役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?

しょくぱん

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第三部:知略と闇の胎動

第二十七話:呪いの侵食、腐りゆく聖域

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異形の姿へと変貌したラングリス王宮――「魔城」と化したそれは、地響きを立ててその根を隣国レアルタへと伸ばし始めていた。

城の壁から染み出す漆黒の粘液は、触れるものすべての命を吸い取り、代わりにどす黒いカビのような呪いを撒き散らす。私が心血を注いで整備した美しい石畳の街道が、その呪いに触れた瞬間、ボロボロと砂のように崩れ落ちていく。

「な……なんだ、この黒い霧は!?息が、魔力が吸い取られる……!」
「アニエス様が造った壁が、溶けていくぞ!?」

国境付近の住民たちが悲鳴を上げる。
私の建築魔法は、本来「清浄なマナ」を循環させることで強度を保つ。しかし、クロエ様を核とした魔城が放つのは、それを真っ向から否定する「負の波動」だった。

「……私の術式が、弾かれている?」

私は最前線の砦のバルコニーで、自らの指先が微かに震えるのを見つめた。
修復の呪文を唱えても、魔城から伸びる黒いカビが瞬時にそれを食い破り、構造を内側から腐らせていく。建築士として、丹精込めて造り上げた作品が、汚物にまみれて汚されていくような、吐き気を催すほどの不快感。

「アニエス、顔色が悪いぞ。下がっていろ、ここは我が軍の魔導師たちが――」

「いけません、陛下!あれは物理的な攻撃ではない、構造そのものを腐らせる『概念的な崩壊がいねんてきほうかい』です。下手に近づけば、兵士たちの命がそのままあの城の『餌』になりますわ!」

レオンハルト陛下を制したその時、空が割れるようなクロエ様の叫びが、脳内に直接響いてきた。

『アニエス……!見て……この美しさ……。あなたがどれだけ頑丈に造っても、私がすべて腐らせてあげる……!陛下も、この国も、あなたの誇りも……全部私の土台にするのよ!』

魔城の最上部、巨大な眼球のように赤く光る窓から、凄まじい密度の呪いの波動が放たれた。それは真っ直ぐに、私たちが立つ砦へと向かってくる。

「くっ……総員、盾を構えろ!」

陛下の叫びと共に、帝国兵たちが防御陣を組む。だが、相手は人の命を燃料にした呪いだ。まともな防御魔法では防ぎきれない。

「させません……!【緊急隔壁エマージェンシー・ウォール】、発動!」

私は杖を床に叩きつけ、ありったけのマナを注ぎ込んで多層の障壁を展開した。
――ガギィィィン!
衝突の衝撃で、砦全体が大きく揺れる。

だが、その呪いの波動は私の想像を絶していた。
防御の要であった魔導障壁に、ピシリと黒い亀裂が走る。その亀裂は一瞬で広がり、私の足元の大理石を黒く変色させていく。

「アニエス、危ない!」

崩れ落ちる床から私を救おうと、レオンハルト陛下が私の体を抱き寄せた。
しかし、その代償に――降り注ぐ黒い霧の雫が、陛下の腕を、そして背中を容赦なく濡らした。

「……ぐ、あああああッ!」

「陛下!?」

陛下の苦悶の声。
見れば、彼の腕に浮かび上がったのは、あの不吉な黒いカビの紋章。
かつて私が浄化したはずの呪いが、より禍々しい「建築物の呪い」と混ざり合い、再び彼の命を蝕み始めたのだ。

「……う、嘘でしょう……陛下、陛下!」

崩れゆく砦の中で、私は意識を失いかける陛下を抱きかかえた。
南の空では、魔城が勝利を確信したように不気味に咆哮し、その影をさらに大きくレアルタへと伸ばしていく。

私の聖域が、私の守るべき人が、あの『欠陥品ゴミ』によって壊されていく。

建築士アニエス・ラ・トール、人生最大の絶望。
だが、その瞳の奥の炎は、まだ消えてはいなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!
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