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第四章:幸せの向こう側
第32話:受け入れた幸せ
帝国全土が祝祭の準備に沸き立つ、婚礼前夜。
アリアは、皇后となる者にのみ許される最高級の私室で、一人鏡の前に立っていた。
部屋に設えられた大きな三面鏡に映るのは、かつての自分とは似ても似似つかない女性の姿だ。
あの日か鏡で見た、自身の顔を「幽霊のように青白く、価値のない地味な女」だと思い込んでいた頃の面影は、もうどこにもない。
帝国特産の最高級の絹で仕立てられた白銀のドレスを纏い、肌は真珠のように艶やかに輝き、その瞳には未来を見据える意志が宿っている。
「……これが、私……」
アリアは、そっと自分の頬に触れた。
王国にいた頃は、鏡を見るのが嫌いだった。鏡を見るたびに、レオンの隣に並ぶにはあまりに不釣り合いな自分を突きつけられ、それを補うために「もっと役に立たなければ」「もっと自分を削らなければ」と、自らを追い詰めていたからだ。
(あの頃の私は、死ぬことよりも、誰にも必要とされないことを恐れていた……)
思い出されるのは、冷たい雨の日の祈り、戦場の泥にまみれた治療、そしてレオンに「お前は癒していればいいんだ」と突き放された時の、胸を刺すような痛み。
かつて流した涙は、すべて自分を否定するためのものだった。
その時、コンコン、と控えめなノックの音が響き、ジークハルトが入ってきた。
「アリア、夜風が冷えてきた。……あまり夜更かしをしては、明日に響くぞ」
ジークハルトは、アリアの姿を目にした瞬間、言葉を失ったように立ち止まった。
ただでさえ美しい彼女が、明日への期待と、これまでの自分への決別を終えたような清々しい表情を浮かべている。その神々しいまでの姿に、帝国の皇帝ですら気圧されたのだ。
「……ああ、あまりに綺麗だ。私の妻になるのがお前で、本当に良かった」
ジークハルトは歩み寄り、彼女の肩をそっと抱き寄せた。
アリアは、その温もりに身を委ねながら、静かに口を開いた。
「陛下。……私、昔は自分が大嫌いでした。この魔力も、この顔も、何もかも。誰かの役に立たなければ、生きている価値さえないと思っていたのです」
「……」
「でも、陛下が私を見つけてくださって……。癒しを求めるのではなく、ただ私という人間が笑うことを望んでくださった。そのおかげで、私は今日、初めて自分を許せた気がします」
アリアの瞳から、一粒の、そしてまた一粒と、雫がこぼれ落ちた。
それはレオンのために流した、暗く重い絶望の涙ではない。
まるで星が溶け出したかのように光り輝く、歓喜の雫。
「私……生きていて、よかったです。この日のために、あの地獄のような日々があったのだと思えるくらい、今、私は幸せですわ」
アリアは声を震わせながら、魂の底から叫ぶように言った。
それは、「星の聖女」という義務から解放され、一人の女性として自分の幸せを受け入れた瞬間だった。
ジークハルトは何も言わず、彼女が泣き止むまで強く、優しく抱きしめ続けた。
彼の胸の中で、アリアは過去の自分の「死骸」を、その光り輝く涙で浄化していった。
かつて彼女を縛っていた「初恋」という名の呪いは、もうどこにも残っていない。
明日、彼女は新しい名前を、新しい人生を、そして世界で一番の幸福を、その手で掴み取るのだ。
アリアは、皇后となる者にのみ許される最高級の私室で、一人鏡の前に立っていた。
部屋に設えられた大きな三面鏡に映るのは、かつての自分とは似ても似似つかない女性の姿だ。
あの日か鏡で見た、自身の顔を「幽霊のように青白く、価値のない地味な女」だと思い込んでいた頃の面影は、もうどこにもない。
帝国特産の最高級の絹で仕立てられた白銀のドレスを纏い、肌は真珠のように艶やかに輝き、その瞳には未来を見据える意志が宿っている。
「……これが、私……」
アリアは、そっと自分の頬に触れた。
王国にいた頃は、鏡を見るのが嫌いだった。鏡を見るたびに、レオンの隣に並ぶにはあまりに不釣り合いな自分を突きつけられ、それを補うために「もっと役に立たなければ」「もっと自分を削らなければ」と、自らを追い詰めていたからだ。
(あの頃の私は、死ぬことよりも、誰にも必要とされないことを恐れていた……)
思い出されるのは、冷たい雨の日の祈り、戦場の泥にまみれた治療、そしてレオンに「お前は癒していればいいんだ」と突き放された時の、胸を刺すような痛み。
かつて流した涙は、すべて自分を否定するためのものだった。
その時、コンコン、と控えめなノックの音が響き、ジークハルトが入ってきた。
「アリア、夜風が冷えてきた。……あまり夜更かしをしては、明日に響くぞ」
ジークハルトは、アリアの姿を目にした瞬間、言葉を失ったように立ち止まった。
ただでさえ美しい彼女が、明日への期待と、これまでの自分への決別を終えたような清々しい表情を浮かべている。その神々しいまでの姿に、帝国の皇帝ですら気圧されたのだ。
「……ああ、あまりに綺麗だ。私の妻になるのがお前で、本当に良かった」
ジークハルトは歩み寄り、彼女の肩をそっと抱き寄せた。
アリアは、その温もりに身を委ねながら、静かに口を開いた。
「陛下。……私、昔は自分が大嫌いでした。この魔力も、この顔も、何もかも。誰かの役に立たなければ、生きている価値さえないと思っていたのです」
「……」
「でも、陛下が私を見つけてくださって……。癒しを求めるのではなく、ただ私という人間が笑うことを望んでくださった。そのおかげで、私は今日、初めて自分を許せた気がします」
アリアの瞳から、一粒の、そしてまた一粒と、雫がこぼれ落ちた。
それはレオンのために流した、暗く重い絶望の涙ではない。
まるで星が溶け出したかのように光り輝く、歓喜の雫。
「私……生きていて、よかったです。この日のために、あの地獄のような日々があったのだと思えるくらい、今、私は幸せですわ」
アリアは声を震わせながら、魂の底から叫ぶように言った。
それは、「星の聖女」という義務から解放され、一人の女性として自分の幸せを受け入れた瞬間だった。
ジークハルトは何も言わず、彼女が泣き止むまで強く、優しく抱きしめ続けた。
彼の胸の中で、アリアは過去の自分の「死骸」を、その光り輝く涙で浄化していった。
かつて彼女を縛っていた「初恋」という名の呪いは、もうどこにも残っていない。
明日、彼女は新しい名前を、新しい人生を、そして世界で一番の幸福を、その手で掴み取るのだ。
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