群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ⑥<少女3> 『模索、捜索』

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⑨【ソフィア】
「よっし、これでいいでしょ!」
 家族三人分の洗濯物を全て干しきり、一人満足感に浸る私。
 長い洗濯紐には大小様々な洋服が並び、日に照らされて着々と乾いてきている。

 私だってこの家の住人だ。お母さんが帰ってこないときは私が家事を色々とやらないといけない。

 お風呂のお掃除も終わった。私の家のお風呂は古い樽でできている。しゃがめば私の身体がすっぽり入って、まだ余裕があるくらい大きな樽だ。
 結構気に入ってるんだけど、油断するとすぐにカビる。
 一度カビてしまうと、頑固な汚れになったりするんだけど、『夢魔法』を使って王都で売ってた『頑固汚れ用の石けん』を出したらみるみる落ちたので、気持ちよかった。今や脱衣所にある全身鏡までピカピカになっている。

 眠っているメフィスを連れてきてやってみたんだけど、メフィスが寝てても普通に使えるんだね。夢魔法。

 あ、ちなみにメフィスが近くに居ない状態で夢魔法を使ってみたけれど、当然のように使えなかった。メフィスが眠ってても大丈夫だけど、私と身体が触れ合ってないと使えないみたい。

 床の拭き掃除も終わった。あ、そうそう。バケツが壊れていたから夢魔法で新しいのを出したんだけど……なんと、『水入りのバケツ』が出せた。
 夢魔法は一回につき一個だけしか何かを呼び出せない。水入りバケツって、正確には『水』と『バケツ』の二個だと思うんだ。

 試しに『お魚が沢山詰まったバケツ』を出そうとしたけど出せなかった。
 『王都でよく飲んでた檸檬《カルラ》氷水が入ったバケツ』を出そうとしたけど出せなかった。
 そこまでやって、メフィスが前に自分の見た物しか出せない、と言っていたことを思い出す。

 じゃあ……と、『空のバケツ』を呼び出して、貯蔵してあった野菜を詰めてみた。
 その後、『野菜が詰まったバケツ』を呼び出してみる。結果は……なんと出せた。

 ただし、中に入っている物は同じ種類の野菜じゃないと駄目。『色んな野菜が詰まったバケツ』は出せなかった。
 多分、夢魔法の一回につき一個だけってのは、私が一個として認識しているかどうかによるんだと思う。
 それでも便利だ。夢魔法って案外、融通が効くのかも。

 洗い物も終わったし、お洗濯も今終わったところだ。

 後は……。

 何処までも青が広がる大空を見上げると、太陽が丁度天辺あたりにきている。
 丁度お昼時だ。
 お母さんはまだ戻らない。王子様は朝からどこかに行ってしまい帰ってきていない。
 今この家には私の部屋に魔族のメフィスが、そして……弟であるマシューがいる。……はずだ。
 どちらも見つけたら家事を手伝わせようと思っていたのに、残念なことに朝から姿を見かけない。
 アイツら、いつまで眠っているのよ。

 階段を昇り、マシューの部屋の前に立った私は、大きく息を吸い込む。
 そして、勢いよく扉を開いた。

「こら! いい加減起き――ろ?」
 私の注意は最後まで言い切ることができなかった。
 何故なら、そこに居るはずのマシューは、部屋の中には居なかったからだ。
 そして普段からマシューの部屋に出入りしている私は、すぐにその異変に気がついた。

「た、大変!!」

          *****

『それで宝探しに行ったんじゃないかって?』

「うん……間違いないと思う……」
 マシューの部屋を後にした私はすぐに自分の部屋に戻り、ベッドで眠っていた喋るぬいぐるみこと、メフィスをたたき起こして空を飛んでいた。
 目的は、一人で宝探しに行ってしまったマシューを探すため。

『気にしすぎじゃないの? 町に行ったかもしれないよ』
 大白鳩《シェバト》が大きく羽ばたき続ける中、頭の上に乗ったメフィスが欠伸混じりに言う。


「お気に入りのバックもないし、オーレンさんから貰った地図もない。アイツ好みの干し肉入り瓶もなくなってるから間違いないよ」
 干し肉入りの瓶にいたってはこっそり私がほとんど食べちゃって、瓶の中身は数枚しか残っていないはずなのに。アイツ確認しないで持っていったな。

『でもどうするの? いくら空を飛んでいるからって、この辺り一帯をくまなく探すのは不可能だよ』

「マシューも少しは考えていると思う。どこに行くにしろ一度は町中に行って話を聞いたり、買い物したりすると思う。……お小遣い入れもなくなっていたし」
 ちょっと前に、半分くらい勝手に借りたけど、返したっけ……? た、多分こっそり戻したと思う。多分!

『町に行けば、合流できるかも……ってわけだね』

「……の前に、手がかり見つけたよ!」
 上空から町まで続く道を見つめると、荷馬車を走らせるおばちゃんの姿が見えた。
 少し離れた場所で森の中に降り立ち、大白鳩《シェバト》を消す。大急ぎでおばちゃんのところへと走った。
 ほどなく、おばちゃんの荷馬車が見えてくる。

「お、おばちゃぁああん!!」

「あら、ソフィアちゃん、どうしたの? そんなに慌てて」
 私を見つけたおばちゃんはわざわざ荷馬車を止めてくれる。

「はぁ、はぁ、マ、マシュー見なかった? 町の方に行ったと思うんだけど」

「マシュー君? ああ、そういえば見たわよ」

「ど、どこで!?」

「それが妙なのよ。隣にこの辺りじゃあまり見かけない女の人と歩いててねぇ。そりゃもう、細くて美人だったわよぉ。髪もサラッサラ」

「そ、そんなのいいから、どこで見かけたの!?」
 え、でも知らない女の人ってなに? アイツ、宝探しに行ったんじゃないの?

「この道をずっと戻って……三つ目……ううん、四つ目の曲がり道かしら。変な彫刻がされた大きな石が道ばたに置かれているの。そのあたりで女の人と仲よさそうに話をしていたわ」
 大変だ! と、通り過ぎちゃってた!

「ところでその頭のぬいぐるみどうしたの? 可愛いわねぇ」

「ご、ごめん、おばちゃん! ちょっと急いでて……ありがと!」
 おばちゃんに頭を下げ、おばちゃんが走ってきた道を戻る。
 誰も見てなさそうなところで、大白鳩《シェバト》に身体を掴んでもらい今度は低空飛行で滑走する。
 
「み、見つけた! アレだ!」
 おばちゃんの言っていた変な彫刻石はすぐに見つかった。
 道ばたに二つ並んで設置されていて、見ようによっては細長い人の顔にも見える像だ。
 私より背が高くて簡単には動かせないくらい重そう。
 間は確かに人が通れそうな枝に分かれているけれど、全く整備されていない。

「道っぽくないけど、ホントにこっちに進んだの?」

『本当に宝探しが目的なら、こういう道の方がそれっぽいけどね』

「それも……そうね!」
 大白鳩《シェバト》を使い木と木の間をすり抜け続けていると、すぐに開けた広場に差し掛かった。広場から先は土が露出していて、両側が崖になっている。
 その崖も少し先を見てみると先に道が繋がっていない。明らかな終着点だった。

「どうしよう。誰もいないよ! 私間違えた!?」

『ここに来る間に人影はなかったようだし、別の道を進んだのかな……』
 どうしよう。この辺りはモンスターが出ないって言うけど、確実なことじゃない。昨日町で出現した、影の子供も気になるし、ワイバーンだって出たんだ。小さな魔物だっているかもしれない。あの馬鹿もこんな大変な時期に宝探しなんてしなくてもいいじゃない。

 折角今日は悪の魔族をやっつけに行こうと思っていたのに。
 一度戻ろうか、そう思った私の目に、一つの物体が入ってくる。

「……メフィス、あの崖の先にある、丸いのって何か分かる?」
 崖に隣接するように円錐を逆にしたような物体が浮かんでいた。切っていないチーズを縦に並べたような形状だ。

『分からないよ。僕は人間世界のことには詳しくないんだ』
 人間世界でもそうそうお目にかからないわよ、あんなの。
 もしマシューがこの場所に辿り着いたあれば、あんな浮島みたいな物体を見逃すわけないし、調べるよね。
 そう思い近づいてみると、余計に訳がわからなくなる。

 上部は人が五、六は乗れそうなくらいの大きさで、平らになって水鏡のように光を反射している。足場がツルツルだ。
 対角線上に棒状になった四つの突起物があり、薄い赤と青で色づけされていた。明らかに人工物だ。

『弟君が隠れられそうな場所はないね』

「うん……でももしマシューがこれを見つけたんだとしたら、絶対調べないわけないんだよね」
 そう言いながら、試しに突起物を押してみる。……びくともしない。

『押して駄目なら引いてみたら?』

「いいこと言うじゃない。こんな感じ――か、え?……」
 思いの外、簡単に引き上がる突起物。私が引いたせいで、突き出た槍のようになっている。
 ガコン、と大きな音が丸い浮島の中から響いてきた。

『……あ~、なんか嫌な予感』
 同感だよ、メフィス。なんか変な音が大きくなっていくし、なんか揺れてる気がするし。

「気をつけて、メフィス」
 私は何が起こってもいいように、身を固め周辺を警戒する。
 がこん、と突起物の周辺が丸くへこみ、膝程度の深さまで下がったところで停止した。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……何もおこらないね」
 響いていた音も小さくなっていき聞き取れなくなる。

「な、なんだ。ビックリしてそんし――あばぅ!?」
 突如、浮島が脅威の早さで動き始めた。
 不意を突かれた私は浮島の上を転がり、別の突起物の前まで飛ばされる。
 咄嗟に、突起物を掴み飛ばされないよう体勢を整える。

「ちょっと……早い早い早い! 早い!!」
 そして頭の上に居るメフィスも飛ばされないよう私の髪を咥えているから痛い! ハゲたらどうするんだ!
 木々の隙間、枝の間を浮島がすり抜けていく。瞬きの度に風景が変わり、その速度は更に速くなっていく。
 私の全体重が乗り、突起物を掴んだ両手の力がみるみる抜けていく。

「ちょっ、ちょっ……ウソウソウソウソ!?」
 連なった枝の下をくぐり抜け、人一人入れそうな洞窟の中に入り更に加速する浮島。
 膨張した空気の塊が、私の鼓膜を刺激する。
 暗闇の中、何かねっとりしたものが私の顔に次々かかり、風ですぐに乾いていく。
 ぼんっと音を立て、洞窟の中を抜けた。と思った途端上下に激しく動きながら滑空を続ける浮島。
 や、やばい。私の全体重を支えるには、私の指は力不足だ。
 も、もう駄目、振り落とされ――

 指先が外れた。浮島においていかれ、宙を舞う私。
 大白鳩《シェバト》を出せば飛べるから死ぬことはない。けれど、あの浮島は大白鳩《シェバト》の何倍もの早さで飛行を続けている。
 もし、あの浮島にマシューが乗ってどこかに連れて行かれたのだとしたら――

 ――ここで見失うわけにはいかない!!

「出ろ! 『洗濯紐』!」
 腰から抜いた細剣《レイピア》の先から細長い電撃が走る。長く伸びた紐が浮島の突起物に絡まる。私は必死に紐の両側を掴み、振り飛ばされないように力を込める。

 ま、まだ!? もう結構長い距離飛んでるよ!? これでマシュー居なかったらホント承知しないからね。あの馬鹿ガキ覚悟しなさいよ! ってか……まだぁあああああ!?
 目まぐるしく変わる景色が一体なんなのか把握できないほどの早さで、私の身体を連れて浮島は移動を続けていた。

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