群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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四章    ―― 夢と空の遺跡 ――

空夢2 『再開のふたり』

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「魔族のみんな! 待って! ちょっと待って!」
 フィリーとともに遺跡の前に降り立った私が大声を上げる。
 後ろにはテトラとメフィスが抱きしめ合っている。

「誤解なの! ちょっとした誤解でメフィスは魔法を使っちゃったけど……全部、誤解なの!」
 周りを取り囲む魔族達へと叫ぶ。魔族達はみな眉を潜めながら私たちをみている。各々ざわざわとなにかを話し始める。

「君は……ノエルちゃんだね。君のお父さんにお世話になっている者だ」
 大きな蜘蛛の姿をした魔族が代表して話し始める。

「君が何故あの魔族を庇うのか分からないけれど、僕らは君の両親に頼まれてここに来ている。魔族を害する魔族は許されるものじゃないよ。分かったら危ないから退きなさい」
 蜘蛛の言葉に、フィリーが首を振る。

「オレらのことなら、心配すんな。見ての通り、なんの被害も受けてねーよ!」

「君らがここに来る前に、沢山の魔族が夢魔法の反撃を受けて、眠っている。もう君らだけの問題じゃないよ」
 周りを見わたすと、確かに沢山の魔族達が倒れている。メフィスが攻撃したんだろう。

「メフィス、夢魔法は解除できる?」
 ちらりとメフィスを見ると、少しだけ目を開き、その後、全てを察したように頷く。

「夢の僕に会ったんだね。解除はできる。というかもうしているから、彼らはすぐに目を覚ますだろう。けれど、それで許されることじゃない」

「その通りだ。魔族が魔族を攻撃する。その事実が良くないんだ」
 メフィスの言葉を蜘蛛のおじさんが繋ぐ。周りの魔族も賛同しているようだ。頷きが伝染していく。
 少しずつ、じりじりと魔族の集団が近づいていく。

 私たちはじわりじわりと後ろへと追いやられていく。


 どうしよう。私だって魔族に炎魔法が撃てるわけがない。
 フィリーだってそうだ。

 このままだと完全に囲まれて捕まってしまう。そうなったら、折角テトラがツガイに出会えたのにまた、離ればなれになってしまう。
 それは、なんとしてでも避けないと。

 私たちは間合いを開けながらゆっくりと遺跡の中へと入っていく。
 石柱や謎の魔族がモチーフの石像を通り過ぎ、祭壇のような真四角の石が置かれた場所に辿り着いた。
 周りは魔族達に囲まれている。後ろは壁になっていてこれ以上下がることはできない。

 これってもしかして……絶体絶命?

「さあ、もう諦めなさい。大人しく、その魔族を――」
 蜘蛛のおじさんの言葉は繋がる事はなかった。
 辺りにがこん、と大きな音が響き渡ったからだ。

 それは祭壇から鳴り響いた音だった。

 振り向くと、リレフをおんぶしたエアが祭壇の上に立っていた。
 明らかに、エアは傾いていた。祭壇に立つ片足部分が沈み込んだんだろう。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……てへっ」

 突如床の至る所から壁がせり上がってきた。
 ゴゴゴゴと石と石が擦れる音を響かせ、壁がパズルのように広がり、組み合わさっていく。
 魔族達の絶叫が広がる。

「エアちゃん!! ナイス!!!!」

「ノエル! 後は任せたよー!」
 組み合わさる壁の後ろからエアの声が響いてきた。

「ノエル、乗って!」
 私の目の前にユニコーンが飛び込んできた。
 背には既にメフィスが乗っている。

「早く行け!後ろはオレが守る!」
 フィリーが飛んできた拳大の氷をはじき飛ばし、鉤爪を構える。
 何匹かの魔族が壁をすり抜けて私たちの近くまで近づいてきていた。

「テトラ、乗ったよ!」

「振り落とされないでね!」
 遺跡に虹が広がる。壁を空に変え、テトラは駆ける。

 フィリーは拳に蜘蛛の糸を絡ませながらも後ろを飛ぶ。

 その後ろには動く壁をものともしない魔族が追従する。
 さっき話した蜘蛛のおじさんもいる。
 両腕が鎌になったおばちゃんが素早く動き回っている。
 あ、あの魔族なんか壁にパンチで穴を開けている。そんなに強い魔族もいるんだね。

「どうする? ノエル。このまま地上に出る?」
 テトラが語りかけてきた。
 地上に出ても、メフィスは魔族から敵扱いされている。魔族から追われる身なのは変わらない。

 だったら――やることは一つだ。

「ううん、テトラ、あそこに向かって!」
 私たちが向かう場所はただ一つ。
 “石碑”の欠片がある場所だ。



 たまに飛んでくる魔法を避けながら、私たちは広いドーム状の空間に辿り着いた。
 高い天井からホタルみたいな光が放たれ雪のように散っている。
 部屋の中央には浮かぶ“石碑”のカケラが、変わらず淡い輝きを放っている。
 取り付けられた宝玉《オーブ》も負けずと強い光を点滅させる。

 私たちが訪れた時と変わらず、幻想的な空間だ。

「そろそろ、諦めなさい。すぐに、他の魔族達も集まってくるよ」
 壁抜けができるテトラに負けず、私たちを追う魔族は六羽いた。
 その中のひとり、蜘蛛のおじさんが肩から息を吐きながら言う。

 この空間の中には、私とフィリー、テトラとメフィス。
 それに六体の魔族達、それだけだ。
 フィリーがメフィスを護るように、前に立っている。

「いい加減、許してくれねーか。コイツはただ、自分のツガイに会いたかっただけだ。間違ったことをしたかもしれねーけど、コイツの気持ちも分かる」
 フィリーの言葉は魔族たちに届かない。
 フィリーが大きく舌打ちする。

「いい加減にしろ! 自分のツガイに会えない気持ち、辛さくれーお前らも分かんだろ! 魔族なら、ツガイがどれだけ大事な存在かくれー分かんだろ!」

「フィリー君……」
 蜘蛛のおじさんの足が止まる。

「オレだって、その気持ちがあるんだよ。ツガイがこんなに近くに居るのに、なんでかしんねーけど、遠く離れてしまうような感覚の時があるんだよ! いつか、居なくなるんじゃねーかって心配になったりするんだよ! 不安に潰されそうになって、コイツに変なちょっかい出して、後でへこんだりしてんだよ!」
 フィリーが……自分の心を伝えている。

 私はひとつひとつ、その言葉を噛みしめながら聞いている。

「ノエルがいなくなったら……何年も会えなくなったら……オレは、なにをするか分かんねーよ。メフィスが可愛く思えるくれー酷い奴になるかもしれねー。だから理解できる。オレは、コイツの辛さを理解できる! お前らも、ツガイに会えないオスの辛さくれー理解してやれよ!」
 フィリーの怒声が響き渡った。

「コイツはもう変なことはしねーよ! ツガイが……自分が一番大事な存在が近くにいるんだ! ツガイがいれば、魔族はそれでいいんだよ。幸せなんだよ! そのくらい、みんな分かってんだろ!!」
 空間が静まりかえる。魔族達は、みんな足を止めていた。


 ありがとう、フィリー。
 私は魔族の気持ちにまだなりきれないけれど、あなたの気持ちは私に伝わった。
 あなたにとって、私がどれだけ大事な存在か、理解できた。

 それを理解していれば――

 私は、きっと、ちゃんと、魔族になれる。
 私は、きっと、幸せになれる。

 だから――こう言う。

「フィリー。今一番、格好いいよ。流石、私のツガイだね」
 私の微笑みに分かりやすく照れるフィリー。
 なに、この可愛い奴。


 さて、後はこの局面だ。

 魔族の敵になってしまったメフィス。そしてそのツガイのテトラ。
 このふたりは、今を乗り切ればきっと幸せになれる。
 魔族の手が届かないところに行けば、きっと、ずっと幸せになれる。



 ――だから、私は待っていた。


 丁度、時間通りだ。


 さっきからこの音が鳴り響くのを待っていた。


 確信はなかったけど、何故か、私はそれ・・が起こることを信頼していた。

 “彼”を信頼していた。

 私は振り返り、それ・・を確認する。


「ちゃんと、約束守ってくれたんだね。『人間』」
 “石碑”から光り輝くもやが生まれていた。

 もやの向こうで『人間』の人影が揺らめいていた。
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