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2-3『少女Tとコーヒー爆弾』

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 火薬や焦げの匂いが取れてきた空間の中、僕はカウンターの出口からそっと現在の状況を見る。 
「こんなので済むなんて…スプリミナルもこれでおしまいかしら…」
 彼女は二人を煽り、きっと仮面の奥で笑みを浮かべているだろう。
 言葉から察する上、それ程に今の彼女は勝機を感じていると思う。
「そんなこと…ない…っ!」
 それでもと声をあげるのは、床に這いつくばるしかない、蒼い瞳の少女…。
「あんたなんか…カドヤや…リュウセンくんや…サトナカさんが…なんとかしてくれる…っ!私はそう信じてる!」

 ダァン!

 言葉で対抗しようとしている彼女を黙らせるためか、籠城犯の持つ拳銃から放たれた弾丸が、彼女の顔の真横に着弾する。
「黙りなさい。口答えしたら今度は当てる…」
 ドスを効かせて籠城犯はあおいちゃんに警告をする。
 普通、ここまで顔面に近い場所へ発砲されたら、恐怖で動けなくなるだろう…。
 けれど、今の彼女は恐れよりも悔しさが勝っているようで、床にしがみつきながらも、歯を食い縛り、籠城犯をひたすらに睨んでいた…。
「なによ…その目は…」
 怒りと悔しさ、二人のその眼光が感情を乗せながら交わっている。
 その状況こそ、今、僕に出来ることをするには最適だ…。

「……皆さん、こちらです…」
 彼女が気を取られている隙に、僕はカウンター出口からそっと顔を出し、人質になっている人々に声をかけた。
 すると、僕を見つけた一人の老人が、同じく捕まっている人々に顔で合図を送ると、全員が僕の存在を認知し、安堵の表情を浮かべる。
 この恐怖から抜け出せる光を見つけたことで、今にもはしゃぎそうな雰囲気をしていたが、僕は彼らに向けて人差し指を立ててサインを送る。
「静かに!ゆっくり…手前から一人ずつ来て下さい…。あの人に気付かれないように…」
 僕はそう言うのだが、そんなことよりも、早くここから助けてくれと言わんばかりに、数名の眼光は悲観を醸し出している。
 その視線に、僕はふと、どこかの漫画で見た事を思い出した。
 災害や第三者による恐怖に身を乗っ取られた者は、とにかく助かりたいという願いから混乱をしている。
 だから、これからどうすればいいかの判断を聞くよりも前に、言ってほしい言葉があるのだと…。
 だから、僕はそっとその言葉を彼らに、投げ掛ける。

「大…丈夫です…っ!絶対に…逃げ出させるから…!」

 言葉と言うのは、ビックリする程大きな力がある。
 こんな元詐欺師の大丈夫でも、彼らは心から安堵と信頼を僕に向けてくれるのだから…。
「ゆっくり…」
 僕の言葉と共に、手前にいた老人が、音を立てぬようにゆっくりと僕に寄ってくる。
 このまま彼らを全員、勝手口まで移動することができれば、水原くんとあおいちゃんが動ける。
 遠目から僕らの行動を確認した水原くんは、僕の考えを素早く汲み取り、僕に向けて「こっちはまかせろ」とアイコンタクトを送った。

「あのさぁ…リージェン至上って言うけど…そんなにリージェンが偉いのかね…?昔にすがってるとかなんとか言ってるの、まるで外国が日本にいちゃもんつけてるみたいじゃん……」
 一人ずつ避難している状況をみられぬように、水原くんは籠城犯の思念を逆撫でするように、静かに暴言を投げつける。
「それに…恩義がなに?受けた屈辱?それは人間だって同じだろう?リージェンの進行さえなければ、人間は人間だけの世界で未来を歩めた。君が恨むようなスプリミナルなんて作らなくてもよかった。そんな根本を覆せると思ってるの?それ以上に君はなにを求めてるわけ?」
「だまりなさい……」
 水原くんの計画的な煽りに、籠城犯はどうやら引っ掛かったようだ…。
「…君の言葉はまるで五月に飛ぶ蝿のようだな。ただ一つの達成のために、中身のない言葉と武器…。まさに害虫だな…。お前の威嚇した爆弾と同じように、叫んで迷惑かけて消える。それで満足か?」
 一人、また一人とゆっくりと逃げ出している中、籠城犯の怒りがふつふつと沸き立っているのがわかる…。
 それに怖がる者も数名いるが、それを表すための言葉や表現は、死の危機が隣り合わせなこの数分間だけは、我慢しなくてはならない…。
 少しずつ少しずつ避難していくにつれて、一つ、また一つと水原くんの言葉で、籠城犯の怒りの蝋燭に火がともされていく…。
「それに…リージェンなんて……」
「だまれだまれだまれぇ!!」

 ダァン!ダァン!

 灯された怒りの火がついに業火へと達したとき、音を立てて放たれた二発の弾丸が水原くんの頬を掠め、店の柱に突き刺さる。 
「私は…私はリージェンに何度も救われた…その恩を返すんだ…私はぁ!」
 喉が張り裂けそうなほどに叫ぶ籠城犯だが、水原くんはそれに全く動じていないようで、ただニヒルに笑みを浮かべている。
「ほら怒った…。だから嫌なんだよ…リージェンなんかを至上しようとするような馬鹿どもは…」
「だまれだまれだまれぇぇぇぇえっ!!」
 怒りが頂点に達した籠城犯は、針のような数々の罵詈雑言で煽り続ける彼に向け、何度も何度も弾丸を放つ。
 だが、水原くんはギリギリのところで避けるため、それが当たることはない。

 だが、籠城犯の姿に怯え続け、最後まで残ってしまったのは、髪を二つくくりにした一人の女の子だった…。
 速さを重視して、手前から避難誘導してしまったがために、恐怖に支配されかけている子供が最後になってしまったのは申し訳ない…。
「大丈夫……もう少しだよ…」
 だが、今の僕に出来ることは、確証ない言葉をかけてでも、この子を傷一つなく、無事に家に帰してあげることだ…。
「君で最後…慎重に…ゆっくり…」
 僕の言葉を信じ、女の子は今にも嗚咽を漏らしそうな表情のまま、ゆっくりゆっくりお尻を滑らせながら、安心させるために微笑む僕に近づいてくる…。
「当たらないねぇ…?ハイドニウム使いすぎてんじゃないの…?もしかして……ハイドニウムはあの一発だけとかぁ…?」
「うるさいっ!!」
 未だ煽りつづける水原くんと、バンバンと銃を放ち続ける犯人。
 銃声と口論に怯えつつも、僕を信じて少しずつ逃避を図る女の子に、僕は精一杯手を伸ばした…。
 あと少し…あともう少し…。
 大きな音を立てぬように、近づいてくること、後数センチ…。
 もう少しで彼女は助かるだろう。
 この後は水原くんがなんとかして……
 
 ガチャン!

「…っ!」
 そんな思いは裏腹、突然机の上からコーヒーカップが落下し、大きな音がこの店に響いた。
「誰だっ!」
 音に気づいた籠城犯が、女の子に向けて銃口を向ける。
 僕か女の子が急いでしまったが故、無意識にカウンターを揺らしてしまったのかもしれない…。
「「ヤバ…!」」
 企みを知られた水原くんと僕は、偶然に言葉を揃え、この状況の危機を重く見る。
「子供……あんた…他のやつらはどうしたぁっ!」
 興奮している彼女は、僕が見えてはいないようで、逃げようとしていた女の子に、ずんずんと迫っていく。
「答えろぉ!」
 獲物を見つけた獣のように大声を浴びせる籠城犯に怯え、また大粒の涙を流しながら、女の子は首を横に振る。
 それに、さらに怒ったのか、籠城犯は拳銃の弾丸をリロードし、彼女の頭に銃口を向ける。
「まずい…っ!」
 この瞬間の僕は必死で、なんの考えもなく、そこから飛び出してしまった。
 役に立てるわけがないお前が何故飛び出す?なんて言われそうだが、その答えは簡単だ。
 僕が、お人好しな性格だからだ。
 女の子が殺されようとされるなら、僕はその子を救わないといけない。

 もう誰も、傷つけたくはないなら…!

「テツヤくん!」
 あおいちゃんの掛け声と同時に、その引き金は引かれようとした。
 その間、多分約2秒以下。
 カウンターから出た僕は、命を刈り取られそうな女の子を、思い切り押し倒す。


 バァンッ!

 すると、発砲された弾丸はその子を貫通せず、僕の心臓部分を貫いた。
 だが、それは僕の身体を傷つけるはずがなく、弾丸は嫌悪感と共に、床へと着弾した。
「…っ!そ…そんな…バカな!」
 昨日はあんなに嫌だったこの能力が、今では心強くさえも感じてしまっている…。
「君、大丈夫…?」
 能力を発揮しながら、僕は女の子に声をかけると、彼女は少し呆気に取られたような顔をしながらも、首を縦に振る。
 見る限り、なんの怪我もなさそうで、僕は心から安心した。
「急いで逃げて!お母さんのところまで!」
 僕が指示をすると、女の子はまた一つ頷いてから立ち上がり、僕にそっと「ありがとう」とだけ言って、走って逃げていった…。
 よかった…これで僕の仕事は、一応終わりだ…。
「悪いね……僕はどうやら、無効化の特異点みたいでね…」
 立ち上がりながらニヤリと微笑んでカッコつけるが、心臓はバクンバクンと聞いたことの無いほど大きな音を立てている。
 正直、無効化とはいえ心臓を弾丸で撃たれるなんて怖すぎるからな…。

「そんな……そんな能力ありかっ!」
「ありなんだよ…ユウキくんならねっ!」
 僕の能力を知った籠城犯が混乱に捕らわれている内、水原くんはパーカー飾りのエンブレムをまた拾い上げると共に、それは双剣を形作る。
「しまった…!」
 油断した彼女は、僕から水原くんへと、銃口を向けようとする。
「ユウ・グラビティ…プラス!」
 しかし、いつの間にか籠城犯の近くに移動していたあおいちゃんが、彼女の身体を触りながら叫ぶ。
 すると突然、籠城犯の身体が銃を持つ方の腕から、ガクンと地面に落ちた。
「お前…!」
「引っ掛かったよね…。ハイドニウムの弾丸は撃たれたその瞬間の数分までしか効果はない!一生無効化だって騙されちゃった?」
 彼女はニヤリと笑いながら、自信の特異を発動させ、それに引っ掛かった籠城犯は、あおいちゃんを睨みながらも、なんとかその重たい腕を上げようとする。
 まさか籠城犯を騙していたとは…さすがプロと言ったところか…。
「源水放出!」
 そう思っていた刹那、水原くんの着ているパーカーの背に描かれた丸のデザインから、大量の水が噴出する。

激蒼流フースシュトローム!」

 そのまま彼は、激流に身を任せながら、素早く剣で銃を切り裂き、そのまま彼女の身体を蹴り飛ばした。
「ぐぅっ…!」
 そのキックを諸に受けてしまった籠城犯は、水に滴りながらも壁に叩きつけられる。
「く…くそ…っ!」
 しかし、それでも諦めようとしない彼女は、痛みに耐えながらナイフを取り出して立ち上がり、彼らに対抗しようとする。
 しかし、それを見逃さないのがスプリミナルの重力娘(?)だ。
「アタシグラビティ・プラス!」
 あおいちゃんは即座に犯人の懐には入り、掌の付け根を殴ってナイフを落として、そのまま腕を掴んで背中に回し、重力操作で彼女を床に押し倒した。
 その手付きはあまりにも鮮やかで、こうやって説明がなんとかできる自分がすごいと思うくらいだ…。
「捕った!爆発テロで一時確保しますっ!」
 背中に自信の体重と重力の特異を乗せながら、あおいちゃんが籠城犯に通告すると、彼女は抵抗する力が抜けたように床に頬を付けて項垂れてしまった。
 すると、あおいちゃんは彼女の身体をペタペタと触りはじめる。
「なにを…?」
「多分、これ以上なにかを隠してないかの確認だろうね」
 なるほど…水原くんの言うとおり、爆発物を隠してないか調べないと危険だ…。
 あおいちゃんは、全身を触り終えたところで、僕らに向けて腕で大きくバツのマークを出した。
「これ以上の爆発物的なものは無し…か……」
 水原くんが武器をパーカー飾りに変化させながら言うと、僕はようやく胸を撫で下ろせた。

「よかったぁ……」
 正直、昨日の騒動と同じか、下手すればそれ以上に感じてしまうほど緊張した…。
 とにかく、誰も傷つけずに逃がすことができてよかった…。
 こんなド素人でも、役に立てることはあるのかと思うと、また頑張れそうな気もする。
 焦げた匂いが消えたこの場所で、僕はそんなことを思った。
「ナイス判断、ユウキくん」
 振り返ると、水原くんがニヒルに笑いながら、僕にそういった。
「あ…ありがとう…」
 年下だが、彼に誉められると、何か照れるものがある。
 恋愛感情的なアレではないけれど、どこか先輩のような暖かさを彼から感じるのだ…。
 圧倒的な年下だけどね。

 とにかく…やっとこの事件は解決したわけだ。
 …けれど、少し気になることがある。
 あの爆発は…結局なんだったんだろう…?
 威嚇するとしても…派手すぎる気がするし、やっぱり少し気になることが…。

 カチッ!

 そう考えていた刹那、突然その軽い音がこの空間に響いた。
「なにか聞こえた…?」
 首をかしげるあおいちゃんだが、その下で彼女の口からフッと吐息が漏れる。
「爆弾…だよ…」
 すると、籠城犯の被っている狐の仮面の中から、長方形の小さな端末が床に転がった。
 それは、一発で爆弾のスイッチだとわかるほどの、小さくて重厚的な端末で、それを見た僕らの背筋は冷却スプレーを大量にかけられたかのように一瞬で冷えきった。
「っ!あんた!」
「私の思いどおりにならないなら……こんな場所……あなた達もろとも砕け散ってしまえっ!」
 目的達成に至らなかったが為か、遂に狂ってしまった籠城犯はそう叫び、真の勝機を悟って笑う。
 その態度に怒るあおいちゃんは彼女の顔を地面にゴツンと押し付けた。
「ば…爆弾…爆弾って…そんな…」
 当たり前だが、こんな状況に陥ったことのない僕は、まるで突然警報が鳴り響いたかのようにパニック状態になっていた。
「どこに隠してたんだそんなのっ!くそ!」
「解除!解除!」
 爆弾というパワーワードに、さすがの水原くんとあおいちゃんも冷静さを欠き、爆弾を探し始める。
「無駄だ!一度起動すれば、爆発までは止まらないっ!爆発まで約二分…私の勝ちだぁぁぁあっ!!」
 爆弾を仕掛けた張本人は、打ち付けられた衝撃で仮面がずれ、笑っている口だけが露出していた。
 僕らは慌てて爆弾と思わしきものを探すが、一分間必死に探してみても、どこにもそんな物はない…。
「もーっ!こうなったら…どこにあるか吐くまで、この人の体内を全部調べあげるしかぁ…」
 全く見つからないからか、あおいちゃんはついにやけになり始めてきている。
「そんなもの探してる途中に爆発するし、こいつ自己犠牲できそうな性格に見えないから多分無い!」
 だが、籠城犯の服を掴む彼女を、水原くんが止めつつ、引き続き爆発物探しを続けている。
 ちなみに、ふざけているように聞こえるが、確かに体内に危険物を仕込んで犯行をするケースは昔見たテレビで聞いたことがあるから利には叶っている。
「どうする…どこにある…?」
 混沌の中で、自分もひたすらにそれを探している。
 コーヒーカップが入った棚の中、カウンターの下の僅かに空いた隙間、積まれている空きダンボールの中…。
 爆発まではせいぜいあと一分なのに、何も見つからない。
 もはや過呼吸になりそうなパニック状態だ。
 このまま逃げ出した方がいいのではないか?
 なんで逃げないのか?
 人殺しがこんなことをして罪償いのつもりか?
 取り憑いていた背後霊が、また声を揃えて僕にその言葉を投げつける。
 それでも、やらないと行けない。
 冷静になれ僕よ。
 今は偽善という言葉を圧し殺せ。
 周りをもっと見回せ。
 他にはどこになにがあって、どこに仕掛けられる?
 救助の際にカウンター裏を通っていたが、目立つ場所には爆発物らしきものはなかった。
 棚や机の下はもう二人が見てしまっているし、水原くんの言葉通りなら、犯人の身体の中にはきっとない。
 仮面の裏に仕込めるようなものでも絶対に無いだろうし…。
「ん…?あいつに自己犠牲をする度胸はない…?」
 そう言えば、聞き逃しそうになっていたが、水原くんが籠城犯の性格を即座に捉えていた。
 自分は自己犠牲はできないと言う視点を、少し変えて考えてみた…。
 自己犠牲ができないのであれば"他者に犠牲を押し付けること"ならできるはずだ。
「…っ!」
 それを盾に隠せる場所といえば…。
「失礼!」
 それに気づいた僕は、縛られていた人質の女の子の縄をほどき、そのまま上着のスウェットを捲る。
「あった…っ!」
 すると、そこにはキャミソール越しの胴体に、グルグルに巻かれている幾つものダイナマイトと、残り時間を示すタイマーがつけられていた。
 籠城犯は、万が一逃走することとなった場合には、この子を捨てて、この店ごと爆発しようとも考えていたに違いない…。
「そんな…まさかユウカちゃんに巻き付いてるなんて…っ!」
 あおいちゃんが驚愕する傍ら、人質の女の子は猿轡代わりの布を噛みながら、悲観の目で僕を見ていた。
「やばいな…あと約50秒…。少ない時間で取ってからどうやって爆破させないようにするかだ……」
 水原くんは少し考えはしているが、その一秒が僕らにとっては命取りだ。
 体だけが反応しているからだと思いたいが、二人はその場から退避する体制にまで入ろうとしている。
 確かに、爆弾を解くよりも、ここでこの子を置いて逃げ出した方が、直接的被害も比較的少ないのかもしれない。
 この女の子を見捨てる覚悟が、もうこのプロ二人には出来ているんだ…。
「これなら……」
 だけど…素人の僕は諦めたくはない。
 一つの打開方法を思い付く僕は、ダイナマイトが繋がれたその糸を噛む。
「何してるんだ!?」
「この子を!助けないと!」
 焦る水原くんの問いに応えると、固く結ばれていた糸が一本噛み千切れ、彼女を縛るもう一本の紐も、口に咥えて引っ張る。
「取ってからどうする気だ!?もう30秒きったぞ!」
 彼の狼狽の言葉傍ら、二本目のヒモが一本目よりも簡単にブツンと千切れる。
「…っ!とれた!」
 この後にどうするかは、前ほど思い付いている。
 爆発をできる限り押さえ込むには、なにか抑えつけるものが必要だと、昔見た実検検証のテレビ番組で言っていた覚えがある。
 その中でもこの数十秒の間で用意できるものを、自分なりに考えてみると、やはり人体が一番手っ取り早いのではないかと思っていたところだ。
 だが、人一人の命を犠牲にして、それを抑え込むにはリスクがありすぎる。

「皆…逃げて!ここは僕がなんとかするから!」

 けれど、自分ならそのリスクは少ない…。
「なんとかって……君、もしかして特異で押さえ込もうと!」
 水原くんの言うとおり、自分の特異を使えば、この爆発の被害をきっと最小限に抑えられるから…。
「早く…っ!これが爆発する前にっ!」
 噛みきった爆弾を腹に抱えて彼らに逃走を促すが、ここに残っている四人は、ここからなかなか逃げ出そうとはしない…。
「ダメだよ…特異点になったからって、まだテツヤくんの特異の本質がわかってな…」
 あおいちゃんが、僕の事を止めてくれる言葉を言ってくれただけでも嬉しかった。
「いいからっ!いけぇ!」
 だが、だからこそ僕は彼女らを逃がさねばならない。
 叫ぶ僕に驚いた二人を置いて、僕はこの店の角で、爆弾抱えてしゃがみこんだ。
 特異の本質がどうかとか、そう言うのは昨日の水原くんを見て分かっている。
 ただ、この特異で誰かが救えるのなら、この特異で自分がなにかを償えるのなら、それを思うだけで本望だ。
 それに、特異に上限があったとしても、きっと誰かが死ぬような物ではないと思うから…。
「……っ!」
 今はまず、彼らの安否のため、この被害が最小限で済むことを信じている…。
 僕が誰かの役に立てたと言うことを…どうか……。

 ドカァァァァァァァァァァァァアンッ!



                         ◆



「……あれ?」
 と、そんなことを考えていたのも束の間、自分が生きているのは勿論、周りにも一切変化がないことに気づく。
 腹に抱えているはずの爆弾は、大きな音を立てていた筈なのに、熱さや火薬臭さも、痛み代わりの不快 感すらも感じない。

 ドカァァァァァアンッ!ドカァァァァァァァアンッ!

 また繰り返しなり続ける爆発音に驚きながら、ゆっくりと腹に抱えていたその爆弾を見てみると、電光版に書かれた数字は全て0を表しながら、チカチカと点滅しているだけで、爆発をする素振りもない。
 改めて呼吸を整えながら冷静になり、連なったダイナマイトを手に取ってみると、火薬が入っているような重さを全く感じない。
 むしろ、爆弾のそれぞれが全て、トイレットペーパーの芯のように空洞的な軽さがする…。
「……はぁ?」
 如何にも呆気な光景だ…。
 後ろでは、あおいちゃんがあんぐりと口を開け、その後ろでは水原くんが後ろを向いて耳を赤くして笑いをこらえている。
「え……こ、これ…タイマー…?」
 手に持つそれを回して、もっとよく見てみると、電光版の後ろにStopやStartの文字があった。
 籠城犯のはったりか…?
 いや、ならばなぜ籠城犯は逃げ出さずにそこにいる…?
 

 パチパチパチパチ…

 すると突然、カフェの奥にある扉が開き、そこから拍手をする音が聞こえてきた…。
「いやぁ…良いものを見せてもらったよ。ユウキ テツヤくん」
 その部屋から出てきたのは、青色の上着と灰の千鳥格子のストールを巻いた、老け顔の男性…。
 どこか引き込まれそうな彼の目を見ると、まるで師走に降る驟雨のような冷たい物と同時にそれに負けずに灯る小さな焚き火のような暖かい物を感じる…。
「…あなたは…?」
 初対面の僕が彼に問うと、驚くあおいちゃんが急いで間に割って入る。
「サトナカさん!」
「サ…サトナカ…さん?」
 彼女がその名を知っている限り、彼もまたなにかスプリミナルの関係者なのだろうか?
 まぁ、例えそうだったとしても今さら驚きはしないが……。
「ふぅ……あー痛かったぁ…」
 すると、次には籠城犯であった女性が、黒い狐面を脱ぎ、整った丸く綺麗な顔を露出させると、ポケットからメガネを取り出して着けた。
「えっ!カ…カナエさん!?なんで!?」
「ごめんね~騙しちゃって」
 驚くあおいちゃんに向けて、カナエという女性は手を合わせて眉をしかめながら微笑む。
 これにはさすがに驚かざるを得ないだろう。
 あんなに暴言やめちゃくちゃな信仰の言葉を吐いていたのに、まさか彼女と知人だったとは…。
 というか…もしかしたら、彼女もスプリミナルのメンバー…?
「まっ、一芝居うったってことだよ。ユウキくんの力量を図るためにね」
「ま…まさかミズハラくんも…グルで…?」
 僕は籠城犯役のカナエへの驚きが覚めやまないまま水原くんに聞くと、彼は笑みを浮かべながら僕に向けて指を指す。
「正解。まぁ、カナエくんには、ちゃんと手加減したけどね」
 完っ全に騙された…。
 あんなに臨場感溢れる交渉術やキックを決めていて、それを疑えと言われる方が無理だよな…。
「でっ…でも、人質は!?常連さんばっかりだったのに!?」
 同じく騙されていたあおいちゃんが、声をあらげて彼らに聞く。
「言ったとおり、常連さんが快く手伝ってくれた。今度食事代無料にする代わりに」
「でもでも!この水溜まりは!?」
「臨場感やリアリティがある方がいいだろう?あえてだよ」
「でもでもでも!この爆発は!?」
「あー……ごめんなさい…それ、私の異能が誤爆しちゃって……」
 次々に気になってきたことを質問してくれるあおいちゃんと、それに適当する答えを返してくれる三人の社員。
 なんとも仕掛人側の用意周到さを感じる…。
 というか、人質だった子もスプリミナルの一人だったんだな…。
「まぁ、爆発はさすがにカナエと私も計算外だったよ」
「いやぁ~…まさか、手袋外れたらこんなに爆発するだなんて知らなかったからさぁ…」
「ご…ごご…ごめんなさい!こ…こんなことしちゃって!」
 サトナカさんとカナエさんが、笑いながら会話を交わす中、人質だった女の子が慌てて頭を下げる。
「大丈夫大丈夫。私が認知してなかったのが悪いんだし、これくらいならちゃんと治せるから」
 カナエさんは優しく活発な微笑みを浮かべながら、彼女を安堵させるように言葉を並べる。
 あんなにむやみやたらに銃を撃ったり、怒ったりしていた時とは大違いだ…。
 彼女には俳優並みの演技力がありそうだな…。

 そんなことを思っている傍ら、あおいちゃんの顔がいつの間にか真っ赤になっているのに気づく。
「カドヤ!なんで言ってくれないの!カナエさんの上に乗っちゃったじゃん!」
 その刹那、彼女はこれまでの行いを恥じらいながら、水原くんに八つ当たりをする
 そりゃあ…親しい人に思い切り重力操作をかましてたら、申し訳なさで潰されそうになるよね…。
「だって……アオイって嘘苦手だろ?途中でやめて絶対に言うと思ったんだよ」
「それに、アオイちゃんはなかなかおしゃべりな一面あるしね~」
「その上、よく突っ走ってしまうからねぇ…残念ながらそういうことさ」
 しかし、彼女の性格の核心をついているであろう、心ある様々な口撃が、彼女の胸にぐさりぐさりと突き刺さっていく。
「グフゥ!そ……そんな目で見られてたなんて……事実だけど…」
 口撃を受けてしまった彼女は、苦しそうに胸を抑えながら、バタリと倒れてしまった。
 ここまで言い当てられたことが余程ショックだったんだろうな…。
「あ…あの……」
 と、そんなコメディ漫画のような空間の中、空気になりつつあった僕は、ようやく手を上げて存在を表す。
「おっと、すまない。とにかく、こういうことだから、騙してごめんね。ユウキ テツヤくん」
 僕に気づいてくれたサトナカさんは微笑みながら謝罪をする。
「い…いえ……大丈夫です…」
 自分の性格もあるだろうが、やはり、彼の笑みには尻込みしてしまう程の、恐怖のような尊敬の念のような、そんな決して下に見てはいけないなにか、が含まれているな…。
「というか…あなたは…スプリミナルの人…ですか?」
「あぁそうか…君と私は初対面だったね…」
 控えめに僕が問うと、彼は少し身なりを整えながら、自己紹介を始める。

「私の名前はサトナカ トオリ。しがない画家であり、このスプリミナル本部の最高責任者さ……」

 郷仲という人間の、微笑みを浮かべながら伝うその言葉には、驚愕しざるを得ない。
「最高責任者……ということは……あなたが一番偉い方っ!?」
 確かに、目の奥に感じる何かしらの感情とか、偉そうに出てきた感じとか、そういう"なにか大物感"と言うのは出ていたけれど、こんなに特殊組織のボスだと実感しない人は始めてだ…。
 正直、初めは街中にいるちょっとすごい人くらいにしか思えなかったし、自分の想像していたのは、顔に傷があったり、筋肉ムキムキだったりと、そんな感じだったんだよな…。
「まぁ、あまり信じてもらえてなさそうだけど、そういうことさ」
 なんか自分が心のなかで思っていた言葉を感じられた気がする…。
「そしてなにより、おめでとう」
 彼がそう言うと、周りにいる4人も揃えて拍手をした。
 あおいちゃんだけは状況を見て、少し遅れての拍手だったけど…。
「君は、入社試験に合格した。自分自身の特異をしっかりと理解した上で、人を守ろうとする行動ができる。それは、スプリミナルにとっては最低条件だからね」 
「最低…条件…?」
 スプリミナルのボスから伝えられた、この盛大すぎるに値するドッキリの真意を聞き、僕の頭の上には、沢山のはてなマークが浮かぶ。
 自分の特異を知りたいというのはまだ分かるのだが…入社試験とは…?
「なにがなんだか分かんないって顔してるね」
 水原くんも、郷仲さん同様に僕の心を読んでいるかのように言葉を伝う。
 本当になんなんだこの二人は…。
「じゃ、続きは上でお話ししようか」
 見かねたカナエさんがそう言うと、スプリミナルである彼らは、奥の部屋へと足を向ける。

「ようこそ、Cafeフェイバリット兼、スプリミナルの本拠地へ」

 社長、郷仲凍利。
 彼の言葉と共に、僕はその現実の中の不思議な空間に誘われる…。
 新たな出会いは、新たな道を作る。
 それが吉か凶か、それは塞翁が馬、誰にとっても分からない。
 怖さと優しさの両方を持つ、普通っぽい一人の男とのこの出会い、僕はせめて末以上ではあって欲しいと思った…。



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完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

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