群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ⑦<少女3> 『影の襲撃』

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⑨【ソフィア】
 喧噪が聞こえてくる。
 遠くから、沢山の人達の叫び声が聞こえてくる。
 暗闇の中、その叫び声に釣られ、私の意識は急速に呼び戻される。

「……はぁう!?」
 夢から目覚める瞬間、私の身体は一瞬だけ落下し、慌てて身体に意識を向ける。
 危なく倒れ込むところだっ――。

「って寝てる!?」
 ま、まずい。お母さん達を見張るつもりが、いつの間にか眠っちゃってたよ。
 だってなかなか出てこないんだもん。木陰と涼しい風が心地よすぎて眠っちゃったよ。
 大丈夫かな。お母さん達、もう行っちゃったかな。

 私は大きく伸びをし、立ち上がる。
 その瞬間……気がついてしまった。
 森の町ノカ。その情景が、私が眠る前と大きく変わっている事に。

「……な、何アレ……」
 人間の子供程度だろうか、逃げ惑う人々を追いかける黒い影がいくつも蠢《うごめ》いていた。
 丁度マシューくらいの大きさなので、遊び相手を求めているように見える。
 周りの縁だけ白く輝き、橋を駆け、通路から通路に飛び移り、階段を飛び跳ねながら観光客に襲いかかっている。

 一人のオジサンが壁に追い詰められ震えている。手に持つ鞄を振り回した途端、異変が起きた。黒い影の持つ頭の部分が、ぱかりと開いたのだ。
 開いた頭は徐々に大きくなり、鞄を振り回すオジサンよりも大きくなる。

 遠く離れていたけれど、がぷり、という音が聞こえてきた気がした。
 二つに広がった大きな頭にオジサンは飲み込まれていた。
 すぐに子供の形に戻った影はしばらく咀嚼を続け、別の獲物を目指し橋を駆け出していく。

「大変……」
 何か分からない。私の理解を大きく超えている。分からないけれど、何か良くない事態になっている。
 何か悪いモノに町が襲われている。

 だん、と音を立てて私の目の前にある木箱に影が落ちてきた。
 影の身体は縁の部分だけが白く光っていて、それとは別に胸の中心辺りが丸く光り輝いている。

 咄嗟に私はレイピアを抜いていた。
 長く練習してきた型が、私の思考より先に身体を動かし、剣先が影の頭目指して風を切る。
 ぼんっと音を立て、レイピアが影の頭を貫通した。

「!!」
 て、手応えがない!?
 影の片手が大きく広がる。指先が大きく、鋭く伸び私目指し唸りをあげる。
 けれど、影の手は空を切った。私は既に背後へと大きく飛んでいた。――そして、

「な、何? なんなのアナタ!?」
 背後に飛びながら私は影の腕を二度切り裂いていた。人だったら肉が避けて骨が見えるくらいの深さで。
 けれども影の腕は無事だった。何事もなかったかのように私に襲いかかってくる。
 まるで空気を切るような手応えだった。でもさっきのオジサンみたいに向こうの攻撃は私に届くのだろう。鋭く尖った指で切り裂かれたら、怪我をすることが目に見えて分かる。
 影の頭が蠢《うごめ》く。大きく膨れ上がり、がぱりと真っ二つに割れる。

「そう簡単に――」
 私は既に、影との距離を詰めていた。
 大会の第三試合、繰り出す一撃一撃がやけに重い男の子を相手した時のことを思い出す。
 向こうが一撃必殺なら、私は手数で勝負だ。

「食べられると思うな!」
 高速で放つ突きが次々と影の身体を貫通していく。私の腕、そして細剣の残像が広がる。
 連続で繰り出される剣閃を受け、影の身体がみるみる削り取られていく。

 かつん、と剣先に小さな手応えを感じた。瞬間、異変が起こった。
 ぼんっと音を立て、影が小さく細かな粒に変化した。まるで光をあてた霧のようにきらめきながら散らばっていく。

「――っくりしたぁー!」
 突然のことに、私の身体は突きの体勢のまま固まる。
 光の粒は空気と溶け合い、霧散して消えていった。……だ、大丈夫そうね。変な攻撃かと思ったよ。心臓が飛び出るかと思った。

 気持ちを無理矢理落ち着かせ、状況を整理するため思考を張り巡らせる。
 攻撃して分かった。この影の弱点は身体の中に光る小さな光だ。そこを貫けば、影は消えて無くなる。

「そうと分かったら……」
 私のやること、そんなのたった一つでしょ!

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