小さな光と、その軌跡 ―隠された幼子と神獣の物語―

月城 蓮桜音

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第43話 剣を振る

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 コトラに乗って魔物の森の入り口に到着した我々は、ウィルの実力がどれくらいか確認することにした。クリスは爺さんに、森の入り口から五百メートルまでなら奥へ入って魔物を斃してもいいと許可をもらっている。

「ウィルは魔物の森に入ったことはあるか?」

「あぁ、辺境伯の仕事は危険だと知るために、勉強の一環として入ったことがある。『ヌシ』にも遭遇したが、討伐するのを見学しただけだ」

「ほぉ。最奥まで連れて行くのであれば、それなりに剣を扱えるということだろうな?」

「扱えなくはないが、僕が得意なのは魔法なんだ」

 魔力が強い皇族だから当たり前か。幼い頃から魔力制御を中心に教え込まれるのだと、エルフが言っていたからな。皇族であるウィルが、剣術より魔法の方が得意になるのは必然なのだ。

「なるほどな。ウィル、今日は剣のみで、入り口から三百メートル地点で狩りをしよう。斃した魔物は素材として持って帰りたいから、綺麗に首を落としてくれると助かる」

「分かった。クリスは大丈夫なのか?」

 ほぉ。分かったと言い切ったからには、魔物の首を落とすことに自信があるということだろう。クリスの心配までする余裕があるのだからな。幼いクリスが一番強いと知ったら、どんな顔をするのだろうな? くっくっ。

「あぁ、爺さんが森に入るのを許可するぐらいには強いから大丈夫だ。クリスは人に剣を向けるのを嫌がるから、魔物しか斃したことはないがな」

「そうなのか? それでは騎士にはなれないだろう?」

「クリスは騎士になりたいわけではないからな。人を斬れなくても、辺境伯の人間としては問題ないだろう?」

 あえてクリスの今後を濁しておこう。ジョセフの孫であることぐらいしか、正しい情報は知らないはずだからな。

「ああ、そうだな。隣国からの流れ者も、斬る必要はないしな」

「そういうことだ。まぁ、森の中で魔物を斃していれば実力は嫌でも分かる。そろそろ入ろうか」

 我が先頭に立ち、アトラはクリスの肩に乗り、コトラは森の入り口でお留守番だ。何かあったときに、自慢の脚で助けを求めて欲しいとお願いしてある。

「ここら辺が良さそうだな」

 ゆっくりと森の中を進み、周りを見渡しながら良さげな狩り場を見つけるのは、我の仕事だ。危険な魔物や、他所よその国から来た人間がひそんでいないかを確認することも忘れない。

「ウィルはどれを斃したい? こちらに気がついている魔物は四匹だね」

「え? クリスは魔物の位置が分かっているのか?」

「うん、分かるよ?」

 クリスはキョトンとした顔で、首をコテンと傾げた。クリスには当たり前のことだからな。我と狩りをする時のように、さっさと話を進めてしまうから、またウィルが置いてけぼりだ。クリスはいつものように進めているだけなのだがな。

「クリスは、魔力感知能力も高いからな。更には魔物の気配も分かるから、不意打ちされたとしても、クリスには当たらないぞ」

「す、すごいな……こんなに小さいのに」

 さらっと説明した我の言葉に、ウィルは我にしか聞こえないような小声で、独り言のように呟いた。

「クリス、あちらとあちらを。ウィルはそっちだ。余裕があれば、その奥のも斃してくれ」

「「分かった」」

 返事と同時に動いたのはクリスだった。瞬時に防御魔法を皆にかけ、一匹目の魔物の首を落としていた。あまりのはやさに、ウィルは呆気にとられて固まっているな。

「ウィル、危ないから集中するんだ」

「あ、あぁ、悪い……」

 それから二時間ほど森の中で狩りをした我々は、素材になりそうな魔物だけを担いで辺境伯邸に戻った。休憩もそこそこに、クリスは相変わらず率先して魔物の解体を手伝っているな。

「ウィル、俺に話したいことがあるんだろう?」

 ウィルが解体作業を始めたクリスを見て、「さすが辺境伯の者だな」と呟きながら戸惑っていたので声をかけた。皇族がやる仕事でないことは明らかだしな。クリスが集中している今、話を進めるのが賢いだろうと思ったのだ。

「あちらの木陰で話そうか」

 解体場の近くに、ちょうど涼める大きさの木があるのだ。距離もギリギリ声が聞こえないぐらいはあって、話しやすいだろうと感じたからな。

「あぁ、ありがとう。気を遣わせて悪い」

「構わん」

 我とウィルは、木陰に腰を下ろして「ふぅ」と同時に息を吐いた。我も聞きたいことがいくつかあったから、質問してみるか。

「ウィルは賢者と知り合いなのか?」

「え、あ、あぁ……」

「あぁ、大丈夫だ。賢者のエルフは俺とクリスも仲が良いからな」

「えぇっ!? あ、そうか……『巫女様』だからだろうか?」

「くくっ。正しくは違うがな。特別な力を持っているという意味ではそうだ。賢者のエルフはクリスを気に入っているしな」

 ウィルは黙って考え込んでいるようだ。しっかりしているのは皇子教育のお陰なのか、賢者のエルフが知恵を与えているからなのか……

「レオン殿は、僕が賢者殿と知り合いだと、何故思われたのですか?」

 お、そこが気になっていたのか。

「あぁ、それは『東の国の物語』を読まなければ知らないことをウィルが知っていたからだな」

「あっ! 『巫女様』が出て来るのは『東の国の物語』だけだから? では、レオン殿も読んだことがあるのですか?」

「あぁ、もちろん。俺もクリスも読めるぞ。彼の国の言葉を読めるのは、この国では俺と賢者のエルフしかいなかったしな? くっくっ」

「そ、そうでしたか……賢者殿の知り合いでいらっしゃるのであれば、そうですよね。彼には沢山の知識を教えてもらいました。まだ子供だからと遠慮したりせず、大人同様の行動を求められましたが」

「あぁ、それは期待しているからだな。賢者のエルフは『知』のエルフと言われるだけあって、知恵を授ける人間を選ぶんだぞ。悪しき者が知恵を持つと面倒だからな。それに選ばれたのだから、もっと堂々としていればいい」

「あ、はい。ありがとうございます……」

「くっくっ。俺に対しては楽に話して良いぞ。さっきから敬語になってきているからな?クリスと同じように話せばいい」

「そ、そう言ってもらえるならありがたく、そうさせてもらうよ。僕の本能が、レオン殿は皇族程度の僕とは格が違うと言っているんだ」

「ほぉ…………」

 この第二皇子、賢者のエルフが手を貸すだけはあるな。元々頭も良いのだろう。しっかり考えて話すことからも、皇子としての責務をしっかり果たして来たと言えよう。ふむ。何かあれば、エルフの手助けをする羽目になりそうだしな? 複数人から選ぶのであれば、今のところはウィルになるだろう。

「レオン殿、クリスの『昔』とは? 何かあったのですか?」

「あー。本人に許可なく全てを話す訳にはいかないから、掻い摘んで話すなら……そうだな、実父に虐げられた上に閉じ込められていた過去があるとだけ」

「はぁ!? クリスはまだ幼いだろう? 暴力に軟禁だと? 人間じゃないな、その親父は! 今はどうしているんだ!」

 ウィルが顔を真っ赤にして怒っているな。皇子とは言え、やはりまだ子供だな。まぁ、人間としては好ましいと思えるがな?

「うーむ。現状では、天罰が与えられるのを待っているって感じだろうか? 放っておいても、必ず天罰が下るからウィルが気にしなくても大丈夫だ」

 詳しく話せないからなぁ。『巫女』を知っているなら、『天罰』が分かりやすいだろうと思ったのだが。

「そ、そうか。まぁ、ジョセフが許さないだろうし、天罰は与えられる気がするな。しかし、クリスは何故あんなにも強い? 生い立ちに関係しているのか?」

「クリスは『諦めない』だけだな。稽古の初日は剣すら持ち上げられなくてな? まぁ、三歳の体に鉄の剣が持てるはずもないのだが、剣を振るということを知るために、あえて爺さんが持たせたわけだ」

「あぁ、剣を振るうには、腕の筋力だけでは無く、体幹や足も使う必要があるからな。三歳児には厳しいだろうと僕でも思うよ」

「くっくっ、そうだよな。だが、クリスは諦めなかったんだ。朝から剣より軽めの、自分に持てるギリギリの重さの鉄の棒を振り、夜には教えてもらった筋トレを毎日飽きずにやっていたぞ。剣を持てるようになったらひたすら剣を振り、慣れるしかないと言われたからな。その通り、慣れるまで毎日振って来た結果がアレだな」

 ウィルは今日何度目になるだろうか。今回は口をポカンと開けたままで呆気にとられているな。クリスに普通を求めては駄目だと……理解しているのは辺境伯の人間とエルフだけだったか? それでは仕方ないな。ウィルはクリスに慣れなくてはだな? くっくっくっ。
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