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第三部:知略と闇の胎動
第二十八話:取引の代償、沈みゆく皇帝
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「レオンハルト陛下!しっかりしてください、陛下!」
私の腕の中で、陛下の体温が急激に奪われていく。強靭な意志で知られる彼の瞳が混濁し、背中の呪印から立ち上る黒い瘴気が、私の清浄なマナを拒絶するように激しくうねっていた。
かつて私が浄化したはずの呪いが、クロエ様の「生贄の魔力」を触媒にして最悪の形で再燃している。これは単なる病ではない。建物の腐朽を人体に転写する、建築士にしか解けない残酷な『構造的解体』だ。
『……ふふふ、いい声ねアニエス。もっと泣き叫びなさいな』
空気を震わせ、魔城そのものが嘲笑う。
すると、黒い霧の中から巨大な魔鏡が浮かび上がり、そこには玉座で傲然と踏ん反り返るシグムンド様の姿が映し出された。彼の肌もまた、城の呪いに侵食され、血管が黒く浮き出ている。
「アニエス……。お前がその男を愛していることは、見ていれば分かる。……だが、その男の命の灯火も、あと刻限一つというところか?」
「シグムンド様……!陛下に何をしたのです!」
「何、簡単なことだ。お前が大切にしているこの国の『基礎』を、彼の命に紐付けただけだ。レアルタの街が腐れば彼も死ぬ。彼を救いたければ、方法はただ一つ……」
シグムンド様は汚れた唇を吊り上げ、冷酷な条件を突きつけた。
「その男を捨て、俺の元へ戻ってこい。お前がこの魔城の『最高保守責任者』となり、その類まれなる魔力でこの城を完成させるのだ。そうすれば、レオンハルトの呪いだけは解いてやろう」
「……っ、私に、あんな忌まわしい化け物を維持しろと仰るのですか!?」
「嫌とは言わせん。……さあ、選べ。愛する男とこの国が共に朽ちるのを見守るか、それとも俺の腕の中で、永遠にこの『生きた城』を支え続けるか!」
陛下の呼吸が浅くなる。彼の手が、私のドレスの袖を弱々しく掴んだ。
「……逃げろ、アニエス。私なら、構わ……ない……」
その言葉が、私の心に深く、鋭い楔を打ち込む。
建築士として、あのような「命を喰らう建物」を認めることは、魂を売るに等しい。だが、目の前のこの人は、私に帰る場所を、誇りを、そして愛を教えてくれた唯一の人なのだ。
私はゆっくりと立ち上がり、乱れた髪を整えた。瞳の奥、燃え盛るような怒りを、冷徹な理性の氷で蓋をする。
「……分かりました。その契約、お受けいたしますわ」
「アニエス……!?何を……」
驚愕に目を見開くレオンハルト陛下を、私はそっと抱きしめ、その耳元でだけ聞こえる微かな声で囁いた。
「……信じてください、陛下。私は、腕の悪い建築士が一番嫌いなのです」
私は陛下を側近たちに託し、一人、国境を越えて魔城へと歩みを進めた。
シグムンド様。あなたは大きな勘違いをしています。
私がその城に入るということは、あなたが手に入れるのは『守護神』ではなく、内側からすべてを食い破る『破壊の女神』だということに。
第三部、絶望の序章。
私は自ら、あの呪われた檻へと足を踏み入れる。すべてを、叩き壊すために。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
私の腕の中で、陛下の体温が急激に奪われていく。強靭な意志で知られる彼の瞳が混濁し、背中の呪印から立ち上る黒い瘴気が、私の清浄なマナを拒絶するように激しくうねっていた。
かつて私が浄化したはずの呪いが、クロエ様の「生贄の魔力」を触媒にして最悪の形で再燃している。これは単なる病ではない。建物の腐朽を人体に転写する、建築士にしか解けない残酷な『構造的解体』だ。
『……ふふふ、いい声ねアニエス。もっと泣き叫びなさいな』
空気を震わせ、魔城そのものが嘲笑う。
すると、黒い霧の中から巨大な魔鏡が浮かび上がり、そこには玉座で傲然と踏ん反り返るシグムンド様の姿が映し出された。彼の肌もまた、城の呪いに侵食され、血管が黒く浮き出ている。
「アニエス……。お前がその男を愛していることは、見ていれば分かる。……だが、その男の命の灯火も、あと刻限一つというところか?」
「シグムンド様……!陛下に何をしたのです!」
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シグムンド様は汚れた唇を吊り上げ、冷酷な条件を突きつけた。
「その男を捨て、俺の元へ戻ってこい。お前がこの魔城の『最高保守責任者』となり、その類まれなる魔力でこの城を完成させるのだ。そうすれば、レオンハルトの呪いだけは解いてやろう」
「……っ、私に、あんな忌まわしい化け物を維持しろと仰るのですか!?」
「嫌とは言わせん。……さあ、選べ。愛する男とこの国が共に朽ちるのを見守るか、それとも俺の腕の中で、永遠にこの『生きた城』を支え続けるか!」
陛下の呼吸が浅くなる。彼の手が、私のドレスの袖を弱々しく掴んだ。
「……逃げろ、アニエス。私なら、構わ……ない……」
その言葉が、私の心に深く、鋭い楔を打ち込む。
建築士として、あのような「命を喰らう建物」を認めることは、魂を売るに等しい。だが、目の前のこの人は、私に帰る場所を、誇りを、そして愛を教えてくれた唯一の人なのだ。
私はゆっくりと立ち上がり、乱れた髪を整えた。瞳の奥、燃え盛るような怒りを、冷徹な理性の氷で蓋をする。
「……分かりました。その契約、お受けいたしますわ」
「アニエス……!?何を……」
驚愕に目を見開くレオンハルト陛下を、私はそっと抱きしめ、その耳元でだけ聞こえる微かな声で囁いた。
「……信じてください、陛下。私は、腕の悪い建築士が一番嫌いなのです」
私は陛下を側近たちに託し、一人、国境を越えて魔城へと歩みを進めた。
シグムンド様。あなたは大きな勘違いをしています。
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