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第三章:再会、そして絶望へ
第20話:崩壊する王国と最後の藁
騎士団長という肩書きを剥奪され、レオンが戻ったのは、王都の隅にある荒れ果てた別邸だった。
かつては「国の英雄」の帰還を待つ者たちで溢れていたはずの門前には、今は冬の枯れ葉が舞うばかり。右腕の腐敗は、もはや肘の上まで這い上がり、黒い痣となって彼の肉を蝕んでいる。
「……カトリーヌ。カトリーヌなら、俺を見捨てないはずだ」
レオンは縋るような思いで、一通の手紙を書いた。
宛先は、彼がアリアを蔑ろにしてまで熱を上げていた公爵令嬢、カトリーヌ。アリアの存在を「賭けの対象」として笑い合った、彼の「本命」だったはずの女だ。
数日後。返信の代わりにやってきたのは、カトリーヌ本人……ではなく、彼女の家の使いの者だった。
男は汚らわしいものを見る目で、レオンに一枚の紙きれを突きつけた。そこには、カトリーヌの流麗な文字でたった数行、冷酷な事実が記されていた。
『魔力も地位も失い、おまけに腕まで腐った男に、何の価値があるのかしら? 私の隣に立つのは、王国を救う英雄だけ。貴方のような「無能な壊れ物」は、せいぜい惨めに野垂れ死になさい』
「が……っ、あああああ!」
レオンは手紙を握りつぶし、喉の奥から獣のような咆哮を上げた。
信じていた。自分には価値があるのだと。たとえアリアを失っても、自分自身の輝きに人々は跪くのだと。
だが、現実は違った。人々が、そしてカトリーヌが愛していたのは「レオン」という男ではなく、アリアの献身的な加護によって作り上げられた「無敵の騎士」という虚像に過ぎなかったのだ。
その頃、王国はまさに滅びの淵にあった。
国境付近の結界はアリアが去ってから日ごとに薄れ、ついには魔物の大群が領内に侵入。最前線の村々は焼き払われ、王国の騎士たちは「治らない傷」への恐怖から戦意を喪失していた。
「……アリアだ。アリアさえ戻れば、すべて元通りになる」
レオンの瞳に、狂気じみた光が宿る。
自分を捨てたカトリーヌへの怒りも、地位を奪った国王への恨みも、すべてを棚に上げ、彼は自分の窮状を「アリアが側にいないせい」という一点に集約させた。
今の自分には何もない。だが、アリアなら、あのお人好しで自分を盲目的に愛していたアリアなら、今の自分の惨めな姿を見せれば、きっと涙を流して駆け寄ってくれるはずだ。
「そうだ……俺が悪かったと、一言謝ってやればいいんだ。あいつは俺に惚れている。俺に縋られるのを、ずっと待っているはずなんだ……!」
レオンは、震える左手でボロボロの外套を羽織った。
王国政府もまた、最後の手段として「帝国への公式な支援要請」を検討し始めていた。かつての英雄という「殻」だけが残ったレオンは、その交渉の末席に、這ってでも加わることを決意する。
それが、自分を拒絶した「あの女」を再び手に入れるための、最後の藁だと信じて。
かつては「国の英雄」の帰還を待つ者たちで溢れていたはずの門前には、今は冬の枯れ葉が舞うばかり。右腕の腐敗は、もはや肘の上まで這い上がり、黒い痣となって彼の肉を蝕んでいる。
「……カトリーヌ。カトリーヌなら、俺を見捨てないはずだ」
レオンは縋るような思いで、一通の手紙を書いた。
宛先は、彼がアリアを蔑ろにしてまで熱を上げていた公爵令嬢、カトリーヌ。アリアの存在を「賭けの対象」として笑い合った、彼の「本命」だったはずの女だ。
数日後。返信の代わりにやってきたのは、カトリーヌ本人……ではなく、彼女の家の使いの者だった。
男は汚らわしいものを見る目で、レオンに一枚の紙きれを突きつけた。そこには、カトリーヌの流麗な文字でたった数行、冷酷な事実が記されていた。
『魔力も地位も失い、おまけに腕まで腐った男に、何の価値があるのかしら? 私の隣に立つのは、王国を救う英雄だけ。貴方のような「無能な壊れ物」は、せいぜい惨めに野垂れ死になさい』
「が……っ、あああああ!」
レオンは手紙を握りつぶし、喉の奥から獣のような咆哮を上げた。
信じていた。自分には価値があるのだと。たとえアリアを失っても、自分自身の輝きに人々は跪くのだと。
だが、現実は違った。人々が、そしてカトリーヌが愛していたのは「レオン」という男ではなく、アリアの献身的な加護によって作り上げられた「無敵の騎士」という虚像に過ぎなかったのだ。
その頃、王国はまさに滅びの淵にあった。
国境付近の結界はアリアが去ってから日ごとに薄れ、ついには魔物の大群が領内に侵入。最前線の村々は焼き払われ、王国の騎士たちは「治らない傷」への恐怖から戦意を喪失していた。
「……アリアだ。アリアさえ戻れば、すべて元通りになる」
レオンの瞳に、狂気じみた光が宿る。
自分を捨てたカトリーヌへの怒りも、地位を奪った国王への恨みも、すべてを棚に上げ、彼は自分の窮状を「アリアが側にいないせい」という一点に集約させた。
今の自分には何もない。だが、アリアなら、あのお人好しで自分を盲目的に愛していたアリアなら、今の自分の惨めな姿を見せれば、きっと涙を流して駆け寄ってくれるはずだ。
「そうだ……俺が悪かったと、一言謝ってやればいいんだ。あいつは俺に惚れている。俺に縋られるのを、ずっと待っているはずなんだ……!」
レオンは、震える左手でボロボロの外套を羽織った。
王国政府もまた、最後の手段として「帝国への公式な支援要請」を検討し始めていた。かつての英雄という「殻」だけが残ったレオンは、その交渉の末席に、這ってでも加わることを決意する。
それが、自分を拒絶した「あの女」を再び手に入れるための、最後の藁だと信じて。
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