死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん

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第22話:追い詰められた無能

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「……ない。どこを探しても、あの書類がないんだ!」

王都の裏通り。雨水が滴る高架下で、ディートリヒは狂ったように自分のボロボロの鞄をひっくり返していた。
かつて彼がエルゼの机から「盗み出し」、自分の手柄にしようとした王宮の重要機密書類。それこそが、今や彼の首を絞める絞首刑の縄となっていた。

「ディートリヒ様、往生際が悪いですよ」

路地の入り口に、冷徹な足音が響く。現れたのは、王立騎士団の捜査官たちだった。

「その書類は国家の最高機密だ。紛失、あるいは他国への漏洩はに相当する。お前が『手柄にするために持ち出した』と証言した記録は既にあるんだ。さあ、書類を出せ。出せなければ……分かっているな?」

「ま、待ってくれ! あれは、姉上が……エルゼが持っていったんだ! あいつが僕をハメたんだ!」

「見苦しい。エルゼ様は既に隣国の皇太子妃候補として、あちらの国で多大な貢献をされている。そんな高潔な方が、お前のような無能な男を陥れるために、わざわざ国家機密を盗むはずがないだろう」

騎士の言葉は、ディートリヒの心臓を無慈悲に抉った。
世間にとって、エルゼは「有能で慈悲深い聖女」であり、自分たちは「家の資産を食いつぶし、挙句に国家を売ろうとした大罪人」なのだ。

騎士たちの追及から命からがら逃げ出したディートリヒは、身を隠していた廃屋で父とマリアに合流した。

「……お父様、もうダメです。僕はこのままじゃ処刑される……!」

「マリアも、もう限界ですわ! お腹が空いて、肌もボロボロ……。どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの!?」

三人は互いを罵り合っていたが、ふと父が何かに取り憑かれたような顔で顔を上げた。

「……そうだ。エルゼだ。エルゼに連絡を取るんだ」

「えっ? ですが、あんなに酷いことを言って追い出したのに……」

「馬鹿を言え! あいつは『便利屋』だろう? 私たちのために尽くすのがあいつの役目だ。今は少しへそを曲げているだけだ。私たちが『許してやるから戻ってこい、お前がいないと家が困るんだ』と泣きつけば、あいつのことだ、きっと喜んで助けに来るに決まっている!」

父の言葉に、マリアとディートリヒの目に卑屈な光が宿った。
彼らは自分たちがしてきた仕打ちを棚に上げ、今なおエルゼを自分たちの「所有物」だと思い込んでいた。

「そうですわ! お姉様に手紙を書きましょう。『お父様が病気で死にそうだ』とか言えば、すぐに飛んでくるはずですわ」

「ああ。隣国の皇太子妃になるくらいなら、金も腐るほど持っているだろう。その金を送らせれば、僕の罪も揉み消せるはずだ!」

三人は、道端で拾った汚れた紙と炭の破片を使い、自分勝手な言葉を書き殴り始めた。
『お前を許してやるから、今すぐ戻ってこい』
『家族を見捨てるのか、この恩知らずめ』

その手紙が、エルゼにとって最高の「娯楽」になることも知らずに。



その頃、ルナリアの王宮。
シオンの腕の中で、私はトニから届いた「王国での動向」の報告を聞いていた。

「……ふふ、手紙? 私に?」

「ああ。何でも、君の同情を引こうと必死らしい。どうする、エルゼ。受け取ってやるか?」

シオンが私の耳元で囁く。私は窓の外、美しく整えられた庭園を眺めながら、冷たく微笑んだ。

「ええ。届くのが楽しみですわね。……どんなに惨めな文字で、どんなに厚顔無恥なことが書かれているのか。最高に笑える『読み物』になりそうですもの」

復讐の幕は、いよいよ引き落とされる。














定期アナウンス↓

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