群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ④<少女1> 『真相①』

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⑦【ソフィア】
 格子の鉄柵と木目の壁。
 どれだけ見わたしてみても変わらない光景。

 一瞬の呻き声。その後に訪れる静寂。
 暗闇に包まれた牢獄に何かが倒れる音が届いてきた。
 しばらく耳を澄ませていると、足音が近づいてくる。
 
 がちゃりと、鉄の柵に付けられた扉が開かれた。

「お、王子?」
 扉の先には、白の王子が立っていた。

「ソフィア……良かった。無事だったか」

「う、うん……王子こそ、なんでこんなところに?」

「説明は後だ。すぐにここから出よう」
 慌てた様子で私の手を引き、廊下へと飛び出す。
 見張りのオジサンが床に倒れ、泡を吹いている。

「心配しなくてもいい。ちょっと眠ってもらっただけだ。……ああ、そうだ」
 王子が自分のマントを翻し、腰に差していた剣を鞘ごと手に持つ。
 見慣れた細剣《レイピア》だ。

「コレは君のだろう。途中の見張りが持っていた」

「は、はい……ありがとうございます」
 頭を下げながら細剣《レイピア》を受け取る。

「礼には及ばない。それより、その剣は抜いていた方がいい。……この場所を『影』が襲っている」
 影……町を襲っていた影の子供達ね。また現れて町を襲ったんだ。

「大変……みんなを助けなきゃ」
 私の言葉に、王子は首を振る。

「それをしても、終わりがない。……俺達は他に、するべきことがある」

「するべきこと?」

「……君らは、『夜のノカ』近くの洞窟で、一つの箱を手に入れたはずだ」
 昔の王様が現れた箱だ。確かにマシューが持っている。誰にも言ってないことなのに、なんで王子様が知っているんだろう。

「『燈《ともしび》のナルヴィ』を倒すには、その箱が必要だ。……今は、どこにあるんだ?」

「マシューの……弟の部屋です。でもなんでそれを――」

「すぐに向かおう。ナルヴィは狡猾で手強い。奴を倒すためには……あの箱が絶対に必要になる」
 王子様は『黒いローブの男』を探していた筈だ。なのに、いつの間にかナルヴィの事も、箱のことも知っている。……私が捕まっていたこともだ。
 ……実は私の事を見守ってくれていたんだろうか。だとしたら、……すごく嬉しい。

「……すぐに向かいましょう。――アレを倒してからですが」
 通路の先に目を向けると、階段を埋め尽くすほどの黒い影が、蠢きながら私達に襲いかかってきた。

        ****

「あった……やっぱりここだった」
 私公認のマシューの隠し場所、屋根裏から古くさい箱を取り出し、マシューの部屋に戻る。
 王子様が奪い取るように、私の手から箱を取り上げてきた。
 蓋を開けると、洞窟から帰ってきた時と同じように輝苔《カガヤキゴケ》が光煌めいている。

「これだ……間違いない」
 王子様の整った顔立ちが輝苔《カガヤキゴケ》に照らされる。

「ほんとうにこれで……ナルヴィを倒せるんですか?」

「ああ、……これは『封印の箱』。魔族の身体と意識を封じる魔法の箱だ」

「じゃあ、これを使えば――」

「ナルヴィを、再び封印することができる」

「よ、良かった……」
 安堵の息は、ナルヴィを倒せると分かったからだけじゃない。私達が苦労した、あの冒険も無駄じゃなかった。それが純粋に嬉しかった。
 宝箱の中身は空っぽだったけれど、箱自体が宝物だったんだ。

 それにしても――
 安心したからか、マシューの部屋を見わたす余裕ができた。
 マシューはあれで、きれい好きの筈なのに部屋中が散らかっている。

 泥棒が入った後みたいに物が散らばっていた。

 それは――まるで、何かを探している人が来た後のように――

 かたりと、私の背後から、何かを机に置く音が聞こえてくる。
 しゅるりと、何かを取り出す音が聞こえてくる。
 花の匂いが強くなる。

「どうかしたんですか? 王子さ――」
 振り向こうとした私の動きは止められた。
 何か細い物が、私の首に纏わり付いている。
 背後から強い力で絞められ、身体が浮かび上がる。私の全体重が首の周りにのしかかる。


 意識が――急速に失われていく。
 視界が、白くなっていく。


 首を細い紐で絞められた。私は、薄れ行く意識の中、そう感じ取る。

 誰がやっているのか、そんなこと考えるまでもない。




 私の――私の背後に居たのは――


⑧【ソフィア】
 だん、と大きな衝撃が私の背中に加わった。
 同時に首に巻き付いた紐が緩み、空気が私の中に急速に入り込む。

「……げほっがほっ……な、何故、何故なんですか……?」
 マシューの部屋を這い、振り返る。
 そこには、二人の男・・・・が居た。

 どちらも、白銀の髪を持った・・・・・・・・男の人だった。

 一人は日焼けした肌を持った知らない人。

 そしてもう一人は――

「何故なんです――何故、あなたが私を――」
 そうであることは確実だった。他に居なかったから。
 それでも、私はそうであってもらいたくなかった。

 彼であってもらいたくなかった。


 突如、私の家に現れ、一緒に晩ご飯を食べた。


 一緒に、お家の庭から見える森の夜景を見た。


 剣の稽古を付けてくれた。


 私の悩みを聞いてくれた。



 私の、大好きな人だった。


「何故なんですか! バルドル王子・・・・・・!!」
 ルスラン王国第三王子、バルドル様が、いつもの優しげな表情を脱ぎ捨てて、私に向かい、邪悪な笑みを浮かべていた。

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