群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

文字の大きさ
71 / 147
三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ④<王子2> 『束の間の雑談』

しおりを挟む
⑥【ロキ】
「通信石……ですか?」
 俺にお茶を持ってきた少女が目をパチパチさせる。
 黒髪で浅黒の肌が活発そうなイメージを与えている、聖堂に住まう女の子だ。

「ああ。ちょっと……文句を言ってやりたいヤツがいるんでね」
 気球で『森の町』まで戻ってきた俺は、遺体を埋めるというネルと別れ、ねぐらにしている聖堂まで戻ってきていた。
 てっきり、エストアが戻ってきていると思っていたが、まだ帰ってきていないようだ。現在この住まいには、俺とこの女の子しかいない。

「難しいですね……通信石は貴重なので、今、この町にはどこにもないと思います。……申し訳ありません」
 テーブルを挟んで、俺の向かいに腰掛けた少女が顎に手を置き考えている。
 やはりそうか。電話のように石と石を繋ぎ会話ができる通信石だが、貴重な上に戦争の気配があるせいで、本国《ルスラン》がかき集めている最中だ。
 もしあれば、あの金髪チャラ導師に文句の一つでも言ってやりたかったんだが。

「そうか、今、この町で起こっている事件の手がかりにはなるかもしれなかったが……まあ、無ければ無いで、構わないさ。謝ることはないよ」
 何故『教会』の戦闘員が五名もこんな場所で奇病に冒され眠っているのか。あの金髪ペテン師ならばその回答も持ち合わせていたのだろうが、他にもアテがないわけじゃない。

 この少女の母親役である、エストアだ。
 エストアとレオンは『教会』関係者だ。そして、あの二人は『眠り病』患者が『教会』の戦闘員であることを把握していた可能性がある。


――「ならば、知っているな。『眠り病』に侵されたこの町の住人が、『夜のノカ』のどこかにいるはずだ。そこまで案内してもらいたい」

――「この町の……?」


 夜のノカ管理人のレオンと出会った時の会話を思い出す。
 あの時、レオンは怪訝な顔をしながらエストアを確認し、彼女もレオンに何か合図を送っていた。
 あれは恐らく、俺のセリフ、「この町の住人が」という部分を気にして見せた姿なのだろう。
 レオンはあの性格だ。仮に問い詰めたところで一筋縄ではいかないかもしれない。だが、エストアならば何か事情を聞き出せるかもしれない。
 そう推測を立てていた。

「お力になれずにごめんなさい……王子様は、今、この町で起こっている出来事をお調べなんですか?」
 のんびりとした口調が俺の心に安らぎを与える。そんな雰囲気が部屋を包んでいく。

「そうなってしまったね。……この町に起こった異変は、昨日のワイバーンだけじゃない。もっと前からその兆候はあったはずだ。……キミは何か気になったことはないか?」

「気になったことですか……?」

「なんだって構わない。ここで、妙な男達を見かけただとか、変わった存在を目撃しただとか」
 男達が『教会』の関係者ならば、エストアと会っていた可能性は高い。そう思って尋ねた事だったが、少女は予想以上に表情を硬くする。

 ……昨日から感じていたことだが、どうも、この子の相手は苦手だ。
 年頃の女の子ということもあり、会話一つとっても、変に気を遣わなくてはいけなくなってしまう。

 王子という立場もあるのだろう。俺は女の子からは妙に緊張されたり、距離を置かれてしまう雰囲気を持っているようだ。
 慣れ親しんだ女の子以外とは会話にならなかったりするので、関係を築くまでは苦労したりする。

「変わった存在ですか、……例えば、話すぬいぐるみとかでしょうか?」

「は、話すぬいぐるみ?」
 なんだそのメルヘンな存在は。

「……冗談ですよ。いたらいいですね。夢があります」
 予想外の回答を受けて焦る俺を見て、少女が微笑む。
 ……やっぱり苦手だ。こういう大人しい女の子は特に、裏で何を考えているのか全く分からない。相手の思考を読んで行動する俺からしてみたら天敵なことこの上ない。

「ワイバーンだって出るんだ。世界中くまなく探せば、そんな存在もどこかに居るかもしれないね」

「もし王子様が出会ったら、気をつけて下さいね。人の持ち物を盗んじゃう、悪い子みたいなので」

「……随分と、具体的に言うんだな。まるで会ったことがあるようだ」

「王子様は、私がそんなに子供に見えますか?」
 正直さっきの会話の所為もあり、ぬいぐるみどころか空想の妖精と会話しててもおかしくないくらい幼く感じるが……そのまま伝えるわけにもいかないのが、年上の男の辛いところだな。

「……誰だって子供なんじゃないかな。どんな大人でも、自分が大人だと見せているだけで、中身は子供のままだ」
 俺自身、二度の十六歳を向かえたが、自分が大人になった。変わったなんて思っていない。

「もしかしたら心というものは成長なんてしないのかもしれない。ただ経験を積んで、外面の……魅せ方が上手くなっていくだけ。だから、自分自身のことを、子供だと思うのは別に悪いことじゃない」

「……じゃあ、王子様は、本当の私は……どんな人間だと思います?」

「分からない」

「へ?」
 即答する俺がよっぽど意外だったのか間の抜けた返答が帰ってくる。

「キミが今こうして見せている一面とは、また違った一面があるようには感じる。話している内容とは全く別の、何かを考えているように思うときもある。でも、俺は魔法が使えるわけじゃないんだ。キミが今、何を考えているかなんて、キミだけしか分からない事だ」
 まあ、王族は『魔石』経由で魔法を使えるんだがな。心を読む魔法は持ち合わせていないから嘘ではない。
 俺の言葉に、少女の表情が和らいでいく。

「そうですね……そうですよね」

「だから、キミがもし、伝えたくなったら……本当のキミを、教えてくれ」

「ほ、本当の私……?」
 な、何故、顔を赤らめる。違う、そういうことじゃない。

「誤解させてしまったな。折角こうして知り合えたんだから、伝えたいことがあるなら、いつでも聞くし、経験からの助言もできるかもしれない。そう思っただけだよ」
 俺の言い訳も空しく、少女は褐色の頬を赤らめながら、自分の黒髪を手で撫でつける。

「本当のキミは、今見せている姿よりもずっとずっと大人なのかもしれない。なんなら不死の身体を持っているのかもしれない。実は絵本に出てくる『厄災』の仲間だったと言われても信じるよ」
 少女が吹き出し、にこやかに笑いかける。

「なんですか、それ。そんな人なんていないですよ」
 いたんだよ。そんなヤツがな。まあ、話したところで信じられないだろうがな。

「なんにしても、自分を隠して生きているとろくなことにならない。だから、信頼してくれるなら、いつでも話を聞くさ……もしキミが話せるぬいぐるみと知り合いなら、是非とも紹介してもらいたいしね」

「……その時は、考えておきますね」

「楽しみにしているよ」
 本当にこの年頃の女の子は、苦手だ。
 何を考えているのかさっぱり分からない。

  これ以上この子から得られることはない。そう判断した俺は少女と談笑を重ねながら次にするべきことを考える。
 ……まあ、先ずは熱気球とは別ルートで戻ると言っていた、エストアとレオンに事情を尋ねることが先決だな。帰ってきていればベストだったんだが、エストアが負ってしまった腹のダメージもある。帰りが遅くなってしまっているのだろう。

 転移盤《アスティルミ》の片道分は残っているから、ルスラン本国に戻り金髪チャラ導師のケツから腕を突っ込んで奥歯をガタガタさせてやるのもいい。

 だが、いかんせん転移盤《アスティルミ》は一度使えばしばらく使えない。
 転移石は宝玉《オーブ》の力が続く限り、何度も移動が行えたのに、大きな差だ。
 金髪ペテン師からの情報だからどこまで本当かは分からないが、気軽にこの町へ戻ることできないのならば、転移盤《アスティルミ》の使用は避けた方がいいだろう。

 後は、あまり好きではないが、足を使った聞き込みか。だが、一体誰に――

 思考が不意に止められた。
 隠す気も無いのだろう。壁越し、家の外側で複数の男達が足音を立てている。

「……少し、出かけてくるよ」
 唐突な俺の言葉に、可愛らしい瞳が瞬きを繰り返す。

「どこに行くんですか? もし良ければ、ご案内しますけど」

「あてもなく散歩をするだけだ。それには及ばないさ。ああ、紅茶、ありがとう。……後かたづけ、任せていいかな?」
 少女はうなずき、テーブルを片付け始める。

 ……よし、これで少しは時間が稼げるだろう。
 少しだけ寂しそうな笑顔を置いて、部屋を後にした。

        *****

「騒がしいな。レディと少し早めのお茶会を楽しんでいたんだ。少しは遠慮したらどうだ?」
 聖堂を囲み、窓から様子を伺うヒゲ面の男達に、軽口を浴びせる。

 ……全部で七人か。囲まれて攻撃されたらイチコロだな。
 だが、こういった輩は、放っておくと何をするか分からない。中に居る少女が襲われるよりも、俺に敵意を集中させた方がよっぽどマシだ。

「……第五王子ロキだな。ちぃっと、ツラを貸してもらおうか」
 聞く耳持たずか。せっかちなゴロツキだな。しかし、俺を誰か知りながらもその態度か。……これは少し厄介かもしれないな。

「あいにく、男と逢瀬を重ねる趣味はないんでね。ありがたい誘いだが、気持ちだけ受け取っておくよ」

「減らず口叩くようならば、中の女でもいいんだぜ。ガキには興味ねぇが、楽しませてやる」
 男達のゲスな笑いが広がっていく。

「……俺になんの用だ」

「なあに、俺達のボスが呼んでいるだけだ。聞きてぇことがあるんだとよ」
 ボスだと? 悪漢どもの頭に知り合いなどいないはずだが……。

「お前達は何者だ?」
 俺の質問に、男の一人が黄色い歯を見せニヤリと笑う。そして、言った。

「『灰色の樹幹』。この町をこよなく愛する、自警団だ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜

沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」 中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。 それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。  だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。  • 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。  • 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。  • 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。  • オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。  恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。 教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。  「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」  鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。 恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!

処理中です...