群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ⑪<二人2> 『夢の魔族』

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⑬【ソフィア】
 光の煌めきが広場に広がっていく。
 黒い身体を瞬時に光の粒に変えていく子供達。白い閃光が影の子供達の間をすり抜け、霧散させていく。
 無駄のない動きで敵を突き殺すその美しい姿に、私は見とれる一方だ。

「流石は、私ね!」

『ここまで開き直られると、逆に清々しいね』
 私の脇に抱えられた紫の生物が呆れた声を出す。
 私だって自分を出すのはちょっとは抵抗あったんだよ。でも私より強い相手なんてそうそういないし。
 いたとしても、最も強い相手だなんて認めるの癪だし。

「ところで、コレってなんなの? アナタ、何者?」
 敵の数が減ってきたところで、沸いてきた疑問をぶつける。
 身体全体が紫の毛に覆われて、耳が大きく鼻が長い。ついでにことばを話す。こんな生物、私は見たことない。

『これは、夢魔法さ。夢を現実に変える夢魔法。キミは僕がいれば、思った物を好きな状況で出せる』

「魔法って、魔族が使うっていうアレでしょ? アナタ、魔族なの?」

『うん、さっきも言ったけど、僕は魔族だ。……僕の名前はメフィス。メア種のメフィスだよ』

「魔族って、こんなに小さいの? なんか、想像と全然違うから、信じられないんだけど」

『人間の想像がよく分からないけれど、今の僕はこっちの世界での仮の姿だ』

「こっちの世界?」

『うん、僕の本体は“魔界”に居る。この姿は、魔族の間では“幻獣化”と呼んでいる姿だ』
 ああもう、知らない単語が多すぎて、全然状況が分からない。分からないけど、とりあえず、この変な生き物は味方ってことでいいんだよね。
   
「あの変な子供の影はなんなの? 倒しても倒しても出てくるんだけど」

『アレも恐らく魔法の一種だと思う。多分、僕が探していた敵の魔法だ』

「敵の魔法? 他にも魔族がいるってこと?」

『うん。……あ、一匹、こっちに来たよ』
 メフィスが鼻で指し示した方向を見ると、“私”が撃ち漏らした影の子供がこちらに走ってきている。
 落ち着いてみたら可愛らしい相手だ。攻撃も隙が大きいし、普段の私なら難なく仕留められる。事実、影の子供は私の間合いに入った瞬間、細剣《レイピア》の一撃を受け、光の塵へと変化する。

 少し休めたお陰で、体力が少しは回復している。私二人分の手数があるなら、怖いものなしだ。

「あーもう、ホント、キリが無い! どうすればいいの?」

『向こうの魔力にも限りが有るはずだから、倒していればそのうち収まると思う。それか、本体を倒しに行くかだけど……』

「本体なんてどこにいるのよ。ノカの町だけでも結構な広さよ!?」

『状況が悪すぎる。今はやめておいたほうがいいよ。……それより』
 メフィスが耳をピクピクさせている。

『さっきから嫌な予感が凄くするんだ。何かが、こっちに向かってきている』

「そんな予感、もうとっくに的中しているでしょ! 不吉なこと――」
 大地が大きく揺れる。ううん、ここは大地じゃない。枝の上だ。
 ノカの町全体が大きく揺れている。枝が、古木が激しく揺れている。

 まるで暴風が押し寄せてくるような轟音が近づいてくる。

 どんっと大きな音を立てて、それは町の下から噴き上がってきた。
 巨大な赤色の何かがもの凄い早さで上空へと通り抜け、直後橋や通路のいくつかが崩れ、落下していく。

「……はぁ!? 嘘でしょ?」
 それが何か把握できた瞬間、私の目は見開かれた。恐怖が一気に私の身体を駆け抜ける。

 それは大きな翼竜だった。
 緑色の両翼は町を包み込めるんじゃないかと思うほど広い。赤い身体は傷だらけになっていて、所々血を噴き出している。
 鋭い棘が付いた紫色の尻尾が恐怖を増幅させる。
 
『ワイバーン……あんなものまで、用意していたのか』
 メフィスが絞り出すように震えた声を吐き出した。


⑭【ロキ】
 夜の町ノカ。過去に暗闇の森を開拓し、広げた町にも当然のように『教会』が介入し、聖堂が建築されたようだ。
 そして、町が捨てられるとともに、聖堂もその役割を終えた。民衆の心の拠り所という教会本来の役割だ。
 だが、この夜の町に建築された聖堂には、もう一つの役割が残っていた。
 それは即ち、新しい町『森の町ノカ』と『夜の町ノカ』を昇降機で繋ぐという役割だ。

 『森の町』へと向かったワイバーンを追うため、聖堂へと入り込んだ俺達四人は昇降機の前で立ちすくんでいた。
 それ以上、進むことは敵わなかった。

 何故なら、『森の町』へと繋がる昇降機がその役目を全うしてしまっていたからだ。

 上部に取り付けられた太い鎖が全て千切れ、自重で落下した鎖の重みに耐えきれなかったのか、昇降機の箱は粉砕していた。

 エストアが腹に手を置きながら蒼白な顔を上げ、それをネルが心配そうに見つめる。
 ワイバーンの一撃を食らった彼女だったが、気迫で立ち上がり、ネルの制止も聞かずにここまで来ていた。
 森の町で目覚めたとき、ベッドの横に座っていた黒髪の少女を思い浮かべる。
 エストアは自分の身体より、森の町に残したあの少女のことが心配なんだろう。

「……クソっ!! ワイバーンの仕業か」
 レオンが近くにあった鎖に蹴りを入れる。だが固く重い鎖はびくともしない。

「あまり物にあたるな。昇っている途中で落ちなかっただけ幸運だった」
 実際高層ビルもビックリの高さを持つ昇降機だ。途中で鎖が切れ、落ちていたら俺達の命は無かっただろう。

「……良く落ち着いていられんな王子様。こんなデカい鎖を千切るヤツだぜ。急がねぇと『森の町』は全滅だ」

「いや……違うな」

「……違う?」
 俺だって落ち着いているわけじゃない。戻れるのならばすぐにでも戻り、警告したい気分だ。

 魔物が出るはずのない場所で翼竜が出現した。
 魔物よけが効果を失っていた。
 そして、昇降機が使えなくなっていた。
 それらの異常事態が指し示すものは一つだ。

 『森の町ノカ』に敵意を持った存在がいる。

 明らかに何者かが、攻撃を行っている。
 過去の経験からだが、異常事態が発生した時こそ、状況をキチンと把握することが近道になったりするものだ。

「この鎖を見ろ」
 俺の目の前には切れた鎖の先が横たわっていた。
 切れた部分に目を向けると、切断面が綺麗な水平になっている。

「……まるで鋭利な刃物で切り抜いたかのような切断面をしている。これをワイバーンがやったとは、到底思えない」

「……では、誰が……こんなことを」
 エストアの言葉に俺は首を振る。そんなもの、ここに居る俺に分かる筈はない。

「誰がやったにせよ、この昇降機が駄目だってんなら、後は遠回りで地道に戻るしかねーな。急いで走っても、半日はかかる」

「そんな……」
 エストアがこの世の終わりといった表情になっている。半日も放置していたら森の町は全て無くなっているんじゃないか?

「手負いの人間がいることを考えても、丸一日かかると踏んでいた方が良さそうだな。……だが、他に選択肢がないのなら、その道を選ぶしかない」

「い、嫌です! レオン、あなた管理者でしょう!? 他に道はないの? 他に方法はないの!?」

「誓って言うが、他に道はねーよ。エストア、お前はコイツらと少し休め。俺だけなら、もう少し早く向かえる」

「あの子の身が危険に晒されているのに、自分だけ休めというの!?」

「じゃあどうしろってんだよ!」
 その時、二人のやりとりを見守っていたネルがおずおずと翼、もとい手を上げる。

「あ、あの~」
 だが、声が小さいのか、二人とも自分たちの世界に入っているからか、反応がない。

「……どうした、ネル?」

「お二人の話さ聞いてたんだけど、要するに上の町に行ければ良いんですよね?」
 その言葉に、二人は口げんかを止める。
 ネルに視線が集中する。

「だったら、方法はあるですダ」

「……何か思いついたのか?」
 俺の言葉に、ネルが自分の胸をどん、と叩く。
 そして、言った。

「この天才かつ大発明家、ネルネルに任せるダ!」

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