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第181話 愛おしい子と誘拐 ★ノルト侯爵 SIDE
私の息子となったルトの実家である伯爵家は、継母である後妻に乗っ取られてしまっていました。伯爵家の運営は良くも無いが悪くも無い数字で報告されておりましたが、使用人を数人減らした分を横領している様ですな。
本来ならその程度では伯爵家を取り潰す事はあまり無いのですが、取り潰す事も可能であるという事ですね。継母に恨みがあるなら私が手を回す事も出来るのですが、ルトがどうしたいかが大事だと思うのです。ルト本人はまだ10歳なのにとても賢く、今後の事まで考えていそうだから本人に聞いてみようと思います。
「ルト、ちょっと良いかな?」
「はい、父上」
私はルトの部屋のソファに腰掛け、使用人に2人分のお茶を頼みました。ルトは綺麗な所作で、私のソファの向かいに座りました。ルトの所作やマナーは既に完璧ですからね。だからこそ、大聖女様の前にも出せるのですし、安心して賢者様に魔法を習わせる事が出来るのですが。
「どの様なご用件でしょうか?」
「ルト、私はお前の父親となったのだ。もう少し口調を崩してくれて構わないのだよ?」
「ありがとうございます、父上。まだ緊張する時がありまして……あるので、申し訳……ごめんなさい」
ふむ……ルトは考え方やマナーがしっかりしているのは喜ばしい事なのですがね。これまでのルトが送って来た生活を考えると、急に変えられないのは、仕方ない事なのかも知れません。それでも努力しようとしてくれているのが嬉しいと思うのでした。これからは家族なのですし、時間をかけて仲良くなって行けばいいでしょう。私の事を最低限、信頼してくれているのは言動で分かりますし、一朝一夕には行かないでしょうからね。
「いや、良いんだよ。そうだな、急ぐ必要は無いんだ。ゆっくり家族になって行けば良い。そうだ、その事で話しがあったのだよ」
ルトは綺麗に座っている背筋を更にピシッと伸ばし、掌を握り締めていました。表情は変わり難い子なのですが、体はまだ正直な様で分かりやすい。何事にも一生懸命で可愛いですなぁ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫。ルトの実家の話しをしておこうと思ってな」
「ぼくの……伯爵家の話しですか?」
少し不安そうですね。それはそうでしょう。弟を気に掛けているとリオ様に聞いておりますし、ルトも気になる所でしょう。早く安心させてあげなければなりませんね。
「そう。単刀直入に聞くが、ルトは伯爵家を残したいと思っているのかな?生前の御両親との良い思い出が残っているなら、時間はかかるだろうけれど、弟に伯爵家を継がせるという手もある」
「えっ……?弟の為に伯爵家を取り戻す事が可能だと仰るのですか?」
「ふふっ。愛する息子の願いなら手間は惜しまんよ。ルトがどうしたいかを聞いてから動こうと思ってな。ルトの継母は、使用人を減らし、その分を着服している様なのだ。それを理由にガサ入れすれば、更に余罪がいくつか出ると思われるのでな。継母を失脚させ、取り戻す事は簡単だろう」
「あ、ありがとうございます、父上!ぼくは……弟の住む家と食事だけを生きて行ける様に助けられたら良いと思っていました。弟の将来まで面倒みるのは難しいだろうと……そこまで望むのは分不相応だと……」
本当にルトは不思議な子ですな。自分に出来る事がどの程度かを正確に把握し、その為に行動する事が出来る。そして、身の程を知り過ぎているからこそ、人に頼らず1人でどうにかしようと常に考えている。私と言う権力や、大聖女様というコネクションも今では近くにあると言うのに。
「それぐらい大人に頼りなさい。リオ様もルトの弟の事を気に掛けてくださっていたからな。間違い無く、伯爵家は潰すか取り返す事になっていただろう」
ルトに向かってウインクをして戯けて見せるも、必死に涙を堪えて、肩を震わせている息子がとても愛おしい。リオ様が仰るには、ルトの願いは弟をあの家から救う事で、自分は孤児院から出る事なんて全く考えて居ない様だったと。恐らく、孤児院に逃れられた事で命の危険が無くなり安心していたのでしょうな。
そんなルトだからこそ、私が幸せにしたいと……ルトのやりたい事を、未来を、好きに生きて行けるように手伝えたらと思っているのです。もっと頼って欲しいですが、ルトは遠慮するでしょう。だからこそ、私から沢山の愛情を注ごうと心に決めたのです。
「ありがとうございます、父上。継母の事ですから、弟は軟禁されているでしょうし、まだ4歳だからと勉強もさせてもらっていないと思うのです。継母の失脚と、弟を伯爵家の後継者として育てる為の家庭教師を希望しても……お願いしても良いですか?」
「ああ、もちろんだとも。それで、継母の子はどうするつもりだろうか?」
ルトは困った顔で考える素振りをしました。ハッキリと自分の気持ちを教えて欲しいですな。家族なのですから、良く見せようなんて思う必要はありませんしね。
「正直、共に過ごしていないので、兄弟であると言う実感が無いのです。弟が助けたいと言うのであれば考えますが……」
あぁ、ちゃんと本音を言ってくれましたな。守るべき人間と、切り捨てる人間をきちんと分ける事が出来なければ、これから先の人生でたくさんの選択を迫られる事になります。宰相を目指すなら尚更ですからね。線引きをきちんと出来る事に安心しました。
「そうだな、それで良い。継母を敵だと理解していて、その敵の子が後継者になる為の犠牲……それがルトと弟なのだから。そうだなぁ……その子は孤児院か、修道院に入れてしまうか」
「あ、あの、ぼくがいた孤児院には入れないで欲しいです。あそこだけは……」
「ん?あの孤児院は何かおかしいのかい?」
あの孤児院は普通では無いらしいのです。そうルトが言っていたとリオ様が仰っていたのですが、その場へ行った事の無い私には、普通の孤児院に見えたのですが。
「子供が引き取られて行く訳でも無く、ある日ふと居なくなるのです。少し勉強の出来る賢い子と魔法が使える子、運動が得意な子も直ぐに居なくなりました」
「ルトは賢くて魔法が使えるだろう?隠していたのかい?隠せる程度の雑な誘拐だったのかい?」
「はい、その通りです。孤児院に勤めている人間が優秀な子を理解していて、攫わせている様に感じました。魔法を使った事があったり、運動神経の優れた子を日々チェックしていたのでしょう。ぼくは魔法が使えないと思わせていました。魔法は基本的には貴族しか使えないと知っていましたから、使うのは危険だと思っていたので。学力の方は孤児院にある本は全て読んだ事があったので、敢えて触れなかったのが幸いしました。字が読めないと思ったでしょうから。普段は人と喋らず、猫とばかり遊んでいましたので、おとなしい子と言う印象しか無かったと思います」
やはりルトは賢いですな。その上に運が良い。何より猫好きなのも良いな。うちで飼ってる猫は皆ルトに懐いたし、動物にも好かれると……
「ルトは運も味方しているのだね。リオ様に見つけて貰えただけでも幸運だと思っていたが、それ以前から運が良かった様だ」
「そうですよね……ぼくがあの家で生き延びられた事自体が強運だったと思います」
「ルトも『愛し子』なのかも知れないなぁ。リオ様は、女神様の愛し子だからとても運が良いのだと、精霊のソラ殿が仰っていたからな」
「精霊……?王国に精霊がいるのですか?」
目をパチクリして驚いていますね。ルトが賢い事を理解していますから、何に驚いているのかすぐに分かりますな。もっと沢山驚かせたいと、子供の様な事を思ってしまいました。ルトの反応が良いから揶揄いたくなるのでしょうね。
「あぁ、まだ会えていないのかな。リオ様の所へ出入りしていれば近々会う事になるだろうから、しっかり挨拶するのだよ?白猫の姿をしておられて、リオ様が契約者でいらっしゃる。カミル殿下も他の精霊と契約なさっていて、そちらの精霊の名前はシルビー殿だ。私には犬に見えたのだが狐の精霊らしく、尻尾が沢山あるから直ぐに分かるだろう」
「は、はい、わかりました……」
「この国に精霊がいるのが不思議なのだろう?」
「あ、はい。精霊は、アンタレス帝国にしか居ないと本にありましたので……」
「そうだな。ルトがしっかり勉強していて賢いから不思議に思えたのだ。とても素晴らしい事だからな。疑問があれば、この父に聞くと良い。父が知っている事は全て教えよう。何せ、この世の中は、一刻一刻と変化しているのだからな」
「は、はい!ありがとうございます。是非ご教授ください!」
目をキラキラさせて見つめて来るルトが愛おしい。真面目で一生懸命な子供は成長を見るのが楽しいですからな。私もこの子に出会う為に宰相をしていたのかも知れないと言うと、大袈裟だと言われてしまうかも知れませんが、何故だか本当にそんな気がするのですよ。
本来ならその程度では伯爵家を取り潰す事はあまり無いのですが、取り潰す事も可能であるという事ですね。継母に恨みがあるなら私が手を回す事も出来るのですが、ルトがどうしたいかが大事だと思うのです。ルト本人はまだ10歳なのにとても賢く、今後の事まで考えていそうだから本人に聞いてみようと思います。
「ルト、ちょっと良いかな?」
「はい、父上」
私はルトの部屋のソファに腰掛け、使用人に2人分のお茶を頼みました。ルトは綺麗な所作で、私のソファの向かいに座りました。ルトの所作やマナーは既に完璧ですからね。だからこそ、大聖女様の前にも出せるのですし、安心して賢者様に魔法を習わせる事が出来るのですが。
「どの様なご用件でしょうか?」
「ルト、私はお前の父親となったのだ。もう少し口調を崩してくれて構わないのだよ?」
「ありがとうございます、父上。まだ緊張する時がありまして……あるので、申し訳……ごめんなさい」
ふむ……ルトは考え方やマナーがしっかりしているのは喜ばしい事なのですがね。これまでのルトが送って来た生活を考えると、急に変えられないのは、仕方ない事なのかも知れません。それでも努力しようとしてくれているのが嬉しいと思うのでした。これからは家族なのですし、時間をかけて仲良くなって行けばいいでしょう。私の事を最低限、信頼してくれているのは言動で分かりますし、一朝一夕には行かないでしょうからね。
「いや、良いんだよ。そうだな、急ぐ必要は無いんだ。ゆっくり家族になって行けば良い。そうだ、その事で話しがあったのだよ」
ルトは綺麗に座っている背筋を更にピシッと伸ばし、掌を握り締めていました。表情は変わり難い子なのですが、体はまだ正直な様で分かりやすい。何事にも一生懸命で可愛いですなぁ。
「そんなに緊張しなくても大丈夫。ルトの実家の話しをしておこうと思ってな」
「ぼくの……伯爵家の話しですか?」
少し不安そうですね。それはそうでしょう。弟を気に掛けているとリオ様に聞いておりますし、ルトも気になる所でしょう。早く安心させてあげなければなりませんね。
「そう。単刀直入に聞くが、ルトは伯爵家を残したいと思っているのかな?生前の御両親との良い思い出が残っているなら、時間はかかるだろうけれど、弟に伯爵家を継がせるという手もある」
「えっ……?弟の為に伯爵家を取り戻す事が可能だと仰るのですか?」
「ふふっ。愛する息子の願いなら手間は惜しまんよ。ルトがどうしたいかを聞いてから動こうと思ってな。ルトの継母は、使用人を減らし、その分を着服している様なのだ。それを理由にガサ入れすれば、更に余罪がいくつか出ると思われるのでな。継母を失脚させ、取り戻す事は簡単だろう」
「あ、ありがとうございます、父上!ぼくは……弟の住む家と食事だけを生きて行ける様に助けられたら良いと思っていました。弟の将来まで面倒みるのは難しいだろうと……そこまで望むのは分不相応だと……」
本当にルトは不思議な子ですな。自分に出来る事がどの程度かを正確に把握し、その為に行動する事が出来る。そして、身の程を知り過ぎているからこそ、人に頼らず1人でどうにかしようと常に考えている。私と言う権力や、大聖女様というコネクションも今では近くにあると言うのに。
「それぐらい大人に頼りなさい。リオ様もルトの弟の事を気に掛けてくださっていたからな。間違い無く、伯爵家は潰すか取り返す事になっていただろう」
ルトに向かってウインクをして戯けて見せるも、必死に涙を堪えて、肩を震わせている息子がとても愛おしい。リオ様が仰るには、ルトの願いは弟をあの家から救う事で、自分は孤児院から出る事なんて全く考えて居ない様だったと。恐らく、孤児院に逃れられた事で命の危険が無くなり安心していたのでしょうな。
そんなルトだからこそ、私が幸せにしたいと……ルトのやりたい事を、未来を、好きに生きて行けるように手伝えたらと思っているのです。もっと頼って欲しいですが、ルトは遠慮するでしょう。だからこそ、私から沢山の愛情を注ごうと心に決めたのです。
「ありがとうございます、父上。継母の事ですから、弟は軟禁されているでしょうし、まだ4歳だからと勉強もさせてもらっていないと思うのです。継母の失脚と、弟を伯爵家の後継者として育てる為の家庭教師を希望しても……お願いしても良いですか?」
「ああ、もちろんだとも。それで、継母の子はどうするつもりだろうか?」
ルトは困った顔で考える素振りをしました。ハッキリと自分の気持ちを教えて欲しいですな。家族なのですから、良く見せようなんて思う必要はありませんしね。
「正直、共に過ごしていないので、兄弟であると言う実感が無いのです。弟が助けたいと言うのであれば考えますが……」
あぁ、ちゃんと本音を言ってくれましたな。守るべき人間と、切り捨てる人間をきちんと分ける事が出来なければ、これから先の人生でたくさんの選択を迫られる事になります。宰相を目指すなら尚更ですからね。線引きをきちんと出来る事に安心しました。
「そうだな、それで良い。継母を敵だと理解していて、その敵の子が後継者になる為の犠牲……それがルトと弟なのだから。そうだなぁ……その子は孤児院か、修道院に入れてしまうか」
「あ、あの、ぼくがいた孤児院には入れないで欲しいです。あそこだけは……」
「ん?あの孤児院は何かおかしいのかい?」
あの孤児院は普通では無いらしいのです。そうルトが言っていたとリオ様が仰っていたのですが、その場へ行った事の無い私には、普通の孤児院に見えたのですが。
「子供が引き取られて行く訳でも無く、ある日ふと居なくなるのです。少し勉強の出来る賢い子と魔法が使える子、運動が得意な子も直ぐに居なくなりました」
「ルトは賢くて魔法が使えるだろう?隠していたのかい?隠せる程度の雑な誘拐だったのかい?」
「はい、その通りです。孤児院に勤めている人間が優秀な子を理解していて、攫わせている様に感じました。魔法を使った事があったり、運動神経の優れた子を日々チェックしていたのでしょう。ぼくは魔法が使えないと思わせていました。魔法は基本的には貴族しか使えないと知っていましたから、使うのは危険だと思っていたので。学力の方は孤児院にある本は全て読んだ事があったので、敢えて触れなかったのが幸いしました。字が読めないと思ったでしょうから。普段は人と喋らず、猫とばかり遊んでいましたので、おとなしい子と言う印象しか無かったと思います」
やはりルトは賢いですな。その上に運が良い。何より猫好きなのも良いな。うちで飼ってる猫は皆ルトに懐いたし、動物にも好かれると……
「ルトは運も味方しているのだね。リオ様に見つけて貰えただけでも幸運だと思っていたが、それ以前から運が良かった様だ」
「そうですよね……ぼくがあの家で生き延びられた事自体が強運だったと思います」
「ルトも『愛し子』なのかも知れないなぁ。リオ様は、女神様の愛し子だからとても運が良いのだと、精霊のソラ殿が仰っていたからな」
「精霊……?王国に精霊がいるのですか?」
目をパチクリして驚いていますね。ルトが賢い事を理解していますから、何に驚いているのかすぐに分かりますな。もっと沢山驚かせたいと、子供の様な事を思ってしまいました。ルトの反応が良いから揶揄いたくなるのでしょうね。
「あぁ、まだ会えていないのかな。リオ様の所へ出入りしていれば近々会う事になるだろうから、しっかり挨拶するのだよ?白猫の姿をしておられて、リオ様が契約者でいらっしゃる。カミル殿下も他の精霊と契約なさっていて、そちらの精霊の名前はシルビー殿だ。私には犬に見えたのだが狐の精霊らしく、尻尾が沢山あるから直ぐに分かるだろう」
「は、はい、わかりました……」
「この国に精霊がいるのが不思議なのだろう?」
「あ、はい。精霊は、アンタレス帝国にしか居ないと本にありましたので……」
「そうだな。ルトがしっかり勉強していて賢いから不思議に思えたのだ。とても素晴らしい事だからな。疑問があれば、この父に聞くと良い。父が知っている事は全て教えよう。何せ、この世の中は、一刻一刻と変化しているのだからな」
「は、はい!ありがとうございます。是非ご教授ください!」
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