群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

文字の大きさ
66 / 147
三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ⑫<少女5> 『ワイバーン戦②』

しおりを挟む
⑮【ソフィア】
「どどどど、どうしよう! どうしようメフィス!?」

『く、苦しいっ! 苦しいよ!』
 あまりの衝撃についメフィスを抱える力が強くなる。

 森の町ノカの上空に、巨大な翼竜、ワイバーンが羽ばたいている。
 甲高い嘶《いなな》きがノカの町を包み込み恐怖に陥れる。
 もう町に居た人達のほとんどが家の中に隠れているけれど、この鳴き声と翼が風を切る音は聞こえている筈だ。
 ワイバーンは時に古木にぶつかり、太い枝をへし折りながら飛び回っている。優雅にはほど遠く、怒気に包まれていた。

「あんなの勝てるはずがないじゃない! 空にいるのにどうやって攻撃するのよ! 出すならもうちょっと倒せそうなヤツ出しなさいよ!」

『僕にそれ言ってもどうしようもないよ!?』
 まだ見ぬ敵に怒りがふつふつと沸いてくる。
 あんな化け物、十三歳の女の子に倒せるわけがない。もう尻尾を巻いて逃げるしかない。

 けどね……けどね、
 さっきまでこの町を駆け巡って、影の子供を倒してきたから分かる。

 今、この町で戦えるのは私だけだ。
 ここで私が逃げたら、森の町の人達は全滅しちゃう!

「……やるしかないよね。やってやろうじゃない!」

『やっちゃうの!? キミ馬鹿なの!?』
 てっきり逃げるつもりだと思ったのだろう。メフィスが驚愕の声を上げる。

「メフィス、夢魔法って何が出せるの? アイツよりおっきなドラゴンとか出せたりする?」

『キミがアイツよりおっきなドラゴンを見たことがあるならね』

「そんなのあるわけないじゃない!」

『キミが言い出したんだよ!?』
 融通の効かない魔法だ。

『それに夢の中と違って、現実の世界で出す夢魔法の幻影は大きくなればなるほど、出せる時間が短くなる。あの大きさってなると、出せて瞬き一回分くらいかな』

「じゃあ、あのワイバーンを出して倒すってのもできないんだ」

『ワイバーンの動きさえ覚えれば、出せるだろうけどすぐに消えると思うよ』
 時間制限があるんだ。ほんと、使えない。

「さっきは生き物……っていうか私を出したけど、物は出せるの?」

『キミが触った事がある物ならば出せる。けれど、気をつけて。今の僕の力だと……物でも生き物でも、同時に出せるのは一個だけだ』

「制限だらけじゃない! もう少し頑張りなさいよ!」

『文句言わないでよ! これでも頑張ってるんだよ』
 確かに、魔法の力を借りといて文句も言えない。言ったけど。
 大体分かってきたし、今ある力だけで、あのワイバーンをなんとかしなくちゃ。

    *****

『大丈夫? これってホント大丈夫なの!?』
 今の私の姿を見て、メフィスが頭の上から騒ぎ出す。
 うるさい、私だって心配だけど他に思いつかないからしょうがないじゃない。

 私の背中で大きな白い鳥、大白鳩《シェバト》が間の抜けた鳴き声を上げている。
 その大きな足で私の脇を抱え翼を大きく広げている。

 人間の子供くらいなら抱えられそうとか思ってたけど、まさか私が抱えられるとは思ってなかった。
 だ、大丈夫だよね。ほら、私って結構細身だし。自分では軽い方だと思ってるし!

「まずはアイツに近づかなきゃ何もできない。……いくよ!」
 目標はワイバーンだ。細剣《レイピア》の先を空飛ぶ翼竜に合わせる。
 私の号令に会わせ、大白鳩《シェバト》が大きく羽ばたき私の身体は浮かび上がった。

「凄い凄い! ……い、痛い痛い! 怖い怖い!」

『あぁ! もう! うるさいよ!』
 誰のせいだと思ってるんだ。両手使えるようにメフィスを頭に乗っけたけど、首に付けている首飾りの宝石が頭にガンガンあたる。
 そして、やばい。思っている以上に抱えられている脇が痛い。それに高い、怖い。
 え、なに、鳥っていつもこんな視点で物事見てるの? 馬鹿なんじゃないの?

 勢いよく浮かび上がった私は蛇行を繰り返しながらぐんぐんワイバーンに近づいていく。
 翼竜の方も、近づく私に気がついた。そして、すぐに敵だと察したらしい。
 口の中から炎が噴き上がる。

「マズっ! 大白鳩《シェバト》――!」
 上に飛んで。そんな私の思いが通じたのか、命令を発する前に私の身体が更に上空に浮かび上がる。
 私の足元を巨大な火球が通り過ぎていった。

『ひやっとしたよ。なかなか上手だね』
 頭の上に乗っけたメフィスが言う。

「うん、なんとなく……動かし方が分かってきた!」
 この夢魔法、結構便利だ。
 私が意識を傾ければ、思った事をしてくれるし、放っておいても自動で動いてくれる。

「結構私、魔法の才能あるかも!……って、ぅぁあああ!?」
 火球が次々に私に襲いかかる。それをすんでのところで避けながら、ワイバーンに近づいていく。

『ほらほら、調子乗るからー。また来たよ!』
 紅蓮の業火を飛び越え、ワイバーンの上空に辿り着いたところで大白鳩《シェバト》を消し、その大きな背の上に乗る。

「出てこい! 私!」
 細剣《レイピア》の先から生まれ出たもう一人の“私”と一緒になって、ワイバーンの頭を目指して走り出す。
 突風が私の身体を突き抜ける。身をかがめた瞬間それは起こった。

「ちょ、ちょ、ちょ!! 待って、待って!」
 背に乗った私たちを嫌がったのか、ワイバーンが回転を始めたのだ。
 上下に移り変わる景色の中、振り落とされないよう、ワイバーンの鱗に必死にしがみつく。

 そんな中、私は見た。
 森の上空に吹き飛ばされ、宙を舞う“私”の姿を。

「わ、私ぃいいいーーー!!!!」
 くそう。自分のことに精一杯で意識を向けてなかった。ごめんね“私”。この仇は絶対討ってあげるから。

 気を取り直してワイバーンだ。なんとか首筋あたりまで来たけれど、身動きが取れなくなっちゃった。
 別に何も考えていないわけじゃない。
 鱗が固すぎて細剣《レイピア》なんて絶対に入らない。やるとしたら目か口だ。だからこそ、頭を目指していたんだけど――

「ぉおう!?」
 ごおう、と轟音を響かせ、紫色の一撃が私の身体を横切る。
 ワイバーンの尾の一撃だ。
 ぎりっぎり、ギリギリ、すんでで気がついた私は、腕の力だけでその一撃をなんとか避けきった。
 心臓がバクバク言っている。

『尾の一撃に気をつけて。強力な毒があるから、かすっただけでも体中が溶けてなくなるよ』

「やめてやめて! 不安あおってくんなぁ!!」
 メフィスの空気を読めない発言に冷や汗が吹き出る。

「き、来た来た来た来た!!」
 丸太のように太い尾が唸りを上げ、先に付いた鋭い棘を振るってくる。私を突き刺そうと動き回る。
 腕の力が緩んだ瞬間、尾が私の身体に迫ってくる。

 まずい、避け、きれ――

「で、出ろぉ! 私!」
 細剣《レイピア》の先から“私”が生まれ、その瞬間、胸に鋭い尾の棘が突き刺さった。
 ぼんっと音を立て、散り散りになる“私”。穴が空いた服だけが風を受けて飛んで行く。

「わ、私ぃいいいーーー!!!!」

『……うん、キミはちょっと頭がアレなんだね』
 メフィスの失礼な言葉を受け流し、翼竜の首を伝って少しずつ頭に近づく。
 ごめんね“私”。後で一緒に美味しいもの食べようね。

 ワイバーンが首を振って嫌がっている。尾の先もここまでは届かないようだ。

「く、口は怖いから目をくり抜こうと思うんだ。何かいい方法無い?」

『僕はその発言の方が怖いけど、方法が無いわけじゃない。身体が小さくて、身軽そうで、そこそこ強くて攻撃手段もある、そんな存在をキミは知っているじゃないか』

「そ、そんな都合の良いの知らな――知ってるぅう!」
 メフィスの助言を受けて、頭の中を“アレ”が横切っていった。
 ワイバーンの登場のせいですっかり“アレ”の存在を忘れていたよ。

「で、出ろぉ! 『影の子供』!」
 細剣《レイピア》の先から赤い電が生まれ、形が整っていく。
 真っ黒な子供の影が、ワイバーンの首にしがみついた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜

沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」 中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。 それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。  だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。  • 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。  • 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。  • 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。  • オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。  恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。 教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。  「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」  鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。 恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!

処理中です...