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第8話:痣の証明
地下牢の重い扉が再び開いたとき、エルゼの意識は熱の海を漂っていた。
松明の光とともに現れたのは、アルベルト、そして彼に寄り添うリリアーヌだった。
「見てくださいませ、アルベルト様。この者は地下に繋がれてなお、不気味な術を編んでいるようですわ。……先ほど、お体の一部に妙な印が浮かび上がっているのを見たと、衛兵が怯えておりましたの」
リリアーヌの言葉に、アルベルトの眉が不快げに跳ね上がる。
エルゼは、震える手でボロボロの衣服の襟元を掴んだ。そこには、昨夜の毒の代償か、あるいは寿命の削りすぎか、隠し通してきた「あるもの」が鮮明に浮かび上がっていた。
「……見せろ。何を作術している」
アルベルトは問答無用でエルゼの手を振り払い、その襟元を乱暴に引き裂いた。
剥き出しになったエルゼの鎖骨の下。そこには、赤黒く腫れ上がった、歪な形の「痣」があった。
「――っ!? これは……!」
アルベルトの息が止まる。
その痣の形は、彼が十年前、魔獣に襲われた際に負ったはずの傷跡と、寸分違わず同じだった。彼自身の胸元にある、消えないはずの「古傷」と。
「……なぜだ。なぜお前が、私の傷と同じ形をした痣を持っている?」
エルゼは、熱に浮かされる瞳で彼を見上げた。
伝えたい。それは呪いではない。十年前のあの日、死にゆくあなたの体から、私が引き受けた「痛み」の欠片なのだと。
だが、焼けた喉は空気の漏れる音を立てるだけで、真実を綴るための指も、今はもう満足に動かない。
「殿下、恐ろしいことですわ……!」
リリアーヌが、わざとらしく震える声でアルベルトの腕に縋り付いた。
「これは……『痛みの共有』を装って相手の命を吸い取る、呪術の印ではありませんか? この女、あなたの過去を調べ上げ、あなたの体を蝕むために、同じ痣を自らに刻んだのです!」
「……吸命術か」
アルベルトの瞳に、激しい嫌悪と、そして恐怖に近い怒りが宿った。
彼にとって、リリアーヌこそが命を救ってくれた「光」であり、エルゼは自分を陥れようとする「闇」でしかない。その闇が、自分の聖域であるはずの過去の記憶を汚しているのだと、彼は信じ込んだ。
「どこまで……どこまで私を汚せば気が済むんだ、お前は! 私の傷さえも、私を呪うための道具にするのか!」
「……っ、……あ、……ぁ……!」
エルゼは必死に首を振った。
違う。それはあなたの命を繋いだ証。私が、あなたを愛している何よりの証明。
けれど、アルベルトはその痣を、まるで毒虫でも見るかのように見つめ、拳を強く握りしめた。
「汚らわしい。その痣を見るだけで、私の過去が、リリアーヌとの思い出が穢される……! 衛兵! この女をさらに深い最下層へ移せ。二度と、私の目に触れさせるな!」
引きずられていくエルゼ。
彼女は遠のく意識の中で、アルベルトが自らの胸元にある「本物の傷」を、守るように強く押さえているのを見た。
(いいのです、殿下……。たとえ呪いだと思われても……)
エルゼは、暗い奈落へと落とされながら、自らの鎖骨の下にある痣を、感覚のない指でそっとなぞった。
彼と同じ痛みを、今も共有できている。
それだけが、今の彼女に許された、唯一の「愛の形」だった。
松明の光とともに現れたのは、アルベルト、そして彼に寄り添うリリアーヌだった。
「見てくださいませ、アルベルト様。この者は地下に繋がれてなお、不気味な術を編んでいるようですわ。……先ほど、お体の一部に妙な印が浮かび上がっているのを見たと、衛兵が怯えておりましたの」
リリアーヌの言葉に、アルベルトの眉が不快げに跳ね上がる。
エルゼは、震える手でボロボロの衣服の襟元を掴んだ。そこには、昨夜の毒の代償か、あるいは寿命の削りすぎか、隠し通してきた「あるもの」が鮮明に浮かび上がっていた。
「……見せろ。何を作術している」
アルベルトは問答無用でエルゼの手を振り払い、その襟元を乱暴に引き裂いた。
剥き出しになったエルゼの鎖骨の下。そこには、赤黒く腫れ上がった、歪な形の「痣」があった。
「――っ!? これは……!」
アルベルトの息が止まる。
その痣の形は、彼が十年前、魔獣に襲われた際に負ったはずの傷跡と、寸分違わず同じだった。彼自身の胸元にある、消えないはずの「古傷」と。
「……なぜだ。なぜお前が、私の傷と同じ形をした痣を持っている?」
エルゼは、熱に浮かされる瞳で彼を見上げた。
伝えたい。それは呪いではない。十年前のあの日、死にゆくあなたの体から、私が引き受けた「痛み」の欠片なのだと。
だが、焼けた喉は空気の漏れる音を立てるだけで、真実を綴るための指も、今はもう満足に動かない。
「殿下、恐ろしいことですわ……!」
リリアーヌが、わざとらしく震える声でアルベルトの腕に縋り付いた。
「これは……『痛みの共有』を装って相手の命を吸い取る、呪術の印ではありませんか? この女、あなたの過去を調べ上げ、あなたの体を蝕むために、同じ痣を自らに刻んだのです!」
「……吸命術か」
アルベルトの瞳に、激しい嫌悪と、そして恐怖に近い怒りが宿った。
彼にとって、リリアーヌこそが命を救ってくれた「光」であり、エルゼは自分を陥れようとする「闇」でしかない。その闇が、自分の聖域であるはずの過去の記憶を汚しているのだと、彼は信じ込んだ。
「どこまで……どこまで私を汚せば気が済むんだ、お前は! 私の傷さえも、私を呪うための道具にするのか!」
「……っ、……あ、……ぁ……!」
エルゼは必死に首を振った。
違う。それはあなたの命を繋いだ証。私が、あなたを愛している何よりの証明。
けれど、アルベルトはその痣を、まるで毒虫でも見るかのように見つめ、拳を強く握りしめた。
「汚らわしい。その痣を見るだけで、私の過去が、リリアーヌとの思い出が穢される……! 衛兵! この女をさらに深い最下層へ移せ。二度と、私の目に触れさせるな!」
引きずられていくエルゼ。
彼女は遠のく意識の中で、アルベルトが自らの胸元にある「本物の傷」を、守るように強く押さえているのを見た。
(いいのです、殿下……。たとえ呪いだと思われても……)
エルゼは、暗い奈落へと落とされながら、自らの鎖骨の下にある痣を、感覚のない指でそっとなぞった。
彼と同じ痛みを、今も共有できている。
それだけが、今の彼女に許された、唯一の「愛の形」だった。
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