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第24話:助けを求める醜態
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ルナリア聖教国の王宮、陽光が降り注ぐサンルーム。
私の前には、魔法で除菌・消臭された一束の汚れた紙が置かれていた。王国から届いた、アデナウアー家の生き残りたちからの「手紙」だ。
「……読むのか、エルゼ? 気分を害するだけだと思うが」
隣で果物を剥いていたシオンが、呆れたように眉を寄せる。
「いいえ、シオン様。これは私にとって、極上の喜劇(コメディ)ですもの」
私は優雅に手紙を広げた。そこには、炭で書き殴られた、支離滅裂な懇願と傲慢が混ざり合った文章が並んでいた。
『エルゼ、お前は本当に冷たい娘だ。父である私がこれほど苦労しているのに、隣国で贅沢三昧とは何事か。今すぐ金貨五千枚を送れ。そうすれば、これまでの不義理を許してやろう。お前には家族を支える義務があるのだ』
思わず、吹き出してしまった。
家も爵位も失い、裸同然で廃屋に転がっている男が、まだ「許してやる」などという言葉を使えるとは。その厚顔無恥さには、もはや感心すら覚える。
ディートリヒの分はさらに悲惨だった。
『姉上、助けてください! 僕はこのままでは死刑です。姉上の持っている書類さえ返してくれれば、僕はまた有能な官僚に戻れるんです。姉上は僕の踏み台になればいい、それが一番幸せな生き方でしょう?』
そしてマリア。
『お姉様、最低よ! 私の美貌が台無しよ。今すぐ隣国の高級な美容液とドレスを送りなさい。お姉様みたいな地味な女には似合わないものばかりよ。早くして!』
読み終えた私は、静かに手紙を畳んだ。
前世の私なら、この言葉に傷つき、あるいは義務感に駆られて動いたかもしれない。けれど、今の私にあるのは、乾いた失笑だけだ。
「トニ、準備はいいかしら?」
「はい、会長。既に王国への返信ルートは確保しております」
私はペンを執り、封筒の表書きに一言だけ、冷徹な筆致で書き加えた。
――【宛先不明:該当する家族は存在しません】――
中身は読まずに、封も開けずに突き返したように見せかける、魔法の偽装を施して。
◆
数日後。王国の薄暗い路地裏で、三人は届けられた封筒に飛びついた。
「来た! エルゼからの返事だ! これで助かるぞ!」
父が震える手で封筒を掴むが、そこには無慈悲な赤い刻印が押されていた。
「……あ、宛先、不明……? 家族は、存在しない……?」
「そんな……嘘よ! 私はここにいるわ! あなたの妹のマリア様よ!」
マリアが封筒を奪い取り、狂ったように中身を確認しようとしたが、封筒は彼女の手に触れた瞬間、パサリと灰になって崩れ落ちた。
「エルゼは……僕たちのことを、最初から『いなかったもの』として扱っているのか……?」
ディートリヒが絶望に顔を歪める。
彼らが最後に縋った「情」という名の糸は、エルゼの手によって、一瞬で断ち切られたのだ。
助けは来ない。金も来ない。
彼らがどれほど叫ぼうと、隣国の輝かしい未来を歩むエルゼにとって、彼らはもう、名前を呼ぶ価値さえない「無」だった。
「あああああ! エルゼ! エルゼぇぇ!」
父の悲鳴が、冷たい雨の降る王都の空に虚しく消えていった。
私の前には、魔法で除菌・消臭された一束の汚れた紙が置かれていた。王国から届いた、アデナウアー家の生き残りたちからの「手紙」だ。
「……読むのか、エルゼ? 気分を害するだけだと思うが」
隣で果物を剥いていたシオンが、呆れたように眉を寄せる。
「いいえ、シオン様。これは私にとって、極上の喜劇(コメディ)ですもの」
私は優雅に手紙を広げた。そこには、炭で書き殴られた、支離滅裂な懇願と傲慢が混ざり合った文章が並んでいた。
『エルゼ、お前は本当に冷たい娘だ。父である私がこれほど苦労しているのに、隣国で贅沢三昧とは何事か。今すぐ金貨五千枚を送れ。そうすれば、これまでの不義理を許してやろう。お前には家族を支える義務があるのだ』
思わず、吹き出してしまった。
家も爵位も失い、裸同然で廃屋に転がっている男が、まだ「許してやる」などという言葉を使えるとは。その厚顔無恥さには、もはや感心すら覚える。
ディートリヒの分はさらに悲惨だった。
『姉上、助けてください! 僕はこのままでは死刑です。姉上の持っている書類さえ返してくれれば、僕はまた有能な官僚に戻れるんです。姉上は僕の踏み台になればいい、それが一番幸せな生き方でしょう?』
そしてマリア。
『お姉様、最低よ! 私の美貌が台無しよ。今すぐ隣国の高級な美容液とドレスを送りなさい。お姉様みたいな地味な女には似合わないものばかりよ。早くして!』
読み終えた私は、静かに手紙を畳んだ。
前世の私なら、この言葉に傷つき、あるいは義務感に駆られて動いたかもしれない。けれど、今の私にあるのは、乾いた失笑だけだ。
「トニ、準備はいいかしら?」
「はい、会長。既に王国への返信ルートは確保しております」
私はペンを執り、封筒の表書きに一言だけ、冷徹な筆致で書き加えた。
――【宛先不明:該当する家族は存在しません】――
中身は読まずに、封も開けずに突き返したように見せかける、魔法の偽装を施して。
◆
数日後。王国の薄暗い路地裏で、三人は届けられた封筒に飛びついた。
「来た! エルゼからの返事だ! これで助かるぞ!」
父が震える手で封筒を掴むが、そこには無慈悲な赤い刻印が押されていた。
「……あ、宛先、不明……? 家族は、存在しない……?」
「そんな……嘘よ! 私はここにいるわ! あなたの妹のマリア様よ!」
マリアが封筒を奪い取り、狂ったように中身を確認しようとしたが、封筒は彼女の手に触れた瞬間、パサリと灰になって崩れ落ちた。
「エルゼは……僕たちのことを、最初から『いなかったもの』として扱っているのか……?」
ディートリヒが絶望に顔を歪める。
彼らが最後に縋った「情」という名の糸は、エルゼの手によって、一瞬で断ち切られたのだ。
助けは来ない。金も来ない。
彼らがどれほど叫ぼうと、隣国の輝かしい未来を歩むエルゼにとって、彼らはもう、名前を呼ぶ価値さえない「無」だった。
「あああああ! エルゼ! エルゼぇぇ!」
父の悲鳴が、冷たい雨の降る王都の空に虚しく消えていった。
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