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第6話:妹の嫉妬、歪んだ執着の招待状
王宮での「測定不能」という鑑定結果は、一夜にして帝都中の噂となった。
かつて「魔力一」の無能と蔑まれていた伯爵令嬢が、実は規格外の魔力を持っていた。
その衝撃は、私を捨てたランバート伯爵家を、瞬く間に「至宝を捨てた愚か者」という誹謗中傷の渦へと突き落とした。
一方、私はライネルト公爵邸のバルコニーで、柔らかな朝陽を浴びていた。
膝の上には、あの時助けた漆黒の仔竜が丸まって眠っている。
私の指先から漏れ出す白銀の魔力を、仔竜は心地よさそうに吸い取っては、その鱗をより深く、より美しく輝かせていた。
「エルサ、風が冷たくなってきた。中へ入ろう」
背後から、シグルド様の低く甘い声が聞こえる。
彼は私の肩に、ふわりと最高級の獣毛のショールを掛けた。
そして、流れるような自然な動作で、私の腰を強く抱き寄せた。
「シグルド様……。毎日、こんなに良くしていただいて、私はまだ夢を見ているのではないかと思ってしまいます」
「夢ではない。これこそが貴女に相応しい現実だ。これからは、貴女が望むものすべてを俺が用意しよう」
シグルド様は私の銀髪を一房手に取り、愛おしそうに口づけた。
彼の金の瞳には、私を独り占めにしたいという剥き出しの独占欲が揺らめいている。
その熱さに胸が高鳴るのを隠せず、私が俯くと、一人の執事が音もなく現れ、銀のお盆に載った一通の手紙を差し出した。
「旦那様、エルサ様にランバート伯爵家より『お茶会』の招待状が届いております」
その瞬間、シグルド様の纏う空気が一変した。
先ほどまでの甘い熱気は霧散し、戦場での彼を彷彿とさせる、冷酷なまでの威圧感が室内に満ちる。
「ランバートだと……?どの面を下げて、俺のエルサに接触しようというのだ」
差し出された招待状を、私は震える手で受け取った。
封蝋には、見覚えのある火竜の紋章。差出人は、妹のミーナだった。
『親愛なるお姉様へ。先日の王宮での出来事、家族一同、心よりお祝い申し上げております。今までの誤解を解きたく、内々に家族だけのささやかなお茶会を催したく存じますわ』
整った文字の裏側に、どろりとした粘着質のある悪意が透けて見えるようだった。
ミーナが、これほど屈辱的な状況で素直に私を祝うはずがない。彼女は自分の「九百」という数値が世界で一番だと信じ、私を家畜のように扱ってきた女だ。
「エルサ。こんな下卑た誘いに乗る必要はない。今すぐこの手紙を暖炉にくべて、あの家ごとこの世から消し去ってやろうか?」
シグルド様の瞳に、真実の殺意が宿る。
彼は本気だ。彼にとって、私を傷つけた者たちは、生かしておく価値さえないゴミに等しいのだ。
けれど、私は招待状を握りしめ、静かに首を振った。
「いいえ、シグルド様。私、行こうと思います。逃げてばかりでは、私はずっと、あの冷たい雨の夜のままですわ」
私は、自分の手を見つめた。白銀の光を放つ、かつて無能と呼ばれた手。
この力があれば、私はもう、あの子に怯えるだけの惨めな姉ではない。
シグルド様は私の決意を感じ取ったのか、溜息を吐きながら、私の頬を包み込んだ。
「……分かった。貴女がそう望むなら、俺は止めまい。だが、一つだけ約束してくれ」
「はい」
「俺も必ず同行する。貴女の影に潜み、万が一にもあの女が貴女を汚そうとするなら、俺はその場で彼女の魔力を根絶やしにする」
その執着の深さに、私は少しだけ圧倒されながらも、幸福な微笑みを返した。
一方その頃、ランバート伯爵邸の一室では、ミーナが狂気じみた笑みを浮かべていた。
「ふふ、ふふふ……!あんなゴミ同然の女が、私の座を奪うなんて許さない……!」
彼女の指には、不気味な黒い輝きを放つ「霊素吸収の指輪」が嵌められていた。
禁忌の魔道具として封印されていたはずの、他者の魔力を強制的に奪い取る呪物。
「お姉様、楽しみにしていてね。貴女が手に入れたその過剰な魔力、すべて私が『回収』して差し上げますわ」
嫉妬に歪んだ妹の執念が、不吉な影を落とし始めていた。
次なる舞台は、ランバート伯爵邸での毒入りのお茶会。
そこで私は、過去の自分と完全に決別することを誓った。
かつて「魔力一」の無能と蔑まれていた伯爵令嬢が、実は規格外の魔力を持っていた。
その衝撃は、私を捨てたランバート伯爵家を、瞬く間に「至宝を捨てた愚か者」という誹謗中傷の渦へと突き落とした。
一方、私はライネルト公爵邸のバルコニーで、柔らかな朝陽を浴びていた。
膝の上には、あの時助けた漆黒の仔竜が丸まって眠っている。
私の指先から漏れ出す白銀の魔力を、仔竜は心地よさそうに吸い取っては、その鱗をより深く、より美しく輝かせていた。
「エルサ、風が冷たくなってきた。中へ入ろう」
背後から、シグルド様の低く甘い声が聞こえる。
彼は私の肩に、ふわりと最高級の獣毛のショールを掛けた。
そして、流れるような自然な動作で、私の腰を強く抱き寄せた。
「シグルド様……。毎日、こんなに良くしていただいて、私はまだ夢を見ているのではないかと思ってしまいます」
「夢ではない。これこそが貴女に相応しい現実だ。これからは、貴女が望むものすべてを俺が用意しよう」
シグルド様は私の銀髪を一房手に取り、愛おしそうに口づけた。
彼の金の瞳には、私を独り占めにしたいという剥き出しの独占欲が揺らめいている。
その熱さに胸が高鳴るのを隠せず、私が俯くと、一人の執事が音もなく現れ、銀のお盆に載った一通の手紙を差し出した。
「旦那様、エルサ様にランバート伯爵家より『お茶会』の招待状が届いております」
その瞬間、シグルド様の纏う空気が一変した。
先ほどまでの甘い熱気は霧散し、戦場での彼を彷彿とさせる、冷酷なまでの威圧感が室内に満ちる。
「ランバートだと……?どの面を下げて、俺のエルサに接触しようというのだ」
差し出された招待状を、私は震える手で受け取った。
封蝋には、見覚えのある火竜の紋章。差出人は、妹のミーナだった。
『親愛なるお姉様へ。先日の王宮での出来事、家族一同、心よりお祝い申し上げております。今までの誤解を解きたく、内々に家族だけのささやかなお茶会を催したく存じますわ』
整った文字の裏側に、どろりとした粘着質のある悪意が透けて見えるようだった。
ミーナが、これほど屈辱的な状況で素直に私を祝うはずがない。彼女は自分の「九百」という数値が世界で一番だと信じ、私を家畜のように扱ってきた女だ。
「エルサ。こんな下卑た誘いに乗る必要はない。今すぐこの手紙を暖炉にくべて、あの家ごとこの世から消し去ってやろうか?」
シグルド様の瞳に、真実の殺意が宿る。
彼は本気だ。彼にとって、私を傷つけた者たちは、生かしておく価値さえないゴミに等しいのだ。
けれど、私は招待状を握りしめ、静かに首を振った。
「いいえ、シグルド様。私、行こうと思います。逃げてばかりでは、私はずっと、あの冷たい雨の夜のままですわ」
私は、自分の手を見つめた。白銀の光を放つ、かつて無能と呼ばれた手。
この力があれば、私はもう、あの子に怯えるだけの惨めな姉ではない。
シグルド様は私の決意を感じ取ったのか、溜息を吐きながら、私の頬を包み込んだ。
「……分かった。貴女がそう望むなら、俺は止めまい。だが、一つだけ約束してくれ」
「はい」
「俺も必ず同行する。貴女の影に潜み、万が一にもあの女が貴女を汚そうとするなら、俺はその場で彼女の魔力を根絶やしにする」
その執着の深さに、私は少しだけ圧倒されながらも、幸福な微笑みを返した。
一方その頃、ランバート伯爵邸の一室では、ミーナが狂気じみた笑みを浮かべていた。
「ふふ、ふふふ……!あんなゴミ同然の女が、私の座を奪うなんて許さない……!」
彼女の指には、不気味な黒い輝きを放つ「霊素吸収の指輪」が嵌められていた。
禁忌の魔道具として封印されていたはずの、他者の魔力を強制的に奪い取る呪物。
「お姉様、楽しみにしていてね。貴女が手に入れたその過剰な魔力、すべて私が『回収』して差し上げますわ」
嫉妬に歪んだ妹の執念が、不吉な影を落とし始めていた。
次なる舞台は、ランバート伯爵邸での毒入りのお茶会。
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