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三章 ――白色の王子と透明な少女――
⑧<王子4> 『鳥の医師』
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⑩【ロキ】
「だいぶん、痩せているな。発症後、何日経過したんだ?」
レオンの案内を受け、診療所まで辿り着いた俺達三人は、向かえてくれた医師に連れられ診療部屋へと辿り着いていた。
男達が五人、ベッドに寝かされ並べられている。そのどれもが痩せこけ、閉じた瞼周り窪み、頬がへこみきっていた。
「丁度、二週間ですダ。一週間ほど前にここに来て面倒見てるんダけど、日を跨ぐごとにもうね、目に見えてやつれていくんで、可哀想で可哀想で。この早さだと後、二日か三日の命ダべ」
俺の隣に立つ、鳥を模したような妙なマスクを付けた医師が、妙なイントネーションで解説する。元の世界で言う、口先の長いペストマスクのような形状をしたマスクだ。顔と頭全体を覆っているので素顔が全く分からない。感染する可能性は低いといえども、万が一の措置だろう。
因みに案内してくれた二人は外に待たせてある。
「今んところ、この五名以外同じ症状の町人は見受けられません。ですんが、王子様、どうか念のためマスクを付けて下さい」
「必要ないと言ったはずだ。死ぬときは死ぬ。生きるべき時は死にたくても生かされる。人生などそんなものだ」
「そんな、不吉なこと言っちゃダメですダ!」
医師がぴょんぴょんと跳びはねている。
……なんか、鳥の翼みたいなマントを着けているし、まるで擬人化した鳥と話しているかのようだ。小柄だし、マスクを通った声からも察するに、まだ若い女のようだが。
……教会から派遣されてきた腕利きの医者の筈なんだがな。醸し出る雰囲気といい、まるでそうは見えない。
まあ、人は見かけによらないということなのだろう。
「どうも、悪夢を見ているみたいで、最初の頃は唸り声が酷かったんですよ。ネルネルはもう恐ろしくて恐ろしくて……」
「ネルネルとは?」
「あたしちゃんのことですダ。ネル=サークライド。名門サークライド家、長女にして天才かつ大発明家、美貌まで兼ね備えた、神様に愛された子とはネルネルのことですダ!」
「そ、そうか……」
翼のマントを翻し、クルクルと回るネルネルこと鳥女。
……さて、医師が色々と痛い人間だと分かったところで本題だ。
俺はこれから夢の中に入り、この病気を回復させる方法を探さなくてはならない。
目の前に並べられた五人の男達。その一人一人の夢へと入り込んでな。
「……この診療所には他に何人居る?」
鳥女がマントの先を顔の前に上げ、指……というか羽を折って数え始める。
……そのマント、どういう形状なんだ。何故指を羽に模す必要がある。
「多分、三人ですダ。ネルネルは他人を覚えるの苦手なもんで、自信はねぇけど」
「天才じゃなかったのか?」
「ネルネルは自分の興味があること以外、鳥頭なんですダ」
自信満々に言い放つな。胸を叩くな。
「……その三人は何者だ? 今どこにいる?」
「知らねぇダよ」
この鳥女……その変なマスクを引きちぎってやろうか。
「言われてみれば、最近はずっとネル一人でこの子ら看病していたダ。森のノカにでも帰ったんでねぇか?」
「……今から俺は治療に入るから、邪魔をされたくないんだ。ネル、お前も部屋の外に出てくれ。そして、他の三人がいるならば、絶対に入るなと伝えてもらいたい」
「治療? どうするんダ?」
「王家秘伝の治療だ、例え天才医師といえども伝えられる筈がない。分かったら出てい――」
「ではでは、この骸骨クン一号から頼むですダ。一番衰弱が激しくて可哀想で可哀想で」
鳥女が男の額を翼でぽんぽん叩く。
「あだ名が不吉! つうか、患者にあだ名付けるな! そして人の話を聞け!」
なんだこのイカレた女は。この俺が突っ込み役に従事するとは。
そして分かりやすくワクワクしているんじゃない。
しかし、どうするか。事前に調べてみた結果、指輪の力である『夢魔法』で夢の中に入り込むと、本体である俺の身体は眠ったままの状態になる。
その間、完全に無防備だ。何者かに襲われようものならば、抵抗一つ出来ずに首を刈られてしまうだろう。
だからこそ、念の為エストアとレオンを診療所には入れずに周辺警護に回した。
あの二人を信用していないわけじゃないが、レオン本人が言っているように、人間は裏で何を考えていても不思議じゃないからだ。
その理論に従うならば、この鳥女もそうなんだが……。
「……」
「いた、いただ!? なにするダ!?」
試しにマスクの端から生えた髪の毛を引っ張ってみる。
ついでに翼のマント越しに身体の側面を触っていく。
「ちょ、王子様こんなところで駄目ダべ!」
「ふざけるな。身体検査をしているだけだ」
というか、こんなところじゃなければいいのかよ。
……武器は何も持っていないな。変な格好をしているが、身体はただの細身の女だ。
……いくらなんでも、刺客を選ぶなら、こんなイカレた女を選ぶことはないだろう。
偽物の医師を選ぶにしても、いかにもそれっぽい医師を選ぶ筈だ。
つまりこの女は……ただの痛い女、もとい、ただの腕利きの医者だということだ。
「……しょうがない。ネル、秘密は守れるか?」
「ネルネルの口はミスリルより固いですダ!」
本当かよ。いまだかつてこれほどまでに信用できない言葉を聞いたことが無いんだが……。
だがまあ、こんなところでウダウダしている場合でもない。
指輪を取り出し、小指にはめ込もうとした瞬間、それは起こった。
診療部屋の扉が、勢いよく開かれたのだ。
「ロキ王子! も、申し訳ありません。ご、ご足、ご足労を……」
エストアが肩で息をしながら部屋の中に入ってくる。
「落ち着け、何か問題でもあったのか?」
エストアは明らかに狼狽していた。言葉を上手くはき出せず、口だけが動いている。
彼女はレオンと共に診療所の外で警護を頼んでいた筈だ。
外で、何かが起こったのだ。
それも、思慮から外れた出来事が。
「だいぶん、痩せているな。発症後、何日経過したんだ?」
レオンの案内を受け、診療所まで辿り着いた俺達三人は、向かえてくれた医師に連れられ診療部屋へと辿り着いていた。
男達が五人、ベッドに寝かされ並べられている。そのどれもが痩せこけ、閉じた瞼周り窪み、頬がへこみきっていた。
「丁度、二週間ですダ。一週間ほど前にここに来て面倒見てるんダけど、日を跨ぐごとにもうね、目に見えてやつれていくんで、可哀想で可哀想で。この早さだと後、二日か三日の命ダべ」
俺の隣に立つ、鳥を模したような妙なマスクを付けた医師が、妙なイントネーションで解説する。元の世界で言う、口先の長いペストマスクのような形状をしたマスクだ。顔と頭全体を覆っているので素顔が全く分からない。感染する可能性は低いといえども、万が一の措置だろう。
因みに案内してくれた二人は外に待たせてある。
「今んところ、この五名以外同じ症状の町人は見受けられません。ですんが、王子様、どうか念のためマスクを付けて下さい」
「必要ないと言ったはずだ。死ぬときは死ぬ。生きるべき時は死にたくても生かされる。人生などそんなものだ」
「そんな、不吉なこと言っちゃダメですダ!」
医師がぴょんぴょんと跳びはねている。
……なんか、鳥の翼みたいなマントを着けているし、まるで擬人化した鳥と話しているかのようだ。小柄だし、マスクを通った声からも察するに、まだ若い女のようだが。
……教会から派遣されてきた腕利きの医者の筈なんだがな。醸し出る雰囲気といい、まるでそうは見えない。
まあ、人は見かけによらないということなのだろう。
「どうも、悪夢を見ているみたいで、最初の頃は唸り声が酷かったんですよ。ネルネルはもう恐ろしくて恐ろしくて……」
「ネルネルとは?」
「あたしちゃんのことですダ。ネル=サークライド。名門サークライド家、長女にして天才かつ大発明家、美貌まで兼ね備えた、神様に愛された子とはネルネルのことですダ!」
「そ、そうか……」
翼のマントを翻し、クルクルと回るネルネルこと鳥女。
……さて、医師が色々と痛い人間だと分かったところで本題だ。
俺はこれから夢の中に入り、この病気を回復させる方法を探さなくてはならない。
目の前に並べられた五人の男達。その一人一人の夢へと入り込んでな。
「……この診療所には他に何人居る?」
鳥女がマントの先を顔の前に上げ、指……というか羽を折って数え始める。
……そのマント、どういう形状なんだ。何故指を羽に模す必要がある。
「多分、三人ですダ。ネルネルは他人を覚えるの苦手なもんで、自信はねぇけど」
「天才じゃなかったのか?」
「ネルネルは自分の興味があること以外、鳥頭なんですダ」
自信満々に言い放つな。胸を叩くな。
「……その三人は何者だ? 今どこにいる?」
「知らねぇダよ」
この鳥女……その変なマスクを引きちぎってやろうか。
「言われてみれば、最近はずっとネル一人でこの子ら看病していたダ。森のノカにでも帰ったんでねぇか?」
「……今から俺は治療に入るから、邪魔をされたくないんだ。ネル、お前も部屋の外に出てくれ。そして、他の三人がいるならば、絶対に入るなと伝えてもらいたい」
「治療? どうするんダ?」
「王家秘伝の治療だ、例え天才医師といえども伝えられる筈がない。分かったら出てい――」
「ではでは、この骸骨クン一号から頼むですダ。一番衰弱が激しくて可哀想で可哀想で」
鳥女が男の額を翼でぽんぽん叩く。
「あだ名が不吉! つうか、患者にあだ名付けるな! そして人の話を聞け!」
なんだこのイカレた女は。この俺が突っ込み役に従事するとは。
そして分かりやすくワクワクしているんじゃない。
しかし、どうするか。事前に調べてみた結果、指輪の力である『夢魔法』で夢の中に入り込むと、本体である俺の身体は眠ったままの状態になる。
その間、完全に無防備だ。何者かに襲われようものならば、抵抗一つ出来ずに首を刈られてしまうだろう。
だからこそ、念の為エストアとレオンを診療所には入れずに周辺警護に回した。
あの二人を信用していないわけじゃないが、レオン本人が言っているように、人間は裏で何を考えていても不思議じゃないからだ。
その理論に従うならば、この鳥女もそうなんだが……。
「……」
「いた、いただ!? なにするダ!?」
試しにマスクの端から生えた髪の毛を引っ張ってみる。
ついでに翼のマント越しに身体の側面を触っていく。
「ちょ、王子様こんなところで駄目ダべ!」
「ふざけるな。身体検査をしているだけだ」
というか、こんなところじゃなければいいのかよ。
……武器は何も持っていないな。変な格好をしているが、身体はただの細身の女だ。
……いくらなんでも、刺客を選ぶなら、こんなイカレた女を選ぶことはないだろう。
偽物の医師を選ぶにしても、いかにもそれっぽい医師を選ぶ筈だ。
つまりこの女は……ただの痛い女、もとい、ただの腕利きの医者だということだ。
「……しょうがない。ネル、秘密は守れるか?」
「ネルネルの口はミスリルより固いですダ!」
本当かよ。いまだかつてこれほどまでに信用できない言葉を聞いたことが無いんだが……。
だがまあ、こんなところでウダウダしている場合でもない。
指輪を取り出し、小指にはめ込もうとした瞬間、それは起こった。
診療部屋の扉が、勢いよく開かれたのだ。
「ロキ王子! も、申し訳ありません。ご、ご足、ご足労を……」
エストアが肩で息をしながら部屋の中に入ってくる。
「落ち着け、何か問題でもあったのか?」
エストアは明らかに狼狽していた。言葉を上手くはき出せず、口だけが動いている。
彼女はレオンと共に診療所の外で警護を頼んでいた筈だ。
外で、何かが起こったのだ。
それも、思慮から外れた出来事が。
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