役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?

しょくぱん

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第三部:知略と闇の胎動

第二十六話:咆哮する「生きた城」

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その日の夜、ラングリス王都の民は、この世のものとは思えない光景を目撃することとなった。
轟音と共に大地が裂け、中心に座するラングリス王宮が、身悶えするように形を変え始めたのだ。

「あ、あああ……城が、城が動いているぞ!」
「逃げろ! 壁に吸い込まれる!」

悲鳴が夜の闇を切り裂く。
シグムンド様が発動させた禁忌の術式は、周辺にいた衛兵や逃げ遅れた召使いたちの生命力を、無慈悲にその礎石へと引きずり込んでいた。
石材は筋肉のように脈打ち、漆黒の粘液が壁を伝い落ちる。窓は獲物を探す獣の「目」のように赤く光り、崩落していた尖塔は、骨を継ぎはぎしたかのような異形の姿へと再生していった。

その最深部。城の「核」として組み込まれたクロエ様の姿は、もはや人ではなかった。
彼女の四肢は石壁に溶け込み、血管のように伸びた魔力伝導路が城全体へと張り巡らされている。

『……ああ、アニエス……憎い……。私が、私が主役……この城は私……!』

城そのものが発する怨嗟の声。
生命力を吸い尽くし、周囲の建物を飲み込んで自己増殖を続けるその姿は、建築学の常識を根底から覆す「魔の構造体」であった。

---

「……これは、ひどい有様ですわ」

帝国の国境。私はレオンハルト陛下と共に、遠く南の空にそびえ立つ「黒い影」を見つめていた。
距離があるにもかかわらず、風に乗って微かな血の匂いと、石が軋む断末魔の音が届いてくる。

「アニエス、あれは何だ。城が……まるで一つの巨大な魔獣のようではないか」

陛下の顔には隠しきれない嫌悪感が浮かんでいる。
私は手に持った地脈観測計を握りしめた。針は限界を超えて振り切れ、装置からは異音が発生している。

「『生贄建築サクリファイス・ビルド』……。生命力をエネルギーに変換し、構造を強制的に維持・拡大させる禁忌です。シグムンド様は、私への対抗策として、国そのものを生きた怪物に変えてしまわれたようですわ」

「国を怪物にだと? 狂っているな」

「ええ。ですが、建築士としてこれだけは言わせていただきます。……命を礎にするなど、あまりに醜悪。建物の本質は、住まう人を守ることにあるはずです。それを、人を喰らって維持するなど――」

私は、手にしていた観測計を床に叩きつけた。
かつて自分が心を込めて磨き、保守し、慈しんできた石たちが、あのような汚らわしい姿に堕とされた。その事実が、私の職人としての誇りを激しく燃え上がらせる。

「陛下。……あのような『出来損ないのゴミ欠陥住宅』、この世に存在させておくわけにはまいりません。今すぐ、解体作業の準備に取り掛かります」

「……解体だと? あの巨大な城をか?」

「いいえ。あれはもう城ではありません。世界を蝕む『癌細胞がんさいぼう』です。……私の設計図には、あのような異形の居場所など一ミリもありませんわ」

私は杖を掲げ、レアルタ帝国の地脈へアクセスを開始した。
向こうが「生」を啜るなら、こちらは「法」をもって制する。

「第十七段階、全術式……神域解体ディヴァイン・デモリション、構成開始。……シグムンド様、プロの解体作業がどれほど無慈悲なものか、その身に刻んで差し上げますわ」

アニエスの瞳が、かつてないほどの青い冷光を放った。


最後まで読んでいただきありがとうございます!
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