役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?

しょくぱん

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第三部:知略と闇の胎動

第三十一話:さらばラングリス、塵に還る傲慢

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轟音。それは巨大な獣が断末魔を上げているような、あるいは世界そのものが悲鳴を上げているような響きだった。

私が仕掛けた「魔導共振」により、異形の魔城は自らの重みに耐えきれず、内部から弾けるように崩壊を始めていた。廊下を走るたび、天井から巨大な石材が降り注ぎ、かつて私を繋ぎ止めていた鎖の残骸が、瓦礫の下へと消えていく。

「アニエス……!待て、行かないでくれ!俺を……俺を置いていくな!」

崩落する玉座の間。瓦礫に足を挟まれ、動けなくなったシグムンド様が、泥にまみれた手をこちらへ伸ばしていた。
彼の背後では、城の「核」として埋め込まれていたクロエ様が、術式の崩壊と共に壁から剥がれ落ち、生気を失った人形で、ただガタガタと震えている。

私は、出口へと続く崩れかけのアーチの下で、一度だけ足を止め、冷ややかに振り返った。

「シグムンド様。あなたは最後まで、建築というものを理解していませんでしたわね」

「何を……何を言っている!助けてくれ、俺は王だ、この国の主なんだぞ!」

「いいえ。あなたは、ただの『不法占拠者スクワッター』ですわ。基礎のない権威、血で塗られた居場所……そんなものが、私の設計図に残るはずがないでしょう?」

ドォォォォン!!

一際大きな崩落が起き、シグムンド様の叫び声は瓦礫の濁流に飲み込まれていった。
彼らが愛し、執着し、人を犠牲にしてまで守ろうとした「城」は、いまや彼ら自身を埋葬する巨大な墓標へと変わったのだ。

私は城の正門――いや、かつて門だった瓦礫の山を飛び越え、外へと脱出した。
背後で、数百年続いたラングリス王国の象徴が、真っ黒な塵の雲となって完全に沈み込んでいく。

「……終わりましたわ。不適切な構造物、すべて解体完了です」

私は、土埃を払う暇もなく、国境付近の野営地へと急いだ。
そこには、私の帰りを信じて待っている、大切な人がいる。

---

「陛下……!レオンハルト陛下!」

帝国軍の天幕に飛び込むと、そこには顔色の青ざめた陛下が、横たわっていた。
背中の呪印は、魔城の崩壊と共にその供給源を失い、弱まりつつある。だが、まだ彼の命を蝕む「毒」は消えていない。

「……アニ、エス……か……?無事、だったのだな……」

弱々しく目を開ける陛下。私は彼の震える手を両手で包み込み、自らの清浄なマナを流し込んだ。

「ええ、戻りましたわ。……さあ、陛下。仕上げの修復作業を始めましょう。あなたの『構造いのち』を汚す不純物、私が一粒残らず、美しく磨き上げて差し上げます」

私は杖を掲げ、今度は壊すためではなく、「癒やす」ための建築術式を展開した。
陛下の周りに、温かな光の回路が幾何学模様を描いて浮かび上がる。
呪いの黒い霧が、朝日を浴びた露のように消え去り、彼の肌に健康的な赤みが戻っていく。

「……ふぅ。これで、完璧ですわ」

私は安堵の溜息をつき、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
レオンハルト陛下は、起き上がると同時に私を力強く抱き寄せ、その胸に顔を埋めさせてくれた。

「……おかえり、アニエス。私の、そして帝国の、誇り高き建築士」

遠く、ラングリスの方向から立ち上る塵の雲が、夕日に染まって輝いている。
更地になったその土地には、もう二度と、歪んだ心が生み出す欠陥住宅は建たないだろう。

第三部、完結。
そして物語は、更地になった旧王国の再建と、二人の「真の家」を築く最終章へと向かいます。

最後まで読んでいただきありがとうございます!
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