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第九章 ライバル達
第203話: 【休息】黄金の鱗、午後の至福
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嵐のような村正一行が去り、湖畔には再び静かな時間が戻ってきた。
アイリスの羽化、そして桜花の第二形態への進化を見届けた心地よい疲労感と、夜通しの作業で空いた胃袋が、健太郎に現実的な欲求を突きつける。
「……さて、ひとまず拠点の工房に戻るか」
健太郎は仲間たちと共に使い慣れた工房へと足を進めた。
再生したばかりの瑞々しい森を抜け、見慣れた作業台が並ぶ工房に辿り着くと、健太郎は迷わず中央の囲炉裏に火を入れた。
「おじさん、お腹すいた……」
「健太郎さん、私がお手伝いします!」
「ウチ、もう喉カラカラやわ。健太郎さん、美味しいもん食べさせてな!」
結衣、桃子、恵梨香の三人も、緊張が解けたのか一気に空腹を訴え始める。
健太郎は背負っていた籠から、先ほど釣り上げたばかりの『銀光魚』を取り出した。
「待ってろ。……昼メシにするか。せっかくいい魚が釣れたんだからな」
健太郎は手際よく魚を捌くと、その銀色に輝く身を太めの串に刺していく。味付けはシンプルに塩のみ。
いろりの火でじっくりと炙り始めると、脂の乗った身がパチパチとはぜ、香ばしい匂いが工房いっぱいに広がった。
「ふぅ……。やっぱり、魚が食べたかったんだよな」
パチパチと薪が爆ぜる音をBGMに、健太郎は黄金色に焼き上がっていく魚を見つめながら独りごちた。
アイリスの羽化という大きな山場を超え、師匠である村正からも認められた。その充実感が、焼き魚の匂いと共に身体に染み渡っていく。
「主、良い焼き加減ですわ。妾の瞳と同じ、黄金色の輝き……これこそが、命の糧にふさわしい」
いつの間にか隣に座っていたアイリスが、自律した肉体で健太郎の肩に頭を預ける。
元々、アイリスは第一形態の頃から健太郎と共に食事を摂ることはあった。
しかし、それはあくまで「武器聖霊」としての擬似的な感覚に過ぎなかった。だが、第五形態となり、次元の銀糸によって編み上げられた「真の肉体」を得た今の彼女にとって、それは全く別次元の体験となっていた。
「ああ。アイリス、お前も食えるんだろ? ほら、一番いいやつだ」
健太郎が串を手渡すと、アイリスは嬉しそうに微笑み、そのふっくらとした唇で熱々の身をハフハフと頬張った。
「――っ! ……あぁ……っ。主、これが……これが『本当の味』なのですね……!」
舌を焼くような熱さ、溢れ出す脂の甘み、そして鼻に抜ける香ばしい煙の匂い。五感の全てが鮮烈に、鋭敏に脳へと伝わる。これまで「データ」として処理していた味覚が、魂を揺さぶる「感動」へと昇華されていた。
感動に瞳を潤ませるアイリスを見て、結衣たちも競うように串を手に取る。職人としての激動の夜が明け、工房には穏やかな団らんの時間が流れていた。
【黎明】女神の告げし新世界
焼き魚の香ばしい匂いが漂う工房の中で、その「声」は突然響き渡った。
健太郎の視界に、普段のシステムログとは比較にならないほど巨大で厳かな黄金のウィンドウが展開される。
「……なんだ? 運営からの緊急連絡か?」
健太郎が手を止めると、アイリスや結衣たち、そして世界中の全プレイヤーの目の前に、女神を名乗る運営からのメッセージが流れ始めた。
『親愛なる冒険者の皆様へ。現在進行中のワールドクエスト「アビス侵食の浄化」は、一人の先駆者の活躍により、かつてない局面を迎えています。運営はこの変革をさらに加速させるため、第二陣――新たなプレイヤーたちの受け入れを開始いたします。世界に人が増え、交流が深まることで、浄化の炎はさらに激しく燃え上がるでしょう。条件は最初の街周辺の浄化です』
「第二陣……新規プレイヤーの追加か。ワールドクエストの進行を早めるために、さらに戦力を投入するってわけか」
健太郎が呟くと、ウィンドウに続けて「告知PV」と記された動画ファイルが表示された。
「アイリス、みんな、一緒に見てみるか」
健太郎の言葉に、黄金の瞳を輝かせたアイリスを筆頭に、全員が囲炉裏を囲んで映像を見つめた。
映像は、絶望的な闇に包まれたアビスの底から始まった。
不気味に脈動する巨大な「深淵の心臓」。
その圧倒的な暴力の象徴に立ち向かう、一人の男の背中が映し出される。
「――っ、これって……!」
結衣が息を呑む。映像内のプレイヤーの姿はぼかされていたが、そこにいる者たちには分かった。
それは紛れもなく、健太郎があのアビスの最深部で心臓を「浄化の加工」によって解体し、世界樹の若木へと変貌させたあの決定的な瞬間だった。
画面の中で、健太郎の指先から放たれたエメラルドグリーンの光が爆発的に広がる。
完全な浄化には至っていないものの死の森を蝕んでいた闇が押し戻され、モノクロームだった世界に鮮やかな色が戻っていく。
色付き、清浄化した湖。
風にそよぐ、幻想的なエメラルド色の森。
まるで夢幻のようなその風景は、現実世界ではあり得ないほど美しく、圧倒的なグラフィックで描き出されていた。
『この世界を救うのは、貴方たちです。明日より、現実世界にてこの映像を公開いたします』
映像が途切れると、工房内にはしばしの沈黙が流れた。
「……おじさん、凄く綺麗だった。おじさんがやったこと、予告として世界中の人が見るんだね」
「健太郎さん……このPVを見たら、みんな夢中になってこの世界に来ようとしますよ……っ」
桃子と結衣が感動に目を潤ませる中、アイリスは健太郎の腕をぎゅっと抱きしめた。
「ふふ、主。世界中が主の成した『加工』の美しさに驚嘆することでしょう。けれど、この変革の種を植えた主の指先の熱を知っているのは、妾たちだけですわ」
「……柄じゃないな。俺はただ、目の前の素材(こころ)を打っただけだ。……だが、明日からさらに騒がしくなりそうだな」
健太郎は、少し照れくさそうに頭を掻きながら、黄金色に輝く自らの指先を見つめた。
第二陣の到来。それは、一人の職人が引き起こした「奇跡」を、数多のプレイヤーが追いかける時代の幕開けだった。
アイリスの羽化、そして桜花の第二形態への進化を見届けた心地よい疲労感と、夜通しの作業で空いた胃袋が、健太郎に現実的な欲求を突きつける。
「……さて、ひとまず拠点の工房に戻るか」
健太郎は仲間たちと共に使い慣れた工房へと足を進めた。
再生したばかりの瑞々しい森を抜け、見慣れた作業台が並ぶ工房に辿り着くと、健太郎は迷わず中央の囲炉裏に火を入れた。
「おじさん、お腹すいた……」
「健太郎さん、私がお手伝いします!」
「ウチ、もう喉カラカラやわ。健太郎さん、美味しいもん食べさせてな!」
結衣、桃子、恵梨香の三人も、緊張が解けたのか一気に空腹を訴え始める。
健太郎は背負っていた籠から、先ほど釣り上げたばかりの『銀光魚』を取り出した。
「待ってろ。……昼メシにするか。せっかくいい魚が釣れたんだからな」
健太郎は手際よく魚を捌くと、その銀色に輝く身を太めの串に刺していく。味付けはシンプルに塩のみ。
いろりの火でじっくりと炙り始めると、脂の乗った身がパチパチとはぜ、香ばしい匂いが工房いっぱいに広がった。
「ふぅ……。やっぱり、魚が食べたかったんだよな」
パチパチと薪が爆ぜる音をBGMに、健太郎は黄金色に焼き上がっていく魚を見つめながら独りごちた。
アイリスの羽化という大きな山場を超え、師匠である村正からも認められた。その充実感が、焼き魚の匂いと共に身体に染み渡っていく。
「主、良い焼き加減ですわ。妾の瞳と同じ、黄金色の輝き……これこそが、命の糧にふさわしい」
いつの間にか隣に座っていたアイリスが、自律した肉体で健太郎の肩に頭を預ける。
元々、アイリスは第一形態の頃から健太郎と共に食事を摂ることはあった。
しかし、それはあくまで「武器聖霊」としての擬似的な感覚に過ぎなかった。だが、第五形態となり、次元の銀糸によって編み上げられた「真の肉体」を得た今の彼女にとって、それは全く別次元の体験となっていた。
「ああ。アイリス、お前も食えるんだろ? ほら、一番いいやつだ」
健太郎が串を手渡すと、アイリスは嬉しそうに微笑み、そのふっくらとした唇で熱々の身をハフハフと頬張った。
「――っ! ……あぁ……っ。主、これが……これが『本当の味』なのですね……!」
舌を焼くような熱さ、溢れ出す脂の甘み、そして鼻に抜ける香ばしい煙の匂い。五感の全てが鮮烈に、鋭敏に脳へと伝わる。これまで「データ」として処理していた味覚が、魂を揺さぶる「感動」へと昇華されていた。
感動に瞳を潤ませるアイリスを見て、結衣たちも競うように串を手に取る。職人としての激動の夜が明け、工房には穏やかな団らんの時間が流れていた。
【黎明】女神の告げし新世界
焼き魚の香ばしい匂いが漂う工房の中で、その「声」は突然響き渡った。
健太郎の視界に、普段のシステムログとは比較にならないほど巨大で厳かな黄金のウィンドウが展開される。
「……なんだ? 運営からの緊急連絡か?」
健太郎が手を止めると、アイリスや結衣たち、そして世界中の全プレイヤーの目の前に、女神を名乗る運営からのメッセージが流れ始めた。
『親愛なる冒険者の皆様へ。現在進行中のワールドクエスト「アビス侵食の浄化」は、一人の先駆者の活躍により、かつてない局面を迎えています。運営はこの変革をさらに加速させるため、第二陣――新たなプレイヤーたちの受け入れを開始いたします。世界に人が増え、交流が深まることで、浄化の炎はさらに激しく燃え上がるでしょう。条件は最初の街周辺の浄化です』
「第二陣……新規プレイヤーの追加か。ワールドクエストの進行を早めるために、さらに戦力を投入するってわけか」
健太郎が呟くと、ウィンドウに続けて「告知PV」と記された動画ファイルが表示された。
「アイリス、みんな、一緒に見てみるか」
健太郎の言葉に、黄金の瞳を輝かせたアイリスを筆頭に、全員が囲炉裏を囲んで映像を見つめた。
映像は、絶望的な闇に包まれたアビスの底から始まった。
不気味に脈動する巨大な「深淵の心臓」。
その圧倒的な暴力の象徴に立ち向かう、一人の男の背中が映し出される。
「――っ、これって……!」
結衣が息を呑む。映像内のプレイヤーの姿はぼかされていたが、そこにいる者たちには分かった。
それは紛れもなく、健太郎があのアビスの最深部で心臓を「浄化の加工」によって解体し、世界樹の若木へと変貌させたあの決定的な瞬間だった。
画面の中で、健太郎の指先から放たれたエメラルドグリーンの光が爆発的に広がる。
完全な浄化には至っていないものの死の森を蝕んでいた闇が押し戻され、モノクロームだった世界に鮮やかな色が戻っていく。
色付き、清浄化した湖。
風にそよぐ、幻想的なエメラルド色の森。
まるで夢幻のようなその風景は、現実世界ではあり得ないほど美しく、圧倒的なグラフィックで描き出されていた。
『この世界を救うのは、貴方たちです。明日より、現実世界にてこの映像を公開いたします』
映像が途切れると、工房内にはしばしの沈黙が流れた。
「……おじさん、凄く綺麗だった。おじさんがやったこと、予告として世界中の人が見るんだね」
「健太郎さん……このPVを見たら、みんな夢中になってこの世界に来ようとしますよ……っ」
桃子と結衣が感動に目を潤ませる中、アイリスは健太郎の腕をぎゅっと抱きしめた。
「ふふ、主。世界中が主の成した『加工』の美しさに驚嘆することでしょう。けれど、この変革の種を植えた主の指先の熱を知っているのは、妾たちだけですわ」
「……柄じゃないな。俺はただ、目の前の素材(こころ)を打っただけだ。……だが、明日からさらに騒がしくなりそうだな」
健太郎は、少し照れくさそうに頭を掻きながら、黄金色に輝く自らの指先を見つめた。
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