多にお目にかかれないだろうから気になって当然だと思う。
でもね――
「冗談、これ、大会準優勝の景品よ! 売れるわけないじゃない」
「そう言われたらますます欲しくなるな。五千でどうだ?」
「五せ……っ……っ……ぁあああ! だ、駄目、絶対駄目!」
「ソフィア、もういいよ。早く人形売っちゃおう」
隣に居るマシューが私の袖を引っ張ってくる。
うう、正直、別のお店でも似たような値段だったっていうか一個四カイザルだったから、前のお店よりかは高く売れる。
っていうか、この高級立地のお店でこの値段だったらこれ以上の値段で買ってくれるお店なんて、『森のノカ』には存在しないと思う。
でもさ、パン一個の値段が百二十カイザルのこのご時世。全部売ってもパン一個に届かないってなによ!?
そりゃ確かにちょっと不格好かもしれないけれど、この人形には、この三日間頑張ってきた私たちの努力が詰まってるんだよ!
そこんところ、このオジサンも評価しなさいよ!!
「毎度ぉ~」
百カイザルを受け取り、お店を後にした私たちはトボトボと家路に向かう。
階段を降りて昇ってを繰り返す。
森の町ノカは建物の全てが古木と一体化している。木の幹をくり抜いて、その中にお店を造ったり、増築して家にしてたりする。その建物と建物を繋ぐため、木や煉瓦で作られた橋や階段が縦横無尽に走っているんだ。
同じ形の建築物がないのは見ていて飽きが来ないから楽しいけれど、暮らす分には不便でしょうがない。迷うし、疲れるし。
通路は広めに取られているけれど、大通りってのがないから、買い物するのにいちいち遠回りをしなきゃならない。場所によってはすっごい高い位置にあるし。ほんと、昔の人達は何を考えてこんな作りにしたんだろ。
絶対見た目だけしか考えてなかったんだろうけど。
すれ違う観光の人達が目をキラキラさせながら、階段を昇っている。笑顔で苦行を楽しんでいる。
近くに住んでみたら一日で嫌になるよ。なんでそんな楽しそうなのよ。ホント、イライラする。
駄目だ。自分の思い通りにならないからって、腹を立てるのは子供のすることだ、ってもう会えなくなったお父さんにも言われたことがある。自重しなきゃ。
隣を歩くマシューの手にはお母さんから頼まれた日用品が入った袋が握られている。
買い物ついでにお小遣い稼ぎ作戦、大失敗だ。
ちょっと思っていた以上に安値で買いたたかれて、熱くなっちゃったけれど私の家にはまだそれなりに蓄えがあるらしい。
どういう事情なのかは分からないけれど、お母さんの働き口とは別の収入があるって聞いた。
生活費にはそこまで困っていないのだけど、だからって贅沢ができるわけでもない。私たちだって、少しでもお金を稼いで家に貢献しよう、とマシューと話し合って計画したのがこの木彫りの人形作戦だった。
「だからダメだって言ったじゃん。あんなの買いたくなる人なんていないよ」
「うっさい、黙って歩け」
隣を歩くマシューを一喝して、私はイライラを少しも隠そうとしないで歩いていた。
大体、この町のお店は商売っ気がなさすぎる。森の町なんだから、木の人形は十分、お土産になると思っていたのに。多分、私が何も知らない観光客だったら買っている。あんまり多くはないけれど、王都にも友達がいるから、その子たちにあげるのにお手頃なものだと思ったのに。
確かに、ちょっと不格好かもしれないけどさ、作っているうち、そこが逆に愛着になってきていたのに。
あーもう、どこか丁度よく私たちの人形を買ってくれそうな優しくてお金持ちな紳士とか――
「誰か!! 泥棒だ!」
丁度私たちの真上の辺りから叫び声が聞こえてきた。
見上げると、燕尾服を着たおじさんが橋の端に倒れていて、腕を伸ばしている。その先に目を向けると、男が二人、それぞれに四角い箱を脇に抱えて階段を転げ落ちるように駆け下りている。
「マシュー、ここで待ってて!」
「え!? ちょ、ちょっとソフィア!」
自分が考えるより先に、私の脚が動き出していた。
階段を駆け上がり、駆け下りて、男達が走る場所へとひたすら向かう。
家を挟んで上り下りの階段が四つ見えてきた。
「あーもう、どっちに行けばいいのよ!?」
叫びながら見わたすと、私が今居る通路の向かい側、それの二つほど下の階層を走る男達の影が。
なんか、離されてない!?
「ほんっっと、不便な町!」
通路の端から真下をのぞき込むと、枝と枝を繋ぐ橋が縦横無尽に走っている。
さらに下を見ると薄暗く霧に覆われていて、地面なんて見えないくらい深い。落ちたら絶対に助からないだろう。
私は深呼吸して、一つの覚悟を決めた。
「……やれる! やってやる! 私ならできる!」
私は通路の真ん中まで移動し、脚に力を入れて一気に走り出す。
助走の速度がどんどん上がっていく。
狙うは、この通路の斜め下を走る、橋の真ん中だ。
通路の端に辿り着いた私は、そのまま速度を落とさず――飛んだ。
森の風が身体を駆け抜ける。
重力に逆らって私の内臓が一気に浮き上がる。
やっば、調子に乗りすぎた!!
だん、と大きな音を立てて私の両足は真下に走っていた橋を踏みしめる。
周りの人達が何事かと私を見ている。
あ、脚が、痺れる。でも、ここでそんなこと言ったら、絶対かっこ悪い。
私は自分の脚を無理矢理動かして、駆ける。そして再び――飛んだ。
一度経験したら後は楽だ。着地直後ちょっと、ううん、すっごく足が痛いだけ。
でも、それさえ我慢すれば階段を上り下りするよりよっぽど早い。
着地する度に男達の姿がどんどん大きくなっていく。
階段を駆け上がり、一際長い橋に辿り着いた私はその中央から飛び降りた。
そして――
通路を走る男達の真ん前に、私は降り立った。
「アンタたち、待ちなさ――ったぁあ!?」
激痛が私の右足首に襲いかかってきた。
ど、どっかで捻ったの?
やっば、今度こそ、調子乗りすぎた!
男たちは突如現れた私の奇行に目を白黒させている。
「そ、その荷物、置いてきなさい! アンタ達のじゃないでしょ!?」
余りの激痛に浮かんでくる涙を堪え、両手を大きく広げて男達の行く手を遮る。
「どきな、お嬢ちゃん、怪我するぜ」
もうしてる、多分。かっこ悪いから隠すけど。
そして多分、隠しきれていない。空気を読んでくれる悪漢で良かった。
「アンタ達こそ、怪我しないうちに諦めなさい!」
男の一人が舌打ちして、それが合図になったのか、それぞれ腰に携えていた細剣が抜かれていく。
「……抜いたわね。後悔するよ」
正直、右足は洒落にならないくらい痛いけど、我慢できないほどじゃない。
私が剣を抜いた瞬間、二つの剣閃が私に襲いかかってきた。
⑥【ソフィア】
左右から連続して男達の剣先が襲いかかってくる。
それを自分の細剣でいなしつつ、一度距離を置き、剣を回転させながら一気に攻め込む。
動く度に足首が痛むけど、戦えないほどじゃない。何年間もかけて練習し、培ってきた型が私の身体を動かしてくれる。
男の一人が剣を振るった瞬間、刀身同士を重ね合わせ……ると見せかけて身体を捻り相手の剣閃を避け、勢をつけたまま細剣を振り下ろす。
相手の手首が切り裂かれ、手に持っていた細剣が通路の端まで転がっていった。
男の叫び声を受けながら、私の意識はもう既にもう一人に移っている。
仲間がやられたことで、私の力量を感じ取ったのだろう。
焦燥を帯びながらも鋭い目つきで私を睨んでくる。
一瞬の間。
男が瞬きをした瞬間、私は動いていた。剣を回転させ相手の右手首を狙う……と見せかけてそのまま回転を続け、男の左側から首筋を狙う。
私の剣を受けるため男の剣が動いた。
この男、剣の技術はさっきの人間よりもたいしたことない。素人だ。足元ががら空きだよ。
相手を翻弄していた刀身の残像が、男の太股を切り裂き動きを止めた。
「諦めなさい。そこの盗んだ荷物置いて、とっとと私の前から消え失せろ!」
石畳に転がった男の剣を足で蹴り飛ばして、剣先を男の眼前に突きつける。
いつのまにか、周りには騒ぎを聞きつけて観光の人達が集まり男達を遠巻きに見つめている。
男達はお互いに顔を見合わせ、観念したのか何も言わずに立ち去っていった。
*****
「いやはや、ほんっとうに、助かったよ」
鼻の両側にそびえ立つ髭を生やしたふくよかなおじさんが、机を挟んで向かいに座った私とマシューに向けて、ニコニコと笑いかけてくる。
けれど私たちの視線は、テーブルの上に集中していた。自分の両手を動かすことだけに集中していた。
舌から受け取る至福の連続に酔いしれていた。
えびキノコの乳煮が優しく、でも芳醇な食欲をそそる匂いを立ち上らせている。
鶏馬《ルロ》と鶏馬《ルロ》大根の合わせ焼きがじゅうじゅうと音を立てて私たちに食べられるのを待っている。
香辛料を詰めたコゥクゥの姿焼きが運ばれてきた。給仕さんが切り分ける度に、綺麗に焼かれた皮がパリパリと心地よい音を立てる。
私たちの目の前にはご馳走が次々に並び立てられ、私たちのお腹に収まっていく。
食べきれない、食べきれないけどどんどん食べられる。
ちょっと待って。このスープ、ちょっと辛いけどすっごい美味しい! 熱々だけど、いくらでも喉の中に降りていく!
なに、この天国。
私は今、すっごい幸せだ!
「こんなに美味しいご飯、初めて食べた!」
マシューも目を輝かせながらご馳走にむさぼりついている。
「はっはっは。それは良かった。沢山食べなさい」
「うん! おじさんありがとう!」
男達が置いていった箱を持ち主であるおじさんに返したところ、是非お礼がしたいと言われ町の中でも一段と高そうな食事処に連れて行かれた。
最初は遠慮したんだよ。だけどさぁ、丁度良くお昼ご飯の時間で、丁度良く私とマシューのお腹が大きな音を立てたものだから、断るに断れなくなっちゃった。
「お嬢さんも、足は大丈夫かな?」
「ええ、薬草がだいぶん効いてきたみたいです」
足をブラブラさせてみると、さっきまで響いていた痛みが嘘みたいに消えている。ご馳走を食べて回復したのかな。自分のことながら調子の良い足だ。
机の端から自分の足首をちらりと見てみると、薬草を固定している巻き付けられた布が見えた。
観光客の一人、見知らぬおばちゃんが私の足に巻いてくれたやつだ。
オジサンが言うにはそれなりに高い薬草らしい。もし、また会う機会があったらお礼言わなきゃ。
「これは私にとって大事な荷物でね。この中に全財産も入っていた。本当に君たちには感謝しているよ」
オジサンの両脇には私が悪漢から奪い返した木製の箱が置かれている。取っ手付きの高級そうなやつだ。
「たまたまねぇちゃんが居て良かったね」
腰に手を置き胸を反らせるマシュー。
「偉そうに。アンタ、なんにもしていないじゃない」
「僕だって、このオッちゃんのところに行って言ってやったんだからな。心配しなくても、ねぇちゃんが退治してくれるって」
「こら、初対面の紳士の方にオッちゃんとか言わないの」
「じ、自分だってオジサンって言ってたじゃん」
「はっはっは。構わないよ。好きに呼びなさい。ところで自己紹介が遅れたね。私はオーレンと申すしがない商人だ。中央都市から観光旅行に来ている」
「中央都市!? すげえ!」
中央都市は大陸一、文明が発展していると言われている都市だ。
商人ギルドの拠点で、大きな川に架けられた橋の上に街が置かれている……らしい。
橋とはいっても、その横幅はとてつもなく広い。面積だけで考えるなら、王都よりも大きいんだって。私もいつか行ってみたいと思っている場所だった。
「それで、君らの名前も聞いていいかな?」
「僕はマシュー。それで、この凶暴なのはソフィア――ってぇ!」
マシューは私が蹴り飛ばした自分のふくらはぎを摩っている。
凶暴ってなによ。これでも外面は大人しくしているんだからね。
「私たちもこの町には来たばかりなんです。それまでは王都に居て……」
「なるほど、王都。あそこも発展した良い街じゃないか。何度か行ったことがあるよ」
「ホントに!? じゃあ僕ら会ったことがあるのかな?」
「はっはっは。そうかもしれないね。それで……」
オーレンさんが私たちの顔を交互に見比べる。
「君たちは姉弟なのかな?」
「うん、こっちがねぇちゃん!」
んなの見れば分かるわよ。
と、言おうと思ったけど、微笑ましそうに目を細めるオーレンさんを見てやめといた。
ありがたい話だけど、色んな人に、似ていないって言われる。
ほんと、この糞弟と似なくて良かった。
「君たちの親御さんは……何をされている方なのかな? いや、別に詮索しているわけではないよ。君たちの髪色が珍しかったものだから」
……ああ、なるほど。
私は隣に座るマシューの髪を見つめる。
艶のある真っ黒な髪。金色や赤色が多い大陸ではとても珍しい色だ。
お母さんのお父さん、私からするとおじいちゃんにあたる人が、生涯真っ黒な髪だったらしい。
私は会ったこともないし、何をしていたのか分からないけれど、多分、その人の遺伝だ。
「お母さんはこの町の雑貨屋さんで働いているよ。お父さんと色々あって今は離れて暮らしている」
「そうか……いや、変なことを聞いてしまったな」
オーレンさんが頭のてっぺんの禿げた部分を私たちに見せつける。別に謝るようなことじゃないのに。
「お詫びと言ってはなんだが、良い物をあげよう」
オーレンさんが自分の荷物をごそごそと漁り、筒状の入れ物を取り出す。
蓋の部分が鉄で綺麗に細工された、いかにも高そうなやつだ。
筒の中心部分にはどこかで見たことがあるような紋章が描かれている。
「これを君たちにあげよう」
目をきらめかせるマシューと対象に、私は首を振る。
「こんな高そうなのいただけません」
「私にとってはたかが知れているものだよ。それに、全て失うところだったんだ。遠慮することはない」
「そんなつもりで行動した訳じゃ――あ、こら!」
「すっげー。オッちゃん、コレ、なんなの?」
オーレンさんから躊躇いもなく筒を受け取ったマシューが、ぽんっと蓋を開ける。
「聞いて驚きなさい……コレはね、宝の地図なんだよ」
宝の……地図!?
「っすっげー……ってコレのこと? 何も書いてないじゃん」
マシューが筒の中からボロボロになった羊皮紙を取り出す。
筒の中で丸まっていた真っ黄色の紙は裏も表も何も書かれていない。
「そう。ただの悪戯道具だよ。昔、私が騙されて買ってしまった商品さ」
なんだ、そういうことか。と高まった気持ちが治まっていくのを感じる。
「昔おじさんがコレを買った時にね、ある場所に行けば地図が浮かび上がると聞いて買ったんだ。オジサンも最初は楽しみにしながら旅をしたものさ。けれども……結果はご覧の通りだよ」
オーレンさんが小さく舌を出す。
「なんだ嘘かー期待して損した」
マシューも残念な気持ちを隠しもせず、地図を乱雑に丸めて元の筒に放り込む。
「いやいや、まだ分からないよ。オジサンは地図が浮かび上がる場所を見つけられなかったが、君たちはそうじゃないかもしれない」
オーレンさんはマシューを諭すようにゆっくりと続ける。
「いいか、君たちの未来はまだこれからだ。これからオジサンのように色んなところに旅ができる。オジサンよりも沢山の場所に行けるかもしれない。そうやって新しい、珍しい土地に辿り着いたら、ちょっとだけこのオジサンのことを思い出して、この地図を開いてごらん。そこで何も浮かび上がらなくてもいいんだよ。次に行く土地では地図が映るかもしれない……そんな『楽しみ』が新しく生まれるだけさ。そうやって『楽しみ』を繋げていけば、いつか君たちはお宝に巡り会えるかもしれないね」
なるほど。
オーレンさんの言葉を聞いて、何故、この人がこの品物を買ったのかその本心が分かった気がする。
オーレンさんも本当のところは宝の地図が浮かび上がるなんて信じてないんだろう。
それでも、この筒を持ち歩いている限り、常に『楽しみ』ができる。
“次に”もしかしたら、という期待が生まれる。
そのためにオーレンさんはこの地図を買って、こうして旅をする度に持ち歩いてたんだろう。
そして……
「私は君たちに、これからの『楽しみ』を託したい。駄目かな?」
その思いを、“次の”『楽しみ』と期待を託してきた。
そういうことなら、断るのは失礼ってものだよね。
私達がノカの町に住むようになり、何度目かの夜が過ぎ去っていった。
最初の頃は町とお家を行き来するだけでへとへとになっていたけれど、藁を運ぶおばちゃんから近道を聞いてからは、ぐんと移動が楽になった。
定期便の馬車を使い、行きと帰りで丸一日かかっていた移動が数時間で済むと分かった時は喜びよりも、馬車への苛立ちの方が大きかった。
定期便って色々な場所に行かなきゃいけないから、変に時間がかかってしまう。この『森のノカ』は巨大な古木の大きな枝と枝をつなぎ合わせてできた町で、枝の数だけ歩ける道があるんじゃないかって思うほどだ。
それだけ色んな枝の道があるものだから、定期便も町外れにある私達のお家近くに訪れるのに時間がかかってしまい、そこからさらに町から離れた農園などを回って町中に戻ってくる。
なんにせよ最初の頃よりかは移動が楽になり、気軽に町に行けるようになった私達は、町外れの古ぼけた聖堂を改装したお家から毎日の様に町へと足を運んでいた。
*****
「一個五カイザルだ」
カウンターの向こうに座っているオジサンが木彫りの人形を転がす。
私とマシューが造った木彫りの人形だ。
「五!? 五十じゃなくて!?」
「五だ。それ以上は無理だな」
「ちょっと待ってよオジサン。コレ造るのにどれだけ時間かかったと思ってんのよ」
私の手に握られた袋の中には、カウンターに転がっている人形と全く同じ物が二十体入っている。
「むしろ、材木の方が金になったかもな。嫌なら他あたりな」
オジサンが手をひらひらさせて私とマシューをお店から追い出そうとする。
手作りの木彫り人形を沢山作った私達は高級品が多く売られている雑貨屋さんまで足を運んでいた。目的は……お金を稼ぐためだ。
「私らが子供だからって足元見てるんじゃないでしょうね!?」
「子供だからおまけしての、この値段だ。お前らが大人なら買い取ってないね。……嬢ちゃん、そんなに金が欲しいなら、その腰にぶら下げてる細剣はどうだ?」
オジサンが私の腰に挿してあるミスリル製の細剣《レイピア》を興味津々に見つめている。
握りと刀身の間に鍔の役目を担った六つの翼を摸した金属飾りが付いているちょっと派手な剣だ。鍔の中心には、はめ込まれた蒼い水晶がきらめいていて、その周辺に細かな装飾が施されている。これだけ綺麗な装飾が施された剣なんて、滅多にお目にかかれないだろうから気になって当然だと思う。
でもね――
「冗談、これ、大会準優勝の景品よ! 売れるわけないじゃない」
「そう言われたらますます欲しくなるな。五千でどうだ?」
「五せ……っ……っ……ぁあああ! だ、駄目、絶対駄目!」
「ソフィア、もういいよ。早く人形売っちゃおう」
隣に居るマシューが私の袖を引っ張ってくる。
うう、正直、別のお店でも似たような値段だったっていうか一個四カイザルだったから、前のお店よりかは高く売れる。
っていうか、この高級立地のお店でこの値段だったらこれ以上の値段で買ってくれるお店なんて、『森のノカ』には存在しないと思う。
でもさ、パン一個の値段が百二十カイザルのこのご時世。全部売ってもパン一個に届かないってなによ!?
そりゃ確かにちょっと不格好かもしれないけれど、この人形には、この三日間頑張ってきた私たちの努力が詰まってるんだよ!
そこんところ、このオジサンも評価しなさいよ!!
「毎度ぉ~」
百カイザルを受け取り、お店を後にした私たちはトボトボと家路に向かう。
階段を降りて昇ってを繰り返す。
森の町ノカは建物の全てが古木と一体化している。木の幹をくり抜いて、その中にお店を造ったり、増築して家にしてたりする。その建物と建物を繋ぐため、木や煉瓦で作られた橋や階段が縦横無尽に走っているんだ。
同じ形の建築物がないのは見ていて飽きが来ないから楽しいけれど、暮らす分には不便でしょうがない。迷うし、疲れるし。
通路は広めに取られているけれど、大通りってのがないから、買い物するのにいちいち遠回りをしなきゃならない。場所によってはすっごい高い位置にあるし。ほんと、昔の人達は何を考えてこんな作りにしたんだろ。
絶対見た目だけしか考えてなかったんだろうけど。
すれ違う観光の人達が目をキラキラさせながら、階段を昇っている。笑顔で苦行を楽しんでいる。
近くに住んでみたら一日で嫌になるよ。なんでそんな楽しそうなのよ。ホント、イライラする。
駄目だ。自分の思い通りにならないからって、腹を立てるのは子供のすることだ、ってもう会えなくなったお父さんにも言われたことがある。自重しなきゃ。
隣を歩くマシューの手にはお母さんから頼まれた日用品が入った袋が握られている。
買い物ついでにお小遣い稼ぎ作戦、大失敗だ。
ちょっと思っていた以上に安値で買いたたかれて、熱くなっちゃったけれど私の家にはまだそれなりに蓄えがあるらしい。
どういう事情なのかは分からないけれど、お母さんの働き口とは別の収入があるって聞いた。
生活費にはそこまで困っていないのだけど、だからって贅沢ができるわけでもない。私たちだって、少しでもお金を稼いで家に貢献しよう、とマシューと話し合って計画したのがこの木彫りの人形作戦だった。
「だからダメだって言ったじゃん。あんなの買いたくなる人なんていないよ」
「うっさい、黙って歩け」
隣を歩くマシューを一喝して、私はイライラを少しも隠そうとしないで歩いていた。
大体、この町のお店は商売っ気がなさすぎる。森の町なんだから、木の人形は十分、お土産になると思っていたのに。多分、私が何も知らない観光客だったら買っている。あんまり多くはないけれど、王都にも友達がいるから、その子たちにあげるのにお手頃なものだと思ったのに。
確かに、ちょっと不格好かもしれないけどさ、作っているうち、そこが逆に愛着になってきていたのに。
あーもう、どこか丁度よく私たちの人形を買ってくれそうな優しくてお金持ちな紳士とか――
「誰か!! 泥棒だ!」
丁度私たちの真上の辺りから叫び声が聞こえてきた。
見上げると、燕尾服を着たおじさんが橋の端に倒れていて、腕を伸ばしている。その先に目を向けると、男が二人、それぞれに四角い箱を脇に抱えて階段を転げ落ちるように駆け下りている。
「マシュー、ここで待ってて!」
「え!? ちょ、ちょっとソフィア!」
自分が考えるより先に、私の脚が動き出していた。
階段を駆け上がり、駆け下りて、男達が走る場所へとひたすら向かう。
家を挟んで上り下りの階段が四つ見えてきた。
「あーもう、どっちに行けばいいのよ!?」
叫びながら見わたすと、私が今居る通路の向かい側、それの二つほど下の階層を走る男達の影が。
なんか、離されてない!?
「ほんっっと、不便な町!」
通路の端から真下をのぞき込むと、枝と枝を繋ぐ橋が縦横無尽に走っている。
さらに下を見ると薄暗く霧に覆われていて、地面なんて見えないくらい深い。落ちたら絶対に助からないだろう。
私は深呼吸して、一つの覚悟を決めた。
「……やれる! やってやる! 私ならできる!」
私は通路の真ん中まで移動し、脚に力を入れて一気に走り出す。
助走の速度がどんどん上がっていく。
狙うは、この通路の斜め下を走る、橋の真ん中だ。
通路の端に辿り着いた私は、そのまま速度を落とさず――飛んだ。
森の風が身体を駆け抜ける。
重力に逆らって私の内臓が一気に浮き上がる。
やっば、調子に乗りすぎた!!
だん、と大きな音を立てて私の両足は真下に走っていた橋を踏みしめる。
周りの人達が何事かと私を見ている。
あ、脚が、痺れる。でも、ここでそんなこと言ったら、絶対かっこ悪い。
私は自分の脚を無理矢理動かして、駆ける。そして再び――飛んだ。
一度経験したら後は楽だ。着地直後ちょっと、ううん、すっごく足が痛いだけ。
でも、それさえ我慢すれば階段を上り下りするよりよっぽど早い。
着地する度に男達の姿がどんどん大きくなっていく。
階段を駆け上がり、一際長い橋に辿り着いた私はその中央から飛び降りた。
そして――
通路を走る男達の真ん前に、私は降り立った。
「アンタたち、待ちなさ――ったぁあ!?」
激痛が私の右足首に襲いかかってきた。
ど、どっかで捻ったの?
やっば、今度こそ、調子乗りすぎた!
男たちは突如現れた私の奇行に目を白黒させている。
「そ、その荷物、置いてきなさい! アンタ達のじゃないでしょ!?」
余りの激痛に浮かんでくる涙を堪え、両手を大きく広げて男達の行く手を遮る。
「どきな、お嬢ちゃん、怪我するぜ」
もうしてる、多分。かっこ悪いから隠すけど。
そして多分、隠しきれていない。空気を読んでくれる悪漢で良かった。
「アンタ達こそ、怪我しないうちに諦めなさい!」
男の一人が舌打ちして、それが合図になったのか、それぞれ腰に携えていた細剣が抜かれていく。
「……抜いたわね。後悔するよ」
正直、右足は洒落にならないくらい痛いけど、我慢できないほどじゃない。
私が剣を抜いた瞬間、二つの剣閃が私に襲いかかってきた。
⑥【ソフィア】
左右から連続して男達の剣先が襲いかかってくる。
それを自分の細剣でいなしつつ、一度距離を置き、剣を回転させながら一気に攻め込む。
動く度に足首が痛むけど、戦えないほどじゃない。何年間もかけて練習し、培ってきた型が私の身体を動かしてくれる。
男の一人が剣を振るった瞬間、刀身同士を重ね合わせ……ると見せかけて身体を捻り相手の剣閃を避け、勢をつけたまま細剣を振り下ろす。
相手の手首が切り裂かれ、手に持っていた細剣が通路の端まで転がっていった。
男の叫び声を受けながら、私の意識はもう既にもう一人に移っている。
仲間がやられたことで、私の力量を感じ取ったのだろう。
焦燥を帯びながらも鋭い目つきで私を睨んでくる。
一瞬の間。
男が瞬きをした瞬間、私は動いていた。剣を回転させ相手の右手首を狙う……と見せかけてそのまま回転を続け、男の左側から首筋を狙う。
私の剣を受けるため男の剣が動いた。
この男、剣の技術はさっきの人間よりもたいしたことない。素人だ。足元ががら空きだよ。
相手を翻弄していた刀身の残像が、男の太股を切り裂き動きを止めた。
「諦めなさい。そこの盗んだ荷物置いて、とっとと私の前から消え失せろ!」
石畳に転がった男の剣を足で蹴り飛ばして、剣先を男の眼前に突きつける。
いつのまにか、周りには騒ぎを聞きつけて観光の人達が集まり男達を遠巻きに見つめている。
男達はお互いに顔を見合わせ、観念したのか何も言わずに立ち去っていった。
*****
「いやはや、ほんっとうに、助かったよ」
鼻の両側にそびえ立つ髭を生やしたふくよかなおじさんが、机を挟んで向かいに座った私とマシューに向けて、ニコニコと笑いかけてくる。
けれど私たちの視線は、テーブルの上に集中していた。自分の両手を動かすことだけに集中していた。
舌から受け取る至福の連続に酔いしれていた。
えびキノコの乳煮が優しく、でも芳醇な食欲をそそる匂いを立ち上らせている。
鶏馬《ルロ》と鶏馬《ルロ》大根の合わせ焼きがじゅうじゅうと音を立てて私たちに食べられるのを待っている。
香辛料を詰めたコゥクゥの姿焼きが運ばれてきた。給仕さんが切り分ける度に、綺麗に焼かれた皮がパリパリと心地よい音を立てる。
私たちの目の前にはご馳走が次々に並び立てられ、私たちのお腹に収まっていく。
食べきれない、食べきれないけどどんどん食べられる。
ちょっと待って。このスープ、ちょっと辛いけどすっごい美味しい! 熱々だけど、いくらでも喉の中に降りていく!
なに、この天国。
私は今、すっごい幸せだ!
「こんなに美味しいご飯、初めて食べた!」
マシューも目を輝かせながらご馳走にむさぼりついている。
「はっはっは。それは良かった。沢山食べなさい」
「うん! おじさんありがとう!」
男達が置いていった箱を持ち主であるおじさんに返したところ、是非お礼がしたいと言われ町の中でも一段と高そうな食事処に連れて行かれた。
最初は遠慮したんだよ。だけどさぁ、丁度良くお昼ご飯の時間で、丁度良く私とマシューのお腹が大きな音を立てたものだから、断るに断れなくなっちゃった。
「お嬢さんも、足は大丈夫かな?」
「ええ、薬草がだいぶん効いてきたみたいです」
足をブラブラさせてみると、さっきまで響いていた痛みが嘘みたいに消えている。ご馳走を食べて回復したのかな。自分のことながら調子の良い足だ。
机の端から自分の足首をちらりと見てみると、薬草を固定している巻き付けられた布が見えた。
観光客の一人、見知らぬおばちゃんが私の足に巻いてくれたやつだ。
オジサンが言うにはそれなりに高い薬草らしい。もし、また会う機会があったらお礼言わなきゃ。
「これは私にとって大事な荷物でね。この中に全財産も入っていた。本当に君たちには感謝しているよ」
オジサンの両脇には私が悪漢から奪い返した木製の箱が置かれている。取っ手付きの高級そうなやつだ。
「たまたまねぇちゃんが居て良かったね」
腰に手を置き胸を反らせるマシュー。
「偉そうに。アンタ、なんにもしていないじゃない」
「僕だって、このオッちゃんのところに行って言ってやったんだからな。心配しなくても、ねぇちゃんが退治してくれるって」
「こら、初対面の紳士の方にオッちゃんとか言わないの」
「じ、自分だってオジサンって言ってたじゃん」
「はっはっは。構わないよ。好きに呼びなさい。ところで自己紹介が遅れたね。私はオーレンと申すしがない商人だ。中央都市から観光旅行に来ている」
「中央都市!? すげえ!」
中央都市は大陸一、文明が発展していると言われている都市だ。
商人ギルドの拠点で、大きな川に架けられた橋の上に街が置かれている……らしい。
橋とはいっても、その横幅はとてつもなく広い。面積だけで考えるなら、王都よりも大きいんだって。私もいつか行ってみたいと思っている場所だった。
「それで、君らの名前も聞いていいかな?」
「僕はマシュー。それで、この凶暴なのはソフィア――ってぇ!」
マシューは私が蹴り飛ばした自分のふくらはぎを摩っている。
凶暴ってなによ。これでも外面は大人しくしているんだからね。
「私たちもこの町には来たばかりなんです。それまでは王都に居て……」
「なるほど、王都。あそこも発展した良い街じゃないか。何度か行ったことがあるよ」
「ホントに!? じゃあ僕ら会ったことがあるのかな?」
「はっはっは。そうかもしれないね。それで……」
オーレンさんが私たちの顔を交互に見比べる。
「君たちは姉弟なのかな?」
「うん、こっちがねぇちゃん!」
んなの見れば分かるわよ。
と、言おうと思ったけど、微笑ましそうに目を細めるオーレンさんを見てやめといた。
ありがたい話だけど、色んな人に、似ていないって言われる。
ほんと、この糞弟と似なくて良かった。
「君たちの親御さんは……何をされている方なのかな? いや、別に詮索しているわけではないよ。君たちの髪色が珍しかったものだから」
……ああ、なるほど。
私は隣に座るマシューの髪を見つめる。
艶のある真っ黒な髪。金色や赤色が多い大陸ではとても珍しい色だ。
お母さんのお父さん、私からするとおじいちゃんにあたる人が、生涯真っ黒な髪だったらしい。
私は会ったこともないし、何をしていたのか分からないけれど、多分、その人の遺伝だ。
「お母さんはこの町の雑貨屋さんで働いているよ。お父さんと色々あって今は離れて暮らしている」
「そうか……いや、変なことを聞いてしまったな」
オーレンさんが頭のてっぺんの禿げた部分を私たちに見せつける。別に謝るようなことじゃないのに。
「お詫びと言ってはなんだが、良い物をあげよう」
オーレンさんが自分の荷物をごそごそと漁り、筒状の入れ物を取り出す。
蓋の部分が鉄で綺麗に細工された、いかにも高そうなやつだ。
筒の中心部分にはどこかで見たことがあるような紋章が描かれている。
「これを君たちにあげよう」
目をきらめかせるマシューと対象に、私は首を振る。
「こんな高そうなのいただけません」
「私にとってはたかが知れているものだよ。それに、全て失うところだったんだ。遠慮することはない」
「そんなつもりで行動した訳じゃ――あ、こら!」
「すっげー。オッちゃん、コレ、なんなの?」
オーレンさんから躊躇いもなく筒を受け取ったマシューが、ぽんっと蓋を開ける。
「聞いて驚きなさい……コレはね、宝の地図なんだよ」
宝の……地図!?
「っすっげー……ってコレのこと? 何も書いてないじゃん」
マシューが筒の中からボロボロになった羊皮紙を取り出す。
筒の中で丸まっていた真っ黄色の紙は裏も表も何も書かれていない。
「そう。ただの悪戯道具だよ。昔、私が騙されて買ってしまった商品さ」
なんだ、そういうことか。と高まった気持ちが治まっていくのを感じる。
「昔おじさんがコレを買った時にね、ある場所に行けば地図が浮かび上がると聞いて買ったんだ。オジサンも最初は楽しみにしながら旅をしたものさ。けれども……結果はご覧の通りだよ」
オーレンさんが小さく舌を出す。
「なんだ嘘かー期待して損した」
マシューも残念な気持ちを隠しもせず、地図を乱雑に丸めて元の筒に放り込む。
「いやいや、まだ分からないよ。オジサンは地図が浮かび上がる場所を見つけられなかったが、君たちはそうじゃないかもしれない」
オーレンさんはマシューを諭すようにゆっくりと続ける。
「いいか、君たちの未来はまだこれからだ。これからオジサンのように色んなところに旅ができる。オジサンよりも沢山の場所に行けるかもしれない。そうやって新しい、珍しい土地に辿り着いたら、ちょっとだけこのオジサンのことを思い出して、この地図を開いてごらん。そこで何も浮かび上がらなくてもいいんだよ。次に行く土地では地図が映るかもしれない……そんな『楽しみ』が新しく生まれるだけさ。そうやって『楽しみ』を繋げていけば、いつか君たちはお宝に巡り会えるかもしれないね」
なるほど。
オーレンさんの言葉を聞いて、何故、この人がこの品物を買ったのかその本心が分かった気がする。
オーレンさんも本当のところは宝の地図が浮かび上がるなんて信じてないんだろう。
それでも、この筒を持ち歩いている限り、常に『楽しみ』ができる。
“次に”もしかしたら、という期待が生まれる。
そのためにオーレンさんはこの地図を買って、こうして旅をする度に持ち歩いてたんだろう。
そして……
「私は君たちに、これからの『楽しみ』を託したい。駄目かな?」
その思いを、“次の”『楽しみ』と期待を託してきた。
そういうことなら、断るのは失礼ってものだよね。
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