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第23話:借金取りの訪問
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家族が「エルゼなら助けてくれる」という甘い幻想を抱き、汚れた紙に身勝手な手紙をしたためていた、その時だった。
潜伏先の廃屋の扉が、凄まじい音を立てて蹴破られた。
「ひっ、騎士団!? 違うんです、書類は……!」
ディートリヒが悲鳴を上げたが、入ってきたのは騎士ではなかった。黒い毛皮のコートを羽織り、いかつい体格をした男たち――王都で最も冷酷な金貸しとして知られる『鉄の足枷(あしかせ)』商会の取り立て屋たちだった。
「よう、アデナウアー公爵。……いや、今はただの浮浪者のおっさんか」
「な、なんだお前たちは! 私に無礼な……!」
「無礼なのはどっちだ? 貴様らがマリア嬢の宝石やドレス、ディートリヒ坊ちゃんの夜遊びのために借りた金の返済期限は、昨日で切れてるんだよ」
男が突きつけたのは、何十枚にも及ぶ借用書の束だった。そこには、エルゼの目を盗んで彼らが個人的に署名・捺印した、法外な利息の契約が並んでいた。
「そんな……その借金は、エルゼが公爵家の予算で精算したはずだわ!」
マリアが叫ぶが、取り立て屋は鼻で笑った。
「あの有能な娘さんは、そんな無駄金は一ペニーも払っちゃいねえよ。むしろ、その債権を俺たちの商会から『ある投資家』が全て買い取ったんだ。その投資家からの指示は一つ。『一リラの猶予も与えず、徹底的に回収しろ』だ」
その「投資家」の正体が誰であるか、父の脳裏に最悪の予感が走った。
「……ま、待て! 今すぐには払えないが、娘から金が届くんだ! エルゼは隣国の皇太子妃になるんだぞ! その手紙を今書いたところで……」
「隣国の妃様が、自分を捨てた家族に金を恵むかよ。……おい、野郎ども! 身体検査だ。売れるもんは全部剥ぎ取れ!」
「嫌! 離して、この汚い手で触らないで!」
マリアの悲鳴も虚しく、彼女が汚れた服の裏に隠し持っていた最後の一粒の真珠のイヤリングが奪い取られた。ディートリヒの高級な靴も、父が肌身離さず持っていた紋章入りの懐中時計も、全てが取り上げられた。
「あ、ああ……。それは、それはアデナウアー家の誇りなんだ……!」
「誇りじゃ腹は膨れねえよ。おい、そのボロい上着も脱げ。上質の毛織物だ、少しは足しになる」
真冬の冷気が漂う廃屋で、三人は薄い肌着同然の姿にされ、文字通り「着ている服以外全て」を奪われて床に転がされた。
「……これで全部か。足りねえ分は、せいぜい街のドブ板掃除でもして、一生かけて返してもらうぜ。逃げようとするなよ? 王宮にも『反逆者の家族』として指名手配の協力は取り付けてあるんだからな」
取り立て屋たちが去った後、後に残されたのは、凍えるような寒さと、自分たちが書き殴った「エルゼへの手紙」の残骸だけだった。
◆
ルナリアの暖かい暖炉の前で、私はその報告をトニから聞いた。
「……そう。最後の一粒まで、綺麗に回収できたのね」
「はい、会長。彼らにはもう、明日を生きるためのパンを買う銅貨一枚残っていません」
「ふふ、素晴らしいわ。……トニ。あの方たちが必死に書いたという『お手紙』、届いたら私のところに持ってきてちょうだい。ただし、汚れているでしょうから、魔法で消毒してからね」
私はシオンに淹れてもらった極上の紅茶を一口含んだ。
あの日、断頭台へ向かう私を嘲笑った家族たち。
彼らには、これから始まる「返済という名の地獄」を存分に味わってもらわなくては。
潜伏先の廃屋の扉が、凄まじい音を立てて蹴破られた。
「ひっ、騎士団!? 違うんです、書類は……!」
ディートリヒが悲鳴を上げたが、入ってきたのは騎士ではなかった。黒い毛皮のコートを羽織り、いかつい体格をした男たち――王都で最も冷酷な金貸しとして知られる『鉄の足枷(あしかせ)』商会の取り立て屋たちだった。
「よう、アデナウアー公爵。……いや、今はただの浮浪者のおっさんか」
「な、なんだお前たちは! 私に無礼な……!」
「無礼なのはどっちだ? 貴様らがマリア嬢の宝石やドレス、ディートリヒ坊ちゃんの夜遊びのために借りた金の返済期限は、昨日で切れてるんだよ」
男が突きつけたのは、何十枚にも及ぶ借用書の束だった。そこには、エルゼの目を盗んで彼らが個人的に署名・捺印した、法外な利息の契約が並んでいた。
「そんな……その借金は、エルゼが公爵家の予算で精算したはずだわ!」
マリアが叫ぶが、取り立て屋は鼻で笑った。
「あの有能な娘さんは、そんな無駄金は一ペニーも払っちゃいねえよ。むしろ、その債権を俺たちの商会から『ある投資家』が全て買い取ったんだ。その投資家からの指示は一つ。『一リラの猶予も与えず、徹底的に回収しろ』だ」
その「投資家」の正体が誰であるか、父の脳裏に最悪の予感が走った。
「……ま、待て! 今すぐには払えないが、娘から金が届くんだ! エルゼは隣国の皇太子妃になるんだぞ! その手紙を今書いたところで……」
「隣国の妃様が、自分を捨てた家族に金を恵むかよ。……おい、野郎ども! 身体検査だ。売れるもんは全部剥ぎ取れ!」
「嫌! 離して、この汚い手で触らないで!」
マリアの悲鳴も虚しく、彼女が汚れた服の裏に隠し持っていた最後の一粒の真珠のイヤリングが奪い取られた。ディートリヒの高級な靴も、父が肌身離さず持っていた紋章入りの懐中時計も、全てが取り上げられた。
「あ、ああ……。それは、それはアデナウアー家の誇りなんだ……!」
「誇りじゃ腹は膨れねえよ。おい、そのボロい上着も脱げ。上質の毛織物だ、少しは足しになる」
真冬の冷気が漂う廃屋で、三人は薄い肌着同然の姿にされ、文字通り「着ている服以外全て」を奪われて床に転がされた。
「……これで全部か。足りねえ分は、せいぜい街のドブ板掃除でもして、一生かけて返してもらうぜ。逃げようとするなよ? 王宮にも『反逆者の家族』として指名手配の協力は取り付けてあるんだからな」
取り立て屋たちが去った後、後に残されたのは、凍えるような寒さと、自分たちが書き殴った「エルゼへの手紙」の残骸だけだった。
◆
ルナリアの暖かい暖炉の前で、私はその報告をトニから聞いた。
「……そう。最後の一粒まで、綺麗に回収できたのね」
「はい、会長。彼らにはもう、明日を生きるためのパンを買う銅貨一枚残っていません」
「ふふ、素晴らしいわ。……トニ。あの方たちが必死に書いたという『お手紙』、届いたら私のところに持ってきてちょうだい。ただし、汚れているでしょうから、魔法で消毒してからね」
私はシオンに淹れてもらった極上の紅茶を一口含んだ。
あの日、断頭台へ向かう私を嘲笑った家族たち。
彼らには、これから始まる「返済という名の地獄」を存分に味わってもらわなくては。
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