群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ③<王子1> 『検分』

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⑤【ロキ】
「五人ともか?」

「そうですダ。ネルネルが帰ってみたら、こうなってたダ」
 夜の町、診療所独特のアルコール臭を感じながら、俺はベッドに寝かされ、並べられた五人の男達を見つめる。
 昨日まで痩せこけてはいたものの、生気を残した肌色が、土気色へと変わっている。

「『眠り病』患者が全員同時か……病死にしては出来過ぎているな」
 ワイバーンの死体を発見し、森のノカで一夜を明かした俺は、朝早く現れたネルに連れられ、引きずられるように夜のノカへと戻ってきていた。

「朝食後に向かおうとしていたんだが……確かに、これは緊急事態だな」
 試しに脈をとってみるも、反応はない。
 『眠り病』患者は、全て死んでいた。

「昨日見たときには、衰弱の進行度に違いがあった。確実ではないが、病死ではないだろう。……心当たりはあるか?」
 隣に立つ鳥女医者に確認する。
 相変わらず鳥の頭型マスクを付けているネルは、昨日とうってかわって、カラフルな翼型マントを着込んでいる。

「……ぱっと見ですが、涎草《よだれぐさ》を食べた時の症状に似てますダ」

「涎草《よだれぐさ》?」

「こう、フードを被ったような花の草ですダ」

「……トリカブト系の毒だな。また古典的な」
 この世界にもトリカブトに似た毒草がいくつかある。過去に王族の毒殺にも使われたことがあるようだ。
 ルスランでもその毒性は脅威に感じているらしく、自生していたら周辺含め焼き払われ、栽培していたら一族郎党の首が並ぶという代物だ。

「涎草なんて、中央都市レセルの闇市でも仕入れられない毒草ですダよ?」
 闇市を知っているのかお前は。そんなこと王族に言うな。

「……なんにせよ、舐めてかかっているうちに、先手を打たれたな。少しのんびりしすぎたようだ」
 ワイバーンに襲われた町の後始末に追われ、眠り病調査を後手に回してしまっていた。
 その結果、何者かに先を越されたということか。

「んでも、この子らを毒殺する理由は?」
 そこだ。誰がやったにしろ、毒殺であるからには人間が手を下している。

 病気の蔓延を怖れた住人の仕業か?
 それにしては、決断が早すぎる。まだ伝染するかどうかも不明な奇病だ。病人ごと死滅させようなど、気が早いもいいところだ。

 ……そもそも、ここに眠り病患者が運び込まれているなんて、一部の人間しか知らないことだ。
 もし、感染を怖れての行動ならば、やってしまった人間は数名にまで絞り込まれてしまう。毒草を使うのであれば、自分の犯行だとバレないよう考えるはずだ。今のタイミングはリスキーすぎる。

「……眠り病を調べられると困る人物がいる。そう考えるのが自然だろう」
 結局はそう結論づけられる。昨日から考えてはいたことだ。そう考えれば今回の件然り、ワイバーンが真っ直ぐ俺達に向かってきたこと、昇降機が破壊されていたこと、全て説明は付く。

「はへぇ~。病気を治したら困るですダか。治らない病気が治れば、皆喜びそうですのに」

「……普通であれば、そうだな。……どれ、ネル、ちょっと手伝え」
 男の死体にかけられていた毛布を勢いよくはぎ取る。

「へ? 手伝えって何をですダ?」

「……この男の服を脱がすんだ」

「ふ、服を!?」

      *****

 眠ったまま死んでしまったため、夢の中を調べることはできなくなってしまった。
 だが、男達の身体はここにある。

 俺は刑事でも医者でもないが、それでももしかしたら、手がかりの一つや二つあるかもしれない。
 そんな考えで抜がした訳だが――。

「男の裸体は見ていて楽しいものではないな」

「見慣れれば、そんなこと言ってられないですダよ」
 ガタイの良い男の裸体がベッドの上に横たわっている。
 顔は痩せこけていたが、身体はなかなかどうして、立派じゃないか。

「腹の横に切り傷があるな。いつ頃のものかは分かるか?」

「ん~、皮膚の伸びっぷりからですが、まだこの人が子供の時の傷ですダ。切り傷……それも剣で切られた傷に間違いねぇダな」

「剣? この辺りで戦争なんてあったか?」

「小競り合いすら無かったはずですダ。ネルはここに来る前、ざっと歴史を調べて、安全そうダと踏んだからこそ依頼を受けたんですダよ。間違いねぇダ」
 なるほど。確かに、その辺りの危機管理能力はしっかりしてそうだ。

「……歯は綺麗なものだな。治療跡もない。普段、良い物を食べていない証拠だ」

「確かに、貴族は歯がボロボロだったりすんけんど、この町の住人はそこそこ良いものを食べてますダ」
 確かに、俺もここの食事にありついたが、森の恩恵なのか、どの料理もやけに旨かった。

「ネル、お前が戻ってきてこの死体を見つけた時、死後どの程度経っていたかは分かるか?」

「顎の筋肉は硬くなってたけんど、身体全体はまだ良く動いてただ。死後二、三時間ってとこダ」
 死後硬直を理解しているのか。流石だな。天才を自称するだけのことはある。

 それにしても、二、三時間か。

 俺達はワイバーンと戦った後に、聖堂に向かい、そこから戻って気球を使った。
 そして『森の町』でネルと分かれて、俺は町の復旧作業に参加した。

「……ネル、昨日俺と別れた後、寄り道とかはしていないのか? 拾い食いとか」

「ネルネルはそんな食い意地張ってないダ! 真っ直ぐ戻ったダよ」
 そしてそこでネルは死体を発見した。
 逆算して考えると、コイツらが毒殺されたのは、丁度俺達が『夜のノカ』聖堂から気球を使うために診療所へと戻っている途中くらいか?

 最悪、俺達が気球の前でごたついている間、何者かがこの診療所に潜んで様子を伺っていたのかもしれない。

「……手の平の薬指から小指にかけてタコができているな。……斧でも使っていたのか?」

「斧なら両手にタコができるダ。この人は右手だけだから剣ダコダべ」
 剣だと? 確かに、剣士らしい引き締まった体つきをしているが。
 胸板も厚く、腹筋も割れている。

 それに――

 ……。うん? 待て待て。

 ……。やはりそうだ。間違いない。

「なぁにをマジマジと見てるんダ」
 ネルが呆れた声を出す中、俺の視線は一点に集中していた。
 あまり見たくもない男の一部分を見つめ、確信する。

「……割礼だと」

「ああ――」
 ネルがぽんと手を叩く。

「そういえば、ネルネルも気になってたダ。この子ら全員そうダよ?」

「コイツら、全員!?」
 割礼とは……あー、説明が難しいが、男のアレ……一物の先の皮をちょん切る宗教儀式だ。
 この世界でも昔は『教会』が主導してやっていたらしいが、現在ではほぼ見かけない。
 今でも割礼をやっているヤツらなんて、熱狂的な信者か――


 ――あー……、


 ――ああ、嘘だろおい。


「……ネル、ちょっと尋ねていいか?」

「今は彼氏いないダよ?」

「違う! 知ったことか! そうじゃなくて……ここに来る前のことだ」

「ここに来る前?」

「そうだ……お前は、誰に、なんと言われて、頼まれてここに来た?」
 ネルが顔を上に向け、手をパタパタさせながら考えている。

「えー、確かこうだったダよ。『森の町に、眠ったまま起きない男達が居るから、治療に向かってくれ』。そう『教会』のお偉いさんに言われたダ」
 やはりな。
 そうか……そういうことか。

「あの、金髪ペテン師め……」
 ここに来る前、金髪チャラ導師と交わした会話を思い出す。

――「教会として拾えているだけでいい、現在の患者はどれくらいだ?」

――「五人。ここから西にずっと行ったところにノカって町があるんだけど、発症した人間は今、その地方にしかいない」

 発症した人間は今、その地方にしかいない。
 俺はそれを、そのままの意味で解釈した。
 町の住人が発症したと解釈した。

 ……それこそが、あの金髪の罠だった。

「何故、『教会』が主導して『眠り病』治療に力を入れていたのか、その本当の理由が理解できた――」
 疑問符を浮かべるネルに向け、俺はこう、結論づけた。


「コイツらは……全員『教会』の戦闘員だ」

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