小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―

月城 蓮桜音

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第7話 ティアの歌と精霊

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 翌朝、シマリスの姿をした精霊が、夜のうちに姿を変えた精霊たちを連れてきた。小鳥が二羽と、子猫が一匹。我にペコリと頭を下げ、ティアの膝の上に集まった。

「わぁ! 可愛らしい精霊さんたちね。わたしはティア。よろしくね」

 まだ我から紹介もしていないのに、ティアは彼らがであると分かったようだな? 我から見ても、あの小窓から入って来る動物たちとたいして見た目は変わらないと思うのだが……これもシンクロ率が高いから分かるのだろうか?

「どうぞよろしくです、あるじ様。ボクたちと仲良くしてくれたら嬉しいです」

 昨晩は、我にタメ語だったシマリスが、ティアには頑張って敬語を使っているな。やはりティアは特別な存在なのだろう。

「リスさん、こちらこそ仲良くしてね! わたしのことは、ティアって呼んで?」

「ティア様、ですね。ありがとうございます」

「さまも敬語もいらないよ? お友達や家族みたいに話して欲しいな」

「で、ですが……」

『ティアが良いと言っているのだから、そうしてやってくれんか? ティア、シマリスに名前をつけてやったらどうだ?』

「うん、そうだね! 名前を大事だいじに呼び合うと仲良くなれるって、かあさまが言ってたわ。うーん、そうね……リスさんはアトラ、ネコさんはコトラ、トリさんは……」

 アトラと呼ばれたシマリスが、ポワンと白く光った。続いてコトラと呼ばれた子猫もすぐにポワンと光る。

『ティア! ちょ、ちょっと待て! アトラ、コトラ、もしかしなくても契約したか?』

 慌てた我は立ち上がり、アトラとコトラに変化がないかと、マジマジと見つめた。見た目では全く分からないな。ティアに何かあったらと、オロオロしてしまう。契約すると、主人になったほうがそれなりにダメージを負うものなのだ。

「あ、本当だ。ボクは契約してるみたい。ティアと繋がった感じがするよ」

 子猫のコトラはまだ話せないらしく、コクンとうなずいた。やはり二匹とも契約していたか。これではティアの負担が計り知れないはずなのだが……。

『ティア、体は辛くないか? 頭がクラクラしたりとか、気持ち悪くなったりとかしてないか?』

「うん? どうもないよ? ほらっ! あ、あれ……?」

 元気に両手を上げたティアは、クラッとしたのか、両手をついて、へたり込んでしまった。

『ティア、本来は契約するのに呪文が要ることは前に話したと思うのだが、あるじになる側の者には、かなり負担が掛かるんだ。だから呪文を通してお互いに納得した上で契約をするのだが……恐らくティアとの契約は、相手が納得していれば、ティアが名前をつけるだけで成り立ってしまうらしいな』

「そうなの? でも、レオンの時は平気だったよ?」

 ティアが痛みに慣れてしまってるのもありそうだが、本人が気づかないうちは黙っておこうか。普通の人間ならば、我と契約した時点で数日寝込むぐらいのダメージを負うはずなのだが、平気そうにピンピンしていたから安心していたのだ。

『うむ。我が先に契約しただろう? それから時間が経っていないから、その時のダメージが大きくて、恐らくティアの体はまだ完全に回復していないんだ。そこにアトラとコトラの契約をしたから、ティアにも分かるレベルのダメージを体に受けたのだと思われる』

「ふーん? なるほど? じゃあ、トリさん達は今度にした方が良いのかなぁ?」

『あぁ、そうだな。ティアの体のためにも、間違いなくそうしたほうがいい。一度に三体と契約を結ぶ事自体が前代未聞ぜんだいみもんってヤツでな……我らはつながっているから、ティアがどれくらい回復したかは分かる。完全に回復するまでは、誰にも名を与えないようにな?』

「うん、分かった! 回復したら教えてね? わたしには分からないみたいだから」

「分かったよ、ティア! ボクに出来る事なら、何でも手伝うから言ってね!」

「ウニャ――ン!」

 先に契約した二匹の精霊は、早速役に立てそうだと喜んでいるようだ。ティアの体についた傷は翌日には治ってることが多いから、契約によるダメージも、そこまで時間をかけずに治るとは思うのだがな。

「ありがとう、アトラ、コトラ。アトラたちも、わたしにできることがあれば言ってね。今はまだ、なにもできないと思うけど……」

 ティアの言葉に反応したのはアトラだった。ティアの手の平に乗り、親指を揺さぶって自分を見るように促す。

「ねぇねぇ、ティア! あの歌を歌って? ティアの母様の、あの歌が良い!」

「え? かあさまの? いいけど……わたし、かあさまみたいにじょうずじゃないよ?」

 首をコテンと傾げて答えたティアに、コトラが「ウニャン!」と声を上げながら擦り寄った。どうやら、コトラも聴きたいらしい。

「コトラもなの? そっかぁ。うーん、わたしよりトリさんたちの方が、お歌はじょうずだと思うんだけどなぁ?」

 ふと我に視線を向けたティアに、小さく頷いて見せた。アトラが昨日言っていたことも気になるし、我も純粋にティアの歌声を聴いてみたい。

「分かったわ。ヘタでも笑わないでね?」

 すぅ――――っと息を深く吸ってから、ティアは澄み切った美しい声で歌い始めた。何処が下手だって? 高い声だがキンキンしている訳ではなく、透明感のある綺麗な歌声だ。

「ルルル――ララルラ――――」

 ティアの歌声に、森の動物たちも集まって来た。確かにティアの声には力が込められているな。傷を負った子達もピョンピョンと跳ねられるぐらい元気になったようだ。怪我をしていない我も……とても心地良い歌声に、癒されていた。

「はっ! ダメだ、あの男が森に向かってる! 君たちは森に戻って!」

 急に大きな声で歌を止めたアトラは、動物達に帰るように誘導を始めた。歌も終盤だったのだが、この森の動物たちは、あの男に追いかけ回された事があるからだろう、慌てて小窓から外へ向かって走っていく。

『あの男がまた来るのか? 昨日も来ただろう?』

「勢いよくこちらの方角に走ってるんだ。ん? 誰かが怪我をしている? 血の匂いがここまでするね」

 我は顔を上げ、小窓の方向へ顔を向け、フンフンと匂いをいでみた。

『本当だな……』

「様子を見てこようか?」

『いや、大丈夫だ。我が聴き耳を立てるから、少し静かにして待っていてくれるか?』

 皆んながコクリと頷き、その場へ座り込んだ。我も腰を下ろし、頭だけを上げて耳に集中した。

「トムはどこだ! グランが背中から刺されたんだ!」

 あぁ、そうか。今日はティアが先読みをした、あのパーティーの日だったのか。先読みが当たったことで、こちらに来ないとも限らないな。アトラ達には一応、警戒しておいてもらおう。

『アトラ、コトラ。お主たちだけには念話で伝えておく。先日、ティアが先読みをしたことで、あの男が自分の弟を身代わりにして助かったようだ。ティアは自分のせいだとなげくだろうから、内緒にして欲しい。そして、こちらに来る可能性もあるから、気が付いたら教えてくれ』

『わかった』

 アトラとコトラは小さく頷いて、ティアの膝で甘え出した。何でもなかったよと伝えたいのだろう。

『ティア、特に問題はなかったぞ。大きな獲物を捕まえて来たようだ。歌を途中で終わらせてしまって悪かったな。また明日も歌ってくれるか? ティアは歌が上手いんだな! 我はあの歌、とても気に入ったぞ』

「そうなの? 分かったわ! また歌うね!」

 ティアは屈託のない笑顔で褒められたことを喜んでいる。ティアの笑顔は太陽のようだな。我々がこの笑顔を守れたらと思ってしまう。これからも色々なことが起こるだろうが、あんな下衆な男のために、ティアが苦しむ必要なんてないのだから。
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