人を食らわば

GANA.

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 心臓を食べた翌日から、自分は「うさぎ」どころかそれ以外も喉を通りにくくなった。軟便はちょぼちょぼあるが、胃腸には不快感がこびりついたままで、時折漏れる屁も生臭いというか、腐敗臭を思わせるものだった。しぼんだゴムまりみたいな空きっ腹を抱え、寒空の下を一日中走り回って真っ暗な帰路につく……「母うさぎ」のアカウントは耐えきれずに消え、踏みとどまっている「肉片」は――
 こんなことを続けていたら、あなたもいつか食べられてしまいますよ!――
 そうした訴えをあざ笑われ、食べられるのは弱いからだ、と際限なくかみつかれていた。
 もう、やめようか……食べるのは……――
 薄ら寒いロフトに寝転がって、天井に薄くよどむ陰を自分は見るともなく見た。節約のため、エアコンの電源が抜かれた部屋ははく製のようだった。「肉片」の言説など、どうでもいい……どうでもいいのだが……飽き、もあるのだろうが、今は食べることが負担にすら感じられる。冷凍庫ごと引き取ってもらえるなら、喜んで譲ったかもしれない。そんなことを考えながら、しかしいざとなると生唾があふれてくる……食べたいわけではない……以前のように美味しく食べることはできないだろう……しかしながら、こうしている間にも「うさぎ」はあそこで劣化していく。いずれは腐り、食べることさえできなくなる。それでは、あまりにももったいない……――
 やがて胃腸が持ち直した自分は、結局また調理に取りかかった。首の肉に塩こしょうをかけ、刻みニンニク、オリーブオイルで漬け込み、弱火でじっくり加熱した、首肉のコンフィ……――
 無駄にはできない……残らず食べなければ……――
 言い聞かせ、フォークでつつき、刺して口へ……遠慮がちに舌でなめ、歯を立ててかむ、と――
 美味い……――
  禁欲明けの行為にも似た、ぞくぞくするものが体に走る。やましさを感じながら、じっくりとかみ、味わうのをやめられなかった。自分は「母うさぎ」も「うさぎ」も、何もかもぼやけさせ、呆けたように肉をかみ続けた。
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