家族に売られてたどり着いた先は、王女様の侍女でした。 ――掃除だけは誰にも負けません。

月城 蓮桜音

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第7話 王城への道

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 馬車の揺れは、思っていたよりも静かだった。舗装された道を進んでいるらしく、車輪が跳ねることも少ない。私は背もたれに身を預け、膝の上に手を重ねていた。

 外の景色は、少しずつ変わっていく。見慣れた畑や林が途切れ、道幅が広くなる。人の往来も増え、馬車とすれ違う回数が多くなった。王城へ向かう道なのだ、と今さらのように思う。
 
 馬車の中は、私一人ではなかった。向かいの席に、年の近そうな娘が二人座っている。どちらも、少し緊張した顔で、時折ひそひそと声を交わしていた。
 
「……侍女って、何人くらい採るのかしら」
 
「さあ。でも、侍女として差し出せば、家にお金が出るって話だもの。きっと大変なのでしょうね」
 
「でも、王城勤めなんて、縁がなければ一生ないわよね」
 
 小さな声。私に聞かせるつもりはないのだろうが、馬車の中ではよく通る。私は、黙って外を見ていた。彼女たちの会話に、口を挟む理由も、持っている情報もなかった。

 王城が見えたのは、それからしばらくしてからのことだった。最初は、城壁の一部だけ。灰色の石が、空の下に水平に伸びている。近づくにつれて、その大きさが少しずつ分かってきた。高い。そして、広い。屋敷とは比べものにならない。住むための建物というより、街そのものだった。
 
 胸の奥が、わずかにざわつく。不安なのか、圧倒されているだけなのか、自分でも分からない。私は、膝の上で指を動かした。無意識に、縫い針をつまむ時の癖で、指先を確かめている。――大丈夫。そう言い聞かせる理由は、はっきりしていた。

 文字は分からない。作法も、きっと足りない。王城のことも、何も知らない。それでも……。掃除のことなら、自信がある。それだけは、胸を張って言える。それが、私の仕事だったのだから。
 
 馬車は、ゆっくりと速度を落とし始める。正面には、開かれた大門と、その向こうに続く道が見えた。王城は、もう遠くなかった。

 ――ここから先が、私の新しい仕事場になる。
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