小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―

月城 蓮桜音

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第44話 狙いは1つ、事件は2つ?

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 第二皇子が辺境伯の隠し部屋へ姿を現してから三日が経った。恐らくだが、今日か明日には『とうもろこしスープ』による毒殺未遂事件が起こるだろう。

 というのも、この三日間は辺境伯領でジョセフの爺さんが用意した食事を食べていたことと、我が毒の臭いに敏感だから毎食チェックしてやっていたのだ。用心に用心を重ねて、爺さんの用意した食事までも我が確認しているのだから、辺境伯にいる間は毒を入れられることはあり得ない。

 要は、この辺境伯領を出る今日から、ティアの先を視られる期間が長くて四日程度であることを考えると、明日の夜までには事件が起こる可能性が高いと言えるわけだ。

「さて、私も殿下に付き添い、城へ入るからね。ラウルにラウラ、留守を頼みますよ」

「「はい!」」

 ウィルと共に皇都へ向かう爺さんが、双子へ言葉をかけていた。双子も自身を守れるぐらいには強いから、爺さんもそこまで心配はしていないようだ。相変わらずの双子は、声が重なるほどの息ピッタリな返事をしたな。

「レオン殿、クリスをよろしくお願いします。クリス、連絡が行くまでは少しだけ我慢しておくれ?」

 我とクリスは、爺さんとウィルを見送ってから、すぐに森へ帰る予定なのだ。この騒動が落ち着くまでは辺境伯領へも近寄らない方が良いということで、数日間は公爵家の森から出ない予定だった。

『レオン、私もお祖父様について行きたい』

 お? 珍しく、ティアが念話で我に話しかけて来たな。さすがに双子や爺さんが心配すると思ったのだろうな。

『何か感じるのか?』

『うん。もしかしたら、普通の人間じゃないのかもしれないよ。お祖父様の先が全く視えないの。視ようとしても真っ暗で……何だか、さえぎられてるみたい』

『そうか。ティアは双子を巻き込みたくないんだな?』

『うん……後で怒られると思うけど、私とレオンだけなら、お祖父様も、ウィルも守れるでしょう?』

 確かにな。強いとはいえ、何かあった時に双子をかばうのは難しいが、我らだけなら空間移動もできるからな。強さだけでなく、逃げるのも逃がすのもできるのは強みとなるだろう。

『ティアの言いたいことは分かった。爺さんの後ろをついて行くか? それとも、先に城へ入るか?』

 ティアは、我の顔に視線を向けたまま「あれ?」とつぶやき、顎に手を当てて「うーん」と唸った。何度か「うーん」と唸ると、やっと言葉を発した。

『お城の……多分、王様?』

 ん? 何か視えているのか? 我を見ているようでいて、クリスの焦点が合っていないな?

『ここは帝国だから、皇帝陛下と言うんだぞ』

『そうだね、皇帝陛下って言うみたい……その人が、危ない』

『クリスよ、そなたはどこから何を視ているんだ?』

『レオンの瞳から先が視えてるんだよ。レオンは干渉を受けてないみたいだね?』

『まぁ、我は神獣だからな……悪しきモノからの干渉は確かに受け難いのかもな?』

 まさか我から先を視るとはな。であれば、その『悪しき者』は、我より弱いということになるのではないか? そうであれば安心だが、警戒は怠るべきではないな。

『そんなに遠くない未来……『とうもろこし事件』の前に、皇帝陛下が刺されるかも……?』

 ウィルより皇帝が狙われるのが先だと? 皇帝を殺めたら、第一皇子が皇帝に……なるな、この国の法律では。皇帝が後継を指名していない状態で亡くなった場合、次の皇帝になるのは『皇帝の血を引く、最初に生まれた男児長男』と決まりがあるのだ。はぁ、面倒なことに巻き込まれたな……

『なんだって? はぁ……面倒だが、エルフに連絡しておくか……』

『あ、本当だ。エルフのお兄さんもいるね』

『ということは、どちらにしろ助けに行かねばならないのだな……』

 仕方ない。エルフは皇帝を助けに行くのだろうから、我も行くべきなのだろう。皇帝を狙って失敗したからウィルの『とうもろこしスープ事件』が起こるのかもしれないしな? ふむ、まずは念話でも送っておくか。

『エルフよ、皇帝陛下が刺されるとティアが視た。それも我の瞳からだ。爺さんは何かに遮られてるらしくて、先が視えないらしい。我らも今から城へ向かうぞ』

『なっ! 本当ですか? こちらは尻尾が掴めないと、必死に探していたのですよ! レオン殿もいらしてもらえると助かります。悪しき何かが……私たちのような、人ならざるものが動いているようなのです』

 クリスの発言と内容が一致しているな。やはり、皇帝は刺されるのか。あまりクリスを巻き込みたくないのだが、恐らく駄目だと言っても行くだろうな、クリスは。

『陛下を守れるのであれば、城へ向かいましょう。ティア様もご一緒に?』

『そうだ。ティアは既に認識阻害の魔法もかけることができるから大丈夫だ』

様のお姿でいらっしゃいますよね?』

『ああ、既にクリスの姿だから直ぐに向かえるのだが、行き先は城でいいのか?』

『いいえ、陛下が閉じ込められている謁見の間に繋がっている、秘密の通路がありますので、そちらの入り口に向かいます』

 ほぉ、そんな道が存在するのだな。さすがは賢者のエルフだ。それで、我らは何処へ向かえばいいのだ?

『それはどこにあるのだ?』

『公爵の森の奥に』

『はぁ?』

 変な声が出てしまったな。我らのねぐらの近くに入り口があるなんて、そんな都合のいい話があるか?

『モーリス公爵家は、数代前の皇族の……姫様の降嫁先でもありましたからね。皇族が逃げるための通路を身内の屋敷に繋ぐ可能性は十分にありますよ』

『まあ、確かに城と公爵家の距離は近いが……現公爵は知っているのか?』

『公爵家の歴史書……公爵家を継ぐものに引き継がれる本があるのですが、それに書いてあるはずです。公爵家をうばった……正式に公爵家を継いだわけではない現公爵は、通路どころか、本の存在すら知らないと思いますよ』

『なるほどな。それなら小鳥たちもいるし安心して移動できるな』

『はい、そうですね。それでは、私は十五分後に公爵家の森の家に向かいますので、よろしくお願いします』

『あぁ、分かった』

 我とティアは、爺さんとウィルを見送ってから公爵家の森に帰ると双子に伝えた。寂しそうにしていたが、今は爺さんとウィルのことに集中した方がいいことは皆が理解しているからな。渋々といった様子で納得し、お土産としてお菓子をたくさんもらっていた。クリスだけでは持ち切れず、我も大きなバスケットを持たされた。双子も忙しくなるから、数日は会えなくなることを見越してだろうな。

 相変わらず溺愛されているクリスは嬉しそうに、両手に抱えたお菓子を見て喜んでいた。こういうところはまだ子供だよな。これから皇帝が刺されるかもしれない場面に、立ち会う予定なのだがな。普通なら緊張したり、怖がったりするものだろう。まあ、クリスに限ってはそんな雰囲気にはならないのは分かっていたが。

 お菓子に喜ぶクリスの頭を撫で、ハグをした双子と別れ、公爵家の森へ帰った。クリスは我が受け取ったバスケットの中から、我がいつも好んで食べている、ジューシーな肉がはみ出しているサンドイッチを取り出して渡してくれた。クリスは野菜たっぷりのサンドイッチだ。それに大きく口を開けて齧り付く。口いっぱいに頬張り、「おいしいね」と微笑みながら食べつつ、のんびりとエルフを待つのだった。
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