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三章 ――白色の王子と透明な少女――
④<少女3> 『秘密の通路』
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⑦【ソフィア】
食後の甘いお菓子も終え、一通り満足した私たちはオーレンさんと別れ、我が家へと辿り着いた。
家の外はすっかり真っ暗になっていて、私とマシューはランプの灯りを頼りに何も書かれていない羊皮紙を眺めながら自分の意見を言い合っていた。
マシューはきっとどこかに浮かび上がる場所があるはずだ、と言い張り、明日にでもその場所を探しに飛び出していきそうな勢いだ。
私はもう少し現実的。オーレンさんが長い時間かけて見つけられなかった場所だ。もし、宝の地図が浮かび上がるような場所があるんなら、そう簡単にたどり着けるような場所じゃないはずだ。
きっと、誰も見たことのないような、そんな秘密の場所じゃなきゃ駄目だと思う。
因みにお母さんは今、この家にはいない。
泊まり込みになるって言ってたから、朝までは帰ってこないはずだ。だから、私たちの喧嘩を止める人はどこにもいない。
私たちは火の付いていない暖炉の前で、絨毯に転がりながら飽きずに言い争いを続け、いつの間にか眠りに付いていた。
――揺れている。
暗闇の中、私の身体が揺れている。
左も右も分からない空間で、激しく揺さぶられた頭が徐々に覚醒していく。
――!!
がばり、と起き上がった私は、すぐに状況を把握した。
周りの家具が、……ううん、家全体が激しく揺れている。
「……大変! マシュー! 起きて!」
「ううん……もう、お腹いっぱい」
「分っかりやすい夢みてんじゃない!」
「いってぇ!?」
マシューの頭を蹴り飛ばした私は椅子に立てかけてあった細剣《レイピア》を手に握り閉める。
「な、何!? 何さこれ!?」
起き上がったマシューが四つん這いになりながら混乱している。
「地震よ! 早く外に出るよ!」
「地震って何!?」
そうこうしているうちに、揺れはどんどん激しくなっていく。家の至る所が軋んでいく。
私だって王都に居た頃に、本で読んだだけの知識しか持っていない。地竜が動いたせいで地面が揺れる現象とかそんな話だった。その本にも対処法なんてないと書いてあった。とにかく、建物から離れることが身を守る唯一の方法だとも。
身を縮めるマシューを引っぱたき、手を握り閉める。それでも動かない弟を引きずるように玄関から外に飛び出した。
「何……?」
外は昼間のように明るかった。風を切る音に混じって、ごうごうと聞いたことも無い轟音が辺りを満たしている。
玄関から離れた私は、恐る恐る振り返る。
「何……何よ、アレ!?」
私たちの住む家、その斜塔の上から眩い光が上がっていた。
光の柱が夜空に打ち上げられ、轟音を上げている。
その光の柱を中心に、夜空には輝く魔方陣が広がっていた。
ノカの町中を包み込めるんじゃないかってくらい大きい。
「ねぇちゃん、これも地震なの!?」
握る私の手に加わる力が強くなる。
「知らない。……こんな、こんなよく分からないの知らないよ!」
夜空に放たれる光の柱。そして広がり続ける魔方陣を呆然と眺める私たち。
回転しながら広がり続けていた魔方陣が、突如、ぱっと、消え失せた。
それとほぼ同時に、斜塔から放たれていた光の柱も消え失せる。
辺りが一気に静寂に包まれる。待ち構えていたかのように、虫の鳴き声が上がり、遠くから鳥の鳴く声が聞こえてきた。
変わらない風景。変わらない光景だ。私たちの家はいつも通りの平穏に無理矢理戻された。
「……も、もう大丈夫かな?」
「分からないよ。でも、家も壊れてないし、大丈夫かな?」
地面の揺れもいつの間にか治まっている。今のところは家が倒れそうな気配はないし、私たちの寝る場所はここだ。戻るしか、選択肢はないかも。
意を決して家の中に入った私たちを待ち受けていたのは、後片付けの山だった。
どこもかしこも、部屋中の家具が倒れ、物が散らばっている。
私たちは手分けして、ランプの灯りを頼りに家具を元の場所に戻していく。
壊れてしまった物もあるし、全部を直すことはできないだろうけど、お母さんが帰ってくる前にある程度片付けておきたい。
「もー……なんでっ、私がっ、こんなこと、しなきゃなんないのっ!?」
気合いを入れながら私の背丈より高い物置を元の位置に戻す。
よしよし、これでこの部屋はそれなりに――
「ソフィア! ちょっと来て!」
暖炉部屋の整理を任せていたマシューの声が聞こえてきた。
全く、片付けも一人でできないのかアイツは……。
⑧
「何? コレ……」
暖炉部屋、倒れた本棚の背に乗って、私は壁を見つめながら唖然とする。
本来であれば本棚の背が密接されていた筈の壁。その一部が壊れていた。
壊れているのはいい。大きな揺れだったから、他にもヒビが入っている壁とかあったし。
そうじゃない。
私が驚いたのはそこじゃない。
壊れた壁の先が、階段になっていたからだ。
のぞき込むと、長い階段がらせん状になっていて、暗闇の中を降っている。
「ね、凄いでしょ! 秘密の通路だ!」
意気揚々とマシューが言う。けれど、私はそう単純に喜べない。
「聞いた事あるよ。昔の聖堂は、戦争が起こった時のために、隠し部屋に避難できる秘密の通路があったんだって」
「じゃあ、それじゃない?」
「でも大抵、敵に見つかっちゃって、隠し部屋の中で皆殺しにされちゃうの」
「駄目じゃん!」
「それ以来、殺された人達の怨念が、その部屋に貯まりに貯まって、暗く恐ろしい物に変わっていくの。そして訪れる人を見つけた時は……――わっ!!」
突然の私の大声に分かりやすくビクリと身体を縮めるマシュー。
なんて、からかい甲斐のあるヤツだ。
「ふ、ふざけんなぁ!」
「あー面白い。ビクビクしちゃって。でもさっきの話、半分は本当だよ。多分この下、隠し部屋になってると思う」
「半分!? 半分ってどの辺までのこと!?」
訴えかけるマシューを無視して手持ちのランプを隠し通路の中に入れる。
無機質な石の壁と階段がランプに照らされて、不気味な雰囲気を醸し出している。
ゆ、幽霊とか出ないよね? あんな話しといてなんだけど。
かたん、と小さな物音が階段の奥から響いてきた。
マシューと顔を見合わせる。
「い、今の聞いた?」
「聞いた。ね、ねぇちゃん、見てこいよ」
「あ、アンタこそ男でしょ。見てきなさいよ」
「絶対やだ。ねぇちゃんこそ、男みたいなもんじゃ――ったぁ!?」
ぱんっとマシューの頭を叩く音が隠し通路の中でこだまする。
しょうがない。行くしかないのか。これが泥棒とかだったらマズイもんね。で、でも一人は嫌。絶対いや。
絶対行かない、と騒ぐマシューの首根っこを掴み、ゆっくりと階段を降りる。
私たちの出す音以外、物音は聞こえてこない。
ゆっくりと、ゆっくりと降りていくと、階段の終着点が近づいてきた。木で出来た両開きの扉が見える。扉の片方が少しだけ開いていて、隙間から青白い光が溢れている。
……青白い光ってなに?
ランプ油の光でもないし、ロウソクでもない。あんな光、私は見たことない。
まさか……本当に。
「ゆ、幽れっいってぇ!?」
「言わないでよそんなこと!」
「自分だって怖がってんじゃん!」
「怖がってない! い、行くよ?」
「う、うん……」
私たちは恐る恐る、開きかけていた扉から顔を入れ中をのぞき込む。
そこは小さな小部屋だった。ううん、中にある物が余りにも衝撃的で、そう見えたのかも知れない。
小部屋の中央には、土とも金属ともつかない素材の筒が、輪を描いて建っていた。私の背丈二人分よりも、大きな輪だ。
輪の所々から木の根っこのような触手うじゃうじゃと伸びていて、それが輪っか全体に気持ち悪い印象を与えている。
筒の真ん中には四角い箱が浮いていてクルクルと回転を続けている。青白い光はそこから放たれていた。部屋全体を照らすその光は、輪の中で水のように揺らめいている。
そして――床に視線を向けると――
男の人が倒れていた。
「な、なんか居る! なんか居るぅううう!?」
「く、苦しい! ソフィア! 苦しい!」
扉から顔を離し、マシューの首筋を握り閉める。なにあれ、なんでこんなところに人が倒れているの? いつから、居たの!?
「げほっげほっ、身体透き通ってないし、人なんじゃない?」
「だから! なんでこんなところに人が居るのよ!?」
そっちの方が怖いわよ。むしろ、幽霊の方がまだマシよ。
「知らないよ! 眠ってるみたいだし、近づいても大丈夫なんじゃない? ソフィアの恐がり」
幽霊じゃないと分かったからなのか、途端にマシューが調子づく。
アンタ、後で覚えていなさいね。
私たちは恐る恐る扉を開き、男に近づく。
青い光に照らされ、床に倒れている男は、遠目でも分かるくらい、仕立ての良い服を着ている。
背中にはマント。多分、身分の高い人だ。
真っ白な髪が青白い光に照らされて煌めいている。
目は瞑っていて、身動き一つしていないけれど、胸が浅く上下に動いている。
……死んではいないみたいね。
「……なんか、綺麗な人だね」
男の顔をまじまじと見つめていたマシューが素直な感想を述べる。
正直私もちょっとはそう思ったけど、状況が状況だ。それどころじゃない。
「マシュー、どうしよう。ここに置いとく……訳にはいかないよね」
「うん……でも、どうする? 起こす?」
試しに、男の頬を叩いてみる。……起きる気配がない。
……しょうがない。多分偉い人だし、見なかったことにはできそうにない。
「マシュー、そっち側持って。私たちの部屋まで連れて行こう」
男の腕を肩に回す。そんなに重い人じゃなさそうだし、なんとかなる。……多分。
「……本気?」
「本気。とっとと動け」
ぶつくさ言うマシューを尻目に、私は足に力を込める。
痛めていた脚の痛みがぶり返してくる。
ホント、なんなの、この状況。なんなの、今日は。
今日の私って、結構不幸じゃない?
食後の甘いお菓子も終え、一通り満足した私たちはオーレンさんと別れ、我が家へと辿り着いた。
家の外はすっかり真っ暗になっていて、私とマシューはランプの灯りを頼りに何も書かれていない羊皮紙を眺めながら自分の意見を言い合っていた。
マシューはきっとどこかに浮かび上がる場所があるはずだ、と言い張り、明日にでもその場所を探しに飛び出していきそうな勢いだ。
私はもう少し現実的。オーレンさんが長い時間かけて見つけられなかった場所だ。もし、宝の地図が浮かび上がるような場所があるんなら、そう簡単にたどり着けるような場所じゃないはずだ。
きっと、誰も見たことのないような、そんな秘密の場所じゃなきゃ駄目だと思う。
因みにお母さんは今、この家にはいない。
泊まり込みになるって言ってたから、朝までは帰ってこないはずだ。だから、私たちの喧嘩を止める人はどこにもいない。
私たちは火の付いていない暖炉の前で、絨毯に転がりながら飽きずに言い争いを続け、いつの間にか眠りに付いていた。
――揺れている。
暗闇の中、私の身体が揺れている。
左も右も分からない空間で、激しく揺さぶられた頭が徐々に覚醒していく。
――!!
がばり、と起き上がった私は、すぐに状況を把握した。
周りの家具が、……ううん、家全体が激しく揺れている。
「……大変! マシュー! 起きて!」
「ううん……もう、お腹いっぱい」
「分っかりやすい夢みてんじゃない!」
「いってぇ!?」
マシューの頭を蹴り飛ばした私は椅子に立てかけてあった細剣《レイピア》を手に握り閉める。
「な、何!? 何さこれ!?」
起き上がったマシューが四つん這いになりながら混乱している。
「地震よ! 早く外に出るよ!」
「地震って何!?」
そうこうしているうちに、揺れはどんどん激しくなっていく。家の至る所が軋んでいく。
私だって王都に居た頃に、本で読んだだけの知識しか持っていない。地竜が動いたせいで地面が揺れる現象とかそんな話だった。その本にも対処法なんてないと書いてあった。とにかく、建物から離れることが身を守る唯一の方法だとも。
身を縮めるマシューを引っぱたき、手を握り閉める。それでも動かない弟を引きずるように玄関から外に飛び出した。
「何……?」
外は昼間のように明るかった。風を切る音に混じって、ごうごうと聞いたことも無い轟音が辺りを満たしている。
玄関から離れた私は、恐る恐る振り返る。
「何……何よ、アレ!?」
私たちの住む家、その斜塔の上から眩い光が上がっていた。
光の柱が夜空に打ち上げられ、轟音を上げている。
その光の柱を中心に、夜空には輝く魔方陣が広がっていた。
ノカの町中を包み込めるんじゃないかってくらい大きい。
「ねぇちゃん、これも地震なの!?」
握る私の手に加わる力が強くなる。
「知らない。……こんな、こんなよく分からないの知らないよ!」
夜空に放たれる光の柱。そして広がり続ける魔方陣を呆然と眺める私たち。
回転しながら広がり続けていた魔方陣が、突如、ぱっと、消え失せた。
それとほぼ同時に、斜塔から放たれていた光の柱も消え失せる。
辺りが一気に静寂に包まれる。待ち構えていたかのように、虫の鳴き声が上がり、遠くから鳥の鳴く声が聞こえてきた。
変わらない風景。変わらない光景だ。私たちの家はいつも通りの平穏に無理矢理戻された。
「……も、もう大丈夫かな?」
「分からないよ。でも、家も壊れてないし、大丈夫かな?」
地面の揺れもいつの間にか治まっている。今のところは家が倒れそうな気配はないし、私たちの寝る場所はここだ。戻るしか、選択肢はないかも。
意を決して家の中に入った私たちを待ち受けていたのは、後片付けの山だった。
どこもかしこも、部屋中の家具が倒れ、物が散らばっている。
私たちは手分けして、ランプの灯りを頼りに家具を元の場所に戻していく。
壊れてしまった物もあるし、全部を直すことはできないだろうけど、お母さんが帰ってくる前にある程度片付けておきたい。
「もー……なんでっ、私がっ、こんなこと、しなきゃなんないのっ!?」
気合いを入れながら私の背丈より高い物置を元の位置に戻す。
よしよし、これでこの部屋はそれなりに――
「ソフィア! ちょっと来て!」
暖炉部屋の整理を任せていたマシューの声が聞こえてきた。
全く、片付けも一人でできないのかアイツは……。
⑧
「何? コレ……」
暖炉部屋、倒れた本棚の背に乗って、私は壁を見つめながら唖然とする。
本来であれば本棚の背が密接されていた筈の壁。その一部が壊れていた。
壊れているのはいい。大きな揺れだったから、他にもヒビが入っている壁とかあったし。
そうじゃない。
私が驚いたのはそこじゃない。
壊れた壁の先が、階段になっていたからだ。
のぞき込むと、長い階段がらせん状になっていて、暗闇の中を降っている。
「ね、凄いでしょ! 秘密の通路だ!」
意気揚々とマシューが言う。けれど、私はそう単純に喜べない。
「聞いた事あるよ。昔の聖堂は、戦争が起こった時のために、隠し部屋に避難できる秘密の通路があったんだって」
「じゃあ、それじゃない?」
「でも大抵、敵に見つかっちゃって、隠し部屋の中で皆殺しにされちゃうの」
「駄目じゃん!」
「それ以来、殺された人達の怨念が、その部屋に貯まりに貯まって、暗く恐ろしい物に変わっていくの。そして訪れる人を見つけた時は……――わっ!!」
突然の私の大声に分かりやすくビクリと身体を縮めるマシュー。
なんて、からかい甲斐のあるヤツだ。
「ふ、ふざけんなぁ!」
「あー面白い。ビクビクしちゃって。でもさっきの話、半分は本当だよ。多分この下、隠し部屋になってると思う」
「半分!? 半分ってどの辺までのこと!?」
訴えかけるマシューを無視して手持ちのランプを隠し通路の中に入れる。
無機質な石の壁と階段がランプに照らされて、不気味な雰囲気を醸し出している。
ゆ、幽霊とか出ないよね? あんな話しといてなんだけど。
かたん、と小さな物音が階段の奥から響いてきた。
マシューと顔を見合わせる。
「い、今の聞いた?」
「聞いた。ね、ねぇちゃん、見てこいよ」
「あ、アンタこそ男でしょ。見てきなさいよ」
「絶対やだ。ねぇちゃんこそ、男みたいなもんじゃ――ったぁ!?」
ぱんっとマシューの頭を叩く音が隠し通路の中でこだまする。
しょうがない。行くしかないのか。これが泥棒とかだったらマズイもんね。で、でも一人は嫌。絶対いや。
絶対行かない、と騒ぐマシューの首根っこを掴み、ゆっくりと階段を降りる。
私たちの出す音以外、物音は聞こえてこない。
ゆっくりと、ゆっくりと降りていくと、階段の終着点が近づいてきた。木で出来た両開きの扉が見える。扉の片方が少しだけ開いていて、隙間から青白い光が溢れている。
……青白い光ってなに?
ランプ油の光でもないし、ロウソクでもない。あんな光、私は見たことない。
まさか……本当に。
「ゆ、幽れっいってぇ!?」
「言わないでよそんなこと!」
「自分だって怖がってんじゃん!」
「怖がってない! い、行くよ?」
「う、うん……」
私たちは恐る恐る、開きかけていた扉から顔を入れ中をのぞき込む。
そこは小さな小部屋だった。ううん、中にある物が余りにも衝撃的で、そう見えたのかも知れない。
小部屋の中央には、土とも金属ともつかない素材の筒が、輪を描いて建っていた。私の背丈二人分よりも、大きな輪だ。
輪の所々から木の根っこのような触手うじゃうじゃと伸びていて、それが輪っか全体に気持ち悪い印象を与えている。
筒の真ん中には四角い箱が浮いていてクルクルと回転を続けている。青白い光はそこから放たれていた。部屋全体を照らすその光は、輪の中で水のように揺らめいている。
そして――床に視線を向けると――
男の人が倒れていた。
「な、なんか居る! なんか居るぅううう!?」
「く、苦しい! ソフィア! 苦しい!」
扉から顔を離し、マシューの首筋を握り閉める。なにあれ、なんでこんなところに人が倒れているの? いつから、居たの!?
「げほっげほっ、身体透き通ってないし、人なんじゃない?」
「だから! なんでこんなところに人が居るのよ!?」
そっちの方が怖いわよ。むしろ、幽霊の方がまだマシよ。
「知らないよ! 眠ってるみたいだし、近づいても大丈夫なんじゃない? ソフィアの恐がり」
幽霊じゃないと分かったからなのか、途端にマシューが調子づく。
アンタ、後で覚えていなさいね。
私たちは恐る恐る扉を開き、男に近づく。
青い光に照らされ、床に倒れている男は、遠目でも分かるくらい、仕立ての良い服を着ている。
背中にはマント。多分、身分の高い人だ。
真っ白な髪が青白い光に照らされて煌めいている。
目は瞑っていて、身動き一つしていないけれど、胸が浅く上下に動いている。
……死んではいないみたいね。
「……なんか、綺麗な人だね」
男の顔をまじまじと見つめていたマシューが素直な感想を述べる。
正直私もちょっとはそう思ったけど、状況が状況だ。それどころじゃない。
「マシュー、どうしよう。ここに置いとく……訳にはいかないよね」
「うん……でも、どうする? 起こす?」
試しに、男の頬を叩いてみる。……起きる気配がない。
……しょうがない。多分偉い人だし、見なかったことにはできそうにない。
「マシュー、そっち側持って。私たちの部屋まで連れて行こう」
男の腕を肩に回す。そんなに重い人じゃなさそうだし、なんとかなる。……多分。
「……本気?」
「本気。とっとと動け」
ぶつくさ言うマシューを尻目に、私は足に力を込める。
痛めていた脚の痛みがぶり返してくる。
ホント、なんなの、この状況。なんなの、今日は。
今日の私って、結構不幸じゃない?
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