141 / 147
四章 ―― 夢と空の遺跡 ――
空夢3 『エピローグ』
しおりを挟む「ちゃんと、約束守ってくれたんだね。『人間』」
“石碑”から光り輝くもやが生まれていた。
もやの向こうで『人間』の人影が揺らめいている。
「そこにいるのか? 『魔族』」
いるよ。私はずっと、魔族半島で暮らしていく。
ここに、私はいる。
「ねえ、うさんくさい人。ちょっとだけ、お願い事していいかな?」
「ぶしつけだな。女。そして、うさんくさいとは心外だ」
「今から、魔族をふたり、そっちに送るから……人間の世界で、かくまってくれない? ほとぼりが冷めるまででいいよ」
影が揺らめいている。『人間』は少し考えて、答えた。
「……色々言いたいことはあるが、それ以前に……『人間』の俺を信用するのか?」
「あなたは私を、フィリーを助けてくれた。あなたがいたから、私は『魔族』になれる……あなたは悪い『人間』じゃない。……あなたのことは信頼できる」
「なにかは分からないが、手が綺麗な女に信頼されるのは悪くはないな」
相変わらず、うさんくさい言い回し。
この人の特徴なんだろうけど……何故か、懐かしい気持ちもわいてくる。
「じゃあ……いい?」
「……そうだな。構わない。見知らぬ魔族の頼みを受ける。それもまた、一興だ」
私は、テトラとメフィスを見つめる。
二人とも、私と光るもやを交互に見つめている。
「聞いたとおりだよ。あなた達ふたりなら、きっと人間界でも大丈夫」
「ノエルちゃん! お、おい! コラ!」
駆けてきた蜘蛛のおじさんをフィリーが止める。
「早く行け! テトラ! メフィス! 幸せにな!」
テトラとメフィスはお互いに頷き、もやの前に立つ。
覚悟を決めたのだろう。
あ、そうだ。これも返さないと。
私は少しだけ、名残惜しさを感じながら指輪を外す。
知らない男に付けられた指輪だけど、いざ手放すってなったら、ちょっとだけ寂しいものがあるよね。
「これを、もや中の『人間』にわたして。……ありがとうと」
テトラに指輪をわたす。テトラは目を潤ませながら頷く。
「ノエル……ありがとう。私のために、ありがとう」
「いいよ。友達だもん。……向こうで、幸せになってね」
友達が幸せになるなら、それだけで私も幸せな気持ちになる。
私はそれで、十分だ。
ふたりはうなずきあって、もやの中へと入り込んでいった。
「『人間』の人、ふたりをお願いね」
「驚いたな。この男か。説得したのか?」
「心を元に戻したのは、隣のユニコーンの方だよ」
「……そうか。もうこの扉は、閉じていいんだな。お前は来ないのか?」
「……私はただの『魔族』。私の居場所はこっちだよ」
「少し残念だ。お前とは、もう少し親睦を深めたかった」
「残念でした。私には先約がいます」
ちらりとフィリーを見つめる。
フィリーは私の視線に気づかず、魔族達を必死に止めている。
「そうか。ならば口説くのは諦めよう。事情は、このふたりに聞けばいいんだな?」
「うん。……ごほんっ、あー、男。悪いけど、詳しく説明している暇はなさそうだ」
私の芝居がかった言い方に、男は声を出して笑いだす。
「どこかで聞いたセリフだな。……じゃあ、名残惜しいがこれでお別れだ」
「あ、待って。もう会うこともないだろうから、言うね」
「おそらく二度と、こうして話すことはないだろうな。……だから、聞こう」
「……色々と、ありがとう」
「こちらこそ。……ありがとう」
なぜか、お礼を言われてしまった。
私は男に、なにもしていないはずなのに。
いいや、『人間』の考えることはよくわからない。
私はもう『魔族』なんだから。
「……じゃあな。『魔族』」
「うん、元気でね『人間』」
さようなら。優しくて、親切な人。
光るもやは、霞のように消え去った。
『人間』の世界への扉は閉じられた。
「本当に、ありがとう……『人間』。元気でね、テトラ」
ドーム型の天井からホタルみたいな光が放たれ雪のように散っている。
部屋の中央には浮かぶ“石碑”のカケラが、淡い輝きを放っていた。
⑭
家に帰り着いた私たちはこっぴどく怒られた。
それはもう、鬼のような顔になったお母さんに並んで正座されられ、魔族のしきたりについて何時間も何時間も同じ話を聞かされた。
お母さんは頭に血が上ると同じ話を何度も何度も何度も何度もしだす。
やっぱりこういうところが嫌いだ。
どうやら、あの遺跡は古い魔族の間では有名な場所らしい。
何年かに一度ある人間との交流に使われる場で、万が一のために若い魔族達には秘密にしている場所らしかった。
私たちには厳しい箝口令が敷かれた
その上、しばらくの間は見張りも立つらしい。
私たちは長い年月、あの場所には行けなくなりそうだ。
人間の世界に興味はないから、いいけどさ。
「……あら、もうこんな時間? 晩ご飯の準備しなきゃ」
「いや、もう、オレら大丈夫ッス腹イッパイッス」
「い、一日くらい晩御飯抜きでも大丈夫です。はい」
ふたりともお母さんの前でネズミみたいに小さくなっている。
「駄目よ。私がお腹空いたんだから。そろそろあの人も帰って――はっ!?」
お母さんが分かりやすく口に手を置く。
「大変! 忘れてたわ」
ばたーん、と家の扉が大きく開かれる音が響き渡る。
「フィりぃいいいい!!!! 今帰ったぞぉおおおお!!!!」
お父さんの大きな声が家中に響き渡る。
お母さんは頭に手を置き、眉を潜めている。
なに? ものすごい物音響かせて近づいてくるんだけど。
ドカンっと部屋の扉が吹っ飛んだ。
お父さんが転がるように入ってくる。背中にはパンパンに何かが詰まった風呂敷を背負っている。
「なんだよ、親父、騒々し――あがぅ!?」
「フィりぃいいいい!!!! お父さんが薬草を採ってきたぞぉおおお!!!! 沢山食うぇえええ!!!!」
ところどころ身体が焦げたお父さんが薬草を次から次にフィリーの口に詰め込む。
それをこれでもかってほど、冷たい視線で見つめるお母さん。
「忘れてたわ。……悪夢に効く薬草を採りに向かわせたのよ。一房でいいって言ったのに」
「お、お父さん! フィリー、もう起きてるよ! ってかフィリー死んじゃう!」
「あががががが!?」
「フィリぃいいい!!!! 可哀想に!!!! 沢山食えよぉおおおお!!!!」
「私の話をきけぇ!!」
私たち魔族が暮らす平和な街、第三区街《ブルシャン》。
その中、居住区の片隅にはいつも賑やかな家がある。
魔族ならではの愛情に溢れた家だ。
私の家、私の家族が暮らす家だ。
これからもずっと、この家では私たちの喧噪が響くのだろう。
だから、明日もまた、楽しみだ。
みんなと暮らしていく未来が、楽しみだ。
私は魔族に生まれて、本当に良かった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜
沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」
中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。
それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。
だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。
• 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。
• 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。
• 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。
• オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。
恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。
教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。
「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」
鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。
恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる