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三章 ――白色の王子と透明な少女――
⑤<王子4> 『真相②』
しおりを挟む⑨【ロキ】
初めて見る郊外の旧『聖堂』は生活感溢れる民家に改装されていた。
斜塔付きなので、そこが聖堂であったことは一目瞭然だが、壁は新築同様のレンガ壁に変わっている。庭の端を見ると洗濯物が干され、遊び道具が放置されていた。
『ここがソフィアの家だよ。……本当にここにソフィアと“協力者”が居るの?』
脇に抱えたメフィスが心配そうに見上げる。幻獣化したメフィスはデフォルメされた象のぬいぐるみのような見た目をしている。
ぬいぐるみを抱えて町を走るのは少し勇気が要ったが、この緊急事態に文句も言えない。
「間違いない。奴は……“協力者”バルドルは箱を狙っている」
鍵のかけられていない扉を開くと、ガタン、と大きな音が二階から響いてきた。
間違いない。二人はここに居る。
「メフィス! 案内しろ!」
『う、うん!』
メフィスの案内に従い、階段を駆け上がる。
『あそこ! あの扉が弟君の部屋だよ!』
蹴り飛ばすように扉を開くと、驚愕の光景が映し出された。
バルドルが少女の首を紐で締め上げていた。
長い白銀の髪を持つ少女が宙に浮き、足をばたつかせている。
「ふざけるな! バルドル!」
俺は走ってきた勢いのまま、身体をバルドルに衝突させる。
肩に激しい衝撃が起こり、紐がバルドルの手から離れた。
少女が咳き込みながら倒れ込み、這うようにバルドルから離れていく。
「……げほっがほっ……な、何故、何故なんですか……?」
色白の少女が、うっ血しかけた顔を向ける。
少し癖が入った長い白銀の髪を振り乱している。
その赤い瞳から涙がこぼれ落ちている。
記憶とまるで変わらない、けれども少しだけ成長した、懐かしい顔を歪ませている。
「何故なんです――何故、あなたが私を――」
あの時の、夢の記憶が蘇る。
庭先で涙を浮かべていた、病弱そうな少女の姿が浮かんでくる。
「何故なんですか! バルドル王子!!」
世界から隠された、ルスラン王の末子。
夢を除外するならば、六年ぶりに再開する少女。
妹のソフィアが兄である、第三王子バルドルに向け叫び声を上げた。
⑩【ロキ】
ナルヴィの“協力者”はバルドルだ。
メフィスが経験してきた事を一通り聞き出し、分析した結果だった。
あの時……、『夜のノカ』聖堂地下の扉を開いた時、俺は強い花の匂いを感じ取った。
同時に懐かしさを覚えてしまった。
それこそ、あの日、夢の中で見た光景が俺の記憶を蘇らせてくれた。
馬車の中で嗅いだ匂いと全く同じ匂いだった。
バルドルが好んで付けている香油の匂いだ。
あのボンクラの匂いを嗅いで、懐かしさを覚えたことは不覚、というか胸くそ悪くてしょうが無いが、それで奴がこの町に居る事が推測できたのだから結果オーライなのだろう。
奴が居ることが分かれば、連鎖して事件は解決していく。
経験上、奴は放っておくと碌な事をしてこない。それを踏まえ、メフィスの経験してきた事を推測するとこういうことだろう。
好奇心に駆られ、ルスラン大聖堂の地下に訪れたメフィスは、そこでナルヴィが転移盤《アスティルミ》から現れるのを目撃する。
事前に金を握らせていたのか、たまたまその場に居たのかは知らないが、転移盤《アスティルミ》が作動したことを察知した『教会』は第三王子バルドルにその情報を伝える。
なんにせよナルヴィとバルドルは出会ってしまった。
そこで二人は気が合ってしまった。
なんせバルドルは現王政に不満を持っている。自分が実権を握るため、崩壊させたくてしょうがない男だ。
そしてナルヴィはもっとスケールがデカい。人間世界そのものに憎しみを持っている。
利害が一致した二人は意気投合し、協力しあうことを誓い合う。
その場を目撃していたメフィスは二人に見つかってしまい、魔界へと逃げ帰った。
そしてバルドルは宝玉《オーブ》を奪い、魔界への扉を閉じた。
バルドルはナルヴィに宝玉《オーブ》を渡し、『森のノカ』に潜伏し魔力を回復させるよう命ずる。
ここまでが半年前の話だ。
『灰色の樹幹』が半年前に見た、転移盤《アスティルミ》作動の輝きは、ナルヴィが戻ってきた時の輝きだった訳だ。
一方、人間界の道が閉じてしまったメフィスは、人間界を破滅させるという二人の相談を思い浮かべ、居ても立ってもいられなくなってしまった。
なんせ、メフィスの目的は『魔族』を絶滅させること。
それができる人間達がいなくなってしまうことは、メフィスにとっても都合が悪い。
メフィスは人間達を助けるため、自分の分身を作り出し、ラーフィア山脈を越え、半年かけてルスラン王都大聖堂へと辿り着いた。
過去の記憶を頼りに、ナルヴィが現れた転移盤《アスティルミ》の近くを探っていたところを『教会』戦闘員に見つかってしまい、いざこざになってしまった。
そして、事故により、メフィスと戦闘員五名が『夜のノカ』へと飛ばされてしまった。
そしてメフィスは、戦闘員達を眠らせ逃げ出した。
これが『眠り病』の真相だ。
慌てたのは『教会』だろう。突如大聖堂地下に謎の魔族が現れ、戦闘員達を引き連れて『夜のノカ』へと向かってしまった。
そこで戦闘員達は、二度と目覚めぬ『眠り病』にかかってしまう。
それを引き起こした魔族には逃げられ、いつ新たな犠牲者が現れるか分からない状態。
誰がどうみても『教会』の失態だ。
追求を怖れた『教会』は腕利きの医者を呼び寄せ、治療を試みる。
それと同時に、王家に『眠り病』の症状を伝え、その回答として指輪を受け取った。
そして金髪ペテン師のツテである俺が呼び寄せられてしまったという訳だ。
そこでまんまとチャラ男の口車に乗ってしまい、俺は『森のノカ』聖堂へと向かってしまった。
そして、俺はそこで、黒髪の少女ミラと出会った。
これが物語の始まりだ。
だが、その裏でバルドルも一連の動向を掴んでいた。
『夜のノカ』聖堂に謎の魔族が向かった。その後、王族である俺が呼び出され、後を追うように『森のノカ』聖堂に向かう。
それを聞き、ナルヴィの身を案じたのだろう。バルドルはすぐに行動を開始した。
転移盤《アスティルミ》を使い、ノカの町へと向かおうとした。
だが、そこで問題が発生した。
それこそ、転移盤《アスティルミ》の作動制限だ。
転移盤《アスティルミ》は一度使うと、半年は同じルートを使えなくなってしまう。
『夜のノカ』行きはメフィスが。『森のノカ』行きは俺が使ってしまった。
そこで、バルドルは思いついてしまった。『森のノカ』近くに、もう一つ転移盤《アスティルミ》があることに。
それこそがここ、旧聖堂を改装した、ソフィアの家だ。
『森のノカ』。『夜のノカ』。そして、ソフィアの家。
この森には、転移盤《アスティルミ》が三つあった。
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