群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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三章  ――白色の王子と透明な少女――

    ④<少女1> 『友達』

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⑥【ソフィア】

『良かったよ。キミが無事で』
 頭の上に乗ったメフィスが安心そうに語りかける。

「うん、メフィスも無事で良かった。……それで、この状況はなに? 簡単に教えて」

『バルドルにとっ捕まったキミを助けに王都まで飛んだらナルヴィもいた』

「なるほど、つまりこの敵を倒せば、全て解決するのね!」

『そんなこと一言も言ってないよ!? 考えるの放棄してない!?』

「考えても仕方ないでしょ! バルドル王子も、ナルヴィも、敵なんだったら、私が倒す!」

『……はぁ~……世の中、みんなキミみたく単純だったらいいのにね』
 失礼なこと言われた気がする。
 でも、なんかこの感じ、久しぶり。やっぱりこうじゃなきゃ。

「じゃあ、……行くよ」

『うん、一緒に、ナルヴィを倒そう』
 なんか背中が燃えているナルヴィが両手を振り上げる。一瞬、なにもない空間に炎が揺らめいた。空間が歪み、影の子供達がぽこぽこ生まれ落ちる。

「出ろ! 『私』!」
 お馴染みになった女の子が床から飛び出してくる。私にとってはもう既に相方みたいなものだ。次にどう動くのか、予想が簡単につくし、向こうだってそうだろう。

「……ここ、王都なんだって。これ終わったら、今度こそ一緒にお買い物に行こうね」
 表情一つ変えない“私”だったけれど、小さくうなずいてくれた気がした。
 楽しみがまた増えた。
 約束が未来を紡いでくれる。

 王子様にあんなことをされて、傷ついたけれど悲しんでばかりもいられない。
 悲しいときも、楽しみを重ねればいいだけだ。

 影の子供達が束になって飛びかかってきた。
 二人の白い閃光が、あふれる光のきらめきに包まれた。


⑦【ソフィア】
 半球型の天井を持つ、広い空間に光の粒が広がっていく。私と、私の相方が影の子供達を次々に突き壊し、消し飛ばしていく。

「あなたは、どこまでも私の邪魔をする!」
 ナルヴィが両腕を振り上げると、背中の炎ひときわ激しく燃え上がり二つに分裂した。
 ナルヴィの影が床に大きく広がり、その影が床から剥がれて人型に変わっていく。
 いつか見たシーカーガル程度の大きさを持つその影がカタカタと笑いだした。

 ナルヴィが両手の指を長く鋭い形状に変え、自分の影の間にある影を切り取るように床を削り取る。
 まるで鎖から解き放たれたかのように、大人くらいの大きさの影が二体、私達に襲いかかってきた。

「“私”! こっちは右のほうを担当するね!」
 理解してくれたのだろう。“私”は左側の影に向かっていき、細剣《レイピア》を回転させながら影の大人に斬りかかっている。任せていても大丈夫だろう。

「ナルヴィ、邪魔をするってなによ!? あなたは、何故、世界を滅ぼそうとしているの?」
 棘のように鋭い指先を切払いながら、ナルヴィに語りかける。

「そんなの分かりきっていること、人間が邪悪な存在だからよ! 魔族の敵だからだ!」

「人は魔族の敵じゃないよ! あなたの付き合ってきた人達が悪いだけでしょ!?」

「子供が知った口きくな! 私が知る限りでも、どれだけの尊い魔族の命が犠牲になったか、どれだけエルデナ様が心を痛めたか、あなたには理解できないでしょ!?」

「同じことあなたがやってるじゃない! 人間相手に! いつまでもいつまでもそうやって喧嘩ばかりしているから、物事が良くならないのよ!」

「良くしようと頑張っていたのよ! エルデナ様を、私を裏切ったのは人間でしょ!? ……人間は、人間の世界は一度滅ばなければ絶対に良くならない! 魔族の平和は訪れない!」

「誰かを困らせて得た平和なんて、本当の平和じゃない!」

「ずっと争ってるよりいいじゃない!」

「違う方法あるでしょって言ってんのよ!」

「どの口が言うのか人間!」

「この分からずや!」

「どっちがだ!!」

「あーもう!! 面倒くさぁああい!!」
 ぱあん、と私の前にいた影の大人がはじけ飛ぶ。同じころ相方の影もはじけ消えた。あたりまえだけど、私がこんな影に負けるはずがない。

「ナルヴィ! あんたが昔、なにを経験したのかはしらない。なにを見てきたなんて私はどうでもいいの! 私はね、今あなたがやっていることに怒ってんの! あなたの自分勝手に怒ってるの! 人間も魔族も関係ない!」

「関係あるでしょ! 私は人間に復讐しているだけ!! 人間と魔族には、もともと悪意が備わっているんだ!」

「そんなものないわよ! 私を見なさいよ!!」
 細剣《レイピア》を腰に治め、頭の上に乗っていたメフィスを胸の前で抱きしめる。

「私とメフィスは友達だ!! 魔族と人間だけど、仲間だ!! 悪意なんて全然ない!! メフィスを困らせてやろうなんて……ちょっとしか考えてない!」

『ちょっと考えてるんだ!?』

「人間と魔族は仲良くなれるよ! それ潰してるのはあなただ。あなたの汚い心が、その機会を潰しているの! この際、はっきり言ってやるわよ」
 私を睨み付けるナルヴィに剣先を向ける。
 そして、大きく息を吸い込んで――言った。

「あなたに足りてないのは、他人を思いやる心だ!!」

「人間の子供が……調子に乗るな!!」
 ナルヴィがちらりと王子を見つめ、私に視線を戻す。
 彼女の顔が、腕が、褐色の肌がひび割れていく。

 黒煙が女の子の身体を包み込む。渦を巻きながら上へ上へと昇っていく。
 ばちり、と弾けるように黒煙が消え去った。変わりに現れたのは――

「……正体、表したわね」
 女性の身体を持った蛇。ぱっと見た印象はそれだ。
 緑色の肌を持った背の高い女性が浮かび上がっている。その顔はのっぺりとしていて、蛇のような口から煙が吹き出ている。
 両目は離れていて、は虫類のような瞳をしている。つるりとした肌が顔中に広がっていた。

 頭部からはぬめぬめした触手が沢山伸びていて、黒煙を混じらせながらゆらゆらと揺れている。
 両手の指先は長く、鋭く尖っていた。腰回りから伸びた魚のエラみたいな部分が足よりも長く、ナルヴィの呼吸に合わせて広がり、閉じるを繰り返していた。

「幻獣化した私を見せたのは……五百年ぶりよ。この姿を見た人間は全て……殺す!」

「やって……みろ!」
 ナルヴィの背から丸い魔方陣が広がった。
 魔方陣の中に小さな円があり、中央から青い炎が燃え上がった。その円は魔方陣を囲うように五つあり、緑、黄色と違う色の炎が次々に噴き上がる。

 ――いくよ、“私”。多分強敵だけど、二人で戦えば、きっとなんとかなる!

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